第36話 霊 核
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。リナは埋蔵金のありかを示した銅板の謎を解き明かし、3人は銅板の示す場所へ向かった。
リナは大学の授業にいた大男が黒幕と突きとめる。埋蔵金を見つけられぬまま、慎吾達は・・・
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第36話 霊 核
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午前2時半・・・
ギキィ!!
黒い車が2台、慎吾達の目の前に止まった。
慎吾「・・・ ・・・」
あんず「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾らがじっと見つめる視線の先・・・先頭の車のドアが開く。月明かりに照らされ、大きな男が降りてきた。
夜にも関わらず黒いサングラスをかけ、白いスーツに白いズボン。サングラス以外、白で身を固め・・・身長2mはゆうに越えているであろう大男だ。
鳳巧と、時任マリオの名を持つ男。そしてまた、糸見小太郎という名の男であった。
小太郎「・・・ ・・・」
サングラスの奥の視線は、慎吾とその守護霊を捉える。男の右手は、腰に差した日本刀の柄を握っていた。
小太郎「ふふ・・・ ようやくこの日がきたか。
この高揚感・・・ 何年ぶりだろう・・・」
慎吾は小太郎を睨み付け・・・口を開く。
慎吾「あなた・・・糸見さんの息子さんですね?」
小太郎「・・・ ・・・」
一瞬、無表情になった小太郎だが・・・すぐまた余裕の笑みを浮かべた。
小太郎「ほう・・・ そこまで突き止めるとは。
思っていた以上に利口だな。
まぁ、そうでなくては・・・
埋蔵金には、ありつけない・・・ってわけだ」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾の頬を汗がつたう。
リナ「・・・ ・・・」
あんず「・・・ ・・・」
慎吾の後ろにいるリナとあんず。すでに彼との戦闘を経験し、その圧倒的戦闘力を知っている。
慎吾からは、自分達を皆殺しにする気だと聞かされた。
リナ「・・・ ・・・」
緊張の表情のまま事態を見守っている。
慎吾「江浜さんは・・・?」
小太郎は後ろの車を指さす。
小太郎「安心しろ。ちゃんと生きている」
慎吾「・・・」
小太郎「埋蔵金さえ渡せば・・・ 解放してやるさ・・・」
(慎吾「・・・ 嘘だ・・・」)
相手の嘘を確信していたが、信じているフリをする慎吾。
慎吾「わかりました・・・」
小太郎「で? 埋蔵金は?」
慎吾「あそこから・・・ 赤城山の火口へ・・・」
慎吾は2人の武士の霊が守る、表の入り口を指さした。
小太郎「ふん・・・ そこに埋蔵金が・・・?」
慎吾「・・・ ・・・」
無言で頷く慎吾。
小太郎「いいだろう。では先を歩け。そこまで案内しろ」
直後小太郎は、リナとあんずの方を睨み付ける。
小太郎「お前ら2人も案内役だ。
意外と戦闘力はあるようだが?
ここに残って、人質を逃がす・・・
そんなつもりはないよな?」
リナ「・・・ ・・・」
あんず「・・・ ・・・」
リナとあんずは、作戦を見透かされた事で苦い表情をする。
・・・ ・・・。
江浜「・・・ ・・・」
2台目の車、後部座席の真ん中に江浜はいた。両サイド、銃を持った男に挟まれた状態で。さらに運転手の男も銃を持っている。小太郎におわされたケガの状態はあまりよくなく、息を乱した状態だった。
あんずと慎吾に【声】を送りたかったが・・・
小太郎もまた非常に強い霊力を持っているため
(江浜「ヤツにも【声】をキャッチされてしまう・・・」)
江浜は誰ともコンタクトをとれないまま・・・銃を持った3人の男に囲まれるしかなかった。
・・・ ・・・。
あんず「・・・ ・・・」
あんずは父の容態を気にしながらも、慎吾の後ろをリナと共についていった。
慎吾「・・・ ・・・」
3人は鍾乳洞へ通じる物置小屋の前まで来る。
ギィィイイーーー・・・
夕方の時と同じ、勝手にその扉は奥の方から開く。
ガタン!
そして、2人の武士の霊が中から出てきた。
リナはゴクリと息をのむ。初めて彼らを見た時は、ただのコスプレマニアかと思ったが・・・それが霊だと知らされた。
(リナ「こんなに、はっきりと見えるのに・・・ 霊なの?」)
その時!
後ろを歩いていた小太郎が鞘から刀を取り出し
小太郎「ふん! ふん!!」
2度振りかざした。
慎吾「!?」
あんず「!?」
ブーメランの形をした青白い塊が、もの凄い勢いで前を行く3人の隙間を通り抜けていく。
ズバァ!!
そして扉の前の2人の武士を切り裂いた。瞬間2人の武士は・・・炎が消えるように青白い光を一瞬だけ放つ。やがて砂埃のような竜巻が渦を巻き・・・天へと登っていった。
慎吾「な・・・」
リナ「何!?」
あんず「・・・ ・・・」
3人が後ろを振り返ると、小太郎がニヤリと笑った。
小太郎「邪魔者は消すだけだ。さぁ、中へ入れ。
そして埋蔵金の元まで案内しろ・・・」
小太郎は刀を鞘に収め、刀をポンと肩に置く。
慎吾「・・・ ・・・」
3人は無言で前を向き・・・ 守護する霊のいなくなった扉をくぐる。地下へと続く階段を下り、鳥居の扉もくぐっていった。
そして鍾乳洞へと続く道へと・・・歩を進めていく。ポツリポツリと、鍾乳石から雫が落ちていく中を、一行は奥へ奥へと歩いて行った。
小太郎「ほう・・・ まさか、こんな道が存在するとはな。
いかにも・・・
徳川家が、御用金を隠しそうな場所だ。くっくっく・・・」
鍾乳洞や石筍に視線をやりながら、小太郎がつぶやく。
慎吾は小太郎に聞こえぬようあんずに声をかけた。
慎吾「あの・・・2人の武士はどうなったんですか?」
あんずも小さな声で応える。
あんず「天に召されたんです。彼によって無理矢理・・・」
リナ「元々死んでるんでしょ?」
会話にリナもくわわる。
あんず「えぇ、でも彼等はここを守護する霊として・・・
自ら地縛霊になったと思います」
慎吾「地縛霊・・・」
あんず「地縛霊は強い念があって・・・その地へとどまる霊です。
だから・・・無念のまま、その魂は天に召されたでしょう」
慎吾「しかしどうやって? 霊を天に返す事が?」
あんず「霊核と呼ばれるものが、どの霊にも存在します。
霊核を失った霊は・・・この世にとどまる事が出来ないんです」
リナ「つまり、霊核を破壊した・・・みたいな?」
あんず「その通りです。本来それは悪霊を倒す最終手段に使われます。
西洋では神の言葉によって除霊をするように・・・
日本でも般若心経や各家に伝わる経をよむ事で・・・
霊を追い払うのが一般的です」
慎吾「なるほど・・・霊核をしとめるのは、強硬手段ってわけか・・・」
あんず「ただ、霊自身、霊核の存在を知ってますので・・・
普通はそれを守るのに必死に抵抗するのですが・・・」
リナ「あいつの攻撃力が有無を言わさなかった・・・
ハンパないって事なわけね・・・」
ふと慎吾は2年前遭遇した事件を思い出す。
(慎吾「そっか・・・あの青年が言ってた【真なる魂】って・・・
【霊核】の事だったんだ・・・」)
しばらくの沈黙の後、慎吾が口を開いた。
慎吾「あの男の後ろには・・・強力な霊がついています」
あんず「えぇ・・・」
リナ「まぁ、あんな攻撃見せられたら・・・
絶対人間業じゃないのはわかるし。
その霊がすごいんでしょ?」
慎吾「えぇ・・・」
あんずの方を見やる慎吾。
慎吾「その霊の正体を?」
あんず「白装束で大男というのが見えますが・・正体はわかりません」
リナ「私は見えすらしないし・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
チラリと後ろを見る。3人の後ろにはただ1人・・・小太郎がいるだけだ。
リナ「・・・ ・・・」
いつものリナなら、後ろの男をぶっ倒して・・・そう考えるところだが・・・
(リナ「あんな化け物・・・ 勝てるわけがない・・・」)
その戦闘力を知っているリナは、ただ前に進むしかない。
リナ「で? その・・・白装束のなんちゃらって・・・誰なの?」
慎吾「彼についている霊は・・・
16世紀、小田原北條家の元で暗躍した忍者・・・」
リナ「忍者? 忍者って、リアルな存在なの?」
慎吾「もちろんです。16世紀に活躍し・・・
その戦術と忍術で相手を震え上がらせた忍者集団・・・
風魔一族・・・」
リナ「どっかで聞いた事ある名前ね・・・風魔って」
慎吾「男に憑いている霊は・・・ その風魔の頭領・・・」
あんず「風魔の・・・?」
慎吾「風魔・・・小太郎という男です」
(第37話へ続く)
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次回予告
糸見小太郎・・・彼の肉体を操っているのは風魔小太郎の霊だった。
慎吾達は鍾乳洞の中を、行ける所まで歩いて行く。
しかし行き着く先に・・・埋蔵金はない。
事態を悟った小太郎は、部下に電話をして江浜の殺害を指示した。
そして、腰にさした日本刀をスラリと抜き差し・・・
次回 「 第37話 江浜の危機 」
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