第17話 江浜の苦悩
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録後、突然慎吾がリナに暴言を吐き・・・直後、黒ずくめの男等に慎吾は拉致された。
一方、番組収録を終えたプロデューサーの糸見は、慎吾の前に現れる。さらに江浜も慎吾の前に現れ・・・埋蔵金の情報を吐かせるため、慎吾に拷問を開始した。
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第17話 江浜の苦悩
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慎吾「うわぁあああああ!!!」
大きな悲鳴が、小さな部屋に鳴り響いた。
- 90分前 -
収録を終えた後・・・慎吾とリナの2人は、松浦の楽屋のある6階でエレベーターを降りる。
降りた瞬間だった・・・。
(江浜「慎吾君、私の声が聞こえるはずだ」)
慎吾「え?」
突然慎吾が右手でコメカミを押さえた。
リナ「何?」
周りに変わった様子はない。
(江浜「今から2分後、君は拉致される。
すでに局内で君は包囲された状態にある。
もう1度言う。君達に危険が迫っている!」)
慎吾「な・・・?」
(江浜「逃げようとすれば、間違いなく2人とも捕まる。
今すぐ、連れの女性だけでも逃がすんだ! 今すぐ!
でなければ彼女の命に関わる事になる!」)
慎吾「・・・・」
慎吾の頭の中に、直接語りかける【声】。
(慎吾「こ、これは・・・? 霊の声・・・?」)
リナ「ちょっとあんた・・・大丈夫? 気分悪くなるならせめて・・・
【山嵐】メンバー、全員のサインもらってからにしてよ!!」
様子のおかしい慎吾の肩に手をおいてゆするリナ。
(慎吾「このままだと・・・リナ先輩が危険・・・?」)
突然慎吾は、真剣な目でリナを見た。
リナ「な・・・ 何よ?」
慎吾「リナ先輩! 好きな言葉は!?」
唐突に慎吾はリナに変な質問をぶつける。
リナ「は!?」
慎吾「急いで! 好きな言葉ありますか!?」
リナ「う~ん・・・【イケメン】かな」
慎吾のは迫力に押され、正直に応えた。
慎吾「わかりました! いいですか、よく聞くいてください!」
ものすごく焦った表情で喋る慎吾に、どう対応していいかわからないリナ。
慎吾「僕からのメールは、必ず最初に【イケメン】と書きますから!」
リナ「は? 何言ってんの、あんた?」
慎吾「それ以外のメールは絶対返さないでください! いいですね!!」
リナ「言ってる意味がわらかないっつーの!!!」
慎吾の不自然な行動にイライラし始める。
突然・・・
慎吾が不愉快そうな表情を浮かべ、信じられない事を口にする。
慎吾「黙ってましたけど僕・・・
リナ先輩の自己中にウンザリしてたんです!」
リナ「!?」
慎吾の言葉が頭に入ってくるのに、しばしの時間を要した。
リナ「は~!? あんた何言ったの? マジ言ってんの!?」
思いっきり眉毛をつり上げたリナが、大声で返す。
慎吾「もちろんですよ。僕が嘘ついた事ありますか?」
慎吾は挑戦的な態度をとる。
リナ「あんた、言ってる事がしっちゃかめっちゃかよ!」
慎吾の言葉と態度に、リナの怒りの度合いが加速する。
慎吾「ホントは、松浦さんの楽屋も3階なんですよ。
6階まで来て騙されましたね!」
赤メガネの向こうの瞳が大きく見開いた。
プチッ。
そして何かが切れた。
瞬間、慎吾の顔面にリナからの右ストレートが炸裂していた。
もんどりうって、フロアに倒れる慎吾。
その慎吾に背を向けてエレベーターに向かうリナ。
イライラしながら、エレベーターの「↓」ボタンを連打する。
リナ「ちょっと優しくしたら・・・全く、だから男ってヤツは・・・」
ようやく開いたエレベーター。
リナ「おっと・・・」
イライラしながら乗り込もうとするが、エレベーターの中から降りる人物がいた。
黒いスーツ、黒いズボン、黒いサングラス・・・黒ずくめの男が3名、降りてくる。
怒り心頭のリナは男らをかわし、すぐにエレベーターに乗ろうとした。
一人の男とすれ違った瞬間・・・
リナ「・・・ ・・・」
男のスーツが一瞬めくれた際、【それ】がリナの視界に入る。
ズボンとメタボなお腹の間にある・・・
拳銃を。
(リナ「まさか・・・ドラマか何かの小道具よね?」)
そう言い聞かせ、エレベーターの中に入り【3】を押す。
ふと自分が来た道に目を見やると・・・
倒れている慎吾を、黒ずくめの男3人が囲っていた。
リナ「え・・・?」
不穏な空気を感じたリナ。閉まろうとしたエレベーターの扉を手で止め、事態を見つめる。
無様に床に倒れた慎吾は、右頬を抑えながら・・・
慎吾「・・・ ・・・」
3人の男に囲まれている事を確認した。目の前に一人、後ろに2人・・・3人とも慎吾を凝視している。
慎吾「・・・ ・・・」
背後の男を確認するふりをして、チラッとエレベーターの方を見た。
リナはエレベーターに乗っているものの、その扉は開いたままこちらを見ている。
(慎吾「ま、まずい・・・」)
正面に目をやると、さらに一人の男が向こう側の廊下から現れた。
スピリチュアル・カウンセラーの江浜である。
こちらも黒ずくめ。慎吾は4人の黒ずくめの男に囲まれた事になる。
(江浜「今から君を連れ去る。だが君の安全は保証する」)
慎吾「う・・・」
慎吾はコメカミを抑える。 頭の中、直接彼の声が入ってくる。
(江浜「まずはエレベーターにいる君の連れを逃がす。
無理してでも立つんだ!」)
慎吾「ぐ・・・」
慎吾は小さな悲鳴を上げながらゆっくりと立ち上がった。
リナのパンチで軽い脳しんとうを起こしているため、足下がおぼつかない。
エレベーターにいるリナの視界が江浜をとらえた。
(リナ「な・・・ 江浜氏!? 何が・・・?」)
江浜を含めた黒ずくめの男4人に囲まれた慎吾が、無理に立ち上がろうとしている。それを見ていたリナはただならぬ事態と感じ、エレベーターを降りようとした。
その時・・・
江浜「・・・ ・・・」
数m離れた慎吾に向け、江浜は右の手のひらを垂直に向ける。
江浜「唵!」
大きなかけ声と共に、その手のひらを数10cm押し出した。
慎吾「!?」
瞬間、慎吾の右肩に激痛がはしり、そのまま後ろに吹っ飛ばされる。
江浜、慎吾の直線上・・・エレベーターを出ようとしたリナにも、目に見えない風圧が襲いかかった。
リナ「きゃ!」
風圧に押され、エレベーターの中で尻餅をつく。
そのままエレベーターの扉が閉まり、下へと移動を始めた。
リナ「ちょ・・・ ちょっと待って・・・」
すぐにエレベーターの【開】ボタンを連打するが、その要求を受け入れられる事はない。
エレベーターは3階→1階まで降りた後、各階で停止しながら6階まで上っていく。
再度6階に降り立ったリナだが・・・
慎吾の姿はおろか、黒ずくめの男達、江浜の姿もそこにはなかった。
・・・ ・・・。
慎吾は第5スタジオの小道具部屋に連れて行かれ、そこで糸見に「お前の知ってる事を話せ」と銃で脅される。
「何も知らない」態度を貫く慎吾を見て、糸見は江浜を呼び寄せた。
糸見「慎吾君。今から彼が・・・君の中に入る。
そして、必要な情報を取り出してもらおうってわけだ」
そう言うと糸見は席を立ち、入れ替わるように江浜を座らせる。
江浜「・・・ ・・・」
背中を糸見につつかれた江浜。慎吾の目を見つめ、彼の両肩に手を置いた。
(江浜「私の声が聞こえてるな?
【Yes】なら、瞬きを一度だけしろ!」)
慎吾は一度、瞬きをした。
(江浜「今から君を痛めつけるフリをする。
だが中途半端な演技では、目の肥えた糸見に通用しない。
少しだが痛みを感じてもらう・・・いいな?」)
慎吾は深呼吸をして・・・今一度、瞬きする。
江浜「覚悟はいいな?」
江浜は目を閉じ、精神を統一した。
糸見「・・・ ・・・」
その後ろで、糸見が腕組みをして見守っている。
江浜「・・・ ・・・」
カッと目を大きく見開くと・・・
江浜「唵!!」
大きなかけ声をかけた。
瞬間・・・ 肩に置かれた江浜の手を通じ、慎吾の中に何かが侵入する。
そして・・・
慎吾「うわぁあああああ!!!」
大きな悲鳴が、小さな部屋に鳴り響いた。
慎吾の両肩に置かれた江浜の両手。そこから何か熱いものが侵入してくる感覚に襲われる。
江浜「・・・ ・・・」
慎吾「ぐぅぅぅうう・・・」
覚悟してた以上の苦痛が、体中かけめぐった。
江浜「・・・ ・・・」
10秒ほどして、江浜は手を離す。瞬間、慎吾が大きく深呼吸をした。
慎吾「は-・・はー・・・」
目を閉じ、苦しそうにうつむく慎吾。
糸見「・・・ ・・・」
後ろで腕組みをしていた糸見が、江浜に声をかける。
糸見「どうだ?」
江浜は慎吾を見つめながら応えた。
江浜「まだわからない」
糸見「そうか。ならもう一度だ」
江浜は糸見の方を振り返る。
江浜「少し間を開けた方がいい。彼の命に関わる」
その言葉を聞いた糸見は、かるく鼻息を吐いてみせた。
糸見「あぁ、そうか。じゃあ気にせずにやれ」
糸見は江浜の言う事は耳に入っていないかのように、慎吾の方をアゴでさす。
江浜「・・・ ・・・」
慎吾の両肩に・・・江浜は再度、自分の両手を添えた。慎吾を見つめ・・・
江浜「覚悟はいいか?」
慎吾は瞬きを一つだけする。
江浜「唵!!」
慎吾「うわぁあああああ!!!」
小さな部屋に・・再び、慎吾の悲鳴が鳴り響いた。
・・・ ・・・。
慎吾が小道具部屋に閉じ込められ、1時間が過ぎた。
何度となく、江浜の拷問のような攻撃に耐えている慎吾。
慎吾「・・・ ・・・」
汗びっしょりで、かなり衰弱している。
江浜は糸見を見て
江浜「これ以上はダメだ。間違いなく死ぬ」
と、強く言った。
糸見「・・・ ・・・」
親指の爪を噛み、少しばかりイライラした表情を見せる糸見。
糸見「出ろ」
江浜に部屋の外へ出るよう指示した。
部屋の外で糸見は・・・江浜の胸ぐらを掴み、凄味をきかせる。
糸見「どういう事だ?」
胸ぐらを捕まれた江浜は、無表情のまま応えた。
江浜「どういう事だ・・・とは?」
糸見「お前が除霊をする時・・・
いつも30分足らずで、悪霊を追い払ってきただろう?
すでに1時間。
もうヤツから情報を得てもいいはずだ!!」
相変わらず江浜は、無表情のまま応える。
江浜「あの子は、何かに取り憑かれているわけではない。むしろ正常。
その状態で彼の体に入り込むには、大きな危険を伴う。
除霊と違って時間がかかるのは当然だ」
糸見「・・・ちっ。 じゃぁどれぐらいかかる?」
糸見はさらに強い力で、江浜の胸ぐらをつかんだ。
江浜「さぁ。3日もあれば・・・」
糸見「ふざけるな!! そんなに待てるか!!
お前、自分の立場わかってるのか!?
娘の命がかかってるんだぞ!!」
江浜「・・・ ・・・」
急に江浜の表情が曇り始める。
江浜「あぁ・・・わかっている」
糸見は江浜の前に人差し指を立てた。
糸見「1日だ。1日だけやる。明日の午後5時がリミットだ。
これを過ぎて、何も進展がない時は・・・わかってるな?」
そういうと江浜を放り出すように投げ飛ばす。
糸見「言っておくが・・・逃げようなんて思うなよ。
お前らを見張ってるのは、ここにいる3人だけじゃない。
この局内・・・いたるところで、組織の連中が見張っている。
逃げたようとしたら・・・容赦はしない!」
江浜「・・・ ・・・」
しばらく糸見を睨んでいた江浜。静かに口を開いた。
江浜「わかった。明日の5時までに・・・」
糸見「リミットを過ぎた場合・・・
次の【ホラーの湖】のサブタイトルは・・・
【実の娘の亡骸を探せ!】となる!
その事を忘れるな!!」
大声で怒鳴った糸見は、そのままスタジオを出て行った。
江浜「・・・ コホッ・・・」
それを確認した江浜。1つ咳をした後・・・左手の拳を額にあて、かなり困った表情を浮かべる。
江浜「・・・ ・・・」
そして・・・
慎吾のいる小道具部屋に戻っていった。
(第18話へ続く)
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次回予告
楽屋に戻った糸見は一本の電話を受ける。この事件の鍵を握る男からだった。
男の指示で糸見は慎吾に銅板の裏を見せ、情報を得ようとする。
埋蔵金のありかを示す銅板。表と裏に書かれた内容を読み取れば埋蔵金のありかは示される・・・。
一方、自宅に戻ったリナ。同じマンションに住む慎吾が、戻ってない事を確認。
危険を感じつつも・・・イチかバチか、慎吾とコンタクトを取ろうとした。
次回 「 第18話 銅板の裏 」
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