第26話 黒 幕
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出する。ところが、慎吾の持っていた銅板に追跡装置がついており、銃を持った連中がまたしても追ってきた。
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第26話 黒 幕
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リナを後ろに乗せた江浜のバイクは、家を出た直後・・・急ハンドルを切って左に曲がる。
パン! パーン!!
付近にいた黒ずくめの男らの銃弾をかわし、2人を乗せたバイクは大通りに出た。
黒ずくめの男らはすぐに車に乗り、バイクの追跡を開始する。
江浜「しっかり捕まってろ。バイクの方が逃げるには有利だ」
そう言うと、江浜は大型バイクのアクセルをさらに握りこんだ。
リナ「・・・ ・・・」
バイクに振り落とされまいと、リナは江浜の腰に回した手をさらに強く握りしめる。
一方、慎吾を後ろに乗せたあんずのバイク。父親のバイクから、遅れること10数秒・・・
あんず「・・・ ・・・」
アクセルを一気にふかし、父親とは反対方向に走る。おとりになった父のおかげで、視界に敵の姿は見えない。
あんずはバイクを操りながらも、フルフェイスメットの右横についてる小さなボタンを押した。
あんず「お父さん、聞こえる!?」
ヘルメットに内蔵された通信装置は、江浜のそれへと電波を送る。
江浜「聞こえる。こちらは逃走中。そちらは!?」
父の声を聞いて一息ついたあんずはすぐに応えた。
あんず「こちらは追っ手はいません・・・」
ふと後ろに乗ってる慎吾が大きな声を上げる。
慎吾「来ました!!! 黒い車が2台!
窓の外から銃をこちらに向けています! 」
かすかに慎吾の声を聞き取った江浜。
江浜「訓練とは違って実戦だ。今はとにかく逃げる!
神楽坂教会で落ち合おう」
あんず「了解!」
慎吾はあんずの腰に手を回しつつ、背後の車を確認する。
そして・・
慎吾「い・・・ 糸見さんだ!!」
慎吾の両目は、小道具部屋で自分に銃を向けた・・・そして今も銃を向けている糸見を捉えた。
糸見「・・・ ・・・」
助手席に座っていた糸見。左手に銃を持ち、バイクに狙いを定めているが引き金をひく事は無い。
糸見「・・・っち!」
小回りの利くバイクに、なかなか追いつけないもどかしさもあるが・・・
鳳「あの青年だけは殺すな。それ以外は構わん。
後の処理は我々がする。
あの青年だけは・・・生け捕りにしろ!」
糸見は鳳という人物から、直接指示を受けていた。バイクの後ろに慎吾が乗っているのが見えるため、簡単には発砲できない。
あんず「・・・ ・・・」
あんずと慎吾は、何故発砲しないのか不思議に思いつつ・・・車が通り抜けできない小道を走り抜けて行く。しばらく走ると追っ手は完全に見えなくなった。
あんず「・・・。こちらは追っ手を振り切ったみたい。
先に教会に行きます」
江浜「了解」
江浜を追う車は最初4台いた。2台を振り切ったものの、残りの2台がしつこく追ってくる。
あんずらの追っ手と違って、こちらは隙あらば・・・
パン!! パーン!!!
閑静な住宅街だろうと容赦なく発砲してきた。
リナ「・・・ ・・・」
ただ江浜の腰にしがみついていたリナだが、防戦一方の状況に業を煮やし始める。
リナ「・・・ ・・・」
そして反撃に出る決意をした。江浜の仕事着であるスーツの背中を、突然思いっきり噛む。
そして腰に回していた両手を外して、歯だけで振り落とされないよう江浜にしがみつく・・・いや、噛みつく。
自由になった両手で、自分のリュックを背中から手前に持ってきた。中身をあさくり、何かを取り出す。
(リナ「・・・ よし・・・」)
リナの両手には直径7cm程度のオレンジ色のボールが、1個ずつ握られていた。
江浜のバイクは追っ手を振り切るため、左右に激しく傾き、加速し、時には急ブレーキから旋回する。
その激しいバイクの後ろでリナは江浜の背中に噛みつきながらも、追ってくる車のブレーキ音や、発砲音に意識を集中した。
(リナ「1,2・・・3・・・・・4・・・・・」)
リナの頭の中では、追ってくるバイクの追跡パターンを高速で解析する。
(リナ「カラーボールは2個・・・ 車は2台。はずせない・・・」)
タイミングを見計らってリナは・・・
(リナ「3 2 1 ・・・ 今!」)
右手のボールを軽く上に投げた。
オレンジボールはわずか1秒ほど上に上がり、直後重力に従って落ち始める。
そしてボールは・・・追っ手の車の1台、そのフロントガラスに直撃した。と同時にボールは破裂し、オレンジ色の液体塗料がフロントガラスの隅々まで埋め尽くす。
突如視界が遮られた車は、急ブレーキと右への急ハンドルの結果・・・
横転。
そのタイヤは空を仰ぎ、むなしく空回りしながら車は横滑りし・・・やがて上下逆さまの状態で止まった。
(リナ「よし! 1台!!」)
リナはもう1個のボールを利き腕の右手に持ち替えると、左手で江浜の腰にしがみつく。
もう1台、しつこく追ってくる車に向け・・・そのオレンジボールを投げつけた。
2個目のオレンジボールも車のフロントガラスに命中・・・しかし、その液体塗料はフロントガラスを埋め尽くすには至らない。運転手側の視界が開けているため、車はまだ追ってきた。
江浜「・・・ ・・・」
江浜はバックミラーで1台の車が横転、もう1台の車のフロントガラスの半分の視界が閉ざされたのを確認する。
急停止から、バイクを180度旋回。そして急発進して、まだ追ってくる車に一直線に向かって走り出した。
リナ「な・・・」
江浜「1台なら、大丈夫!」
助手席の男が窓から顔を出し、銃口を向ける。
江浜「・・・ ・・・」
左手でハンドルを握り、右手を垂直に差しだした江浜。
江浜「唵!!!」
気功によるエネルギー波で、10数m離れた男の銃をはじき飛ばす。
江浜「・・・ ・・・」
バイクは、そのまま車の正面に向かって行った。スピードを落とすことはない。
リナ「ぶ、ぶつか・・・」
江浜「しっかり捕まっていろ」
言うと同時に江浜は右ポケットから、慎吾に渡したものと同じ拳大の石を取り出した。
江浜「唵!!」
かけ声と共に、右手の石を強く握る。
直後、石の前後から・・・
リナ「な!?」
青白い光が棒状に伸び出した。
(リナ「な・・・何!? これも気功?」)
江浜「・・・ ・・・」
江浜のバイクは正面衝突直前に切り返し、車の横をすり抜ける。
と、同時に江浜は青白い光を剣を扱うがごとく操り・・・車の後輪タイヤに突き刺した。
ズッパーン!!
タイヤは大きな破裂音と共にパンク。
江浜「よし!」
そのまま江浜とリナのバイクは、車を置き去りにして走り抜けていった。
・・・ ・・・。
先に待ち合わせ場所の教会に到着したあんずと慎吾。
あんず「うん。わかった!」
ヘルメットにつながるイヤホンを通して、父親と通信しているあんず。
あんず「今、お父さんから連絡あったわ。追っ手を振り切ったって」
慎吾は大きな安堵のため息をついた。
慎吾「は~、よかった。でも、何故・・・
こんなにしつこく追ってくるんだろう・・・?」
突然、あんずの表情が曇り始めた。
あんず「・・・ ・・・」
イヤホンを強く耳にあてる。
あんず「え!? はい・・・ はい、わかりました」
あんずの様子が変わったのを察した慎吾が声をかける。
慎吾「ど、どうかしました?」
一瞬迷ったしぐさを見せたあと、慎吾に口を開く。
あんず「慎吾さんは・・・ しばらく待っていてください」
そう言うとあんずは、すぐにまたヘルメットをかぶりバイクに乗り込んだ。アクセルをふかすと、バイクを急発進。
慎吾「あ・・・」
バイクが走り去っていくのを、ただ見届けているだけの慎吾。
慎吾「な、何か・・・ 何か悪い事が・・・?」
・・・ ・・・。
防衛省の大きな敷地の手前。その小道で江浜とリナのバイクは、立ち往生をしていた。
リナ「ど、どうかしました・・・?」
江浜「・・・・・・まさか・・・ あいつが・・・」
江浜は呆然とした表情で、独り言のようにつぶやく。
小道を真っ直ぐ行くと大通りに出る・・・しかしその手前に・・・
太陽を背にした大柄な男が立っていた。
江浜「・・・ ・・・」
江浜は今回の事件の真の黒幕の正体を知る。
目の前にいる大男ではない。黒幕は・・・大男の背後にいた。
(江浜「なるほど・・・ 黒幕は、あの男・・・」)
江浜の視線は、大男の後ろに立つ霊の姿を捉えている。
リナには見る事が出来ないその霊は・・・こちらを殺気だって凝視していた。
江浜「・・・はぁ、はぁ・・・」
呼吸が乱れ、ゴクリと息をのむ。
リナは江浜の背中の横から、20m程先に立つ大男を確認した。
リナ「・・・ ・・・」
太陽を背にしているため、その風貌はわからないが・・・2m近い体格の男だという事だけはわかる。
ピンときた。
(リナ「おそらく・・・黒幕ってヤツね・・・」)
リナは自分のリュックから、ある物を取り出す。銃の形をしたワイヤー型スタンガンだ。
そのスタンガンを手にするとバイクを降り、男に向かって歩いて行った。
江浜がすぐに声をかける。
江浜「ダメだ!! 君のかなう相手ではない!!」
リナ「・・・ ・・・」
江浜の声は聞こえているが、頭には入ってこない。
リナ「・・・ ・・・」
リナには自信があった。今日の朝は慎吾と江浜を助け、さらに江浜の娘のあんずも助け出した。
防犯グッズのカラーボールにより、さきほどまでの追っ手も撃退している。
銃を持った連中を相手に、全て事を成功に収めてきた。
おそらくあと1人。
(リナ「あの大男さえ倒せば・・・
今回の件に、終止符を打てる・・・」)
そう思っていたリナ。
(リナ「ここまで来たら・・・
私の手で決着をつける・・・」)
江浜「待て! 戻るんだ!!」
江浜の声を無視し前に進んでいく。
リナ「・・・ ・・・」
大男の7m程手前で止まったリナ。そして銃の形をしたワイヤー型スタンガン、その銃口を男に向ける。
リナ「・・・ ・・・」
男が刀の鞘らしき物を握ってるのが確認できた。
リナ「こちらは射程距離5m。
少しでも近づけば確実に撃つ自信はある。
刀ではこの距離・・・どうしようもないっしょ?」
自信満々で声を上げるリナに対し、低い重低音の声が返ってくる。
男「ふふ・・・威勢がいいのは認めるが・・・
戦場では真っ先に死ぬタイプだな」
右手で握った刀を、鞘からゆっくりと抜き出す。
リナ「・・・ ・・・」
予想では銀色に輝いているはずだった刀だが・・・リナの目に映るそれは、やや黒みがかかり、怪しげなオーラを放っていた。
男は全く動かず、勢いよく上から一振りする。
リナ「だからこの距離では・・・」
江浜「危ない!!」
すでにバイクを降りて、リナを追いかけていた江浜。
後ろからリナを両手で抱きしめ、180度リナの向きを変えた。
結果、男に背を向ける事になった江浜が
江浜「ぐぁあああああ!!!」
悲鳴をあげる。
瞬間、大量の血が・・・江浜の背中から鮮やかに噴き出した。
リナ「な・・・?」
(第27話に続く)
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次回予告
大男と江浜の壮絶なバトルが始まった。
リナをかばいつつ、大男の相手をする江浜は次第に押されていく。
絶体絶命の状況・・・その圧倒的な戦闘力にどうする事もできなかった。
そして・・・
次回 「 第27話 霊能バトル 」
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