第43話 江浜の死
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらに誘拐された江浜の娘・あんずも救出した。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。埋蔵金を見つけられぬまま、慎吾達は糸見の息子・小太郎を赤城山へと案内する。
糸見の体に乗りうつった風魔小太郎の霊は・・・埋蔵金を見つけられぬ慎吾達を襲い始めた。慎吾・リナ・江浜・あんずの4人は、激しい戦闘の末・・・
とうとう風魔小太郎に勝利。その霊を天に返す。そして慎吾達は・・・徳川の御用金を目の当たりにした。
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第43話 江浜の死
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赤城山火口の上部にある洞窟で、とうとう徳川の御用金を見つけた慎吾達は・・・
死闘を繰り広げた場所へと戻ってきた。
風魔小太郎に首を締め上げられ、深手を負ったあんずだが・・・強力なパワースポットのおかげで、今は元気な表情を見せている。
リナ「ちょっと!!」
突如リナが慎吾に大声をかける。
リナ「マジで、あのまま・・・
時価何百億の金を放っておくの!?
何でよ!? ありえないっしょ!!」
慎吾は軽く笑ってリナに応えた。
慎吾「今は・・・ その時ではない・・・
そう思うからです」
リナは納得いかない表情を浮かべる。
リナ「いやいや・・・意味わかんないし!
だってあれだけの金があればさ!!
一生遊んで暮らせるじゃん!
みんなで山分けしましょうよ!!」
さらに慎吾は笑って応えた。
慎吾「法律上・・・
あの金を、固有のものにする事はダメなんですよ」
リナ「え!?」
慎吾「文化財保護法という法律があって・・・
徳川の御用金を見つけた者は、文化庁に報告する義務があるんです。
その後は、文化庁の指定する団体が発掘調査をする事になり・・・
僕らは一切手を出せません」
リナ「えぇえええ!!! 初めて聞いたんだけど!! その話!?」
慎吾「大政奉還以降、徳川御用金を発見した場合の取り決めがあって・・・
徳川幕府の資産は政府のものとする。そう決められているんです。
つまりあの金は・・・
見つけた僕達のではなく、日本政府のものなんです」
リナ「はぁ!? ありえない! じゃ、何!?
私ら見つけた者には1円も入らないの!?」
慎吾「う~ん・・・ 遺失物法って法律は適用される可能性はあります。
発見した金の10%前後・・・報労金がもらえるかもしれません」
リナ「マジ!? 確か300億ぐらいの価値があるんでしょ! あの金!
じゃぁ、30億もらえるじゃん!!!」
慎吾は首を横に振る。
慎吾「いえ・・・ 今は、【その時】じゃないんです・・・」
リナ「ちょっと・・・」
江浜がリナの肩に手をかけた。
江浜「彼が命をかけて見つけたんだ。
ここは彼の意志を尊重しようじゃないか」
笑顔で江浜は言う。
リナ「・・・ ・・・」
何度も命を助けてくれた人の言葉でも、納得いかないリナ。
リナ「だって・・・
あたしみたいな霊力がない人間だと・・・
もうあの金のある場所にすら行けないってのに・・・」
しばらく尾を引きずっていたリナだが・・・
数分後、しぶしぶ金に手をつけず帰る事を了承する。
慎吾は、隅に横たわる糸見小太郎の巨体を見て江浜に声をかけた。
慎吾「風魔小太郎の霊は・・・
もう彼の体にはいないんですよね・・・
彼・・・ 糸見小太郎さんは、どうすればいいんでしょう?」
江浜は笑って応える。
江浜「大丈夫。私に任せてくれ。
これも仕事のうち・・・ スピリチュアル・カウンセラーのな」
そう言うと江浜は、2mもの巨体を軽々と持ち上げ右肩にのせた。
江浜「さぁ・・・ 帰ろう!」
左手であんずの手を握り、ゆっくりと鍾乳洞の中を歩き始めた江浜親子。慎吾は目一杯の笑顔で応えた。
慎吾「えぇ、帰りましょう」
リナ「う・・・ うん・・・」
最後尾を、未練タラタラという表情のリナが続いて行った・・・・。
・・・ ・・・。
2日後。
各TV局のワイドショーは、糸見親子のニュースを特番として放映していた。
糸見小太郎・・・プロデューサー糸見氏の息子である彼は・・・先の埋蔵金発掘の際、落下事故に巻き込まれ、記憶喪失に。
時任マリオという芸名でお笑い芸人もしており、埋蔵金発掘の際、親子2代で掘り当てたというサプライズ演出を用意していたもよう。しかしこの落下事故により、これまでの埋蔵金に関わる記憶の全てを喪失。医者によれば記憶が甦る可能性は50%だという・・・。
また、父親である糸見氏は、土地所有者から発掘許可を得るため暴力団との関係をもった事が発覚。
後の調べで、暴力団は土地所有者に脅しをかけ発掘許可を得ていた事も明らかに。関与した暴力団には、土地所有者に対する恐喝未遂の容疑がかけられ、さらにその暴力団と関わりを持ったとされる糸見氏も事情徴集を受けている最中である。
近年叫ばれている暴力団排除条例に抵触する可能性が強いとみて、警視庁は今回徳川埋蔵金の発掘に関わったスタッフ全てにも事情を聞いている。
番組独自の取材では、今回糸見氏を中心とした暴力団関係者の中に、スピリチュアル・カウンセラー江浜氏の娘誘拐事件や、街中での発砲事件にも関与している者がいる事を突きとめている。警視庁も・・・
・・・ ・・・。
2週連続で放映予定だった【10年ぶりに復活! 徳川埋蔵金の謎を追え!】は1週目放映後、予定を変更。2週目には【糸見親子の転落】と題して急遽特番を組んでいた。
スポーツ紙では【子は発掘現場、父は人生から転落!】と題し、売り上げ部数を伸ばしている。
慎吾もリナも、江浜の仕事の手際の良さに感心していた。
・・・ ・・・。
1ヶ月後。
大学のパソコン室に2人はいた。
慎吾「はい、じゃあこれがレポートの完成版です」
慎吾はプリントアウトしたA4の用紙の束をリナに渡す。
リナ「悪いわね~。夏休み前の課題も・・・ 頼むわね~」
苦手な文系科目のレポートを慎吾に頼んだリナ。その表情はニコニコ笑顔だ。
リナ「さて・・・ これでマスメディアの単位は確定っと・・・」
パソコンのネットニュース一覧を見ながら、レポートをリュックにしまう。
リナ「 え? 」
ふと1つのニュースに目を奪われた。
リナ「・・・ ・・・」
真剣にネットニュースを読むリナに、横にいた慎吾が声をかける。
慎吾「何か、面白いのでもありました?」
リナ「・・・ ・・・」
リナはディスプレイを見ながら静かに首を横にふった。
慎吾「 ? 」
リナ「コレ・・・ 見て・・・」
ネットニュースの、とある記事を指さす。
新着ニュース
【 スピリチュアル・カウンセラー江浜氏死亡 除霊中に事故か? 】
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾の目が大きく見開いた。
(最終話に続く)
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次回予告
江浜の盛大な告別式に参列する慎吾とリナ。
告別式の翌日、あんずに指定された場所へ出向いた2人は・・・
死んだはずの江浜に会う。
次回 「 最終話 愛を知る時 」
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