第40話 もう1つの霊核
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらに誘拐された江浜の娘・あんずも救出した。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。埋蔵金を見つけられぬまま、慎吾達は糸見の息子・小太郎を赤城山へと案内する。
糸見の体に乗りうつった風魔小太郎の霊は・・・埋蔵金を見つけられぬ慎吾達を襲い始めた。絶体絶命のリナを・・・
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第40話 もう1つの霊核
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リナ「し・・・」
死ぬ気など毛頭ないリナだが・・・その気持ちとは裏腹に、脳は死ぬかも知れないと全身に伝え始める。身の毛が逆立ち、血の気がひく。
リナ「・・・ ・・・」
小太郎が村正を振りかぶり・・・そして自分に振り落とそうとしている。リナには、全ての出来事がスローモーションに見えていた。
村正の刀身がゆっくりとリナの顔面へと近づいていく。
リナ「し・・・」
死を覚悟したその瞬間。村正の刀身は顔面の直前で急に止まった。
リナ「 ? 」
刹那、小太郎は突然後方へ5m近く吹っ飛ばされる。その様子も、リナには全てスローモーションに見えた。
リナ「な・・・?」
目を閉じる事も忘れていたリナは、何が起こってるのかを理解できない。
あんず「お父さん!」
慎吾「江浜さん!!」
あんずと慎吾の視線は、リナの後方にいる江浜の姿を確認した。
リナ「・・・ ・・・」
リナがゆっくりと後ろを振り向くと、パワーストーンを両の手で握り、前面に押し出してる江浜の姿があった。
リナ「あ・・・」
足はガクガクと震え、声を出すことが出来ない。
(リナ「わ、私・・・ また助けられた・・・?」
江浜は肩で息をしていた。
江浜「はぁ、はぁ・・・ 間に合ったな」
そう言うと江浜はすぐ
江浜「唵!! 唵!!」
リナの周りの鍾乳石を発勁で砕いていく。リナの両肩を抱き、声をかけた。
江浜「よく耐えた。後は私が・・・ 君は下がっていろ」
そして江浜は数m先で、立ち上がる小太郎を睨み付ける。
江浜「・・・ ・・・」
小太郎は村正を地面に垂直に立て、ゆっくりと立ち上がり・・・
小太郎「・・・ ・・・」
江浜を睨み返す。その額には大粒の汗が見えた。
小太郎「まだ・・・ 生きていたか・・・
どうせ死ぬ運命だというのに・・・
しぶとい男よ・・・」
小太郎も呼吸を乱しながら、村正を握り直し江浜に対峙する。江浜は深呼吸をして、あんずに声をかけた。
江浜「状況は!?」
態勢を立て直しつつ、あんずが応える。
あんず「リナさんが右肩の霊核を攻撃。
ダメージは与えたようですが、昇天には至らずです」
江浜「なるほど・・・ 霊核を分断したな」
小太郎「おしゃべりはそこまでだ!」
小太郎は村正を振りかぶって、江浜に向かって行く。
江浜「・・・ ・・・」
小太郎「ふん!」
江浜の数m先から、小太郎は村正を縦に一閃。衝撃波が江浜を襲うが、江浜はそれをジャンプでかわした。
江浜「・・・ ・・・」
空中で小太郎を睨み付け、パワーストーンを握りしめる。
小太郎「ふん!!」
小太郎も江浜に向かって、さらに高いジャンプを見せ・・・今度は横に村正を振り回した。
江浜「唵!!」
江浜はパワーストーンから光の盾を出し受け止める。小太郎は重力を利用して、江浜を力でねじ伏せようとするが、江浜は体を反転してそれを受け流した。
2人は着地したと同時に・・・
ガキィィィン!!
小太郎は村正を、江浜はパワーストーンから出した光の剣を激突させる。
(慎吾「す・・・ すごい・・・」)
壮絶な戦いを見せる江浜と小太郎の向こう側・・・小太郎に吹っ飛ばされ、尻餅をついていた慎吾。
(慎吾「伝説の忍者と言われる、風魔小太郎に・・・
一歩も引かず、対等に戦ってる・・・」)
ゆっくりと立ち上がりながら、2人の戦闘を見守っていた。あんずはリナの所へかけよって、肩に手をかける。
あんず「リナさん、大丈夫ですか!?」
リナの顔は粉塵で汚れていた。江浜と小太郎の戦いを凝視しながら、リナはあんずに声をかける。
リナ「えぇ、大丈夫。それより・・・
霊核って、分けられるの?」
あんず「出来ます。2つや3つに分ける事ができると父が言ってました」
リナ「ちょっと・・ そんなんなら・・・
分断すればするほど、倒しようがなくなるじゃない!」
あんず「いえ・・・霊核はエネルギーの源ですから、そうはたくさんは分けられません。
普通は2つか3つが限界のはずです。
それ以上は、霊として存在するには不可能です」
リナ「でも、あの右肩以外・・・
違和感を感じる所、見あたらないんだけど・・・」
じっと、男2人の戦いを見つめるリナ。
・・・ ・・・。
村正と、光の剣。ほぼ互角につばぜり合いをしている江浜と小太郎。気を許さない状況の中、江浜があんずに声をかけた。
江浜「この霊力の弱り具合から、霊核はあと1つだ!」
あんず「・・・ ・・・」
(江浜「どこだ・・・ あと1つ・・・ どこだ!?」)
小太郎「ふん! 我は滅せぬ!
徳川家に、積年の恨みを晴らすまではな!」
お互い1歩もひかず、刀と剣で攻撃し合うが・・・あと1つ決め手に欠く。
・・・ ・・・。
慎吾「・・・ ・・・」
少しずつ鍾乳洞の中が明るくなってきた事に気づいた慎吾。天井の鍾乳洞や、岸壁の隙間から朝日が差し込んでいるのがわかる。
(慎吾「夜明け・・・」)
慎吾は江浜に加勢したいが、2人の激しい戦闘に割って入る隙がなかった。
慎吾「 ? 」
ふと慎吾の目に動物が映った。
(慎吾「え!? 狐・・・!?」)
10個のアーチ型の穴と穴の間にある、50cm程度の高さの地蔵のような岩。初めて見た時は気づかなかったが・・・朝日に照らされ、狐の形に削られているのがわかった。
他の岩を見ると
(慎吾「狐、犬、猫、鶴、亀、猿、鳥、馬、蛇」)
10個のアーチ型の穴の間にある、9つの岩。朝日に照らされ、はっきりと動物の形が浮かび出た。
慎吾「こ、これは・・・?」
・・・ ・・・。
リナ「って事は、もう1つの霊核は・・・ 何かに封じ込めたって事?」
あんず「おそらく。彼の体でないならば・・・
何か、物に封じ込めたはずです。
普通、身近にある物。でなければ、霊核を守れませんから・・・」
リナ「・・・ ・・・」
江浜と小太郎の戦闘を凝視するリナ。
リナ「・・・ じゃぁ・・・
あれしかないじゃん・・・」
・・・ ・・・。
江浜「はぁ、はぁ・・・・」
小太郎「ふぅ・・・ふぅ・・・」
2人とも息があがった状態で、なお激しい攻防を繰り返していた。
江浜「はぁ、はぁ・・・ そろそろ、本気で行くか・・・はぁ・・・」
小太郎「ふぅ・・・望むところ!!」
江浜も小太郎も、あらん限りの霊力を絞り出す。
江浜「はぁああああ!!!」
小太郎「ふぅうううう!!!」
2人の気合いの声が響くと、周りの小石が・・・
重力に反して、静かに浮き始めた。
・・・ ・・・。
小石がに宙に浮いたのを確認したリナ。
リナ「な・・・・ 霊力って何でもアリなの!?」
あんず「すごい・・・ なんて膨大な霊エネルギー・・・
次の事を考えてない・・・
おそらく次が・・・最後の攻撃・・・」
江浜が大声であんずに声をかけた。
江浜「あんず! 準備しろ!」
あんず「はい!!」
声を受けたあんずは、即座にパワーストーンを強く握りしめ・・・小太郎と江浜の近くへと間合いを詰めていった。
・・・ ・・・。
小太郎「ふんぬぅ!!!」
ガキイィイイン!!!
小太郎が力任せに江浜に村正を振り落とす。
江浜「はぁ!!!」
それを光の剣で受け止める江浜。小太郎は強引に、村正を押し込んでいく。
江浜「ぐく・・」
力に押される江浜。ふと右足が、デコボコした岩場にとられて尻もちをついた。
江浜「く!」
はずみでパワーストーンが手からこぼれ落ちる。瞬間、小太郎の目が光った!
小太郎「隙あり!!」
素手の江浜に躊躇無く、村正を縦に振り下ろす。
江浜「ふん!!」
バチィィン!!!
江浜は・・・ 妖刀村正を,両手で横からはさみ打ちした。
リナ「し、真剣白刃取り!? ま、マジで・・・?」
小太郎「ぬ!?」
ものすごい形相でにらみ合う小太郎と江浜。
江浜「かかったな・・・この村正、放すわけにはいかないんだろう?」
小太郎を睨み付けたまま・・・ あんずに合図を出す。
江浜「今だ!!」
あんず「はい!!」
江浜の背中からあんずが飛び出した。その手には、父譲りの光の剣が握られている。
あんず「唵!!!」
あんずは残っている霊力を全て注ぎ込むように、小太郎・・・の握っている村正の根本に向け、光の剣を振り下ろした。
バキイィィィン!!
小太郎「ぐぁああああ!!」
今まで一度も手放す事のなかった妖刀村正。あんずと江浜のコンビプレーにより、強烈にはじいてしまう。
江浜「よし!!」
はじかれた妖刀の元へジャンプした江浜。村正に向け、力の限りの霊力を込めた拳を振り下ろす。
江浜「唵!!!」
村正の刀身の真ん中めがけて、放たれた拳は・・・
パキィィイン・・・
その刀身を真っ二つにした。
・・・ ・・・。
リナ「や、やった!! もう1つの霊核を!!」
江浜、リナ、慎吾は同時に小太郎に視線を移す。
3人の予想とは裏腹に・・・
あんず「ぐ・・・」
小太郎は鋭い眼光を放ち、あんずの細い首を右手一本で高くつり上げていた。あんずは、小太郎の右手を両手で引き離そうとするが・・・その握力に勝る力を出すことが出来ない。
あんず「・・・ ・・・」
顔は真っ青になり、悲痛な表情を浮かべ・・・両足を必死にバタつかせている。
小太郎「残念だったな。最初に死ぬのは・・・ お前の娘だ」
江浜に視線を合わせた小太郎は、不適な笑みを浮かべた。
江浜「くっ!」
持てる力を使い切った江浜。フラフラしながらあんずの元へ駆け寄ろうとする。
小太郎「ふん!!」
小太郎は、あんずを右手一本で数m先へと投げ飛ばした。
その先は・・・ アーチ型の穴。そこから落ちれば30m下へ落ち・・・岩盤に激突か、石筍に串刺しにされるかの2択。いずれにせよ即死はまぬがれない。
江浜「あんず!!!」
放り投げられたあんずに必死に手を伸ばそうとするが、その手は何も掴む事が出来なかった。
リナ「あんずちゃん!!!」
しかしあんずの身を助ける男が、もう一人いた。あんずの体は、アーチ型の穴の手前でストップし、すぐ下の地面に落ちた。
あんず「く・・・ ・・・」
全身に痛みが駆け巡り・・・気を失う。
小太郎「っち・・・ ホントにしぶといヤツらよ」
慎吾「・・・ ・・・」
大きな光の円盤を出し・・・それを盾とし、あんずが落ちるのを防いだのは慎吾。
江浜はすぐにあんずの元へかけより抱きしめる。
江浜「あんず! 大丈夫か!?」
目を閉じたまま反応のないあんずだが、頸動脈が静かに動悸しているのを確認した江浜。思わず安堵の息をもらす。しかし江浜の霊力も、もはやゼロに近い状態だ。
小太郎「ふん。お前ら親子はもう使い物にはなるまい」
小太郎の視線は、江浜親子から・・・
慎吾「・・・ ・・・」
小太郎「ならば貴様が・・・ 最後の相手・・・」
慎吾に移った。
・・・ ・・・。
慎吾も静かに小太郎を睨み返す。その左手にはパワーストーン、右手にはパワーストーンとは別の拳大の石が握られていた。
右手の石を小太郎に向かって、思い切り投げつける慎吾。
小太郎「・・・ ?」
首を軽くひねるだけでそれをかわす小太郎。
石は小太郎の背後のアーチ型の穴を抜けて30m下まで落ちていった。数秒後に、石の音がこだました。
カラーンコローン・・・
小太郎「何の真似だ? まさかそれが攻撃ではあるまい」
慎吾は足下の石を右手で拾う。
慎吾「さぁ?」
またしてもその石を投げつけた。しかし今度は、小太郎の右側数m先・・・見当違いの場所だ。別のアーチ型の穴へ吸い込まれた石は・・・やはり、30m下へと落ちていく。
慎吾「・・・ ・・・」
小太郎「気でもふれたか?」
慎吾は深呼吸をして声を出した。
慎吾「あなたの霊核の位置が・・・ わかった・・・」
小太郎「何だと!?」
小太郎は険しい表情を浮かべる。慎吾はスタスタと間合いを詰め・・・
慎吾「唵!!!」
パワーストーンから大きな光の剣を出した。
慎吾「僕たち4人は・・・生きて、ここから出る。
風魔小太郎・・・
あなたを天に返した後に・・・」
穴を背にして、小太郎と対峙した慎吾。
慎吾「これで・・・ 最期だ!」
光の剣を片手に、慎吾は小太郎の元へと走っていった。
小太郎「ふん! 力の差は歴然!
我が怨念のこもった霊力・・・かなう者無し!」
真っ二つに割れた村正・・・小太郎はその柄の方を拾い、握りしめる。
慎吾「 ? 」
小太郎「はぁあ!!」
すると真ん中から割れたはずの刀身が、青白い光を揺らめかせて再生した。
慎吾「・・・ ・・・」
小太郎の霊力によって再生した村正。それを見た慎吾だが、迷わず光の剣を小太郎へ振り下ろす。
慎吾「せい!」
小太郎「ふん!!」
ガキィンィィン!!
小太郎は慎吾の剣を、村正で受け止め・・・力のまま、はじき飛ばした。吹っ飛ばされた慎吾は・・・
慎吾「っく・・・」
アーチ型の穴の手前で、何とか踏みとどまる。
・・・ ・・・。
リナ「あ、危ない・・・ もう少しで落ちるとこだった・・・
慎吾! もう1つの霊核の位置って!?」
態勢を整えた慎吾がリナに伝えようとする。
慎吾「もう1つの霊核の位置は・・・」
瞬間、目の前に小太郎が現れた。
慎吾「っく!!」
小太郎「残念だったな!!」
再生した村正を・・・
小太郎「死ねぃ!!」
力の限り、斬りつける。
ガッッキィィン!!!
慎吾はそれを光の剣で受け止めるが・・・ 小太郎は力で押しつけてくる。
慎吾「ぐ・・・ く・・・」
少しずつ慎吾の足下が、穴への入り口にかかった。
小太郎「風魔一族の怨念・・・ 受けとれい!!」
慎吾「っっく!!」
小太郎は村正を通して、圧倒的な力を慎吾に送り込み・・・光の剣の上から、村正を振り切った。
慎吾「・・・ ・・・」
そして慎吾の体は後ろに吹っ飛ばされ・・・アーチを抜け出る。飛ばされた慎吾。視線を下にやると・・・
慎吾「・・・ ・・・」
足場はなく、30m下の石筍の群れが見えるだけだった。
リナ「慎吾ぉお!!!」
(第41話へ続く)
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次回予告
慎吾は絶命必至の火口へと落ちていく。あんずは意識を失い・・・江浜も瀕死の状態。守る者がいないリナに・・・小太郎が近付いていく。
そして・・・
長かった風魔小太郎との戦い・・・とうとう決着の時を迎える!!
果たして・・・4人の運命は!?
次回 「 第41話 決着の時 」
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