第22話 作 戦
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TVSへ訪れた2人は【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として番組収録に参加した。
収録後、慎吾は黒ずくめの男等に誘拐される。誘拐を指示したのは、番組プロデューサーの糸見。さらに娘を人質に取られた霊能力者・江浜も糸見側につき、慎吾の前に現れた。
何とか慎吾とコンタクトを取る事に成功したリナは、TV局に侵入し、慎吾を救出。江浜は自身の娘を助けるべく、行動を別にしようとするが・・・
結局、慎吾とリナもついてくる事になった。
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第22話 作 戦
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江浜「・・・ ゴホツ・・・」
後部座席、リナの横に座っている慎吾。咳払いをした運転手の江浜に・・・
慎吾「江浜さん、1つ聞いていいですか?」
声をかけた。
江浜「何かな?」
慎吾「江浜さんの・・・
あの、かけ声と共に手から何かを流すみたいなヤツ・・・
あれって【霊能力】の1つですか?」
江浜は軽く笑う。
江浜「ふっ。あれは気功だよ、霊能力なんかじゃぁない。
修行をすれば、誰だってある程度は扱えるようになる」
慎吾「気功・・・? って事は江浜さん・・・修行したって事ですよね?」
江浜「もちろん。私の家系は代々・・・
悪霊などのトラブルから人を救う仕事をしている。
仕事を遂行するには、心・技・体・・・全て必要だ。
修行も仕事の一環さ」
慎吾「代々この仕事を?」
江浜「あぁ。世間は我々の事を、霊媒師だとか陰陽師などと呼んだりする。
今はスピリチュアル・カウンセラーだがね。
時代によって呼び方は様々・・・」
リナ「・・・ ・・・」
リナも江浜の話を聞いてはいるが・・・【霊】の存在や【霊能力】とやらには、否定的な見解を持っていた。
もっとも・・・
すぐにそれを認める事が起きるのだが・・・。
江浜「強靱な肉体に強靱な魂は宿る。私も若い頃はかなり鍛えたもんさ」
慎吾「では・・・直接僕の頭に話しかけてきたのは・・・?
あれも気功の一種・・・?」
江浜は軽く首を横に振った。
江浜「いや。あれは私の魂で語りかけたんだ。
そうだな・・・君らのいう幽体離脱に近い形かな。
【霊能力】という言い方はあまり好きではないが・・・
まぁ、そんなところだ」
慎吾「魂・・・ですか・・・」
江浜「・・・ ・・・」
ふと、江浜は慎吾を見つめた。
江浜「君は霊の姿を見たり、声を聞くことが出来るだろ?」
慎吾「え? あ・・・はい・・・」
見抜かれている。
慎吾「さすがです・・・ね・・・」
江浜「あぁ、こういう仕事してるからね。
能力のある人間はすぐにわかるものさ。
だから君は・・・私の声を、すんなり聞き取る事が出来たんだ」
慎吾「・・・ そうでしたか・・・。すいません。
頭の中が処理しきれないほど・・・
内容が多すぎて・・・」
江浜「そうだな・・・時間がある時にまた色々教えてあげよう」
そう言うと江浜は車を路肩につける。
慎吾「着いたんですか・・・?」
江浜「あぁ・・・」
車の右手・・・江浜は道路の向こう側にある建物を見つめた。
リナはパソコンをいじりながら確認する。
リナ「間違いない・・・ あの建物です。
江浜さんが見た・・・電話番号の発信源は」
3人の視線の先には・・・
2階建ての事務所があった。外からは全く様子がわからない。
リナ「どうやって娘さんを・・・」
江浜は人差し指を一本たてて、リナの前にさしだした。
リナ「 ? 」
静かにという合図である。すると江浜は建物を睨み付け、集中力を高める。
江浜「この程度の距離なら・・・ 娘と直接会話できるんだ」
(慎吾「さっきの・・・ 魂で語るってヤツ・・・?」)
江浜は目を閉じ、集中力をさらに高めた。
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾とリナはそれを静かに見守る。
(江浜「あんず・・・ 聞こえるか?」)
・・・ ・・・。
江浜あんず。
スピリチュアル・カウンセラー江浜の娘は、事務所の2階にいた。
右手を手錠につながれ、手錠の反対側は部屋の隅を縦に通る水道管につながれている。
2日前。
帰宅途中、とある男に誘拐されたあんず。
あんず「・・・ ・・・」
食事や睡眠は与えられたものの、精神疲労による衰弱の色は隠せない。
部屋の中にいる見張りは2人。1人は携帯をいじり、もう1人は小さなTVを見ながら笑っている。
(「あんず・・・ 聞こえるか?」)
ふとあんずは脳に直接語りかける声をキャッチした。男2人を一瞥した後、静かに目を閉じ集中する。
(あんず「お父さん・・・」)
誘拐から2日・・・あんずは見張りに気づかれぬよう、会話を始めた。
(江浜「居場所は突き止めた。今、事務所の外だ。道路の反対側にいる。
お前が2階にいるのはわかるが・・・
くわしい状況を教えてくれ」)
(あんず「2階の奥の部屋。男2人が見張ってる・・・」)
江浜「娘は2階の奥。見張り役は2人」
江浜は、慎吾とリナに情報を伝える。
慎吾「1階には何人いるか聞いてください」
(江浜「1階にいる人間の数はわかるか?」)
(あんず「わからない・・・でも3人以上はいると思う。
時々、声が聞こえるの」)
江浜「1階には3人以上で、くわしい数はわからないそうだ」
慎吾「ここ最近の状況で、気づいた事を聞いてください」
積極的に江浜に声をかける慎吾。リナが横から口を出す。
リナ「ちょっとあんた・・・何であんたが仕切ってんのよ?」
慎吾は真剣な表情で応えた。
慎吾「誘拐された人物を連れ戻すケースは基本3つ。
1つは身代金。
もう1つは、相手側の要求する別の人質との交換とか。
いわゆる、人質に替わるものとの取引です」
リナ「今回の場合、それはありえないわね・・・」
慎吾「だとすると3つめ。中に侵入して助ける・・・です」
リナ「・・・ 簡単に出来るとは思えないわ・・・」
慎吾「強行突破は・・・武器に乏しいので却下。
だとしたら・・・
電気技師とかを装って、中に侵入ってのが妥当です・・・」
リナは怪訝な顔をして慎吾に聞く。
リナ「なんで、あんたそういうの知ってるの?」
慎吾「アガサクリスティとか、イアン・フレミングとかが好きで・・・」
リナ「アガサクリスティは聞いた事あるけど・・・
誰? イアン何とかって?」
慎吾「007の作者ですよ。世界一、有名なスパイ小説の」
リナ「・・・ ・・・」
若干、リナの表情が曇った。
慎吾「それに、吾郎先生・・・高校の時の担任が色々教えてくれて・・・
数学の先生ですが、そういうのくわしいんです」
リナ「・・・ あんたが数学できない理由・・・
わかった気がするわ・・・」
リナのあきれ顔をよそに、慎吾は真剣に江浜を通じて中の情報を探ろうとする。
慎吾「トイレや食事など、どうするかも聞いてください」
江浜は慎吾の指示通り・・・娘から中の情報を聞き出していった。
・・・ ・・・。
江浜「状況はこうだ。
娘は事務所の2階奥の部屋にいて、手錠でつながれている。
部屋の見張りは2人。
1階にの人数は定かではないが、3人以上はいる」
運転席の江浜は、2人に説明を始めた。
リナ「・・・ ・・・」
半信半疑のリナ。
江浜「トイレに行くときは、手錠をはずし・・・見張りと1階のトイレへ。
食事は基本出前だそうだ。
20分ほど前にデリバリーピザを頼んでいる」
慎吾「なるほど・・・トイレの場所は?」
江浜「・・・ 1階の玄関から見ると、右奥だそうだ」
慎吾「わかりました・・・」
慎吾は軽くため息をついて目を閉じ・・・車の天井に顔を向け、何かを考える。
(慎吾「吾郎先生なら・・・? ジェームズボンドなら・・・?」)
かっと慎吾は目を見開いた。
慎吾「作戦があります・・・」
・・・ ・・・。
午後1時過ぎ。
楽屋のソファーで横になっていた糸見が目を覚ました。
時間を確認しながら、小さなあくびをする。
(糸見「少しばかり、寝過ぎたか・・・」)
糸見は携帯電話を手にし、第5スタジオの見張りの男に電話をかけた。
トゥルルル・・・ トゥルルル・・・ トゥルルル・・・
糸見「 ? 」
第5スタジオの小道具部屋では・・・
江浜にのされた見張り役の男3人が、気を失ったままだ。
糸見「・・・ ・・・」
誰も携帯を取らない事を不審に思い、すぐに楽屋を後にして第5スタジオへ向かった。
・・・ ・・・。
リナ「・・・ ・・・」
江浜の娘あんずが監禁されている事務所の前を歩いていたのは・・・リナ。慎吾のたてた作戦を実行するためだ。
慎吾「顔、われてないの・・・リナ先輩だけですから・・・」
男2人が裏方に回るのは、解せないものがあるが・・・
(リナ「確かに私が動く方が・・・
江浜氏の娘を助ける確率は高くなる」)
自分が先陣を切る事には納得していた。
リナ「ふん・・・ 上等よ!」
ただ1つ・・・。この作戦に不安な点がある。
(リナ「本当に・・・ 江浜氏は、娘と会話したのかしら・・・」)
江浜が娘と会話した事に対しては、懐疑的だった。
リナ「・・・ ・・・」
でも今はそれを信じて動くしか道はないと判断し・・・ 事務所の前で立ち止まる。
しばらくするとデリバリーピザの配達員がバイクでやってきた。
バイクは事務所の手前の道路で止まり、どう見てもバイトであろう若い男がピザを取り出そうとする。
慎吾「来ましたね・・・」
江浜「あぁ・・・」
2人は、事務所の横にあるビルの物陰に隠れていた。
慎吾「リナ先輩・・・ 頼みます・・・」
ピザをバイクの後ろから降ろした配達員にリナは声をかける。
リナ「ちょっとー。ピザ遅いじゃない!」
さえない顔をした配達員の男は、いきなり声をかけられ、驚いた表情を見せた。
配達員「え!? あ、あぁ・・・ すいません・・・。
で、でも・・・ 時間通りですよ・・・?」
弱気に応える配達員を見て、リナは強気になる。
リナ「世の中タイムイズマネー! 代金、いくらだっけ?」
配達員「えっと・・2630円です」
リナ「はい、3000円! おつり370円!早く!!
タイムイズマネー!!」
配達員はリナの迫力におされて、あわてておつりを取り出した。
リナ「はい、お疲れ! 次はもう少し早く配達してね!!」
配達員の背中を力強く叩くと・・・そのまま男は、リナから逃げるように去っていく。
リナ「・・・ ふん。まずは1つクリア・・・」
ピザを手にしたリナ。事務所の方へ向きを変えると・・・入り口へ向けてて歩いて行った。
リナ「・・・ ・・・」
銃を持っているであろう男が数人いる事務所に近づくにつれ、心臓の動悸が明らかに早くなっていく。
ここに来て少し後悔の念を抱き始めたが・・・
(リナ「えぇい! 迷いは禁物! 絶対助けてやる!!」)
リナは事務所の玄関に手をそえた。深く深呼吸をして・・・
リナ「・・・ ・・・」
扉を開き、事務所の中へ入っていく。
その頃・・・
糸見は第5スタジオの扉のドアに手をかけていた。
(第23話へ続く)
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次回予告
ピザ配達員を装って、事務所の中に侵入したリナ。
監禁されていたあんずと合流する事に成功する。
その頃糸見は、第5スタジオに入り、江浜と慎吾が脱出した事を知った。
慌てて、あんずを監禁してる事務所に連絡する。
そしてリナとあんずは・・・窮地に立たされた。
次回 「 第23話 想定外 」
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