第3話 リナの特殊能力
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾。
初めての大学の講義・・・隣に座った1つ上の先輩リナに「死ねばいいのに」と言われてしまう。
そのリナと・・・課せられたレポートのため、TV局へ行く事になった。
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第3話 リナの特殊能力
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2012年5月3日(木)。
慎吾「遅いな~・・・ リナ先輩・・・」
携帯の時計を確認しながらつぶやく慎吾。
箱根湯本駅・駅前。午前10時にリナと待ち合わせていた。
現在の時刻は、午前11時30分。
時間にきっちりしている慎吾、すでに2時間も駅前で待ち続けている。
何度もリナの携帯に「いつ着くんですか?」とメールしたが、そのたびに「あと5分」という4文字が戻ってくる。
・・・ ・・・。
リナが慎吾の前に現れたのは・・・12時前。
待ちくたびれた表情の慎吾が、リナに声をかける。
慎吾「リナ先輩・・・ 2時間遅刻ですよ・・・」
特に慌てて来た様子もないリナ。
リナ「あー、ちょっと準備に時間がかかってね。女はそういうものなの」
慎吾「でも2時間は・・・厳しいです・・・」
小さなため息をつく慎吾。
リナ「は? 男が女を待つのは当たり前だっつーの。
それにあんた沖縄出身でしょ?
沖縄の人って、時間にルーズって聞くわよ?」
慎吾「いやいや・・・みんながみんな、そうってわけでは・・・
てか今日のリナ先輩、なんかおめかししてません?」
赤いワンピースに、赤いヒール。セレブっぽい白い帽子とブランドものの白いバッグ。
赤と白を意識したコーディネート・・・大人びたリナの姿がそこにはあった。
大学での私服とは違った雰囲気のリナを目の当たりにした慎吾。
慎吾「都会の女性って感じですね・・・」
思った事を口にする。
リナ「は? それ、褒めてんの?」
駅構内に向かいながら、リナが眉をひそめた。
慎吾「もちろんですよ! いつもよりお化粧も濃いし!」
リナ「・・・ ・・・」
さらに眉をひそめるリナ。
リナ「あんたさぁ。天然で人に殺意与えるタイプよね・・・」
慎吾「いや、ホントに綺麗だなって思ってますから!」
リナ「はいはい。どーも。まぁあんたのために、おめかししたんじゃないし。
てか、あんた。リュック背負ってモロ田舎者丸出しって感じだわね」
慎吾に負けじと、リナも思った事を素直に口にする。
白のTシャツにジーンズ。リュックを背負った非常にラフな格好の慎吾。
慎吾「いいんですよ。田舎者は田舎者らしくてね」
屈託のない笑顔を見せる慎吾は、リュックを背負い直した。
リナ「・・・。はいはい。じゃぁ行くわよ。TVSなら1時間半ぐらいで着くから」
沖縄の人間が都会に出てきて、最初に戸惑うのが・・・
電車や地下鉄の乗り方である。
路線図の見方、切符の買い方、乗り換えの仕方、改札口の通り方・・・
これら全てが不安の対象となる。
リナ「小田原って駅で、新幹線に乗り換えるから。まぁ私についてきなさい」
慎吾「はい!」
ナビゲート役がいてくれると、路線に関する全ての不安が払拭される。箱根に来て、初めて不安無しで電車や新幹線に乗る慎吾。リナの遅刻の事はすぐに忘れ去った。
・・・ ・・・。
2人は小田原駅で、新幹線に乗り変え・・・JR新幹線、こだま638号の自由席に座っていた。
リナ「2駅だけど、30分ぐらいかかるから。寝るなり本読むなり、好きにして」
そう言うとリナは、バッグの中から小さなノートパソコンを取りだし起動する。
慎吾「あれ? こんなところでパソコンですか?」
リナ「あー、うん。ちょっと仕事あるの。
30分あれば半荘2回はいけるし」
慎吾「え? 麻雀やるんですか? 新幹線の中で?」
リナ「だからこれ、仕事だって。あんたさぁ・・・
私が、ただの麻雀好きと思ってない?」
慎吾「思ってますよ?」
正直に返す慎吾。
リナ「あのね、このネット麻雀は電子マネー賭けてやるサイトなの。
場代を払って、後は打ってる連中でリアルマネーのやりとりするのよ」
慎吾「えぇ!? オンラインカジノ・・みたいなヤツですか?」
リナ「ま・・・合法じゃないサイトだけどね。アングラサイトの1つよ。」
慎吾「アングラ?」
リナ「・・・。アンダーグラウンド。つまり表には出ないサイトの事よ。
紹介制度で登録して・・・あー、説明めんどくさい!」
リナはパソコンのキーボードをカタカタ打ちながら慎吾への説明を中断した。
慎吾「で、でもそれ・・・ギャンブルでしょ!?
よく大学生がパチンコや競馬にハマって借金!とか聞きます。
ヤメましょうよ、リナ先輩!!」
リナ「あー、はいはい。全然大丈夫だから。私、死ぬほど麻雀強いし。
このサイト、名前は公にされてないけど・・・
プロも多い有名なサイトなの。その中で、超勝ってるから。
はい、ちょっと集中するからダマっててね」
そういうとリナは、キーボードをさらに高速で操作し始める。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は口から出そうな言葉を飲み込み、パソコン画面を静かに覗きこんだ。
・・・ ・・・。
30分後、2人の乗った新幹線は品川駅に到着。ここで東海道本線に乗り換える事になる。
慎吾「リナ先輩すごい! 連続で1位を取ってましたよね?」
少し興奮気味の慎吾がリナに声をかけてきた。
リナ「言ったでしょ。麻雀は死ぬほど強いって」
慎吾「あ、あの・・・今の30分で、どれだけ勝ったんですか? お金」
リナ「・・・。ふん、まぁいいわ。
場代さしひいて、純利益は1万円ちょっとってトコね」
慎吾「リナ先輩すごい!! 30分で1万円!?
何で勝てるんですか? 秘密があるんですか!?」
慎吾はさらに興奮した様子で語り続ける。
リナ「うっさいなー・・・
あんたはさ・・・ギャンブルしちゃいけないタイプだから」
慎吾の肩をポンと叩く。
リナ「これ以上その話題は禁止。
今度は新橋ってとこまで行くから、切符買って来て」
そういうと慎吾を押し出した。会話を続けたかった慎吾だが、しぶしぶ切符を買いに行く。
(リナ「まぁ・・・
レポート書いて貰うから、ここは我慢我慢」)
券売機の前に立つ慎吾を見て、リナは小さく溜息をついた。
・・・ ・・・。
予定では正午についてるはずだったTVS。2人が到着したのは午後2時過ぎだ。
リナ「はい、私の役目はここまで。後はあんた」
TVSの玄関前・・・右手を腰に当てたリナがアゴで玄関をさす。
慎吾「了解です。ここまでの案内、ありがとうございます!
僕だと、こんなスムーズには来られなかったです」
苦笑いをしながらリナにお辞儀した慎吾。TV局に入り、事務で受付をする。
事務員にこの日の局内見学の旨を伝え、首からぶら下げるタイプの入局許可証を2つ受け取った。
そのうちの1つをリナに渡す。
慎吾「はい。この入局許可証を首にかけてください。
僕たちは今日、局内見学の許可を得てる証明になりますので。
この中にチップが入っていて、各所に設けられているゲートを通れます」
リナ「OK」
リナはすぐに許可証を首にかけた。
慎吾「この許可証を持たずにゲート通ると・・・
警告音がなって、すぐに警備員が飛んでくるそうです」
リナ「は~、なるほど。ま、TV局だしセキュリティも厳重ってわけね。
で? 次の予定は?」
慎吾「えーっと。1時からの局内見学に間に合わなかったので・・・」
リュックからTVS局内見学の案内を取り出す。
慎吾「次は午後3時に・・・第16スタジオで時代劇の撮影風景見学。
4時には、第2スタジオでクイズ番組の撮影見学。
6時には、ニュースの生放送の現場を見学という日程です」
リナ「えぇ・・・。歌番組とかないの? 男性アイドルとか見られるヤツ」
慎吾は今一度案内を見渡す。
慎吾「えっと・・・クイズ番組で、有名なお笑い芸人が出るみたいですよ」
リナ「超ー興味ない! うわー、イケメンの芸能人見たかったのに・・・」
慎吾「あ、すいません・・・」
申し訳なさそうな表情をする。
リナ「別にいいわよ。じゃあ次の見学までは・・・1時間ぐらいあるわね」
慎吾「お昼ご飯にします? まだ食べてないですし」
リナ「あんたさぁ。TV局に来て、昼ご飯なんて食べてる場合じゃないでしょ。
私、行きたい所あるの」
そういうとリナはスタスタと歩き出した。その後を慎吾が追う。
リナは局内の見取り図版のところで立ち止まり、指でなぞりながらどこかを探すしぐさをする。
リナ「えっと・・・・あった! ここね!」
何かの場所を確認したリナは、慎吾の事を気にせずまたスタスタと歩き出した。
慎吾「ちょっとリナ先輩・・、どこに行くんですか?」
リナは無言で目的地に向かって歩いて行く。やがて階段を下り、2ヶ所のゲートを通って薄暗い地下へとたどり着いた。
慎吾「・・・。ここ、駐車場ですか?」
リナ「そう」
TVS地下2階にある広い駐車場。
慎吾「何でこんな所へ?」
リナ「ちょっとね・・・」
そういうとリナは、駐車場の中をランダムに歩き始めた。そして車の前を通り過ぎては、何かを確認する。
約10分。広い駐車場内を歩き回ったリナと、ただ後ろからついてきただけの慎吾。
慎吾「あの・・・リナ先輩?」
リナは慎吾の方を向いてこたえる。
リナ「うん! 今ね・・・ジャネーズアイドルの【山嵐】がこの局にいるわよ」
慎吾「な・・・ 何でわかるんですか?」
リナ「車があった」
慎吾「えぇ!?」
大きな声を出して驚く慎吾。
慎吾「って事は、リナ先輩・・・
【山嵐】のメンバーの車とかわかるんですか?」
リナ「まぁね」
(慎吾「うわ・・・絶対アイドルのおっかけとかするタイプだ・・・」)
リナ「あー、あのね。ひょっとして私がアイドルオタクとか思ってない?」
慎吾「思ってますけど・・・」
素直に返す慎吾。
リナ「アイドルとか興味ないの、私は。興味あるのはイケメン!
私はイケメンをおかずにして、ご飯を食べる女子なの!」
赤いメガネをキュッとかけ直し、鼻高々に言い放つ。
慎吾「・・・ ・・・」
アイドルオタクと、何が違うのか理解出来ない慎吾。
慎吾「だからって、芸能人の車をチェックするのは・・・
ストーカーの領域ではないかと・・・」
リナ「あんたさぁ。どこまでバカ正直なの? アイドルってのはね・・・
こういう事されるの、許容範囲と思ってるから大丈夫だって」
慎吾「・・・・」
リナ「ホントは駐車場でウロウロしてる方が・・・
イケメン芸能人との遭遇率高いけど・・・
ここは警備員が、定期的にチェックしてるからなー」
慎吾「出待ちってヤツです?」
リナ「違う! 偶然の出会いってヤツ!」
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「とりあえずここは出ますか。少なくとも【山嵐】がいる事はわかったし。
時間まで、局内ウロウロして・・・
偶然曲がり角で【山嵐】のメンバーとぶつかり・・・
運命の恋、始まり始まり~」
陶酔した表情で語るリナ。
慎吾「・・・・」
冷めた目で見る慎吾。
リナ「運命の恋に・・・いざ、しゅっぱーつ!!」
こうしてリナは一人でスタスタと歩き出し・・・慎吾はまた、その後ろをついていく。
リナ「・・・ ・・・」
一瞬リナは駐車場から局内へ入る入り口で止まり、今一度駐車場を見た。
慎吾「なにか?」
リナ「うん・・・。いや、何でもない。さ、行こう!
今日のおめかしの成果を発揮しないとね!」
リナは右手で拳を握り、気合いを入れる。
慎吾「・・・ あれ・・・?」
ふと何かに気づいた表情を浮かべる慎吾。
慎吾「ちょっと待てよ・・・」
最近ネットで見た【山嵐】のニュースの事を思い出した。
慎吾「確か【山嵐】のメンバーが立て続けに交通事故起こして・・・
今、メンバーは運転禁止だってニュースで言ってましたよ?
メンバーの車があるっておかしくないですか?」
キョロキョロしながら局内を歩くリナは、慎吾の方を振り返る事なくこたえる。
リナ「あら・・・芸能関係弱そうなのによく知ってるわね。
そう。確認した車は【山嵐】のマネージャさんの車よ」
慎吾「マ、マネージャ?」
リナ「そう。超売れっ子の【山嵐】は・・・
メンバー1人1人、個別にマネージャがついてるからね。
そのメンバー全員の・・・マネージャの車あったの。
だから絶対【山嵐】は、TVSで何かの撮影のはず!」
それを聞いた慎吾は、さらに驚く。
慎吾「リ、リナ先輩・・・
なんでマネージャさんの車までわかるんですか?」
リナ「あるのよ。そういう芸能人のプライバシーに関する事を・・・
公表してるアングラサイトがね。
ストーカーレベルのファンが、裏で情報交換してるの」
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「私はイケメンと・・・
そのマネージャーの車のナンバー、全て覚えているの」
1年前。芸能人の自宅の住所や電話番号を載せた本の出版が、プライバシーの侵害に当たるとして発売禁止になるというニュースがあった。
慎吾「・・・ ・・・」
その記事を思い出す慎吾。
(慎吾「そんなサイトが・・・ あるんだ・・・」)
リナ「そのサイトには、抱かれたい男1位の福山雅秋の車のナンバーや・・・
携帯番号、自宅の場所まで載ってるのよ。すごいでしょ?
今日、福山さんは・・・TVS来てないみたい。残念」
慎吾「てか・・・なんでリナ先輩・・・ナンバーとか全て暗記してるんすか?」
リナはイヤらしい笑いを浮かべてこたえる。
リナ「しっしっし。そゆの得意なのよ、私」
その顔は得意満面だ。
慎吾「・・・ ・・・」
驚きの表情を浮かべたままの慎吾。いくらイケメン芸能人が好きとはいえ・・・
(慎吾「本人の車やマネージャの車のナンバーを・・・
全て暗記できるものだろうか?」)
思い切ってリナに聞いてみた。
慎吾「リナ先輩」
慎吾の前を歩くリナは振り返る事無く返事する。
リナ「なに?」
慎吾「ひょっとしてリナ先輩・・・すごい暗記の天才ですか?
歴史のテストとか全て100点満点だったとか?」
リナは立ち止まって慎吾の方を振り返った。
リナ「あのさー・・・。私、歴史って大っ嫌いなの!
テスト、いつも赤点よ!」
慎吾「でも・・・でも、あんなにたくさんの車のナンバー覚えるって・・・
普通の人には無理ですよ! 絶対暗記の天才ですって!」
リナは慎吾の目を見て、一瞬無表情になる。
リナ「・・・」
慎吾もリナの目を見つめる。
(慎吾「あ、あれ? 何か変な事言ったかな?」)
リナは軽い溜め息をついたあと慎吾に告げる。
リナ「ま、いっか。いいわ、教えてあげる。
でも誰にも言わないって約束できる?」
慎吾は目を丸くする。
(慎吾「え? 何かそんな深刻な秘密があるの?」)
慎吾は作り笑いを浮かべた。
慎吾「え、ええ。もちろんです・・・よ?」
リナは軽く目を閉じた後、真剣な表情で少し重そうな口を開いた。
リナ「私はね・・・
【数字依存症】なのよ・・・」
慎吾「え?」
(第4話へ続く)
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次回予告
リナが称する「数字依存症」。
慎吾の目の前で、驚異的な能力を見せる。
しかしリナはずっとこの症状に悩まされ続けていた。
話を聞いていくうちに、慎吾はその症状の正体を突き止める。
次回 「 第4話 数字依存症 」
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