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徳川埋蔵金の謎  作者: 伊吹 由
第1章  慎吾とリナ
5/45

第4話  数字依存症

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 慎吾のスピリチュアル事件簿 First season


      「徳川埋蔵金の謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年4月。大学生となった慎吾。


初めての大学の講義・・・隣に座った1つ上の先輩リナに「死ねばいいのに」と言われてしまう。


そのリナと・・・課せられたレポートのため、TV局へ行く事になった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第4話  数字依存症


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

リナ「だから・・・ 私、【数字依存症】なのよ・・・

    それも、かなり深刻な・・・」


慎吾「な、何ですか? その・・・

    よくわからないですが?」


リナは慎吾の目を見た。


目を閉じ、少しばかり上を向き・・・そして目を開くと、また慎吾の目を見る。


慎吾「 ? 」


意を決したように、リナは語り始めた。


リナ「なんつーか・・・ 目に映る物が数字として頭に入ってくるのよね・・・

    私の意志とは関係なく・・・


    だから車のナンバーとかもさ・・・

    意識してないのに、勝手に覚えてるのよ」


慎吾「・・・ ・・・」


すぐには信じられない話だ。


慎吾「あの・・・リナ先輩。冗談では・・・ないですよね?」


リナは目を閉じ天を仰いだ。そして小さなため息をつき・・・


リナ「財布!」


目を閉じたまま、慎吾に一言ひとこと発する。


慎吾「え?」


キョトンとする慎吾。


リナ「だから、財布。出して!」


今度は目を見開いて、やや強い口調で慎吾に言う。


慎吾「えっと・・・ は、はい。財布ですね」


ジーンズの右ポケットから財布を取り出した。


リナ「小銭。何枚ある? だいたいでいいから」


慎吾は財布を開いて、小銭を数え始める。


慎吾「えっと・・・ 10枚ぐらいですかね?」


リナ「OK。じゃ、小銭を全て右手で持って握って」


慎吾「な、何を・・・?」


リナ「いいから、小銭全部握って!」


慎吾はワケもわからず財布の中にあった小銭・・・10枚程度を全て右手に握った。


リナ「じゃ、右手を前に出して手の甲を上に向けて」


言うとおりにする慎吾。


リナ「深呼吸して、力を抜いて・・・」


慎吾は深呼吸をして・・・力を抜く。その瞬間・・・


バチーン!!!


リナは慎吾の拳を・・・上から思いっきりひっぱたいた。


慎吾「あがっ!!」  ※あが = 痛い


小さな悲鳴と共に・・・


チャリンチャリチャリリーン・・・


握っていた小銭が、全てフロアに散らばる。


慎吾「ちょ! リナ先輩、何するんですか!?」


リナは慎吾の目を直視して・・・


リナ「374円」


言い放った。


慎吾「え?」


リナ「今、あんたが握っていた小銭の総額よ。374円だったわ」


眉をひそめる慎吾。


慎吾「じょ、冗談・・・ですか?」


リナ「落ちた小銭拾いなさい。その後、文句あるなら聞くから」


リナは腕組みをして慎吾を睨み付ける。その迫力に慎吾は少し怖じ気づいた。


慎吾「・・・ ・・・」


そして、すぐに小銭を拾い始める。


全て拾い上げた後、左手に小銭をのせ勘定する。

100円が2枚、50円が3枚、10円が1枚、5円が1枚、1円が4枚・・・


慎吾「えっと・・・300・・・ 369円です・・・ けど?」


リナは腕組みしたまま、慎吾の斜め後ろにある自動販売機に視線を移す。


リナ「そこ。その自販機の下に、もう1枚5円玉が落ちてるから」


アゴで自販機をさした。


慎吾「・・・ ・・・」


身をかがめ、自動販売機の下を覗くと・・・5円玉が1枚あった。


慎吾「さ・・・374円。え!? な、なんで!?」


リナ「だから・・・言ったでしょ! 数字依存症だって!」


しばらく呆然とする慎吾。少しの沈黙の後、口を開いた。

    

慎吾「ま、マジックとかじゃないですよね!?」


恐る恐る聞いてみる。


リナ「あんたさぁ・・・この状況でマジックって・・・意味ないじゃん!

    目に映った小銭の金額・・・勝手に頭に入ってくるの!」


慎吾「そ、そうなんですか・・・はぁ・・・」


しばらく呆然とするが・・・


慎吾「そういえば・・・」


左手の人差し指と親指を額にあて、悩むポーズをする。


慎吾「そういえば・・・ 吾郎先生が・・・そんな話を・・・」


リナ「誰? それ?」


慎吾「あ・・・高校の時の先生で・・・ 

    なんていうか、オカルトとかUFOとか超能力とか好きな・・・」


瞬間、慎吾は何かを思い出したような表情をした。


慎吾「そ、そうだ! 【レインマン】だ!!」


この言葉にリナが即反応する。


リナ「は? 雨男?」


慎吾「映画ですよ、映画! ほら!

    トムクルーズと、ダスティンホフマンが出てた!」


リナ「知らない・・・私、映画観ないし・・・」


慎吾「映画の中で、ダスティンホフマンが自閉症の兄を演じてまして・・・

    床に落ちたつまようじの本数を、即座に答えるシーンがあるんです。


    今のリナ先輩と同じような感じです」


リナ「だから? それ、映画の話でしょ?」


慎吾は目を大きく見開いて話し始めた。


慎吾「違います。あの映画に出てくる兄は・・・

    実在の人物をモデルにしてるんです」


リナ「実在? え? じゃぁ、リアルにそんな人・・・いるわけ?」


慎吾「はい!」


リナ「・・・ ・・・」


ニコニコ笑顔の慎吾だが・・・リナは眉をひそめたまま。その表情は、半信半疑と言った感じだ。


慎吾「そうだ! リナ先輩、パソコン持ってましたよね?

    貸してもらえますか? 3分あれば調べられますよ!」


リナ「・・・ ・・・」


2人は局内の長いすが置かれてある所に移動し、そこに座る。慎吾はリナのパソコンを起動し、ネットで【レインマン】から検索を始めた。


リナ「・・・ ・・・」


その様子を黙って見ているリナ。


リナ「・・・ ・・・」


リナは・・・ 自分が【数字依存症】とよんでいる症状について、深刻に悩み続けていた。


4年前のある時期から・・・この症状が表れた。症状が出始めた当初は、不気味で怖くて仕方なかった。目に映った数字はもちろん・・・お金や時間など、数字の情報は勝手に頭の中に入ってくる。そして自分の意志で、数字の侵入を抑える事が出来ない。


自分とは違う、別の意志を持った何かが・・・自分の脳を支配しているような感覚で、この症状は恐怖以外の何者でもなかった。ノイローゼ気味になりかけたリナを、ギリギリで救ったのは・・・その負けん気の強さだ。


子供の頃は、おとなしい性格だったリナだが・・・ある事をきっかけに、その性格が変わる事になる。


リナ「・・・ ・・・」


脳に数字が入ってくる症状でノイローゼになってしまうのであれば・・・


それは自分の中に入ってくる「何か」に負ける事になると思うようになる。

数字が自分の中に侵入してくる事は止められないが・・・


それに屈する自分は許せない!


こうして・・・パニックになりかけた自分の精神を持ち直した。


(リナ「こんな症状・・・ 世界で私だけと思っていたけど・・・」)


慎吾「あった! ありましたよ! 見てください、リナ先輩!」


慎吾はパソコンのディスプレイをリナの方に向ける。


リナ「・・・ ・・・」


リナは注意深く慎吾が検索したページを読み始めた。


慎吾「・・・ ・・・」


リナ「サヴァン・・・症候群?」



【サヴァン症候群】


知的障害や自閉症の人物が、稀に常人では持ち得ないような特殊能力を持つことがあり、その症例を総じて【サヴァン症候群】という。


特殊能力の例として


・西暦・月・日を言えば、即座にその日の曜日を答える事ができる。

 いわゆるカレンダー算の能力。

(かけ算九九すらできない人物が、この能力を持つ事例も報告されている)



・どんな楽曲でも、一度聴けば完全にコピーしてピアノで演奏する事ができる能力

(この能力の保有者で、楽譜を全く読むことができない事例もある)



・一度見た風景や写真を、その細部まで完璧に絵画で再現できる能力



・1冊の書物を一字一句全て完璧に暗記できる能力



・大きな数の複雑な計算を即座にできる能力



これらの能力が例としてあげられる(その他にもたくさんある)。


リナ「・・・ ・・・」


ページの隅々まで目を通す。真剣な眼差しでディスプレイを見ているリナに、慎吾が声をかけた。


慎吾「どうです?」


リナはページから目を話さず応える。


リナ「確かに・・・いくつか当てはまる。でも・・・」


自分に当てはまらないと確信してる事があった。


リナ「でも私、知的障害でもないし・・・

    過去ひきこもりだった経験もないわよ・・・


    この症例って、そういう人がなるんでしょ?」


慎吾「ちょっと待ってください・・・」


慎吾はリナの見てるページとは別のページを開いた。そのページには、自閉症についての説明がされている。


慎吾「ほら、自閉症ってのは・・・

    ひきこもりとかでなく、脳機能障害の1つなんです。


    これがどのようにして、特殊能力の覚醒に結びつくかは・・・

    未だに全くの謎らしいですが・・・」


ページに書かれてある内容を簡略して言っているだけだが、リナは真剣に聴いていた。


慎吾「それに、交通事故とか頭に衝撃を受ける事をきっかけに・・・

    特殊能力に目覚めたって話が、よくあるんです」


実際交通事故など、頭に大きなダメージを受けた人物が、事故後特殊能力を発揮するという例は世界でも数多く報告されている。


慎吾「以前お笑いタレントだった、北尾監督も・・・

    バイク事故の後に、芸術的才能が覚醒したと言われています」


リナ「あ・・・映画見ない私でも、北尾監督は知ってる。

    毎年ヨーロッパで映画の賞を取っているのよね」


慎吾「そうです! 今や世界的な映画監督。世界中には彼のように・・・

    事故後、芸術や計算の才能を発揮した例がたくさんあるんです」


リナ「世界・・・中に・・・」


慎吾「だから・・・ひょっとしてリナ先輩。その症状が表れる直前・・・

    頭を強く打ったとか、そういう事ありませんでした?」


瞬間、リナは大きなポニーテールをとめているシュシュを右手で握りしめた。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾の言うとおり・・・思い当たる節がある。シュシュを握ったまま慎吾を見つめ・・・


リナ「話したく・・・ない」


声を絞り出した後、口元をぎゅっと閉じた。


慎吾「・・・ ・・・」


過去リナに何かがあったらしいというのを、慎吾は察した。


慎吾「あ! いえ、言わなくていいですよ! すいません。

    僕はただリナ先輩のすごい能力について・・・


    少しでも情報をと思っただけですから。

    話したくない事は話す必要ないですよ」


優しい笑顔を見せながら、リナに声をかける。



リナの後頭部に大きな傷がある事・・・


それ以上に、大きな心の傷をリナがおっている事・・・


慎吾がそれらを知るのは・・・もう少し先の未来だった。



リナ「そっか・・・じゃ、私みたいな人が、この世界のどこかにいるのね」


慎吾「そうです。でもすごいな、リナ先輩。麻雀が強いのもそれですか?」


リナはパソコンから目を離し、天井を見上げた。


リナ「そうね・・・1度でも対局すれば、その人の打ち方が全てわかるわね。

    それに一度見えた牌は勝手に暗記するから、残りの牌もある程度わかるし。


    牌譜が勝手に頭の中に入ってくる・・・そんな感じかな・・・」


麻雀を全く知らない慎吾は、とりあえずうんうんと頷いている。


慎吾「へー、やっぱりすごいですよ、リナ先輩は。

    僕、文系だし、数学は大の苦手ですし」


頭をかきながら、おどけて笑った。


慎吾「あー、サヴァン症候群・・・吾郎先生から話を聞いてなかったら・・・

    絶対にわからなかっただろうな~」


リナは慎吾の笑う顔を見て・・・少し胸のつかえがとれたような気がした。


今まで・・・


数字が体を侵す・・・そんな気味の悪い病気を、世界でただ1人経験していると思っていた。


自分以外にも同じような感覚を持っている人間がいる・・・


そう思えるだけでも、リナの心には勇気がわいてくる。


慎吾「吾郎先生って、すごかったんですよ。オカルトの話をさせたら・・・」


慎吾は珍しくリナにずっと話しかけている。リナはそれを制止するように口を開いた。


リナ「あんたさぁ・・・私、気を遣われるのがイヤだって・・・

    そう言ったの、覚えてるでしょ?」


リナが落ち込み気味だと察した慎吾が・・・喋って、場を和ませようとしているのを見抜いていた。


慎吾は話をさえぎられても笑顔のまま。リナは小さな声で一言発した。


リナ「ありがと」


瞬間、慎吾は口を開いてびっくりした表情をする。その慎吾の表情を見て、今度はリナが驚く。


リナ「な、何よ、その顔!?」


慎吾は驚いた表情から笑顔に戻った。


慎吾「僕、リナ先輩って絶対【ありがとう】って言わない人だと思ってました」


リナは驚いた表情から、眉間にしわを寄せる。


リナ「あんたさぁ。私だって感謝すべき時には【ありがとう】ぐらい言うわよ!

    ホントあんたって、天然で殺意与える時あるわよね!!」


慎吾「・・・ ・・・」


ずっと笑顔の慎吾。リナの毒舌よりも【ありがとう】の方が圧倒的に嬉しい出来事だった。


リナも慎吾の笑顔に負けて


リナ「まぁ、いいわよ・・・ふん」


と声を発した。やれやれといった表情の後、自然と笑いがこみ上げてくる。



リナと慎吾。


2人が出会ってから初めて・・・お互いが、心から笑い合えた瞬間だった。



その心地よい瞬間を打ち破る者が現れる。


「すいません、ちょっといいですか?」


リナの肩を後ろからトントンと叩く人物がいた。


笑顔のまま、視線を慎吾から背後の人物へと移すため振り向いたリナ。


リナ「え?」


その人物を見たリナの表情が固まる。


そこには制服姿の警察官の姿があった。




             (第5話へ続く)

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次回予告


TV局内で、人気アイドルのバッグ盗難事件が発生。

盗まれたのは、リナの大好きなイケメンジャネーズアイドル。


バッグを盗んだ犯人に憤りを覚えたリナは・・・

犯人を捕まえようと画策。


そしてまだ見ぬ、リナの驚くべき能力が発揮される。


次回 「 第5話  初めての事件 」

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