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徳川埋蔵金の謎  作者: 伊吹 由
第3章  かけひき
29/45

第28話  交  渉

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 慎吾のスピリチュアル事件簿 First season


      「徳川埋蔵金の謎」 


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前回までのあらすじ


2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。


収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。


リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。逃走するリナと江浜の前に、謎の大男が立ちはだかり、攻撃してきた。


リナをかばった江浜が重傷をおう。あんずは父親の命令で、リナを連れてその場を逃げ出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第28話  交  渉


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ギキィ・・・


神楽坂教会に、あんずのバイクが到着した。後ろには曇った表情のリナが乗っている。


慎吾「お、お帰りなさい・・・」


出迎えた慎吾が声をかけた。


慎吾「え、江浜さんは・・・?」


リナ「・・・ ・・・」


リナは無言で下を向いている。


あんずはヘルメットを取り、慎吾に静かに声をかけた。


あんず「今は・・・ 逃げましょう・・・ ここより遠くへ・・・」



・・・ ・・・。


2時間後。


3人は箱根大学の近く、とあるビジネスホテルに身を潜めていた。


慎吾「じゃぁ、江浜さんは・・・」


あんず「えぇ・・・ 私たちを逃がすために・・・」


リナは無言で部屋の片隅に座り、窓の外を眺めている。


あんず「父もいないし・・・ この後どうしたら・・・」


あんずは涙を浮かべた。


慎吾「・・・ ・・・」


徹夜にも関わらず、慎吾は頭をフルに回転させる。


慎吾「整理しましょう・・・」


部屋にあった紙と鉛筆を持ってくると・・・慎吾は拉致された時の事からこれまでの出来事を時系列で整理し、書き始めた。


慎吾「あんずさんが誘拐された時の状況も聞かせてください」


あんず「は、はい・・・」


あんずからの情報も重ねて書き上げる。


慎吾「・・・ ・・・」


そして、特に気にすべき人物をピックアップした。


慎吾の拉致を指示した糸見。


慎吾「この糸見さんは、暴力団と関わっている・・・」


あんずを拉致し、江浜の前に立ちはだかった大男。そして、糸見の後ろで糸をひいているであろう霊能力者。


慎吾「おそらく江浜さんが戦った、この大男が・・・

    糸見さんの後ろにいるという霊能力者・・・」


あんず「間違いないと思います。父があれだけ苦戦するなんて・・・」


リナ「・・・ ・・・」


2人の会話を聞いているリナだが、視線は窓の外のまま。


あんず「確かその男・・・おおとりって名前でした。

     見張りの男が電話してた時、そうよんでたわ・・・」


慎吾は紙の上に


大男=糸見の後ろで糸をひく霊能力者 → 鳳


と記した。


(リナ「おおとり・・・?」)


名前を聞いたリナが初めて話に加わる。


リナ「その名前・・・スタジオで倒した男の携帯着信にあった・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


リナは一瞬見た数字を、驚異的な記憶力で覚える能力があるのを思い出した。


慎吾「リナ先輩、番号覚えてます!?」


リナ「覚えてる・・・」


しばらくの沈黙の後、慎吾が口を開く。


慎吾「かけてみましょう。鳳という男に・・・」


リナ「・・・ ・・・」


あんず「・・・ ・・・」


さらに沈黙の時が流れた。


日本最高の霊能力者といわれる江浜を・・・あれだけ苦しめた鳳という男。彼にコンタクトを取ることがどれだけ危険か・・・その場にいる全員が認知している。


現状でこの先・・・彼とコンタクトを取る以外、何らかの道が開けるとは思えない。前に進むには、何かのリスクを抱える必要がある・・・。


3人の意見は一致した。


リナ「それしか・・・ ないか・・・」


あんず「でも、かなり危険だと思います。

     何らかの策を講じてからでないと・・・」


慎吾「僕がかけます」


慎吾が毅然と言い放つ。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾「とりあえず電話をかけてみましょう。

    相手の出方次第で・・・ どうなるかわかりませんが」


そう言うと慎吾は、部屋の電話の方へ歩いて行った。


リナ「ちょっと待って!」


慎吾「 ? 」


リナはリュックに入れていたノートパソコンを開いて、操作を始める。


リナ「そんな固定電話使ったら、一瞬でこの場所特定されるから!

    今からIP電話で、鳳の携帯に電話をかける。


    IPで携帯に電話出来るってのは、割と最新の技術なの」


慎吾もあんずも、リナが何を言ってるかわからない。


慎吾「あ、あの・・・ IP電話ってのは?」


パソコンを操作しつつリナは応える。


リナ「パケットデータがネット上を行き来するの。

    メールの電話版だと思えばいいわ」


リナの簡単な説明でも、慎吾とあんずは全く理解できなかった。構わずリナは説明を続ける。

   

リナ「カナダとオーストラリアのサーバを経由して・・・

    相手の携帯に電話をかける。


    つまり地球を半周以上する距離からかけるって事ね」


慎吾「・・・ ・・・」


よくわかってないが、頷く慎吾。


リナ「IP電話の逆探知は、通話中しか出来ない。

    通信速度を逆算すると・・・


    ジャスト2分以内なら、どんな逆探知もここを特定できないわ」


リナはマイク付きのヘッドセットを慎吾に渡した。


慎吾「つまり・・・ 電話が繋がってから、2分以内に切れば・・・」


あんず「こちらの場所は、相手に特定できない・・・?」

    

リナ「その通り。絶対2分超えて会話しちゃダメよ。

    また逃げるハメになるんだから・・・」


慎吾「わ、わかりました・・・」


頷きながら、渡されたヘッドセットを装着する。


リナ「あちらの音声は、スピーカーを通してみんな聞けるようにしてある。

    こちらの音声は、このマイクを通してのみ。


    つまり話せるのはあんただけ・・・」


慎吾は頷いた。リナは2分という意味のVサインを慎吾に見せ、再び念を押す。


リナ「いい? 絶対2分以内よ!」


慎吾「わかりました・・・」


IP電話の説明は理解できないが、2分以内に電話を切らなければいけない事だけは肝に銘じた。


リナ「・・・ いくわよ・・・」


倒した男の携帯にあった、【鳳】の着信番号・・・リナはパソコンのキーボードで入力する。


リナ「・・・ ・・・」


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾と目を合わせた後、リナは【Enter】を押した。



トゥルルルル・・・ トゥルルルル・・・ トゥルルルル・・・



パソコンの画面には、音声に呼応するように波形が映っている。


慎吾「・・・ ハァ・・・ ハァ・・・」


否が応でも緊張する慎吾のノドが、カラカラになっていく。



カチャ



間違いなく電話を取ったであろう音が鳴り響く。



慎吾「もしもし・・・?」


2秒ほどのの後・・・ 反応があった。


鳳「その声は・・・ 慎吾・・・ だな?」


重低音の声が、パソコンを通して3人の耳に入る。



慎吾「な、何故、僕だと!?」


鳳「さぁ?」


(リナ「バカ・・・ こっちの素性を認める必要ないのに・・・」)


以前のバッグ盗難事件の時も、慎吾は警察に対して自分の素性を伝えていた。


(リナ「ある意味、素直すぎるんだけど・・・

     こういう状況ではマイナスだわ・・・」)


溜息をついたリナが小さな声で慎吾に声をかける。


リナ「あちらは時間稼ぎをしようとしている。

    要点を抑えて喋って!」


慎吾は無言で2度頷いた。


慎吾「え、江浜さんは!?」


鳳「ふ・・・ はっはっは・・・」


男の不適な笑い声が部屋に響く。


鳳「彼は・・・死んだよ」


慎吾「え!?」


その言葉は慎吾とリナの胸を深くえぐった。


しかし慎吾の腕をあんずが強く握って声をかける。


あんず「彼は嘘をついてます。万が一父が死んだ場合・・・

     私には、すぐわかります」


慎吾「・・・ ・・・」


魂の抜けた表情であんずを見つめ返す慎吾。


あんず「本当です。私を信じて。父は生きています!」


本来、一番取り乱すはずの娘が一番冷静でいる。うろたえる様子は一切ない。


慎吾「・・・ ・・・」


リナ「・・・ ・・・」


慎吾とリナはあんずの言葉を信じ始めた。深呼吸した慎吾は


慎吾「そんな嘘にはのらない!!」


大きな声で返す。


鳳「ふ・・・さすがだな。お見通しってわけか。はっはっは。

   彼はここにいる・・・」


慎吾とリナは胸をなで下ろした。あんずだけは表情を変えずにいる。


鳳「まだ生きているさ。なかなかしぶとい相手でね・・・」


パソコンの時計を見たリナが、慌てて慎吾に声をかける。


リナ「あと35秒!」


江浜の生存を確認し、安心していた慎吾は再び焦り始めた。


慎吾「江浜さんを返して欲しい!」


鳳「ふふ。ここで【はい、わかりました】と言うとでも?」


リナとあんずは思う。ただ江浜を返せでは相手にとって何のメリットもない。しかし女性陣の予想に反して、慎吾は意外な言葉を口にした。


慎吾「言うさ・・・」


鳳「ほう・・・ 何故? お前自身でも差し出すか?

   それでも答えはNoだ。


   お前らを見つけ出すのは造作もない事だからな」


慎吾はマイクを握り、鳳に声をかける。


慎吾「江浜さんと引き替えに、差し出すと言ったら?


    徳川埋蔵金を・・・」


鳳「・・・ ・・・」


リナの示したリミットまで・・・


残り10秒を切っていた。


 

              (第29話へ続く)

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次回予告


徳川埋蔵金をひき替えに、拉致された江浜の身柄を要求した慎吾。

そのためには、銅板に隠された埋蔵金の場所を特定しなければならない。


3人は知恵を振り絞って、銅板の謎に挑む。

そして・・・



次回 「 第29話  銅板の謎  」

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