第42話 パワースポット
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらに誘拐された江浜の娘・あんずも救出した。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。埋蔵金を見つけられぬまま、慎吾達は糸見の息子・小太郎を赤城山へと案内する。
糸見の体に乗りうつった風魔小太郎の霊は・・・埋蔵金を見つけられぬ慎吾達を襲い始めた。慎吾・リナ・江浜・あんずの4人は、激しい戦闘の末・・・
とうとう風魔小太郎に勝利。その霊を天に返した。
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第42話 パワースポット
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慎吾「・・・ ・・・」
江浜をおぶった慎吾の体は、小太郎に吹っ飛ばされた時と同様・・・30m下へ向かい、重力に従って落ちていく。
しかし徐々にその体は落ちて行くスピードを弱め・・・その身は空中でピタリと止まった。そして今度はゆっくりと重力に逆らい、上昇していく。
江浜「・・・ ・・・?」
気力・体力ともに限界で、気を失いかけていた江浜が口を開く。
江浜「こ、これは・・・?」
体の中に、エネルギーが流れ込んでくるのを感じた。
江浜「・・・ ・・・」
風魔小太郎の操る村正に深く刺された右腕の傷・・・痛みが和らいでいき、少しずつ治癒しているようにすら思えた。
江浜「パワースポットだ・・・
こんな強力なパワースポットが・・・
日本にあったなんて・・・」
しばらくすると・・・江浜は慎吾の背中から降りる。
江浜「・・・ ・・・」
その体は空中に浮いていた。バランスを取りながら、慎吾に声をかける。
江浜「ありがとう・・・もう大丈夫だ」
体中からみなぎるエネルギーは、江浜の生気も甦らせていた。
慎吾「よかった」
慎吾は笑顔で声をかける。ちょうど2人は、リナのいる場所と同じ高さにいた。両手でバランスを取ることで、体の上昇を止める事ができ・・・立ち泳ぎするようにして、2人はリナとあんずがいる所へと戻っていく。
リナ「・・・ ・・・」
2人の男が宙を浮く一部始終を見ていたリナ。男達は空中を泳ぐような、歩くような・・・そんな動きでこちらにやってくる。リナはポカンとした表情で出迎えた。
リナ「な、何が起こったの? 何で宙を歩いてるの?」
先ほどまで死にかけていた江浜が、元気よく声をかける。
江浜「ここは・・・ とても強力なパワースポット。
小石だけでなく、我々のような・・・
霊力の強い人間すら持ち上げるほど、エネルギーに満ちている。
私もこの通りだ」
江浜は両手を広げてみせた。風魔小太郎に貫かれたはずの腕は出血が止まっており、痛みもなく自由に動いている様子だ。
リナ「・・・ ・・・」
つい3分前まで、生死の境をさまよっていた状態だったのに・・・今は笑顔を見せる余裕すらある。
リナ「よかった・・・」
宙に浮くことは理解できないが、幾度となく自分のために身を挺した江浜が無事であるという事に、心底ほっと胸をなで下ろした。
江浜は慎吾の方を振り返った。
江浜「しかし何故・・ 何故あそこにあのようなパワースポットがある事を」
慎吾は小太郎に傷つけられた左肩を軽くさすりながら応える。
慎吾「えぇ・・・パワースポットの事は、わからなかったんですが・・・
ちょうど夜明けで、鍾乳洞内に太陽の光が差し込んだ時・・・
気づいたんです」
そう言うと、10個のアーチ型の穴の間にある・・・高さ50cm程度の地蔵のような岩を指さした。
慎吾「ほら。光が反射して初めてわかりましたが・・・
あの岩、動物の形に削られていたんです」
リナと江浜は慎吾の指さした岩々へ視線を移す。
江浜「狐、犬、猫、鶴、亀、猿、鳥、馬、蛇・・・確かに」
慎吾「えぇ、あの鶴と亀の岩が気になって・・・それで思い出したんです」
リナは、ハッと気づいた表情を浮かべた。
リナ「まさか・・・ 【かごめかごめ】?」
慎吾「えぇ・・・あの銅板で1から16に対応した点を結ぶと・・・
籠の目のような形を作りました。
籠の中の鳥ってのは・・・
この鍾乳洞の入り口にある鳥居を指してたのかも」
江浜「埋蔵金の事か?」
慎吾「はい。東照宮の一ノ鳥居という説もありますが・・・
鶴と亀の岩を見た時、ひょっとして・・・と、思ったんです」
リナ「ちょっと待って・・・ じゃぁ、近くに埋蔵金があるって事!?」
慎吾「多分・・・確認してませんが・・・」
リナ「か、確認しましょう!! 早く!」
すでに先ほどの死闘の事が、頭から離れつつあるリナ。
慎吾「歌にある【よあけのばん】・・・【夜明けの晩】、
つまり夜明けのような晩という意味だと思います。
ちょうど今のような・・・」
慎吾はアーチの先の火口・・・その上を眺めた。朝日が静かに差し込んでいる。
リナ「夜明けのような晩?」
慎吾「この歌詞の解釈で一番言われてる内容です。
この鍾乳洞の夜明けは、光が完全にさしこまず・・・
まるで晩のようだと」
江浜「なるほど。【鶴と亀が滑った】の歌詞は・・・
あの鶴と亀の岩を表しているというわけか」
慎吾「えぇ。夜明けになって・・・
日の光が差し込んで、初めて現れる鶴と亀です。
そして鶴と亀が指してるのは・・・」
リナ「間にある、あの穴ってわけね・・・。
でもあの穴を通ったら・・・普通落ちるっしょ!
何であんた・・・ その・・・ 浮いてたのよ!?」
慎吾「この【かごめかごめ】の歌詞の大きな特徴は・・・
対照的な言葉が使われている事です」
リナ「対照的な言葉?」
慎吾「籠の【中】に対して【出る】。【夜明け】に対して【晩】。
縁起のいいとされる【鶴と亀】に対して、縁起の悪い【滑った】。
そして・・・【後ろ】に対して【正面】」
江浜「ふむ・・・」
慎吾「ならば穴を通ったら、落ちるのではなく・・・と思ったんですよ」
リナ「はぁ!? ちょっとあんた・・・もし落ちてたら死んでたってわけ?」
慎吾「えぇ。その時は・・・みな死んでましたね」
慎吾は小さく笑った。
リナ「冗談じゃないわよ! あまりにも危険すぎる賭だわ!」
慎吾「いえ・・・先にその穴に石を投げて確かめましたから。
他の穴は、石が落ちていく音が聞こえましたが・・・
鶴と亀の間の穴に投げた石だけは、落ちる音が聞こえなかった」
リナ「た、確かに石を投げてたわね・・・」
慎吾「よく見ると・・・ 穴の奥で石が浮いているのも見えたんです。
ちょうど風魔小太郎と江浜さんの激しい戦闘中・・・
彼等の周りの石が浮いているように。だから・・・
あそこにも何らかの霊的なエネルギーがあるかな・・・って」
江浜「あんなギリギリの状況で・・・たいしたものだ」
慎吾「それに下を覗いた時・・・
細長い石筍があるのも気になってたんです。
石筍は、天井から落ちた炭酸カルシウムの雫が結晶化して出来るもの。
だから普通は、下の方が太く先の方が細くなるんです」
リナ「・・・ でも・・・ あの石筍は根本も細い・・・」
リナは火口の下を覗き込みながら呟いた。
慎吾「そう! だからあの場所は・・・
ひょっとしたら、重力というか磁場というか・・・
下から上に、何らかの力が働いてるかも!
って思ったんです!」
江浜「強力なパワースポットだ。
そのエネルギーが・・・物質を持ち上げたんだ。
重力に逆らう程のエネルギー。自然界では稀だが・・・
世界中には、そういう場所が点在する」
ふとリナが思いつく。
リナ「重力に逆らうって事は・・・ ちょっと待ってよ・・・
って事は・・・?」
リナは火口の上の方を見上げた。
慎吾「徳川家の御用金は・・・
そのパワースポットで行きつく先にあるかと・・・思います」
慎吾もまたリナと同じく、上の方を見上げる。
リナ「ま、マジ!? 行きましょう! すぐ行きましょう!」
先ほどまでの死闘の事などすでに頭にない。リナは目を輝かせ、頭は埋蔵金の事でいっぱいだ。
慎吾「えぇ・・・ 是非4人で・・・行きましょう」
江浜「ふむ・・・ 私も見てみたい」
そう言うと江浜は、気絶している娘を抱きかかえてきた。
慎吾「リナ先輩は僕と・・・」
慎吾はリナに右手を差し出した。
リナ「はぁ? 何それ? エスコートのつもり?
そんなの必要ないわ!」
リナは慎吾の右手を払いのける。
慎吾「あ、いえ・・・霊力ない人だと・・・
多分、そのまま落ちるかもしれないかなと・・・
だから僕の霊力を手を通して・・・」
慎吾の言葉が言い終わらないうちにリナは慎吾の手を力強く握った。
リナ「・・・ ・・・」
無言のリナに対し、慎吾はニコッと笑う。
慎吾「・・・ では・・・」
4人は鶴と亀の間にある穴の前に整列した。
慎吾「行きますよ」
穴の奥を覗き込んだリナ。
リナ「落ちたら間違いなく死ぬって・・・
ちょ、ちょっと待ってよ・・・ 心の準備が・・・
そ、そうだ・・・ カウントダウンをし・・・」
今度は慎吾が・・・リナの言葉の言い終わらないうちに、足場のない場所へと一歩を踏み出した。慎吾にとっては3度目。躊躇や迷いなど一切ない。
リナ「ちょ・・ ちょっと!!!」
慎吾に引っ張られるリナ。自分の意志とは裏腹に、空中に一歩を踏み出してしまった。
リナ「落ち・・・」
2人の体は数m落ちたものの・・・徐々に落ちるスピードは遅くなり、やがては空中に浮いた状態でピタリと止まる。
リナ「嘘・・・ 浮いてる・・・
それに何か知らないけど・・・
何? 体の中、何か入ってきてるみたい・・・」
霊力のないリナも、見えないエネルギーを体に感じていた。しばらくすると2人の体は・・・重力に逆らい、ゆっくりと上昇していく。
リナ「み、見えないエレベーターに乗ってるようだわ・・・」
あんずを抱きかかえた江浜も、慎吾らの後を続いた。
あんず「・・・ ・・・」
ふとあんずが目を覚ます。疲労困憊のはずの体なのに、何故かエネルギーが満ちてきた。そして父親に抱かれている事を確認し・・・重力に逆らって天へと昇っていく状況に驚いた。
江浜「あんず・・・ 気がついたか?」
あんず「な、何・・・? まさか・・・」
目の前の父に声をかける。
あんず「私達・・・ 死んだ・・・ の?」
泣きそう顔で訴えるあんずを・・・江浜は笑顔で抱きしめ、声をかけた。
江浜「いや・・私達は生きてる。強力なパワースポットの中にいるんだ。
体にエネルギーが流れていくのを・・・ 感じているだろう?」
あんず「・・・ ・・・ うん・・・」
江浜「それが生きている証拠だ」
あんず「・・・ ・・・」
上を見ると、慎吾とリナが宙を登っていく姿が見えた。
あんす「・・・ な、何が・・・?」
江浜「我々は、今・・・歴史的な瞬間を目の当たりにしようとしている」
何が起こっているか理解できないあんずは、泣きながら江浜に抱きつく。
江浜「大丈夫。すぐ落ち着くさ・・・」
あんずは混乱しながらも・・・ 体中がエネルギーに満ちていくのを感じた。
慎吾「・・・ ・・・」
【かーごーめ かーごーめー】
リナ「ちょっと・・ どこまで上がっていくの?」
慎吾の手を強く握りながら真下を見るリナ。
リナ「さ、さすがに・・・ こ、怖いんだけど・・・」
すでに20階建てビルの屋上ぐらいは到達していそうな高さに達していた。持てる力で、慎吾の手を強く握りしめる。
【かーごのなーかの とーりーはー】
慎吾「少しずつスピードが遅くなってます。もうすぐでしょう・・・」
やがて4人の体は上昇スピードを落とし・・・とうとう地上60m程で止まった。
【いーつーいーつー でーやーるー】
止まった先を見据えるリナと慎吾。
リナ「・・・ ・・・」
ただ岩壁が見えるだけで、上下を見ても何かあるようには見えない。
リナ「ちょっと・・・どこに埋蔵金があるのよ!」
【よーあーけーのーばーんにー】
慎吾「はは。埋蔵金はありませんよ」
慎吾が笑いながら言う。
リナ「はぁ!? 何、わかった風な口きいてんの?
じゃ、なんでこんな恐ろしい所に・・・」
【つーるとかーめが すーべったー】
慎吾「あぁ、いえ・・・
埋めたわけではないから・・・埋蔵ではないって意味です。
後ろの正面ですよ。ほら」
【うしろのしょうめん だぁーれ~】
慎吾はリナの背後を指さした。
リナ「・・・ ・・・?」
指さした先の岩壁には高さ2m程の横穴がある。奥に続いているようだが、こちらからは中は見えない。
慎吾「行ってみましょう・・・」
立ち泳ぎのようにして、横穴に辿り着いた慎吾とリナ。そして江浜とあんずが続く。
4人は横穴の奥へと入って行き・・・ 歩くこと約30m。
リナ「う・・・ うそ・・・」
奥にあったそれを見たリナは、全身の鳥肌が一気に逆立った。
江浜「・・・ ・・・」
言葉を失う江浜。
あんず「・・・ ・・・」
そしてあんず。
慎吾「思った通り・・・」
慎吾もまた、それを見て・・・視線をハズす事ができない。
そう・・・
4人の視線の先・・・
まばゆい光を放つ金の延べ棒が・・・大量に山積みされていた。
(第43へ続く)
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次回予告
江浜は、今回の件の後処理に回る。
慎吾とリナは、江浜の手際の良さに感心するのだが・・・
埋蔵金発見から、1ヶ月後。
江浜が死んだという、ニュースが飛び込んできた。
次回 「 第43話 江浜の死 」
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