第5話 初めての事件
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾。
大学の講義で知り合った1つ上の先輩リナ。講義の課題のため、2人でTV局へと向かった。
そこで慎吾は、リナの驚くべき数字の感覚を見せつけられる。リナは【数字依存症】とよんでいたが、慎吾はそれが【サヴァン症候群】だと突きとめた。
不意にリナは・・・警察官に声をかけられ、固まってしまう。
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第5話 初めての事件
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リナ「あ・・・」
声をかけてきた警官と視線が合い、固まるリナ。
警官「ちょっと聞きたい事があるのですが・・・
よろしいですか?」
恰幅のよい白髪交じりの中年警官が、リナの顔を覗き込んだ。
リナ「あ・・・はい? えっと・・ 何で・・・しょう?」
緊張しているリナの様子を見た慎吾が、助け船を出す。
慎吾「あ、お巡りさん。お疲れ様です。何かあったんですか?」
笑顔のままいつもと変わらぬ口調で、警官に声をかけた。警官はリナから慎吾に視線を移す。
警官「あぁ。実はさっき、局内で盗難事件があったもので。
君たちは・・・ ずっとここにいたかな?」
慎吾「はい。今日、局内見学で・・・」
首に提げていた、入局許可証を見せる。
慎吾「僕たちは15分ぐらい、ここでおしゃべりしてました。
えっと・・・その盗難事件って、いつ頃ですか?」
リナに落ち着く時間を与えようと、間髪入れず警官に質問をぶつけた。
警官「うむ。通報が入ったのは今から10分前だが・・・
盗難が発覚したのは、今から30分ほど前。
タレントのバッグが楽屋から消えたらしくてね・・・」
慎吾「タレント・・・?」
警官「あぁ、何でも【松浦順】君というタレントのバッ・・・」
突然リナが反応する。
リナ「松順!? 【山嵐】の松順様のバッグが、盗まれたんですか!?」
急に大声を出したリナに警官は驚いた。
警官「あ、あぁ。財布や携帯、その他私物が入ったバッグが・・・
30分程前に盗まれたらしいと通報があってね」
リナ「マ・・・ マジ・・・?」
警官「彼の楽屋から、バッグを持ち出す女性の姿も目撃されていてね・・・」
胸ポケットから、手帳を取りだしペラペラとめくる。
警官「長髪で、帽子を着けた女性が・・・バッグを持ち出したらしい。
そこで今、局内の若い女性を中心に聞き込みをしてるところなんだ。
知り合いにそういう人がいないか。
あるいは、そういう人を見てないか・・・」
リナ「・・・ ・・・」
思いっきり眉間に眉をひそめたリナ。
リナ「あの・・・どんなバッグですか!?」
警官「真っ白なヤツで、肩にかける大きなスポーツバッグだ」
リナ「白の・・・ スポーツバッグ・・・」
ここまで、そのようなバッグを見た記憶はない。
警官「【長髪に帽子】【スポーツバッグ】を身につけた女性だが・・・
警備員からは、そういう人物を見たという情報がなくてね。
まだ局内にいる可能性が高いとみて、聞き込みをしてるところだ」
リナ「まだ局内に!? わかりました! 見つけたら捕まえますから!」
迫力のある声を出しながら、リナが身を乗り出した。
警官「いやいや。怪しい人物見たら・・・
局の人に迅速に伝えるか、すぐ110番してくれ。
協力ありがとう。私は行く事にしよう」
慎吾「あ・・・はい・・・」
途中からリナの態度が一変したため、横でチョコンとしていた慎吾がお辞儀をする。警官が立ち去っていく姿を見守った後、リナに視線を移した。
リナは腕組みをしながら、その場で小さな円を描くように歩いている。
リナ「全く・・・松順様のバッグを盗むバカ女がいるなんて・・・
ファンとして最低だわ・・・。何とか捕まえてボコボコに・・・」
不機嫌な顔で独り言をつぶやいているリナに、慎吾がおそるおそる声をかけた。
慎吾「あの・・・リナ先輩。ほら、もうすぐ3時。
第16スタジオで、時代劇の撮影風景見学ですけ・・・」
言い切る前に、リナに睨まれる。
リナ「はぁ? 松順様のバッグが盗まれたのよ!
それどころじゃないでしょ!!」
目を丸くする慎吾。
慎吾「え・・・? 僕たちには・・・関係ない・・・かと?」
リナが慎吾の所へ歩み寄り、さらに睨み付ける。
リナ「あんたさぁ・・・
あんたなら、どうやってバッグ持ち出したあと逃げる?」
慎吾「え?」
意外な質問を受けた慎吾は、額から汗を流した。
(慎吾「リナ先輩・・・マジで犯人捕まえる気だ・・・」)
慎吾「え、えーっと・・・普通に、玄関か非常口から逃げますけど」
リナ「あんたさぁ。本気で考えてないでしょ?
どの入り口も警備員がチェック入れてるのよ!
泥棒がそんなトコ堂々と通る?」
慎吾「あー、ほら。あえて堂々と通り抜けて、裏をかくって作戦で?」
リナは大きなため息をつく。直後、慎吾に顔を近づけ言い放つ。
リナ「いい? お巡りさんの話じゃ、でっかいバッグ持った人物が・・・
TV局を出たという、警備員の目撃証言はないのよ?
トイレの窓とか、警備員がチェックしてないところとか・・・
もっとこう・・・犯罪者の気持ちになって・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
必死なリナの姿を見て、慎吾はちょっと真剣に考える。 ふとその場を離れ、TV局内の見取り図がある所へ向かった。何も言わずリナはついてくる。
局内の見取り図を真剣に見つめる慎吾。
慎吾「あの・・・地下駐車場はどうでしょう?」
リナ「はぁ? 私たちがさっき行った時、2カ所もゲートチェックあったじゃない」
慎吾「えぇ。でも確か駐車場の入り口横に・・・
【STAFF ONLY】のエレベーターがあったじゃないですか。
見取り図で言うとココですよ」
地下駐車場の出入り口横にある、エレベーターの位置をさす。
慎吾「ここならタレントさんの楽屋から、チェック無しで駐車場へ行けます。
多分これ、タレントさんがすぐに移動できるようにっていう・・・
関係者専用というか、芸能人専用エレベーターじゃないかなと・・・」
リナも見取り図を確認する。確かにこのエレベーターを使えば・・・中に入る際も、チェック無しで局内に入ることが出来る。
リナ「ふ~ん・・・やっと真剣に考えたわね。でも残念。
駐車場は許可車しか止められないのよ。
駐車場から外へ出る際も、警備員がチェックするし」
慎吾「う~ん・・・」
右手の手のひらを額にあてた慎吾。
慎吾「いや・・・出来ます。まず僕たちみたいに・・・
局内見学の手続きをして、この入局許可証を手に入れる」
首にぶら下げた入局許可証を握りしめながら説明を続ける。
慎吾「その許可証を持って一度外を出て・・・
今度は車で地下駐車場から入る」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾「そしてこのエレベーターを使い、目的の楽屋に入り・・・バッグを盗む。
その後も同じエレベーターを使い、駐車場へ行き・・・
駐車場を出る時にチェックは入りますが・・・
バッグはトランクの中だから目撃されない・・・どうです?」
腕組みをしたまま、リナは真剣に聞き入った。
リナ「ふ~む・・・ アリね、その推理。
なるほど・・・駐車場のエレベーター。う~ん・・・
待ってよ・・・そういえば・・・」
何かを思い出したような表情を浮かべる。
リナ「そういえば・・・さっき駐車場を見た時・・・
1台だけ変な車・・・あったのよね」
慎吾「変な車?」
リナ「【わ】ナンバーよ。関係者が停める駐車場に【わ】ナンバーは場違いだわ。
それにエンジンかかってたのに、誰も乗ってなかった・・・超怪しい!」
慎吾「えっと・・・確か、【わ】ナンバーって、レンタカーでしたよね?」
リナ「そう。おそらく・・・犯人の車じゃない?」
目を大きく開いた慎吾。
慎吾「ありえますね。偽名で借りた車を使って逃走し・・・
そのままレンタカーを返して逃げれば、足はつかない。
エンジンかかっていたのは、すぐに逃走できるよう・・・」
リナ「うん。あの車ね・・・怪しいのは。よし!!」
そういうとリナは、ノートパソコンを取り出し起動する。
慎吾「・・・ ?」
慎吾が黙ってその様子を見ていると、リナはキーボードをカタカタと打ち始めた。
リナ「さて・・・」
慎吾「あの・・・パソコンで・・・何かわかるんですか?」
リナ「わかるわよ・・・。この近辺で、レンタカー扱ってる店探すのよ」
慎吾「え? でも、それで犯人を捕まえられるんですか?」
リナはキーボードを打ちながら慎吾を見る。
リナ「あんたさぁ・・・なんか秘密ある? 人に言えないような」
意表をついたリナの質問に、慎吾は一瞬身をひいた。
慎吾「え? 何でまた急に・・・?」
リナ「いいから! これは人に言えない!!ってな秘密はあんの?」
慎吾は困惑した表情を浮かべる。
慎吾「えっと・・・・ あの・・・」
意を決したように慎吾は口を開く。
慎吾「僕・・・霊が見えます!!」
直後、リナは非常に残念そうな顔をした。
リナ「あんたさぁ・・・嘘つくならもうちょっと・・・
まぁいいわ。あんた、巧妙な嘘とかつけそうにないし。
いい? 今から私がする事は・・・絶対人に言っちゃダメよ!」
リナは慎吾を睨み付ける。
慎吾「え・・・? は、はい。わかりました・・・
何を・・・ するんです?」
リナ「ほら、これ見て。近くのレンタカーの店のページ。
ここから社員専用のページに潜り込むの。
つまりパスワードが必要なリンク先ね」
パソコンの画面を見せながら説明する。
慎吾「えぇ? ちょっと待ってくださいよ。
まず1つ、どうやって潜り込めるんですか!?
そういうとこって・・・
IDとかパスワードとか必要じゃないんですか?」
リナ「ふん。本格的なセキュリティは導入してないわよ、こんな所。
まずIPアドレスからFTPサイトを特定・・・」
喋りながらも高速でキーボードを打ち続ける。
リナ「私の組んだアルゴリズムのプログラムで・・・
ちょっとサーバにお邪魔して・・・パスワード保護を回避・・・
って言ってもあんたには理解できないわね」
慎吾「えぇ!? ハッキングですか!? それ?」
リナは首を横に振る。
リナ「私から言わせれば・・・
簡単にハックできるセキュリティシステムの方が悪いわ。
私は・・・なんだっけ? サバンナ症候群なのよ!」
慎吾「サヴァン症候群ですよ」
リナ「そう、それ!
サイト1つ1つのページが、数字の情報で頭に入ってくるもの。
高度なセキュリティでない限り、どこにだって侵入できるわ」
慎吾「すごいけど・・・ でも・・・」
リナ「だから、絶対誰にも言わないでよ! あんただから言ったのよ!」
慎吾「え・・・? 僕だから・・・?」
リナ「そう!」
慎吾「・・・ ・・・」
首をかしげる慎吾。
リナ「別に深く考えなくていいから。あんたを信用してるって事よ」
慎吾「わ・・・わかりました。
でも・・・レンタルした人の情報を、ネット上に残すでしょうか?」
リナ「当たり前じゃない! あんたさぁ、何も知らないでしょ! 」
慎吾「は、はい・・・」
正直に頷く慎吾。
リナ「レンタカーってのは、同じ系列店舗なら・・・
借りた所と返す場所が違っても大丈夫なのよ!
長崎でレンタルした車は、熊本でも返せるの!」
慎吾「え? そ、そんなんですか!?」
リナ「だからレンタルした客の情報は・・・
ネット上でやりとりするのが常識!」
慎吾「知らなかった・・・。でもどうやって・・・
その車を探すんですか? 登録名も偽名だろうし」
リナ「だーかーらー! 一度見た車のナンバーは忘れないのよ私は!
あの【わ】ナンバーの車もちゃんと覚えてるってば・・・
ほら、あった!!!」
ハッキングしたレンタカーのとある店舗。その顧客情報ページを、慎吾に見せた。
リナ「あれ? でもおかしいわね・・借りたのは一人で・・・
男だわ・・・ 弘って名前の」
慎吾「・・・ ・・・」
リナと共に、その車を借りた人物の情報を凝視する。
リナ「名前は偽名だとしても・・・
車レンタルする時、女装するとは思えないなー。
犯人は女性だから・・・ シロ・・・?」
慎吾はそのページ情報を睨み付けたまま・・・
慎吾「いえ・・・ 間違いないと思います。彼が犯人ですよ」
口を開いた。
リナ「え? 何故?」
慎吾「帽子と長髪の女性が犯人って聞いた時、違和感ありました。
犯人が疑われないようにする、典型的なパターンにあるんですよ。
性別を偽るってのが・・・」
リナ「そうか・・・犯人の方を女性と思わせれば・・・男は疑われない」
慎吾「リナ先輩、駐車場に行ってみましょう。その車があるかどうか確認しに」
リナは慎吾を見て軽く笑う。
リナ「必要ないわ。その車、今からおよそ5分後に・・・
赤坂にあるレンタカーの店に到着する」
慎吾「え? 何故・・・」
リナ「レンタカーにGPSがついてるのは常識。
逆に貸した側も、貸した車の位置がわかるようにしているのも常識よ。ほら」
リナが示したページには、地図上を走る光の点滅があり・・・それが例の車だと言う。
その点滅は、あと数分で赤坂のレンタカー店に到着しようとしていた。
慎吾「で、でも、どうするんです?
どうやってその人を・・・捕まえるんですか?」
リナ「はぁ? そんなの簡単よ」
慎吾の目の前で、手のひらを上にして見せる。
リナ「携帯」
慎吾「え?」
リナ「あんたの携帯貸して」
慎吾「あ・・・はい」
慎吾はジーンズの左ポケットから携帯を取り出しリナに渡した。
リナは即座に「1」「1」「0」とプッシュし、慎吾に返す。
慎吾「え!? ちょ・・・110番!? どうするんですか?」
リナ「赤坂のレンタカー店に、お巡りさんを向かわせて」
慎吾「え!? どんな風にお巡りさんに言えば・・・
あ! はい! もしもし! えっと・・・
僕は慎吾って言いますが・・・
あの・・・赤坂のレンタカーの店にですね・・・」
リナは自分の携帯電話を使い、赤坂のレンタカー店へ電話をかけた。
リナ「あ! こちら赤坂警察署です。ちょっと情報が入りましてね。
「23-○◎」ナンバーの車をレンタルしてる客がですね・・・
盗難事件関与の疑いがありまして・・・はい・・・そうです」
慎吾「そ、そうです。犯人がそのレンタカー店に・・・」
リナ「えぇ、もしその客がそちらに現れましたら・・・
しばらくの間、足止めしてください。
えぇ・・・そうです。5分でそちらに向かいますので」
こうして・・・
ジャネーズの人気アイドルグループ【山嵐】のメンバー松浦順・・・
彼のバッグを盗難した犯人は、犯行からわずか90分で捕まる事になる。
しかしこの事件解決がきっかけで・・
2人はさらに大きな事件に巻き込まれる事など・・・
まだ知る事はない。
(第6話へ続く)
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次回予告
リナの活躍で、アイドルバッグ盗難事件の犯人を逮捕。
思わず警察に名前をもらした慎吾は、事情聴取を受ける事になってしまった。
そこで日本のトップアイドル【松浦順】と出会う事になる。
その彼と初対面したリナは・・・?
次回 「 第6話 運命の出会い 」
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