第25話 パワーストーン
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。さらにリナが中心になり、誘拐された江浜の娘・あんずも救出した。
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第25話 パワーストーン
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慎吾「え!? 水って電気を通すんじゃないんですか!?」
江浜の娘・あんずの救出に成功した一行は、江浜の運転する車で高速道路を走っていた。
リナ「バカね・・・正確には水に含まれている不純物が電気を通すのよ。
ナトリウムは水に溶けるとイオンが発生する電解質。
それが電気を通しやすくするの。高校の化学で習ったでしょ!?」
慎吾「あ・・・ 僕、文系だし、地学しか・・・」
リナ「でも、江浜さんとあんずちゃんの気功・・・?
あれがなかったら、正直ヤバかったわ・・・」
運転手の江浜が口を開く。
江浜「あれは発勁と言ってね。
昔から中国武術で使われる気功技の1つなんだ」
慎吾「娘さんも気功使えるなんてすごいです。
壁の表裏から同時に衝撃を与える・・・
力2倍で壁を破壊するなんて、素晴らしい発想です!」
横にいたリナがため息をついた。
リナ「2倍じゃなくて4倍だけどね。どうせ物理も知らないわよね・・・」
軽く笑った江浜が声をかける。
江浜「とにかくリナ君のおかげで、私も娘も助かった。ありがとう」
リナ「いえ・・・ たいした事は・・・」
そういうリナは少しニヤニヤしていた。
江浜「ほら、あんずも・・・」
助手席に座っている娘の肩をポンと叩く。
脱出直後、銃声を聞いて震えていたあんずだが・・・ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。リナの方を向いて小さな声で
あんず「ありがとう」
と、照れた声を出す。
リナ「どういたしまして! でも、あなた・・・
江浜さんの娘なら、もっと堂々としなきゃね!」
慎吾「ちょっと・・・お父さんの前ですよ・・・」
慎吾がリナの腕を軽くつついた。
江浜「リナ君の言うとおり。まだ修行中の身とはいえ・・・
もっと鍛えなければと思ってる」
慎吾はあんずに笑顔を見せ、声をかける。
慎吾「えっと・・初めまして!
慎吾っていいます。よろしく」
この時慎吾は、初めてあんずと目を合わせた。
あんず「あ・・・はぃ・・・ よろしく・・・」
あんずは恥ずかしそうに目線をそらし・・・小さな返事を返すと、すぐに前を向く。
慎吾「わ・・・」
初めてあんずの顔を直視した慎吾は、一瞬小さな声をあげた。
胸元まで伸びた綺麗な黒髪に大きな瞳、うす紅色の頬と小さな唇。ついつい助手席に座るあんずの黒髪に見とれてしまう。
江浜「娘は、人見知りが激しくてね」
軽く笑う江浜。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は心ここにあらずといった表情を浮かべている。その不審な表情に気づいたリナが声をかけた。
リナ「ちょっとあんた・・・ どうしたの?」
慎吾「あ・・・江浜さんの娘さん・・・可愛い・・・」
小さな声で・・・素直に思っている事を口にする。
リナ「・・・ ・・・」
あきれた表情を浮かべるリナ。
リナ「まぁでも・・・ 確かにね。
女の私でも・・・初めて見た時、一瞬見とれたし。
イケメンの娘イコール美少女。ありうる方程式だわ」
慎吾「リナ先輩・・・」
リナ「 ? 」
慎吾「僕、ああいう可愛いすぎる女の人・・・
どう接していいかわからないんです・・・
どうすればいいんですかね?」
リナ「はぁ!? なにそれ? あたしに失礼じゃない!?
そんなの、私も知らないっつーの!!」
慎吾「ふぁ~・・・」
緊張の場面を脱した安堵感は、あんずの美しさをさらに引き立てる。見とれる慎吾は抜け殻のようになっていた。
リナ「ふん!!」
窓の外の景色に視線を移すリナ。
(リナ「死ねばいいのに・・・」)
そう、心の中で呟いていた。
・・・ ・・・。
しばらく高速を走っていた車は一般道路へ降りる。
リナ「どこへ?」
リナが運転手に声をかけた。
江浜「あぁ・・・行く場所は決まっている」
言いながらハンドルをきる。その表情には、やや緊張した様子がうかがえた。
・・・ ・・・。
30分後、江浜はとある一軒家の車庫に車を止めた。
小さな庭がある古ぼけた民家。江浜は慎吾達に、家の中に入るよう促す。
慎吾「自宅・・・ですか?」
江浜「いや、ここは仕事場みたいな所さ。
風水的に、悪い【気の流れ】はよってこない場所だ。
それに周辺にも結界をはってある。悪い霊がよりつく事もない」
慎吾「へぇ~・・・」
慎吾が関心を寄せる。
リナ「風水ね・・・」
リナは特に興味がないようだ。
家の中に入ると・・・リナと慎吾は、綺麗なリビングに招かれる。
リナ「あの・・・ この後は?」
江浜「あぁ・・・ 今は、お互い自宅に戻るのはマズい。
組織の人間が貼り付いてる可能性がある」
慎吾「確かに・・・」
江浜「私と娘で・・・ 糸見の裏にいる人物を調べてこようと思う」
リナ「ならば私も! 絶対役に立ちます!」
江浜はリナにSTOPのしぐさをする。
江浜「悪いが今回はダメだ。君には非常に感謝しているが・・・
糸見の後ろには、ある危険な霊能者がいる。
霊関係は我々の専門。君は部外者だ」
江浜は毅然と言い放ち、リビングの奥へと姿を消した。
リナ「・・・ ・・・」
リナはへの字口をして、おもしろくない表情を浮かべる。江浜と慎吾に加え、あんずまで救出したのは間違いなくリナのおかげだ。
リナには結果を出したという自負がある。今なら糸見だろうがその裏にいる霊能者だろうが、負ける気はしない。
慎吾「・・・ ・・・」
察した慎吾が声をかける。
慎吾「今は・・・江浜さんに任せましょう・・・」
リナは慎吾を睨み付けた。
リナ「あんたさぁ・・男のくせに何よ!
ただ捕まって、私に助けられて・・・
あんずちゃんの救出でも、あんた・・・
作戦たてただけで、何も動いてないでしょ!」
途中で言いすぎたと思ったリナだが、慎吾への不満は止まらない。
リナ「挙げ句、あんずちゃんに見とれて・・・
もうちょっと男らしくできないの!? 情けないわ!!」
慎吾「・・・ ・・・」
リナの言葉は深く慎吾の心を突き刺す。
慎吾「・・・」
何も言い返せなまま、暗い顔をした。
慎吾「すいません。僕が情けないばかりに・・・」
リナ「全くよ!!」
意地を張り通したリナは、腕組みをしたまま慎吾に背を向ける。
慎吾「・・・ ・・・」
2人の間に、重たい空気が流れた。
・・・ ・・・。
しばらくすると江浜が現れる。黒のレーシングスーツのような物を身にまとっていた。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾の視線に気づいた江浜が声をかける。
江浜「仕事着さ。動きやすくてね」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾の視線は、江浜の後ろから現れたあんずに移った。彼女もまた、父親と同じ仕事着を着ている。体にぴったりまとわりつくその出で立ちは、あんずの美しいボディラインを際だたせていた。
見とれていた慎吾だが、あんずが振り向いた際反射的に顔をそらし顔を赤らめる。
リナ「・・・ ・・・」
その様子を見ていたリナは、さらにへの字口をとがらせた。
親子2人はリュックを背負い襟を整える。
その時だった。
江浜「・・・ ・・」
江浜が何かに反応するように窓の外を見た。
あんず「・・・ ・・・」
あんずもすぐに窓の外を見る。
江浜「・・・ ・・・」
あんず「・・・ ・・・」
親子は緊張の表情を見せた。
慎吾「ど、どうかしました?」
親子の視線の先を見ながら、慎吾が質問する。
江浜「・・・ 囲まれている・・・ 」
そう言うと部屋中のカーテンを閉め始めた。
リナ「え!? 悪霊は入ってこれないんでしょ!?」
あんず「霊じゃなく・・・ 人間に・・・囲まれている・・・」
あんずが小さな声で応える。
リナ「じゃ、じゃぁ・・・
銃を持った連中が、追いかけてきたっての!?」
江浜「この場所は悟られてないはず・・・何故!?」
慎吾「・・・ ・・・」
今日を振り返る慎吾。
(慎吾「確か・・・ あんずさんは手ぶらだったし、僕は・・・」)
はっと何かに気づいた表情をする。
(慎吾「あのレプリカの銅板・・・?」)
スタジオから手にしていた銅板を見返す慎吾。
慎吾「・・・ ・・・」
銅板の真横に小さな穴を発見した。
その小さな穴を覗くと・・・穴の向こうで、赤い小さなランプらしきものが点滅している。
慎吾「ど、銅板に・・・ 多分、追跡装置らしきものが・・・」
真っ先にリナが反応した。
リナ「全く!! あんたどこまでドジなの!?
ホントあんた・・・」
リナの言葉を制し、江浜が割ってはいる。
江浜「言い争う暇はない! 地下に抜け道がある!
銅板は置いて逃げるぞ!」
慎吾「でも、この銅板には埋蔵金のありかが・・・」
リナ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!
もう! 世話がやけるったらありゃしない!!」
携帯を取り出したリナは、銅板の表と裏を素早く携帯写メで撮った。
リナ「ほら!これで満足!? 銅板置いて、すぐ逃げるわよ!」
イライラの絶頂に達しているリナ。それでも銅板の写メを撮ったのは・・・少なからず慎吾の事を思っての行動だった。
ズキューン、ズキューン!!
玄関先から銃声が聞こえた。
江浜「ここだ! 急げ!」
江浜は地下へと通じる階段に皆を誘導する。
(リナ「また・・・ 逃げるの・・・?」)
TV局から逃げ、あんずのいた事務所から逃げ・・・そして今また、逃げようとしている。
リナ「・・・ ・・・」
不満を感じながら、階段を降りるリナ。
慎吾が江浜の横を通り過ぎようとした時だった。
江浜「慎吾君、これを」
江浜は、拳大の丸い石を慎吾に渡す。
慎吾「これは?」
江浜「パワーストーン。だが、説明は後。まずは逃げてから」
4人は地下へと降りていくと、そこはガレージに通じていた。すでに外への扉が開いており、光が差し込んでいる。
江浜「よし。ここに追っ手はいないな・・・」
ガレージ中央、年代物の車が1台あった。リナはそれに乗り込もうとする。
それを見た江浜がすぐに声をかけた。
江浜「それじゃない! ここだ!」
江浜は車の横に置いてある、2台のバイクを指さす。
リナ「バ・・・・バイク?」
江浜「リナ君は私の後ろ、慎吾君はあんずの後ろだ!」
リナ「な・・・?」
江浜「ここは二手に分かれるのがセオリー。さぁ乗って!!」
そう言うと江浜は慎吾とリナにヘルメットを渡した。
江浜は左のバイク、あんずは右のバイクに乗り込む。
言われた通りリナは江浜の後ろに乗り、メットをかぶった。
リナ「・・・ ・・・」
ふと横を見ると・・・申し訳なさそうに、あんずの後ろに乗る慎吾が視界に入る。
あんずの腰におそるおそる手を回す慎吾の表情は、ヘルメットのせいでわからない。
リナ「・・・ ・・・」
モヤモヤした感情を抑えつつ、リナは江浜の腰に手を回す。
江浜「先にいくぞ!」
江浜とリナを乗せたバイクは、ガレージの扉を勢いよく駆け抜けた。
あんず「もう少し強く握ってください」
小さな声であんずが慎吾に声をかける。
慎吾「う、うん・・・」
慎吾はあんずの後ろから腰に手を回し、お腹の方でぎゅっと手を握った。
瞬間、あんずはアクセルを全開で踏み込み・・・父のバイクに追いつかんと急発進する。
パン! パーン!!
直後、数発の銃声が鳴り響いた・・・。
(第26話へ続く)
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次回予告
またしても銃を持った連中から逃げる事になる4人。
リナは持っていた防犯道具で追っ手に応戦。
あんずと慎吾のバイクには、糸見が迫る。
追っ手を振り切ったと思った2つのバイクだが・・・
今回の黒幕である、霊能者が立ちはだかる。
次回 「 第26話 黒 幕 」
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