第33話 鍾乳洞
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。江浜はリナ達を逃がすため、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと交渉。リナは埋蔵金のありかを示した銅板の謎を解き明かし、3人は銅板の示す場所へ向かった。
慎吾は何かに導かれるように・・・とある建物の前まで来た。
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第33話 鍾乳洞
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開いた扉から・・・
男が2人出てきた。
いや・・・ 2人の武士らしき男が出てきた。そういう方が正しい。
小さめの茶褐色の鎧をつけ、腰には日本刀を収めているであろう長めの鞘が見える。
兜は着けていないので、慎吾・リナ・あんずはその端正な顔立ちを確認出来た。
まるで戦国時代からやってきたような出で立ちの男が2人・・・
リナ「・・・ ・・・」
リナはあからさまに変な物を見る目で、男2人に視線を向ける。
そして慎吾に、小さな声で語りかけた。
リナ「こいつら・・・ 何? コスプレ男2人・・・。
秋葉原でもないのに、イケてると思ってるのかしら・・・?」
慎吾は驚いた表情をリナに見せる。
慎吾「彼らは・・・ ここを守ってる人達ですよ」
リナ「は? 意味わかんないんだけど・・・」
リナの後ろにいたあんずが声をかけた。
あんず「ここは・・・ 慎吾さんに任せましょう」
慎吾は武士2人の前に立ち、彼らをじっと見つめる。
慎吾「・・・ ・・・」
2人の男は数秒ほど慎吾と目を合わせた後、片手を屋内の方に拡げて「どうぞ」と言うしぐさをした。慎吾は、リナとあんずの方を向き言葉をかける。
慎吾「入っていいみたいです。奥へ行きましょう」
そう言うと慎吾は、真っ先に中へ入っていった。リナとあんずは続いて入っていく。3人が屋内に入ったのを確認した男2人は・・・
ギィイイ・・・ ガタン!
無言のまま、内側から扉を閉めた。
リナ「ちょ、ちょっと・・・ 閉じ込める気!?」
慎吾はリナの方を振り返って、笑顔を見せる。
慎吾「大丈夫ですよ」
リナ「で、でも・・・」
眉をひそめるリナ。
リナ「・・・ ・・・」
背を向け、先頭を歩く慎吾を見て・・・
(リナ「いつものあいつじゃ・・・ ないみたい・・・」)
違和感を感じた。怪訝な表情を浮かべ、あんずに小さな声で話しかける。
リナ「ねぇ・・・ あいつ・・・
何つーか・・・いつもと違う感じなんだけどさ。
あんずちゃんから見ても、何か変だな~とか感じない?」
あんずも笑顔で応えた。
あんず「慎吾さんは・・・わかってるんですよ」
リナ「わかってる?」
あんず「えぇ。ここは慎吾さんに任せて大丈夫だと思います。
もうすぐ私達にも・・・ それをわかる時がくると思います」
リナ「それ・・・?」
あんずもまた、何かをわかってるような口ぶりだった。
(リナ「どれ・・・?」)
何がどういう状況なのかを把握できないリナ。ただ、慎吾とあんずの何かを確信しいる事だけは感じる。
(リナ「ま・・・ 信じて、ついていくだけか・・・」)
ひっかかるものを感じながら、リナは慎吾の後ろを歩いて行った。
・・・ ・・・。
薄暗い建物の中・・・中に入ると意外と奥行きがある。数10m歩くと、慎吾の目の前に地下へと続く階段があった。
慎吾「・・・ ・・・」
トン トン トン・・・
迷わず階段を下りていく。
リナ「ちょ・・・」
一瞬ためらったリナも慎吾の後を続き、最後尾をあんずが続いた。
階段を下りていくと・・・
慎吾「・・・ ・・・」
全長3mの真っ赤な鳥居が壁にくっつくように現れる。そして鳥居の入り口には・・・さらに扉があった。
慎吾「ここ・・・」
リナ「なんで、地下に鳥居があんの? てか、また扉があるし・・・」
慎吾「この扉の先・・・ その奥に・・・」
リナ「え!? 埋蔵金があるとか!?」
慎吾はリナを無視して、ゆっくりと扉に向かい・・・扉に手を当てた。
リナ「ちょ・・・ 何、する気・・・?」
見た所、頑丈そうな扉だ。
慎吾「・・・ ・・・」
押してもびくともしない。
リナ「いや・・・ どう見ても無理っしょ・・・
簡単に開くようには見えな・・・ 」
あんず「リナさん・・・」
リナの言葉をあんずが止める。
あんず「慎吾さんに任せて・・・」
さっきから同じセリフを言っているあんず。リナはあんずの方を振り返った。
リナ「あんずちゃん。あなたも何か・・・
知ってるみたいだけど?」
あんずは笑って応える。
あんず「いえ・・・よくはわかりませんが・・・
慎吾さんの行動が正しい・・・という事はわかります」
リナ「・・・ ・・・」
リナには今、何が起こってるかわからない。ただ慎吾とあんずが、何らかの確信めいたものを持っている事だけは伝わった。
ならばと、武士の格好をした男2人に話を聞こうと思うリナ。
リナ「ねぇ、武士のコスプレさん・・・ あ、あれ?」
鳥居に着く前は、確かにいた。なのに今、リナの視線の先には誰もいない。地下の狭い空間を見渡しても、ついさっきまでいた武士2人は見あたらない。
あんず「役目を終えたので・・・消えたんですよ」
ますます混乱するリナは、眉間にしわをよせる。
リナ「あの・・・ もうちょっとわかるように言ってくれる?」
あんずはニコッと笑った。
あんず「彼らはここを守護している霊なんです。
リナさんにも見えてたから、私も慎吾さんもちょっと驚きました。
よっぽど強い霊って事ですね」
リナ「・・・ ・・・」
あんずはわかりやすく説明したつもりだったが・・・リナの混乱は絶頂を極めた。しばらく頭を抱えたリナは小さなため息をついて声を出す。
リナ「ま・・・ 埋蔵金さえ見つかればなんでもいいわ・・・」
瞬間、リナとあんずは冷気を感じた。
リナ「さむ! な、何?」
冷気の出所を探ると・・・ 鳥居の扉、その小さな隙間からだった。
慎吾「・・・ ・・・」
深呼吸した後、慎吾は両手で力を入れて再び扉を押す。
慎吾「・・・ ・・・」
すると音も立てず・・・
リナ「ひ・・ 開いた!」
扉が開いた。全く音を立てずに、ゆっくりと扉は開いていく。
開いた扉の先は薄暗く・・・岩場が細長く先へと続いて広がっていた。
リナ「トンネル? 地下道かしら?」
慎吾は2人の方を向き、声をかける。
慎吾「この先・・・ 埋蔵金があるはずです!」
リナ「マ・・・ マジっ・・・?」
にわかに信じがたい表情を浮かべるリナを背に、慎吾は先陣を切って扉をくぐった。そして迷わず奥へと歩いて行く。
あんず「私達も行きましょう」
リナに声をかけたあんずが続いた。
リナ「はいはい。彼を信じろってんでしょう?」
あんず「えぇ」
笑顔で応えるあんずを見て、リナは扉をくぐった。
リナ「暗・・・」
3人は、薄暗い地下道の奥へと進んで行く・・・
・・・ ・・・。
扉をくぐってしばらく・・・入り口である鳥居の扉は自然と閉まっていた。
リナ「地下道って言うか、洞窟ね・・・
周り岩場だし、転んだからヤバいわね」
どこからか漏れている光のおかげで、薄暗いではあるがごつごつした岩場が見える。
しばらく進むと、上が大きく開け始めた。見上げると岩場のすきまから太陽の光がいくらか差し込んでいる。
リナ「・・・ ・・・」
その太陽光は、周辺の岩達を妖しく照らしていた。
慎吾「ひ、光苔だ・・・」
リナ「何、それ?」
慎吾「ほら、岩の表面についた苔が緑色に光ってるの・・・
わかります?」
リナとあんずは、岩々をよく見てみる。すると確かに緑色に光る苔が確認出来た。
あんず「確かに・・・ 発光してますね」
慎吾「天然記念物にも指定されている、希少な苔ですよ。
群馬県では、浅間山近くに生息してるのですが・・・
赤城山周辺にも生息してるとは」
リナ「へ~、初めて見た。ホタルみたいな感じかしら?」
慎吾「いえ。ホタルは自発光ですが・・・
光苔はわずかな光を吸収して、細胞に反射してるんです。
葉緑体のせいで、緑色に発光しているように見えるんですよ」
リナは頭をかきながら慎吾に声をかける。
リナ「あんた、時々変な事くわしいわよね・・・」
慎吾「こういう神秘的な植物とか、生物・・・大好きなんです!」
笑って答える慎吾。
あんず「でもホント・・・ ステキなエメラルドグリーンの光ですわ」
あんずは光苔の美しい発光を見つめながら歩いていった。
・・・ ・・・。
足下に注意しながら歩く3人は、しばらくして高さが5m程のドーム状の岩の広場へと出た。
リナ「つ・・・つらら!?」
天井を見上げたリナが真っ先に声をあげる。そこには無数のつららのようなものが下へと向かって伸びていた。
慎吾「・・・ ・・・」
続いて慎吾が天井に目線をやる。
慎吾「あれは・・・ 鍾乳石です・・・ 」
あんず「じゃぁ、ここは鍾乳洞って事ですね」
リナ「な、何よ? 鍾乳石って!? 鍾乳洞って!?」
慎吾「つらら石とも呼ばれます。
炭酸カルシウムを含んだ地下水が天井を伝って・・・
落下していく時、長い年月をかけてつららのように結晶化するんです」
リナ「あんた・・・ 鍾乳なんたらもくわしいの?」
慎吾「いえ。沖縄にも有名な鍾乳洞があって・・・・
小学生にとって、定番の遠足地なんです。
鍾乳洞を調べる事も、学校教育の一環でやらされるんです」
リナ「ふ~ん・・・・ あれ?」
歩きながらリナの視線は、また異物をとらえた。
リナ「地面から、つららのようなものが・・・生えてる?」
リナの視線の先、ドーム状の広場の奥には・・・太めのつららを立てたような、棒状の石が無数に見える。
慎吾「あれは・・・ 鍾乳石からしたって落ちた炭酸カルシウムの水滴が・・・
地面に落ちた後、結晶化したものです。
石の筍と書いて、石筍って言うものです」
リナ「へー・・まさか、民家が散在してたトコから・・・
こんな不思議なトコへたどり着くなんて。
埋蔵金に近づいているって感じがするわね!」
慎吾「とりあえず、移動できるトコまで行ってみましょう。
周りに何かないか、気を配りながら」
リナ「もちろん!」
あんず「はい・・・」
元気よく声をかけるリナに対し、静かに頷くあんず。3人は埋蔵金、もしくはそれにつながるものがないか目配せをしながら歩を進めていった。
・・・ ・・・。
ゴツゴツした岩場に気をつけながら歩く3人は、少しずつ体力を奪われていく。
リナ「もう1時間歩いてるわよ・・・ 何も出ないわね。
ホントにここら辺にあんの? 埋蔵金?」
特に変化のない景色が続く場所を歩いて疲れたリナは、埋蔵金があるのか半信半疑になってきていた。
慎吾「鳥居をくぐって・・・だいたい2kmぐらいは歩いたかな・・・?」
あんず「方向からすると・・・赤城山の近くですね」
少々疲れが出始めたが・・・3人はさらに奥へと進んでいく。
・・・ ・・・。
鳥居をくぐって90分程が経過した。たくさんの鍾乳石や石筍を避けつつ歩いて行くと、横幅が10m程のトンネル状の道となっている。
さらに歩くと・・・ 広間のような場所に出た。その先に道は見えないが・・・ちょうど10個のアーチ型の穴があった。人一人は余裕で通れるほどの大きさだ。
その1つに慎吾は歩み寄る。
慎吾「わ! これ以上は先に行けないですね・・・」
アーチの前で立ち止まった慎吾の先には・・・ダストシュートの出口のように前は開けているものの、足場がない。
リナ「こ、ここは・・・・?」
あんず「山の内部・・・火口・・・ですね?」
3人は足下に気をつけながら、アーチの先を見る。
慎吾「下は・・・30mぐらいあるでしょうか?」
あんず「それぐらいありそうですね・・・
10階建てのビルぐらい・・・」
おそるおそる途切れた道の先を見ると、30m下に岩場が見えた。何かを伝って降りていけるような場所ではないし、足を滑らせたら岩に直撃して即死であろう。
高い所が苦手なリナは、怖々と覗いている。
リナ「わ・・・ あの石筍ってヤツがいくつかあるわね。
何か今まで見た石筍より、かなり細いけど・・・」
リナは近くに落ちてた石ころを拾って投げ入れた。重力に従って落ちていく石ころは
カラーンコローン
洞窟内に小さな音を響かせ、細い石筍の間へと転がり落ちていく。
リナ「うん・・・人が落ちたら串刺しにされるわ・・・」
横にいたあんず。
あんず「ひょっとしてここは・・・
埋蔵金を隠すためのトラップのような場所でしょうか?
トレジャーハンターを追い詰める・・・」
慎吾はすぐに否定する。
慎吾「いや・・・ 単に自然で出来た地形だと思います。
石筍は何100年もかけて作られるものだし、人為的には出来ません。
でも、こんな所に埋蔵金を隠した・・・?」
30m先の下の空間は約50m四方。いたる所に視線を突き刺すが広い岩場の空間と、一部石筍の群が見えるだけで、埋蔵金のようなものは見あたらない。
慎吾「・・・ ・・・」
上の方へ視線を移すと、その天井は高い高い位置にあった。天井の岩の隙間からは、青い空が見える。
慎吾「間違いなく・・・ ここは赤城山の火口ですね。
下は30m、上は50m以上ありそうだ・・・
これ以上、先には進めない・・・」
リナは別のアーチ型の穴を見ていた。
リナ「どうやら、どの穴も・・・先に進めば、落ちて死ぬだけのようね」
慎吾「・・・ ・・・」
悩む慎吾。
(慎吾「間違いなく・・・ 近くに埋蔵金がありそうなんだけど・・・」)
しかし、視界にそれは確認出来ない。
慎吾「何か・・・ 何かあるはずなんですが・・・」
リナ「お得意の霊感ってヤツ?」
慎吾は無言で頭をフル回転させる。
慎吾「何かを見落としている・・・」
ふと、あんずが声をかけた。
あんず「あの・・・このお地蔵様みたいな岩に・・・
意味はあるのでしょうか?」
あんずは2つのアーチ型の穴の間にある、高さ50cmほどの岩をなでている。
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・」
よく見ると・・・全てのアーチ型の穴と穴との間に、それらの岩はあった。
リナ「何かそれ、犬みたいな形の岩ね」
犬と言われればそうも見えなくないが、はっきりとしない形である。
慎吾は近寄って、その岩をじっくり見る。
慎吾「・・・ 削られた跡が、ある・・・」
あんず「人が手を加えた・・・って事ですね」
リナ「じゃ、じゃぁ誰かがここに来たって事でしょ!
埋蔵金隠したヤツが、何か目印残したとか!?」
慎吾「その可能性は十分あると思います・・・」
リナ「って事は・・・ 埋蔵金が近くに?」
慎吾「・・・ ・・・」
じっと削られた岩を見る慎吾。
慎吾「う~ん・・・。何だろう? どうして岩に手を加えたんだろう?」
携帯を取り出したリナは、何かの役に立てばと岩の写真を撮り始めた。
リナ「あら・・・?」
リナの言葉に慎吾が即座に反応する。
慎吾「な、何かわかりました?」
リナ「あ、いや・・・ 携帯に電波たってるから、驚いただけ。
まぁ、近くに送電線もあったし・・・」
アーチの先から、恐る恐る天井を見上げるリナ。
リナ「あの隙間から・・・電波が通ってるみたいね」
慎吾「電波が・・・?」
穴と穴の間にある50cm程度の岩は、全て人の手が加えられた痕跡がある。こんな場所に人が来るだけでもおかしいことなのに、全ての岩には何かしらの細工が施されているようだ・・・。
アーチ型の穴の先・・・火口へ行く事は出来ない。穴を通れば、ただ落ちるだけ。30m下の岩場に直撃するか、一部生えている石筍に串刺しにされるか・・・いずれにせよ「即死」の選択肢しかないように思える。
火口を見ていた慎吾は、ふと眉をひそめた。
慎吾「あれ・・・? 何か・・・ おかしいぞ・・・?」
・・・ ・・・。
数時間後。
その男の携帯電話が、非通知表示で着信音を鳴り響かせた。
鳳「私だが?」
電話の向こう側から慎吾の声が聞こえる。
慎吾「江浜さんと、埋蔵金・・・ 交換です」
(第34話へ続く)
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次回予告
鳳に拉致された江浜は、鳳の真の目的を知ることになる。
徳川埋蔵金とひき替えに、江浜の身柄をひきとる約束を迫る慎吾だが・・・
慎吾達は、ギリギリの事態に追い込まれていた。
次回 「 第34話 真の目的 」
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