第32話 行くべき場所
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。
逃走するリナと江浜の前に、謎の大男が立ちはだかった。江浜はリナ達を逃す代わり、身代わりに捕まってしまう。
敵とコンタクトをとった慎吾は、江浜とひき替えに徳川埋蔵金を差し出すと言った。
リナは埋蔵金のありかを示したという銅板の謎を解き明かす。3人は銅板の示す場所へ向かった。
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第32話 行くべき場所
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5月7日。午後4時・・・
3人は上野駅から東武線に乗り換え、赤城駅に降り立つ。
ベンチに座ったリナは、パソコンの画面を見ながら慎吾とあんずに言った。
リナ「ここから近いわよ、埋蔵金がある場所。
353号線を東に行けばすぐ着く」
慎吾は駅にある周辺地図を見ながら、行き方を模索する。
慎吾「えっと・・・」
リナ「時間が気になる。タクシーで行きましょう」
慎吾「そうですね。タイムリミットを考えると・・・
稼げる時間は稼いでいた方がいいですし」
あんずに気を遣って、リナと慎吾は目的地まで最速で行く方法をとった。あんずは黙って2人についていく。
この時江浜が鳳に拉致されて24時間が経過。人質と埋蔵金を交換するという2度目の交渉まで、セーフティラインは48時間と設定した慎吾。
(慎吾「あと24時間以内に・・・埋蔵金をみつけないと・・・」)
数10分後。
3人はタクシーを降りる。見渡すと木々が生いしげる雑木林の区画と、綺麗に刈り入れられた整地とがあり、民家がまばらに見えた。
リナ「えっと・・・あっちの方角ね」
ある方向を指さす。
リナ「ここから北に15分ほど歩けば、目的地周辺だわ」
慎吾「・・・ 行きましょう・・・」
一行は目的地に向かって歩いて行った。
ふと一番後ろを歩いていたあんずが、リュックの中から例の拳大の石を取り出した。
それに気づいたリナが声をかける。
リナ「あんずちゃん・・・ 何か悪いものがいるの?」
あんずは首を横にふった。
あんず「ここらへんには、たくさんの霊がいます。
けして悪い霊ではないのですが・・・
万が一何かあった時、すぐに対応できるようにと思って」
あんずは右手の石を握りしめる。
慎吾「・・・ ・・・」
それを見た慎吾は、江浜にもらった石をポケットから取り出した。そしてあんずに石を見せる。
慎吾「これ、君のお父さんからもらったんだけど・・・
何故、僕に渡したんだろう?」
あんず「これはパワーストーンです。
霊力を持った人間は、この石を媒介して・・・
そのエネルギーを具現化する事が出来るんです」
慎吾は首を横にかしげる。
リナ「あー・・・私、見た。あんずちゃんのお父さんが・・・
その石から、光の剣のようなもの出しているのを・・・」
あんず「強い霊力を持ってる人間は・・・」
あんずは目の前の高さで石を握って見せた。
慎吾「 ? 」
あんず「パワーストーンに意識を集中させるだけで・・・
武器や防具を作り出せるんです・・・
唵!!!」
かけ声と共に・・・あんずのパワーストーンから左右に光の棒が伸びた。
慎吾「わ!?」
リナ「・・・ ・・・」
長さ50cm程度の光の棒を軽く振り回すあんず。
あんず「・・・ ・・・」
意識を落ち着けると、その光は消えた。
慎吾「す・・・ すごい・・・」
リナ「お父さんはもっとすごかったわよ・・・」
慎吾「え、江浜さん・・・もっとすごい武器を?」
あんず「私の師匠ですから・・・」
寂しそうに笑うあんず。
リナ「し、しかし・・・ う~ん・・・ 理解しがたい・・・
いったい、どういう理屈なんだろう・・・?
エネルギーをどこから持ってきてるのかしら・・・?」
あんず「この自然界、果ては宇宙にまで・・・
エネルギーで満ちあふれています。それを利用しているだけです」
リナ「そうは言っても・・・ わっからないな~」
あんず「父が言うには・・・
量子力学を学べば、霊魂や霊力の正体にも近づけるって・・・」
リナ「へ~・・・霊だの霊魂だのって話も、現代科学で説明できるの?」
(慎吾「りょうし・・・りきがく?」)
あんず「らしいです。だから私・・・
今、大学の物理を専攻して基本的な勉強を・・・」
リナ「え!?」
慎吾「え!?」
リナと慎吾は同時に驚きの声をあげた。
リナ「あ、あんずちゃんって・・・大学生だったの!?」
2人の驚く表情に対して驚くあんず。
あんず「え? えぇ・・・そうです。今年からですが・・・」
慎吾「と、飛び級ってヤツですか?」
あんずは首を横にふる。
あんず「いえ・・・普通にです・・・けど?」
リナ「じゃ、じゃあ・・・あんずちゃんって年、いくつなの!?」
目を丸くしたあんずは応える。
あんず「え? じゅ、18です・・・?」
慎吾「えーー!!」
リナ「えーーー!!」
またしても驚く2人。
慎吾「最初は中学生かなと。でもバイク乗ってたから高校生かと・・・」
リナ「私も・・・絶対3つは年下だと思ってた・・・」
あんずはニコッと笑った。
あんず「よく言われます。
私、背も低いし・・・よく中学生に間違えられるんです」
慎吾「まさか僕と同級生とは・・・」
リナ「まさか私の1個下とは・・・」
今まで【年上目線】で語っていた慎吾、そして【かなり年上目線】で語っていたリナ。2人とも、後頭部をポリポリとかいた。
あんず「・・・ っぷ・・・」
その2人のシンクロした様子を見て、あんずが小さく笑う。
リナ「そっかぁ・・・私は19歳だから、あんずちゃんの1個上。
改めてよろしくね」
リナは右手を差し出した。握手に応えたあんずは笑顔を見せる。
あんず「えぇ、リナ先輩。よろしくです」
リナ「ちょっと、先輩はヤメて。そう呼ぶのは1人で十分だからさ」
あんず「じゃぁ、リナさん」
笑顔で応えるあんずの表情の美しさに、再び後頭部をかくリナ。
リナ「こんなに可愛い笑顔で言われたら・・・まいっちゃうわね」
2人の女性の後ろを歩く慎吾。
(慎吾「こんな可愛い・・・同い年の女の子・・・
どう接すればいいんだろう・・・?」)
パワーストーンを握りながら、勝手に一人で悩んでいた。
(慎吾「あ、後でこの石の使い方を聞こう・・・かな・・・?」)
あんず「よろしく。慎吾さん・・・」
笑顔のあんずが、慎吾に握手を求める。
慎吾「え? あ・・・ よ、よろしく・・・ あんずさん・・・」
白い右手を握る慎吾。
あんず「そんな・・・さんづけなんて・・・ あんずでよろしいです・・・」
慎吾「は、はい・・・ あんずさん・・・」
そんな慎吾を見て、あんずは三度小さく笑った。
・・・ ・・・。
しばらく歩いていると、先頭のリナが立ち止まる。そして360度あたりをぐるっと見回した。
リナ「着いたわ・・・ ここよ」
あんずも慎吾も周りを見渡す。雑木林と畑、そしてまばらに民家が見える平地に3人は立っている。
リナ「へ~、山周辺なのに携帯の電波も通ってるんだ」
携帯を見ながら、電波が通っている事を確認する。
慎吾「ここの近くに・・・ 埋蔵金が・・・?」
リナ「銅板の格子点の大きさから言えば・・・
今いる所の半径100m以内に埋蔵金がある・・・
って事になるんだけど・・・?」
3人とも辺りを見渡し、埋蔵金のありそうな場所を探そうとする。
慎吾「・・・ ・・・」
ふと慎吾が雑木林の向こうに視線を移した。
リナ「・・・?」
リナが見る限り、視線の先に何かがある様子はない。しかし慎吾は、そこに向かって歩き出した。
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「ちょっと・・・」
慎吾の肩に手をかけるリナ。
リナ「ちょっとあんた、どこ行くつもり!?」
慎吾は振り返って自信に満ちた笑顔を見せた。
慎吾「行くべき場所です」
リナ「・・・ ・・・」
あまりにも自信満々で言ってのけたので、リナの方が面食らう。
リナ「・・・ ・・・」
リナはあんずの方を見やる。
あんず「慎吾さんの後に・・・ 付いていきましょう」
・・・ ・・・。
何故かはわからないが、慎吾には自信があった。
(慎吾「今、僕達が行くべき所は・・・ この方向だ・・・」)
50mほど歩いて林を抜けるとまた平地に出る。さらに30mほど歩くと、倉庫というか民家の物置小屋のような建物がポツンと1つ建っていた。
慎吾「・・・ ・・・」
入り口の前で慎吾は立ち止まり、その建物を見る。その後ろに続くリナとあんず。
リナ「ま、まさか・・・ ここなの!? ここに埋蔵金があるの!?」
慎吾は首を横にふった。
リナ「そ、そうよね。こんな誰にでも・・・
簡単に行けそうな場所に、あるわけないわよね・・・」
リナに対し、慎吾が笑顔を見せる。
慎吾「でもここは・・・多分入り口です・・・」
リナ「え!? 入り口?」
慎吾は無言で頷いた。
リナ「埋蔵金に通じる入り口って事!? なんでわかんのよ?」
慎吾「えー・・・あー、何となく?」
リナ「は~!? そんな【何となく】が根拠!? ありえない!!」
あんずが割って入る。
あんず「リナさん。とりあえず確かめてみましょう。
ダメならまた次探せばいいですし・・・」
リナは小さなため息をついた。
リナ「ま、まぁ・・・
確かめるぐらいならいいけど、どうせ何も・・・」
ギィィイイーーー・・・
突然、建物の扉が・・・
ガタン!
内側から開いた。
(第33話へ続く)
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次回予告
3人は建物の中に入っていく。
その地下からは、鍾乳洞に通じる道があった。
そして歩いて行った先で・・・
慎吾達は・・・?
次回 「 第33話 鍾乳洞 」
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