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徳川埋蔵金の謎  作者: 伊吹 由
第1章  慎吾とリナ
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第1話  出会い

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 慎吾のスピリチュアル事件簿 First season


      「徳川埋蔵金の謎」 


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     第1話  出会い  


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2012年 4月2日・・・。


箱根大学では大きな体育館の中、盛大な入学式を執り行っていた。

その入学式に参列してる新大学生の中に・・・慎吾はいる。


身長は162cmと小柄。髪の毛はクセっ毛があり、沖縄出身にしては線が細い。童顔のため、大人びたスーツ姿は、正直着こなしているとはいえなかった。


つい先月、沖縄のとある高校を卒業。大学受験で見事一発合格を勝ち取り、第一志望であった箱根大学史学部に進学。


慎吾「・・・ ・・・」


大学学長の長ったらしい話・・・周りがあくびを連発する中、慎吾は目を輝かせて耳を傾けている。


初めての大学生活。初めての一人暮らし。初めての箱根の土地。


慎吾にとって、見るもの聞くもの感じるもの・・・その1つ1つが期待で胸一杯になるものだった。例えそれが・・・ほとんどの生徒が聞き流している学長の講話であっても。



・・・ ・・・。


長い入学式が終わった後、新入生を待っているのは学部ごとのオリエンテーション。真面目な慎吾は大学生活における注意事項や、授業登録の案内について担当者の話に真剣に耳を傾ける。


配布された資料にしっかりと目を通し、時にはボールペンで資料のいたる所にチェックを入れていた。


大学の授業は「専門科目」と「共通教育科目」の2つに分けられる。

「専門科目」は慎吾の属している史学部の学生だけが受講する授業の事であり、「日本古代史A」「江戸文学」といった授業がある。


「共通教育科目」は、学部学科をとわず全ての学生を対象にした授業の事であり、専門科目と違い他学部の生徒と一緒に授業を受ける事になる。「心理学入門」や「論理学入門」他、100科目近い授業が用意されている。


資料を見ると授業内容や担当教官の案内があり、慎吾はこれからどの授業を選択しようかとワクワク感いっぱいで悩んでいた。


箱根大学の授業登録は、ネット登録方式。箱根大学に限らず、最近の大学での授業登録はネットを介して行う事が多い。


自宅にパソコンを持たない慎吾は、大学のコンピュータ室で授業登録を済ませていた。実際に授業が始まるのは数日後。


(慎吾「早く・・・授業を受けたい!」)


この気持ちは日々膨らんでいった。



・・・ ・・・。


2012年4月11日(水)。


待ちに待った大学の授業初日。この日最初の授業は、共通教育科目である「マス・メディア」である。


初めて大学で受ける授業に緊張している慎吾。引っ込み思案な性格ゆえ、目立たぬよう広い教室の一番後ろの左側の席に座った。3人が座れる横長の机の一番左端に座り、教室内を見渡す。


慎吾「・・・ ・・・」


高校の時よりもさらに大きな教室。大きな黒板。多くの生徒。高校と違って、みな私服であるというのも違和感を覚える。


何よりも大学にはいろんな人がいる。


一番前の席には・・・インドネシアからの留学生が座っている。どう見ても30を過ぎたおじさんにしか見えない生徒もいた。綺麗に化粧をした女子大生が多いのも不思議な光景である。


リュックを背負ったまま授業を受けようとするオタクっぽい男子学生もいれば、上下ジャージ姿で授業を受けようとする女子学生もいた。


かと思えば派手な洋服,アクセサリーに身を包んだ女子学生もいる。


一番後ろの右側の席・・・慎吾の反対側の右端の席には2mは越えているであろう大きな男子学生もいた。きっとバスケの選手か何かに違いないと慎吾は思う。


慎吾「・・・ ・・・」


大学の教室で見る光景1つ1つが、慎吾に新鮮な感覚を与えた。


しばらくすると、白髪交じりのメガネをかけた賢そうな男が現れ、教壇に立つ。年齢は50歳前後といったところか。この「マス・メディア」の講師である経済学部の教授だ。


教授はメガネをかけ直し、学生を一瞥したあと口を開いた。


教授「えー・・・みなさん、初めまして。単位を落として2回目の人もいるかな。

    ははは。この授業では、日本のマスメディアにおける・・・」


真面目な慎吾は、真新しいノートに教授の言う事をいちいちメモっている。3人がけの左側に座っていたが、残り2つは空席である。


授業が始まって5分。慎吾の1つ飛ばした右側の席に、遅れて着席する学生がいた。


赤いメガネで大きなポニーテール。慎吾はちらっとその女性を見た後、特に気にする事もなくまた教授の話に耳を傾けた。


教授「じゃ、講義日程を書いたプリントを配りますので・・・」


慎吾は前の席の生徒から渡されたプリントを、赤いメガネの女性に渡した。女性は慎吾と目を合わせる事無く、無言で受け取る。


プリントを渡す際、初めて正面から女性の顔を見た。とても目立つ赤いメガネに、大きなポニーテール。少しばかり目つきが鋭く、目鼻立ちははっきりとした端整な顔立ち。慎吾の辞書にある言葉で言えば【美人】である。


女性は右手で頬杖をついたまま、ただ眠たそうに教授の話を聞いている。


慎吾「・・・ ・・・」


少しばかり女性を気にしつつも、慎吾は再び教授の話に集中した。


大学の授業は高校と違って長く、100分単位で授業が行われる。慎吾は長い時間にも集中を切らさず、教授が板書する内容をしっかりノートにとっていた。


何気に慎吾が右側を見ると・・・赤いメガネの女性はノートもとらず、ずっと右手で頬杖をついたまま。時々小さいあくびをしていた。


ふと教授が生徒に向けて講義に関する課題について言い出した。


教授「って事で・・この授業を受講している生徒諸君には最初の課題を与えたいと思う」


一瞬教室の中がどよめく。


教授「例えば雑誌社とか、例えばTV局とか、例えば新聞社とか・・・

    日本のマスコミが関係している場所へ足を運び・・・


    仕事内容について取材し、それをレポートとしてまとめてくる事!」


言い終わらないうちに、生徒から「え~」という重苦しい声が聞こえた。


教授「ははは。まぁ取材といったら、何かしら気が引けるだろうから・・・

    見学で構わない。職場見学レポートな。小学生の頃、やったろ?


    もちろん自分達で、その職場の見学依頼もする事。それも課題の1つだぞ」


慎吾は初めての大学からの課題について、一生懸命ノートにメモをとる。


教授「最初の課題の締め切りは5月いっぱいだ。

    そうだな・・・ゴールデンウィークなどを利用するといい。


    400字詰めの原稿用紙5枚以上という事で!」


教室の中がさらにどよめいた。


「え~・・・」


「原稿用紙5枚も~」


「めんどくせ-」


教室のいたる所から「イヤだな」「めんどくさいな」といった声が聞こえてくる。


教授「はっはっは。新入生にとっては最初の大学レポートかな。頑張るように!

    何か質問は?」


教授の目の前にいた男子学生が挙手した。


教授「はい、君」


指さされた生徒は、座ったまま声をかける。


生徒「その取材は、個人でなくグループでも構いませんか?」


教授「あぁ、構わない。1人でも5人でも、同じ場所に取材や見学をしてOK!

    ただしレポートは、各人の言葉でしっかりと書き上げる事だ」


生徒「わかりました。」


教授「他に質問は?」


今度は教室の真ん中あたりに座っていた女子学生が手を挙げた。


教授「じゃぁ、真ん中の君!」


生徒「具体的にどんな内容を書けばいいのでしょう?」


教授「それも自分で考える事」


生徒「あ、じゃぁ・・・。

    例えば去年のこの授業のレポートではどんな事書かれていたか・・・


    よろしければ聞きたいのですが」


教授「はっはっは。君、頭いいね~。そうだな、去年のレポートだと・・・

    マスコミの仕事に就くきっかけをまとめた生徒もいたし・・・


    この仕事のつらい事や、やりがいを感じる事を聞いてまとめた生徒もいた」


質問した生徒はうんうんと頷いている。


教授「日本のマスコミにおける批判的内容をレポートした生徒もいたな~。

    参考になったかな?」


生徒「は、はい! ありがとうございます!」


教授が教室の生徒を再度見渡す。


教授「他に質問は?」


慎吾は手をあげようか迷っていた。どうしても教授に聞きたい事があったのだ。


慎吾「・・・ ・・・」


引っ込み思案な性格だが、この日大学での初授業というワクワク感が小さな勇気を与えた。


慎吾「は・・・はい!」


思い切って手を挙げる慎吾。


教授「お?じゃぁ、一番後の席の君!」


そして、教授に指名された。


慎吾「あ・・・えっと。原稿用紙5枚以上と言ってましたが・・・」


教授「ああ。まさか3枚でもいいかとか言わないよな? だとしたら答えはノーだ」


慎吾「いえ、その・・・ 例えば原稿用紙30枚とかでもいいですか?」


この日一番のどよめきが教室内を埋め尽くした。教授は意表をつかれたようで、一瞬目を丸くする。次の瞬間笑いながら教授は応えた。


教授「はっはっは! もちろんさ! 何なら50枚でも100枚でもいいぞ!」


教室内のどよめきは耳に入ってない慎吾。教授の言葉に目を輝かせる。


慎吾「あ!50枚でもいいんですね! ありがとうございます!」


依然ザワザワしている教室の声は耳に入らない慎吾は、笑顔でノートにメモしていた。


【レポートは50枚でもOK】


女性「あんたさぁ・・・」


ふと慎吾の右側から声が聞こえる。慎吾はニコニコ顔のままで右を見ると、赤いメガネの女性がを眉をひそめ、右手に頬杖をついたまま慎吾を睨んでいた。


慎吾「・・・ ・・・」


鋭い視線を受け取った慎吾は、顔をこわばらせる。


慎吾「あ・・・何・・・か?」


赤いメガネの女性は睨み付けたまま口を開く。


女性「あんたさぁ・・・」


女性は慎吾を見て何か言いたげな表情を浮かべたが・・・口から出ようとした言葉を、大きなため息が阻止する。


女性「はぁ~・・・ いや、いい」


女性は吐き捨てるように慎吾に短く言い放ち、また黒板の方を向いて2度目の大きなため息をついた。そして小さな声でボソッとつぶやいた。


女性「死ねばいいのに」



(慎吾「え!?」)



慎吾には確かにそう聞こえた。


(慎吾「し・・・死ねばいいのに?  ぼ、僕が?」)


何故、彼女がそんな言葉をボソッと言ったのか全く理解できない。



「理由はわからないけど、何かすごいひどい事をしたらしい」と自分を責める慎吾は、見えない罪悪感に襲われた。


女性のつぶやきの後、講義が終わるまで・・・赤いメガネの女性を一切見ることができない。


慎吾「・・・ ・・・」


慎吾にとって、大学で初めての授業は・・・3時間ぐらいに感じられる長いものとなった。



この時、慎吾はまだ知ることはなかった。


この赤いメガネの女性と・・・


徳川埋蔵金の謎に挑戦する事になろうとは・・・・。





                 (第2話へ続く)

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次回予告


「死ねばいいのに・・・」


この言葉が頭から離れない慎吾。パソコン室で作業をしようと、席に座ろうとした瞬間・・・


隣に座っていた赤いメガネの女性と目が合ってしまう。

そして・・・



次回 「 第2話  笑 顔 」

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