第34話 真の目的
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。リナは埋蔵金のありかを示した銅板の謎を解き明かし、3人は銅板の示す場所へ向かった。
慎吾達は赤城山近くの洞窟で・・・?
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第34話 真の目的
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5月8日、火曜日。午前零時過ぎ。
都内某所・・・某事務所。
江浜「・・・ ケホッ」
江浜は両手に手錠をかけられ、部屋の一室で監禁されていた。銃を持った男が2人、見張り役としてついている。
大男と一戦交えた際、背中におった傷。
(江浜「致命傷ではない・・・」)
ひどく痛むものの、意識ははっきりしている。ただ1つ、娘・あんずの身が心配だ。
(江浜「あんずさえ無事ならば・・・」)
ふと部屋に入ってくる男がいた。
男は江浜の前に椅子を置き、ゆっくりと腰掛け・・・江浜に声をかけた。
男「あれだけの傷をおって・・・ 意識があるとはな。
日本一の霊能力者も、伊達ではないって事か」
目の前の男に視線を合わせる江浜。あの大男だ。
江浜「私を・・・殺しに来たのか? 鳳巧。
いや・・・」
江浜の目の前にいる男は、糸見を裏で操っている鳳巧という男であり・・・
江浜「時任マリオ・・・」
そして糸見の息子である時任マリオだった。
時任「ふ。貴様の命などいつでも殺れる。
それに貴様を徳川埋蔵金と交換してくれる・・・
酔狂なヤツがいてな」
江浜「・・・」
慎吾達が自分を助けようとしている・・・江浜はそれを不安に感じていた。
(江浜「ヘタに動けば・・・ ヤツは容赦しないだろう・・・。
迷わず私を殺しに来たのだから・・・」)
時任「さて・・・ 本当に彼らは・・・
埋蔵金を見つけてくれるのだろうか・・・?
長年誰も発見できなかった物だ。
まぁ、貴様の命は・・・彼らにかかってるってわけだ」
江浜「お前の父は・・ 鳳という男の指示を受けている。
だがその正体が・・・
息子とは知らない・・・ようだな・・・」
時任「当然さ。父は埋蔵金を探すための道具に過ぎない。
TV関係者は・・・
大きなコネとして堂々と発掘出来るしな」
江浜「よく今日まで、騙せたものだ・・・」
時任「ふ・・・。どんな事をしても埋蔵金を探すのが・・・
我が使命でな」
江浜「埋蔵金を見つけてどうする?
まさかそれで・・・名を上げようというわけではあるまい」
時任は江浜を睨み付ける。
時任「俺を見ろ!!」
突如重低音の低い大声が鳴り響いた。
時任「貴様には・・・私が見えるんだろう?
時任マリオという肉体ではなく、霊魂である私の姿が!!」
江浜「・・・ ・・・」
江浜には見えていた。時任マリオの背後に憑いている霊の姿・・・2mはゆうに越える体つきの大男。白装束で身を固め、鋭い眼光を放っている。
時任「私の真の正体が・・・ わかるんだろ?」
江浜「・・・ ・・・」
無言で男の目を見ている江浜。
時任「私は・・・埋蔵金をどうすると思う?」
江浜「・・・・・」
時任「察しはつくだろう? あぁ、徳川の埋蔵金は全て・・・
誰にも見つからぬ海の底へ沈めてやるさ。
未来永劫、誰の目にも触れぬ所へな・・・」
江浜には時任の背後にいる霊が見えるだけでなく、その正体も知っていた。
(江浜「一族の・・・ 恨みつらみか・・・」)
今回の一連の事件の本当の黒幕。糸見を影で操り・・・慎吾やあんず、そして今は江浜を拉致し、命すら奪いかねない男・・・
真の黒幕の正体を見ながら江浜は口を開く。
江浜「この10数年・・・ そのためだけに?」
時任はニヤリと笑った。
時任「もちろんそれだけじゃない。わかるだろう?
埋蔵金の後は・・・
慎吾という男を殺す。それもまた我が使命・・・」
江浜「・・・ ・・・」
時任「徳川に関わる者は・・・皆殺しさ。ふふふ」
腰にさしていた日本刀をスラリと抜く。
江浜「・・・ ・・・」
江浜に傷を負わせた、あの刀だ。
時任「村正という名前を?」
江浜「・・・ ・・・」
しばらくその怪しい刀を見つめた後、口を開く。
江浜「あぁ。妖刀村正・・・ 私の祖先も・・・
そいつを相手にした事がある・・・」
時任「ふ・・・ それはそれは・・・。
徳川家康の祖父・清康はこの刀で殺された。
家康の父・広忠もこの刀で暗殺された。
それだけではない、村正は多くの徳川家の命を奪ってきた」
江浜「・・・ ・・・」
時任「家康は家臣に村正を使うことを禁じた。
どれほど恐れていた事か・・・
徳川家にとって、村正は呪われし刀。
それゆえ、妖刀として歴史にその名が出てくるってわけさ」
ザシュッ!
時任は日本刀の先を江浜の顔面に向けた。
時任「この刀で、ヤツを斬る」
江浜の頬を冷や汗がつたう。
時任「もう一度味わってみるか? 村正を・・・?」
江浜「・・・ ・・・」
時任「もっとも次は・・・ 死、あるのみだがな・・・」
ふと時任の携帯電話が鳴った。
時任「・・・ ・・・」
ポケットから携帯を取りだし、着信を確認する。
(時任「非通知・・・」)
その着信を見て時任は笑った。
時任「ふふ。噂をすれば、何とやらだな・・・」
ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
時任「私だが?」
電話の向こう側から慎吾の声が聞こえる。
慎吾「江浜さんと、埋蔵金・・・ 交換です」
時任は薄ら笑いを浮かべた。
時任「よかろう・・・埋蔵金はどこかな?」
慎吾「その前に、江浜さんの声を聞かせてください!」
時任は目の前の江浜に携帯を向け、アゴで合図をする。
江浜「慎吾君か・・・?」
慎吾「江浜さん! 無事ですか!?」
電話を通し、慎吾は1日半ぶりに江浜の声を聞き取った。
江浜「あぁ・・・娘は?」
慎吾「元気です。今そばにいます」
江浜「私の事はいいから・・・君たちは逃げるんだ!!」
時任は携帯電話をピクリとも動さない。
慎吾「いえ。みんなで・・・それぞれのうちへ戻りましょう。
埋蔵金と引き替えに・・・」
時任はニヤリと笑って江浜に声をかける。
時任「泣けるねぇ・・・戦国時代なら見捨てたろうに・・・」
そう言うと時任は携帯を自分の耳に戻した。
時任「で? どこへ行けば埋蔵金にありつけるのかね?」
慎吾「・・・。 わかりました。説明します・・・」
慎吾はリナが発見した魔方陣の説明を始める。
江浜「・・・ ・・・」
目の前の男をじっと見つめるだけの江浜。
慎吾「だから・・・正方形の頂点・・・一番下の右から2番目。
ここに埋蔵金があるんです」
時任「なるほどな・・・ よくわかったよ。
そして今、君たちはその場所にいるわけだな?」
慎吾「・・・・・・ はい」
時任「では、埋蔵金を見つけたのだな?」
慎吾「・・・・・・ えぇ」
時任「よし! 交渉成立だ! 今からそちらに向かおう」
慎吾「え!? 今からですか!?」
時任「なんだ・・・都合悪い事でも?」
慎吾「い、いえ・・・ 今はもう午前1時。電車もないし・・・」
時任「心配無用。赤城山ならよく知っている。
車で向かえば、2時間もあれば着くさ」
慎吾「わかりました・・・ 必ず・・・
江浜さんも連れてきてください・・・」
時任「いいだろう。では、2時間後に」
直後、電話を切った。そして目の前の江浜を睨み、小さく笑う。
時任「さて・・・ 旅に出ようか」
そういうと時任は右手を差しだし、気合いのようなものを注入する。
時任「・・・ ・・・」
そして江浜の顔面を力いっぱい殴った。
江浜「ぐふっ!!」
脳しんとうを起こした江浜は気を失う。
時任「死出の旅にな・・・」
・・・ ・・・。
リナ「どうだった?」
慎吾「2時間後に・・・ここに到着するそうです」
慎吾はリナに携帯電話を返した。
あんず「え!? 夜が明けてからじゃないんですか?
今から・・・こちらに来るんですか?」
3人はあの建物の前にいた。2人の武士の霊が守っている、あの建物の前に。
送電線が通っており、携帯はもちろんリナのパソコンも使える状態だった。
リナ「2時間後!? ちょっと待ってよ・・・
たった2時間で・・・ どうすんのよ!?」
慎吾「あの場面では・・・ あぁ言うしかなかったです・・・
その・・・江浜さんも、危険な状況だったし・・・」
あんず「・・・」
しばらく3人に沈黙の時が流れる。
慎吾「何とか・・・ するしかないですね」
慎吾が重い口を開いた。
リナ「そりゃそうよ! だって・・・
埋蔵金なんて、なかったんだから!!」
(第35話へ続く)
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次回予告
鳳=時任が江浜を連れて赤城山に来る。
しかし、慎吾らは交渉の要となる埋蔵金を見つける事は出来なかった。
慎吾はパワーストーンの使い方をあんずに指導してもらい、リナは今までの事件の情報を整理する。
リナは情報を整理しているうちに複数の人間が同一人物だという事に気づいた。
そして過去のニュースから、慎吾はとうとう黒幕に憑いている霊を突き止める。
そして事態は悪い方向へと進んで・・・
次回 「 第35話 5人の同一人物 」
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