第23話 想定外
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
リナはTV局に侵入し、慎吾を救出。江浜は自身の娘を助けるべく、行動を別にしようとするが、慎吾とリナもついてくる。
江浜の娘・あんずが監禁された事務所に辿り着いた3人。
慎吾の立てた作戦は・・・ リナをそこへ送り込むことだった。
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第23話 想定外
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リナは事務所の中に堂々と入っていった。右手には、先ほど配達員から受け取ったピザを持っている。
リナ「・・・ ・・・」
中に入ると、目の前には真っ直ぐな廊下。左右に2部屋ずつあるのが見えた。
部屋の配置を記憶しながら、リナは元気な声を出す。
リナ「ちわーっす!! ピザーリです!
マルゲリータ、お持ちしました-!!」
待つこと数秒・・・左奥の部屋から、いかつい黒ずくめの男が出てきた。
(リナ「絶対この暴力団、みんな黒ずくめよね・・・
まぁ、敵がわかりやすくていいけど・・・」)
・・・ ・・・。
リナが事務所の中に入るのを確認した慎吾は、江浜に合図を出す。
慎吾「今です・・・」
江浜「了解」
江浜は神経を集中して、再び娘に声を送る。
(江浜「いいか、あんず。
トイレに行きたいと、見張り役の男に言うんだ。
その部屋を出たら、合図をくれ」)
(あんず「わかった・・」)
深呼吸したあんずは、見張りの男1人に声をかけた。
あんず「あの・・・ おトイレ・・ お願いします・・・」
恥ずかしそうに懇願する。携帯をいじっていた男がめんどくさそうにため息をつき、手錠のカギをポケットから取り出した。
あんず「・・・ ・・・」
・・・ ・・・。
リナ「3000円です!」
男「高くないか?」
リナ「原材料の高騰ってヤツでして。ピザ業界も不況なんですよ!」
男は怪訝な顔でリナを見ながら・・・財布から取り出した3000円をリナに渡す。
男「ところでお前・・・ さっきから気になっていたんだが・・・」
リナ「・・・ ・・・」
ゴクリと唾を飲み込んだリナ。
男「なんでお前、私服なんだ? いつもの制服はどうした?」
リナ「あ、えーっと。日曜日はノー制服DAYなんですよー」
口から出任せを言うリナ。
リナ「仕事をきっちりすれば文句ないでしょ!!」
男「ま、それもそうだな」
ピザを受け取った男は、部屋に戻ろうとした。
リナ「あ、ちょっと!!!」
男は振り返る。
男「なんだ? ドリンクサービスでもあったか?」
リナ「いえ・・・すいませんけど・・・
トイレ、貸してもらえます?」
男は玄関の外に向かって指さした。
男「外出て右に30m歩けば、コンビニがある。そこ行きな」
(リナ「ちょっと・・・トイレぐらい貸しなさいよ!!」)
このままでは、作戦が頓挫してしまう。
リナ「あーん! 漏れちゃいそうなの! お願い! 1分だけ!!」
必死に「らしからぬ」セリフを言った。
(リナ「あとで慎吾・・・ どついてやる!!」)
男は頭をかきながら、
男「っち!」
廊下の奥を親指で指さす。
男「廊下の右奥だ。さっさと済ませて帰れよ」
リナ「は~い!」
リナはさっと廊下の右奥に消えていった。
江浜の情報通り、1階右奥にトイレがある。
(リナ「・・・。ホントにあの親子、会話してた・・・?」)
霊能力に懐疑的だったリナだが、少しずつ・・・全否定から、半信半疑になりつつあった。
リナ「・・・ ・・・」
トイレの扉を開け、中に入ると・・・
(リナ「誰も・・・ いないわね・・・」)
トイレの中が無人である事を確認する。男性用の白長の縦置き便器が3つ。奥に個室が3つ見えた。
リナ「・・・ ・・・」
そしてさらに奥には・・・
(リナ「よかった。あったわ・・・」)
リナはこの作戦に必要な【ある物】を確認し、一番奥の個室に入り込む。カギをかけ、心臓の鼓動をおさえつつ・・・その時を待った。
・・・ ・・・。
糸見「・・・ ・・・」
第5スタジオに到着した糸見は、違和感を覚えた。
入り口に見張りの男がいない。あわてて小道具部屋に走っていく。
部屋の前にいるはずの見張りもいない・・・。
糸見「・・・ な、何が・・・」
小道具部屋に入ると愕然とした。3人の見張り全てが気絶し、横になっている。
糸見「あいつら・・・」
糸見はすぐに携帯電話を取りだし、電話をかけた。
・・・ ・・・。
リナ「・・・ ・・・」
個室の中で待機するリナ。
ガチャッ
トイレの扉を開く音が聞こえた。
(リナ「きた・・・」)
足音が個室へと向かっていき、リナの隣の個室へと入っていく。そして・・・
トントン
リナの個室に【合図】が伝えられた。
あんずはトイレに向かう途中、父から【声】の指示を受けている。指示された通り、奥から2番目の個室へ入り・・・隣の個室へ合図をしたのだ。
(リナ「さて・・・ こっから勝負! 行くわよ!!」)
バタン!!
リナは思い切って個室の扉を開けた。
リナ「!?」
瞬間ギョッとする。隣の個室の前に、黒ずくめの男が立っていて・・・目が合った。
リナ「あ・・・ トイレ借りてます。許可はとってます・・・」
黒ずくめの男はサングラスの奥からリナを凝視する。
男「・・・ ・・・」
言葉を発することはない。
(リナ「ちょっと・・・なんで、男がいるのよ!」)
予定では、見張りはトイレの中までは来ないはずだった。
リナ「・・・ ・・・」
出鼻をくじかれたリナ。とりあえず男の前を通り・・・入り口近くの手洗い場で、水を出す。
(リナ「女性のいる個室の前に立つなんて・・・最低な男ね・・・」)
手を洗いながら、リナは次の一手を考えた。
リナ「ちょっとー・・・!」
見張りの男に声をかけると・・・ 男は無言でリナの方に顔を向ける。
リナ「ちょっと、この手ぇ乾かすヤツ・・・
温風器? 変な音すんだけど?」
男「・・・ ・・・」
男はリナを無視して、個室に視線を戻す。しかしリナも負けない。
リナ「ちょっとあんた・・・
この機械、何とかしてくんない!?
絶対、壊れてるって!」
男はリナの方を向くことなく、完全無視を続けている。
(リナ「・・・ あの野郎・・・」)
バン!! ガコン!!! バンバン!!
突然リナは、温風器を力いっぱいたたき始めた。
リナ「絶対この温風器、おかしいって・・・」
ガシャン! バキッ!!
力任せに温風器を叩くリナを見て、さすがに男も黙っていない。リナの所に近寄ってきた。
男「おい、こら! ここをどこだと思って・・・」
男がリナの肩に手をかけようとした瞬間、リナはそれをかわし・・・すでに電源をONにしてたスタンガンを、男の腹部に容赦無しに押しつけた。
男「ぐ!!? ぐぐ・・・ ぐぐぐ・・・」
男は全身の筋肉が緊張して、大きな声を出せない。しばらくして男は・・・気絶した。
・・・ ・・・。
糸見「江浜の娘は!?」
糸見は大きな声で、事務所にいる男に声をかけた。
男「あー・・・1分ほど前、トイレに行きましたが・・・」
糸見「急いで確保しろ!! 江浜が近くにいるかもしれん!
必要なら、そこにいる連中全てで対応しろ!!」
携帯に向かって、大声で怒鳴る。
男「え? あ! はい! すぐに!!」
携帯を切った糸見は・・・
糸見「絶対、許さん・・・」
すぐに地下駐車場へと向かった。
・・・ ・・・。
カチャリ。
トイレの入り口のドアに鍵をかけたリナ。奥から2番目の個室に向かい、静かにノックした。個室からおそるおそる出てきた女性を見て・・・
リナ「・・・ ・・・」
ハッとする。
胸元まで伸びた黒くサラサラのストレートヘア。大きな黒い瞳に、小さな唇。化粧はしてないのに、自然と美しいオーラがにじみ出ている。
清楚な雰囲気とは対照的に、白いブラウスと赤いスカートは汚れが目立つ。2日間の監禁生活でのつらさが伝わってきた。
固まっていたリナが我に戻る。
(リナ「いけね・・・ 女に見とれるなんて・・・
さすがイケメン江浜氏の娘ね」)
あんずを見つめた後・・・
リナ「私、リナ。ここを脱出するわよ」
目の前の美少女に、手を差し出した。
あんず「は、はい・・・」
あんずはか細い声で、リナの右手を握る。
リナはその小刻みに震える冷たい手を握り・・・ トイレの一番奥に連れて行った。
リナ「さ・・・ この窓から逃げるわよ」
自分の頭より、若干高い位置にある窓を開ける。
リナ「な・・・」
瞬間、リナの目が大きく見開いた。
リナ「て・・・ 鉄格子!?」
視線の先、窓のすぐ外には・・・わずか10cm間隔の鉄格子が縦に並んでいる。両手で鉄格子を握り、前後に力強く動かそうとするがびくともしない。
その時・・・
ガチャガチャ!!
トイレの扉を何者かが、ぶっきらぼうに開けようとしていた。
男「おい、こら!! カギかけやがって!! ここを開けろ!!」
ドアの向こうから大声で叫ぶ男の声が聞こえてくる。
リナ「・・・ や・・・ ヤバい・・・」
あんず「・・・ ・・・」
2人の少女は・・・
トイレの奥で、窮地に立たされた。
(第24話へ続く)
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次回予告
トイレの窓から逃げる作戦は失敗。
そしてトイレの扉の向こうには男が・・・。
絶体絶命の中、リナは銃を持った男らに応戦する。
リナ達のピンチを察した江浜と慎吾。トイレの窓の反対側に駆けつけるが・・・
江浜の気功技を持ってしても、壁を打ち破る事は出来ない。
窮地の中、脱出するために・・・!?
次回 「 第24話 銃 撃 」
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