第18話 銅板の裏
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録後、慎吾は黒ずくめの男等に拉致された。
一方、番組収録を終えたプロデューサーの糸見は、慎吾の前に現れる。さらに江浜も慎吾の前に現れ・・・埋蔵金の情報を吐かせるため、慎吾に拷問を開始した。
江浜は糸見に娘を誘拐され、仕方なく協力しているのだが・・・
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第18話 銅板の裏
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糸見「ふ~・・・」
楽屋に戻ってきた糸見。慎吾のリュックを逆さまにし、中身を全てテーブルの上にぶちまけた。
糸見「・・・ ・・・」
何かしらの情報を得ようと、持ち物全てに目を通す。
ふと慎吾の携帯がヴーン、ヴーン・・・となり始めた。
着信【リナ先輩】
糸見「あいつの彼女か・・・」
糸見は着信を切った。
その携帯をチェックすると、ここ1ヶ月のメールや着信履歴は・・・全てこの【リナ先輩】だった。
糸見「・・・ ・・・」
注意深くそのメールの内容をチェックする。
糸見「なるほど・・・2人でここに来たのか・・・」
またしても慎吾の携帯が鳴る。着信は相変わらず【リナ先輩】だ。
糸見「・・・ ・・・」
再度着信を切り、メールをうつ。
【体調が悪かったので先に帰ります。心配しないで】
そのまま【リナ先輩】に送信した。
(糸見「ふん。これで・・・」)
ヴーン、ヴーン・・・
しばらくすると今度は、糸見自身の携帯が鳴る。
着信【鳳】
慌てて糸見は電話に出た。
糸見「あ! 巧さん!! 糸見です!!」
電話の向こうからは、重低音の声が聞こえてくる。
糸見「はい、はい。えぇ・・・はい。
明日にはあの青年から情報を得てるはずです。
任せてください! 巧さんに必ずいい情報を伝えます!」
焦りながら喋る糸見。
糸見「えぇ!? え・・・あ・・・あいつにですか?」
突然、大声を出した。
糸見「あいつに・・・ 銅板を!?
わ、わかりました。やってみます・・・
はい、急ぎます。今すぐ!」
そう言うと電話を切る。
糸見「・・・ ・・・」
しばし迷った表情を見せたが、思い立ったように楽屋の奥へと歩き出す。
そしてクローゼットの奥にある金庫を取り出した。
糸見「・・・ ・・・」
おもむろに金庫を開けると、あの銅板を取り出す。
糸見「・・・ ・・・」
しばらくじっと銅板を見つめた。
(糸見「これを・・・あいつに・・・?」)
溜息をついた糸見は、銅板を元に戻す。金庫を閉めると、楽屋の中をウロウロ歩き回り、再び悩み始めた。
(糸見「・・・ ・・・ 本物は、渡せない・・・」)
自分のデスクに置いてあった・・・番組用のレプリカを手に取ると、再び慎吾のいる第5スタジオへと向かった。
・・・ ・・・。
リナ「・・・ ったくもう・・・」
リナは、TV局の外で慎吾の携帯に電話をかけていた。
おそらく・・・江浜と黒ずくめの男3人に、慎吾は拉致された。そう思ったリナは、メールではなく電話で直接慎吾の声を聞こうと試みていたのだが・・・
慎吾にかけた携帯の呼び出しは、途中で切れる。
(リナ「留守電にならないって事は・・・
途中で切ったわね・・・」)
慎吾でない誰かが・・・慎吾の携帯を操作しているだろうと推測するリナ。
(リナ「でも・・・」)
どうする事もできない。
その後何度か電話をかけるも、全て途中で切られてしまう。
ふとリナの携帯にメールが届いた。
【受信 歴ヲタ】
リナ「・・・ ・・・」
あわててメールをチェックする。
【受信 歴ヲタ】
【タイトル なし】
【内容 体調が悪かったので先に帰ります。心配しないで】
メールを受け取ったリナだが・・・
(リナ「状況は・・・ ヤバい感じね・・・」)
慎吾の携帯を使い、誰かが偽りのメールを送信している。あるいは、慎吾に無理矢理そう送るよう、何者かが指示した。
(リナ「間違い・・・なさそうね・・・」)
推測から確信に変わる。
慎吾は黒ずくめの男達に囲まれる直前・・・確かにリナに言った。
慎吾「僕からのメールは、必ず最初に【イケメン】と書きますから!」
それ以外のメールは絶対返さないでください! いいですね!!」
リナ「・・・ ・・・」
しばらく携帯を見ていたリナだが・・・ どうする事も出来ない。
リナ「・・・。まったくあいつ・・・何があったーつーの?
どうすれば・・・?」
1時間ほどTV局周辺をうろうろしていたリナだが・・・。
後ろ髪ひかれながらも、自宅のマンションに戻る事にした。
万が一にも・・・あのメールの通り、慎吾が体調悪く、先に帰っていることを期待して・・・。
・・・ ・・・。
糸見は再度第5スタジオを訪れる。入り口には1人、黒ずくめの男がいた。彼に視線を合わせる事無く、無造作に奥の小道具部屋へ向かう。
小道具部屋のドアを開けた瞬間、中にいた黒ずくめの男が反射的に銃を抜こうとするそぶりを見せた。
それを片手で制止し、部屋の中へと入って行く。
糸見「ふん。まだ進展はないようだな・・・」
慎吾の前に座る江浜に声をかけた。
江浜「あれからまだ20分だ・・・ リミットはまだ先」
糸見「わかってるさ。しばらくお前は出ていろ」
江浜「・・・ ・・・」
慎吾の事を気にしながらも、言われた通り小道具部屋の外へ出る。
糸見「さて・・・」
汗びっしょりになってる慎吾の前に立つと、糸見は慎吾の目の前に銅板を静かに置いた。
糸見「見ろ」
慎吾は衰弱した様子で・・・ゆっくりと銅板に目を向けた。
慎吾「・・・ ・・・」
そこには、対称的な直線で描かれた図形と「宣言、新将軍ノ元、光明」と文字が書かれていた。
糸見「意味がわかるか?」
慎吾「・・・ ・・・」
無言でそれを見つめている慎吾。
(慎吾「リ、リナ先輩が見たという・・・銅板の裏・・・」)
糸見「これを見て、わかった事を素直にいえ!」
体の疲労はひどいものの、頭は回る。頭の中で感じた事を整理して口を開いた。
慎吾「・・・。おそらく・・・。
左の図形は、籠の目を表しているかもしれない・・・」
思った事を素直に言った。
糸見「籠の目?」
慎吾「・・・ ・・・」
糸見「続けろ」
慎吾「右の文字は・・・新将軍・・・。
15代将軍の慶喜は・・・わずか1年で城を明け渡しているから・・
埋蔵金を隠したとするなら・・・
16代将軍になるべき人物の元・・・という意味かも」
糸見「それぐらいは、誰でも解析できる。もっとないのか!?」
慎吾はじっと銅板を見つめる。
慎吾「・・・。開城後、将軍家から公爵家へとなった徳川家。
その16代当主・家達の、幼ない頃の名は亀之助・・・」
ゆっくりと語り始めた。
慎吾「明治2年。新政府により、6歳にして江戸を追われ・・・
駿河府中へ移住する事になった。当時6際だった家達・・・
すなわち亀之助。駕籠の中から、駿河の光景を見て・・・
はしゃいだという逸話がある・・・」
その視線は、銅板の裏から離れる事は無い。
糸見「・・・」
慎吾「埋蔵金のありかを示したと言われる【かごめかごめ】の歌。
その歌詞にある【亀】は、亀之助を暗示している可能性も。
左の図形が、何らかの【かご】を示していると考えれば・・・
【かごの中の鳥】が・・・あるのかも・・・」
糸見「鳥!? 鳥とは!?」
慎吾「・・・。すぐにはわからない。でも・・・何か見えそうだ・・・」
何のかけひきもなく、慎吾は銅板を見て思った事を素直に言った。
慎吾「間違いなく・・・これは埋蔵金のありかを示している・・・
ような気がする。もう少し・・・
もう少し時間があれば・・・」
糸見「・・・ ・・・」
慎吾が記憶だけで、徳川家にまつわる歴史的事実を述べた事や・・・嘘をついたり、フェイクを装っているようにも見えない事から、糸見は慎吾の言葉を信じるに至ると感じ始めた。
(糸見「やっぱりこいつ・・・
巧さんの言う通り、埋蔵金に関わる情報を持っている・・・?」)
だが、慎吾は埋蔵金のありかを今のところ知らない・・・。
糸見「・・・ ・・・」
結論に至らない事がイライラの原因だが、慎吾に時間を与える余地はあると判断した。
糸見「ふん。いいだろう・・・。しばらくお前に時間をやる。
何かわかったら、そこの黒服の男に言え」
糸見は黒服の男に「何かわかったらすぐ連絡しろ」と伝えて、小道具部屋を出た。
江浜「・・・ ・・・」
部屋の外で壁に背をもたれ、腕組みをしている江浜。出てきた糸見を見て、声をかける。
江浜「私はもう必要無いのかな?」
糸見が江浜を睨み付けた。
糸見「今、彼に埋蔵金のありかを示す銅板を解析させている。
明日朝まで様子を見て、何も出なかったらお前が情報を引き出せ」
江浜「・・・ ・・・」
無言で頷く江浜。スタジオを出ようとした糸見に再度声をかけた。
江浜「1つ、いいかな?」
かったるそうに振り返る糸見。
糸見「手短にな」
江浜「・・・。娘の声を聞かせろ。
まだ生きているという保証が欲しい」
糸見「安心しろ。それは保証する」
江浜「信用できない。声を聞けないなら、私がここにいる理由がない」
江浜は強気な姿勢を崩さなかった。
糸見「・・・ ・・・」
糸見にとって江浜は、慎吾から情報を取り出す最終手段である。ここで江浜が離脱するのはまずい。糸見は頭をかきだした。
糸見「わかった。1度だけだぞ!」
そう言うと糸見は携帯を取り出し、どこかにかける。つながった電話の向こうの誰かと2,3の会話をした後、江浜に携帯を渡した。
糸見「お前の娘だ」
江浜はゆっくりと携帯を受け取り、電話口に出る。そして・・・
江浜「あんず・・・」
娘の名を呼んだ。
あんず「お父さん!? お父さん!!」
電話の向こうから、娘の声が聞こえてきた。
江浜「あんず! よく聞け! 必ず助けるから! それまでの我慢だ!」
あんず「う、うん・・・何とか・・・大丈夫だから・・・私・・・」
電話の向こう・・・今にも泣き出しそうな、か細い声が聞こえてくる。
江浜「とにかく今は・・・」
会話の途中で、糸見が電話を取り上げる。
糸見「そこまでだ」
そう言うと電話を切った。
糸見「明日の5時までに、俺から連絡がない場合・・・
女を殺せと命じている・・・」
その言葉に反応した江浜は、殺気のこもった視線を糸見に送る。
糸見「娘の命が惜しいなら、部屋の中のあいつを殺してでも情報を得るんだ。
それだけだ。さぁ、部屋に戻れ。
あいつと一緒に謎解きをするもよし。
すぐにヤツの体に侵入して、情報を引き出すもよしだ」
今一度江浜を睨み付けた糸見は、スタジオを後にした。
江浜「・・・」
この先の事を悩みながら・・・江浜は小道具部屋へと戻っていった。
・・・ ・・・。
自宅のマンションへ戻ってきたリナ。
同じマンションに住む慎吾・・・マンションの出入り口にある彼の郵便受けに、夕刊が見えた。真面目な慎吾は朝刊も夕刊も欠かさず毎日熟読している。
(リナ「この時間なら・・・ とっくに新聞は取っているハズ・・・」)
夕刊がまだ郵便受けにあるという事実を受け止め、リナがため息をついた。
リナ「・・・。何か・・・手はないかしら・・・」
夜、お風呂に入りながらリナは今までの事を整理する。
① 慎吾は、江浜と黒ずくめの男に拉致されたらしい。
② 男は銃を持っていた可能性がある。
③ 慎吾の携帯はONになっていたが、電話には出ない。
④ 何者か・・・おそらく拉致した誰かが、嘘のメールを自分に送ってきた。
どうにかして慎吾とコンタクトをとらなければ・・・
(リナ「嫌な予感が・・・する・・・」)
リナは一つ危険な案を浮かべた。もし相手が本物の銃を扱う連中であれば・・・実行するには大きな危険を伴う。慎吾どころか、ヘタしたら自分自身にも危険がおよぶかもしれない。
かといって、慎吾を見捨てる事などできない・・それはリナ自身がよくわかっていた。
その夜、リナは悩みながら眠りにつく。
・・・ ・・・。
翌朝。
あまり眠れなかったリナ。
リナ「・・・ ・・・」
マンションの1階、入り口。慎吾の郵便受けには昨夜の夕刊、その上に今朝の朝刊が入っているのを確認した。
(リナ「イチか、バチかね・・・」)
リナは意を決して、慎吾の携帯アドレスに【ある内容】のメールを送った。慎吾を拉致した人間がメールを見ることを前提として。
(リナ「これで・・・あいつから、メールが返ってこなかったら・・・」)
最悪、死んでるかもしれない。
(リナ「その可能性も・・・ 否定できない・・・」)
そう思うと不安でどうしようもなかった。
(リナ「頼むわよ・・・来てよ! 慎吾!!」)
リナはじっと自分の携帯の前で祈り続ける。
20分後・・・
メールが返ってきた。
【受信 歴ヲタ】
【タイトル イケメンには会えました?】
(リナ「き、きた!! 慎吾からだ!!」)
リナは慎吾が生きている事を確信し、安堵のため息をつく。
メール内容をよんだリナは
(リナ「第5スタジオ・・・」)
慎吾が監禁されている場所を突き止めた。
リナ「・・・ ・・・」
じっと携帯を見つめながら・・・ これからの事を考える。
リナ「・・・ ・・・」
そして慎吾の救出作戦を・・・わずか5分で計画した。
(第19話へ続く)
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次回予告
銅板の裏を見つめる慎吾は・・・確実に埋蔵金に近づいていた。
リナは慎吾からのメールを受け取り、監禁場所を特定。
慎吾を救出に単独でTV局に乗り込むことを決意する。
次回 「 第19話 コンタクト 」
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