第16話 撃鉄(げきてつ)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録後、突然慎吾がリナに暴言を吐き・・・直後、黒ずくめの男等に慎吾は拉致された。
一方、番組収録を終えたプロデューサーの糸見は、息子である小太郎と埋蔵金発掘の打ち合わせを行う。その後・・・糸見は、慎吾の前に現れた。
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第16話 撃鉄
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小太郎「ふ~・・・」
TVSを出る車の中で、小太郎はタバコをふかしていた。埋蔵金発掘のクルーらと、大きめのバンの後部座席に座っている。
小太郎「・・・ ・・・」
タバコを片手に、窓の外を眺めた。
小太郎「・・・ ・・・」
糸見小太郎 = Itomi Kotarou
このローマ字を並び替えれば・・・
時任マリオ = Tokitou Mario
自らの芸名になる。
(小太郎「・・・ くだらん芸名だ・・・」)
ふと、車内の時計を見た。
小太郎「・・・ ・・・」
短くなったタバコを、再びふかす。
(小太郎「・・・ そろそろか・・・」)
そして窓の外に、火の点いたままのタバコを投げ捨てた。
・・・ ・・・。
第5スタジオ・小道具部屋。
糸見「さて・・・ 何から話せばいいのやら・・・」
まだ意識が朦朧としている慎吾・・・黙って糸見の目を見ている。
糸見はイスの横に置かれてあったリュックを拾い上げ、チャックを開くと・・・中身をごそごそとあさり始めた。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は、自分のリュックの中身を無造作に取り出される様を静かに見守っている。
やがて糸見は財布を手にして、その中をチェックし始めた。
糸見「ふむ・・・慎吾・・・か・・・
箱根大学、1年生・・・ 18歳・・・」
慎吾の学生証を見ながら、独り言のようにつぶやく。しばらく慎吾のリュックをチェックしてた糸見は、静かにそれを置き・・・慎吾に視線を合わせた。
糸見「さて慎吾君。何故、今・・・
君がここにいるか、わかるかな?」
慎吾「・・・ ・・・」
無言で小さく首を横に振る慎吾。
糸見「ふ・・・」
糸見は満面の笑みを浮かべる。そして静かに後ろに手を回し、腰の辺りからある物を取り出した。
慎吾「!?」
それを見てぎょっとする慎吾。
(慎吾「け・・・拳銃!?」)
糸見の右手には・・・銃が握られている。
糸見「・・・ ・・・」
そして無言で、銃口を慎吾の顔面に向けた。
慎吾は目を閉じ、歯を食いしばる。何とか銃口の照準から逃げようとするが・・・イスに縛られた状態では、顔を背ける事しか出来ない。
糸見「ここは小道具部屋だ。本物かどうか試してみるか?」
糸見は静かに撃鉄をひいた。
ガチャリ。
重苦しい音が、薄暗い小さな部屋に響き渡る。
慎吾「・・・ ・・・」
かつて・・・慎吾はこの撃鉄の音を聞いた事がある。
(慎吾「おもちゃなんかじゃない・・・ 本物だ・・・」)
歯を食いしばったまま、恐怖と戦う事しかできなかった。
銃口を向けられ、5秒ほど過ぎた後・・・
ヴーン ヴーン ヴーン・・・
何かの振動音が部屋に鳴り響く。
糸見は銃口を慎吾からそらし、その音源を探り出そうとした。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾はチラリと目を開け、銃を向けられていない事を確認すると少しほっとする。
しばらくして、糸見はリュックの中から携帯電話を取りだした。
バイブモードになっている状態で、着信は【リナ先輩】となっている。
糸見はその着信を慎吾に見せた。
糸見「彼女か?」
慎吾は無言で首を横にふる。
糸見「ふん。まぁ、こいつはどうでもいい・・・」
そう言うと糸見は【切】ボタンを押し、リナの着信を遮断した。
糸見「さて・・・」
銃口を再び慎吾に向け・・・
そして今度は、慎吾の右膝に垂直に銃口を向ける。
糸見「君は知らないだろう・・・
この角度で引き金をひくとだね・・・」
言いながら糸見は、慎吾の顔を下から覗き込んだ。
糸見「一生、君の右足は使えなくなるんだ」
慎吾「・・・ ・・・」
ゴクリと唾を飲む音が、糸見にもはっきり聞こえる。
糸見「・・・ ・・・」
糸見は無表情で慎吾を見つめ続けた。
慎吾「・・・ ・・・」
糸見「何故、君がここに連れて来られたか・・・言ってみろ」
糸見は銃口を慎吾の右膝に押し当て、慎吾の目からけして視線をそらさない。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は糸見から顔を背け、歯を食いしばるだけだった。
しばらくその表情を見ていた糸見は・・・
ガチャリ。
銃の撃鉄を戻す。
糸見「ふん。どうやら君は・・・
本当に何も知らないようだな・・・」
そう言うと糸見は、銃のトリガー部分に人差し指を奥までさし、銃をブラブラさせた。
糸見「ふ~・・・」
小さなため息をついた後、背後の腰の辺りに銃をしまう。そして慎吾を見つめ、口を開いた。
糸見「私が、徳川埋蔵金を追ってるのは知ってるな?」
慎吾「・・・ ・・・」
無言で縦に首をふる。
糸見「ある人物から・・・
君が埋蔵金の情報を持っていると聞いてね。
だから君に来てもらった・・・んだがな」
慎吾「ぼ・・・僕が?」
ふと慎吾は前日に見た書き込みを思い出した。
【スタジオには埋蔵金のありかを知ってる人がくるんだってよ!】
(慎吾「まさか、あの書き込みは・・・ 僕・・・?」)
糸見「今日の番組収録にお前が現れる。
だから収録後に、お前を捕まえろ・・・そう指示されてな。
こうして、君をここに連れてきたというわけだが・・・」
腕組みをし、糸見は少し悩んだ表情を見せる。
糸見「君は何も知らない・・・ どうしたものか・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
勇気を出して、慎吾は聞いてみた。
慎吾「だ・・・誰・・・ なんですか? その・・・
指示したって人は・・・?」
糸見「・・・ ・・・」
慎吾を睨み付ける糸見。
糸見「君は質問できる立場ではない。
まぁ、その男は・・・君が直接会うことはないだろう」
慎吾「・・・ ・・・」
糸見は数10秒、慎吾を見つめ・・・静かに口を開いた。
糸見「彼の言う事は・・・過去、全て正しかった。
最近では、埋蔵金のありかを示した・・・
あの銅板のありかも言い当てている」
(慎吾「ど、銅板のありかを・・・言い当てた?」)
糸見「すごい霊能力者さ。まぁ、霊能力とやらを・・・
信じる信じないは自由だがな」
(慎吾「れ・・・ 霊能力者・・・ まさか、江浜さん?」)
糸見「その彼が・・・
埋蔵金について、君が何かのを情報を持っている・・・
そう言ったんだ」
(慎吾「ぼ、僕が・・・? 埋蔵金の情報を・・・?」)
糸見「潜在意識か、あるいは君に憑いている・・・
何かが、情報を持ってるのか・・・」
一瞬、慎吾の顔に緊張がはしる。
糸見「まぁ、こんな時のため・・・
あいつを用意しているんだがな」
糸見は、後ろに立っている黒ずくめの男に合図を出した。
男は一度部屋を出た後、すぐに戻ってくる・・・スピリチュアル・カウンセラーの江浜を連れて。
慎吾「・・・ ・・・」
江浜「・・・ ・・・」
2人の男は、視線を合わせる。
(慎吾「誘拐を指示したという人は・・・
僕に会う事はないと言っていた・・・
指示した人は、江浜さんじゃない。
それじゃぁ、誰が・・・?」)
糸見「この男は知ってるかな?」
江浜「彼とは会ったことすらない」
江浜が即答した。2日前、慎吾と直接会話を交わしたにも関わらず、慎吾との接触を否定した。
糸見「お前には聞いてない。彼に聞いてるんだ」
慎吾を指さした糸見は、江浜を睨み付ける。そして無表情のまま慎吾に視線を移した。
糸見「で? 知っているのかな? この男を・・・」
慎吾は無言で1度だけ深く頷く。
慎吾「て、テレビで・・・ 見た事が・・・」
糸見「ふむ。まぁ、数字を持ってる番組だしな・・・
じゃぁよく知ってるだろう? 彼の霊能力を」
慎吾は無表情のまま。
糸見「知っての通り・・・
彼は悪霊に取り憑かれた人を、過去何度も救っている。
その救う方法とやらが、いくつかあるんだが・・・」
視線を江浜に合わせる。
糸見「憑かれた人の中から、悪霊を追い払う。
その方法が、私は一番好きなんだ」
慎吾「・・・ ・・・」
彼の言う次の言葉が、慎吾には予想できた。
糸見「慎吾君。今から彼が・・・君の中に入る。
そして、必要な情報を取り出してもらおうってわけだ」
そう言うと糸見は席を立ち、入れ替わるように江浜を座らせる。
江浜「・・・ ・・・」
背中を糸見につつかれた江浜。慎吾の目を見つめ、彼の両肩に手を置いた。
**「*********** **・・・」
慎吾は一度、瞬きをした。
**「*************** **・・・」
慎吾は深呼吸をして・・・今一度、瞬きする。
江浜「覚悟はいいな?」
江浜は目を閉じ、精神を統一した。
糸見「・・・ ・・・」
その後ろで、糸見が腕組みをして見守っている。
江浜「・・・ ・・・」
カッと目を大きく見開くと・・・
江浜「唵!!」
大きなかけ声をかけた。
瞬間・・・ 肩に置かれた江浜の手を通じ、慎吾の中に何かが侵入する。
そして・・・
慎吾「うわぁあああああ!!!」
大きな悲鳴が、小さな部屋に鳴り響いた。
(第17話へ続く)
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次回予告
慎吾から情報を得ようと、江浜に拷問を指示する糸見。
江浜の拷問に耐え続ける慎吾。
そして・・・江浜が糸見に手を貸す理由が明らかになる。
次回 「 第17話 江浜の苦悩 」
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