第15話 時任マリオ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録後、突然慎吾がリナに暴言を吐き・・・直後、黒ずくめの男等に慎吾は包囲された。さらに江浜も現れ、慎吾に攻撃。そして慎吾は、連中に拉致された。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第15話 時任マリオ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾が拉致される20分前。
TVS特番【徳川埋蔵金の謎を追え!】収録直後・・・
番組の出演者でありプロデューサーでもある糸見は、出演者らと握手を交わしている。徳川埋蔵金存在否定派の教授陣にも、笑顔で握手を求めた。
糸見「十日後の収録も・・・ お願いします・・・」
1週間以内に徳川埋蔵金を確実に発掘する・・・糸見の笑顔は、その自信の表れでもある。ただ一人だけ糸見の握手を拒否した男がいた。
スピリチュアル・カウンセラー江浜・・・
握手を求めた糸見に対し、江浜はポケットの中に手を入れたまま。
江浜「・・・ ・・・」
鋭い視線で糸見を睨みつけ、その手を外に出すことはない。
「わかったよ」という表情を見せ手を引っ込める糸見。そして小さな声で江浜に声をかけた。
糸見「まだ、大丈夫さ。後はお前次第・・・」
不適な笑みを浮かべた糸見は【山嵐】のメンバーに握手を求めるため、その場を離れる。
江浜「・・・ ゴホッ・・・」
1つ咳をした江浜は・・・とある場所へと向かった。
糸見「・・・ ・・・」
その江浜をチラリと見つめる糸見。
糸見「・・・ ふっ・・・」
今回新たに発見した銅板。それに加え、糸見には・・・
埋蔵金を発見するための、もう1つの切り札があった。
・・・ ・・・。
出演者と一通り握手を終えた糸見は、自分の楽屋に戻って来る。
ガチャッ
楽屋のドアを開けると・・・中に一人の男がいた。
白ずくめの大男・・・ お笑い芸人、そして銅版発見者である時任マリオである。
マリオの顔を確認した糸見は、右手を差しだし握手を求めた。
彼は迷わずその右手を力強く握りしめる。
マリオ「あれでよかった?」
糸見「あぁもちろん! すばらしい演出だった!
あの【一週間!】は、まるで映画のワンシーン。最高さ!」
握手を解いた2人。マリオは小さな椅子に、糸見は大きなソファーに座った。
糸見「今日は完璧。
とうとう、埋蔵金を見つける時が来たな・・・」
マリオ「あぁ。でもあの銅版の解読は?」
糸見「任せろ。専門家に頼んである。もうすぐ結果が出るはずだ。
それに・・・もう一人強力な助っ人がいる」
マリオ「助っ人?」
糸見「あぁ・・・いずれお前にも会わせる。
何も知らなさそうな青年だがな。
ある霊能者が言ってたよ・・・
彼は埋蔵金のありかをよく知る人物だ・・・ってね」
マリオ「・・・ ・・・」
マリオは2~3度、頷くしぐさを見せる。
ある霊能者が誰かと聞くことはない。マリオ自身、よく知っているからだ。
マリオ「そうか・・・ ありかを知ってる男なんだね。
でも彼が、埋蔵金について情報を口にするのかな?」
糸見は拳を握る。
糸見「青年については任せろ。そこは心配しなくていい。
銅版の解析結果によらず、喋らせる手はずは整えている。
どんな事があっても、必ず埋蔵金は手にするさ」
その言葉を聞いたマリオは小さく笑った。
マリオ「わかった。じゃぁ俺は、発掘に専念する・・・」
糸見「あぁ。お前の宣言通り1週間以内に埋蔵金は見つかる!
そして10日後の収録では・・・
否定派連中の鼻をあかす事になる!」
嬉しそうに語る糸見に対し、マリオは無表情になる。
マリオ「あぁ・・・ 楽しみだね」
感情のこもらない返事を返した。マリオの素っ気ない表情を【本当に見つかるのか】という不安だと解釈した糸見。笑いながら彼の肩を叩く。
糸見「安心しろ! 絶対見つかるから! 心配は一切無用!
次の収録のサブタイトルはこうさ・・・
【徳川埋蔵金! 親子2代で、ついに発見!!】」
そう。この2人は・・・
マリオ「タイトルは好きにするといい。父さんの長年の夢だったしね」
親子である。
糸見「何言ってる!? 元々埋蔵金発掘の企画は、お前だっただろう?」
マリオ「まぁ・・・ そうだけど・・・」
糸見「お笑い芸人になると聞いた時は、正直驚いたが・・・
1週間後には、誰もが知っている歴史の謎を解く事になる。
お前は芸能界で一躍名が知れ渡るどころか・・・
歴史に名を刻む事になるんだ!!」
マリオ「あんまり興味がないけどね・・・埋蔵金以外は」
糸見「何だと~? うだつの上がらない芸人は・・・
親として、認めるわけにはいかないぞ!」
そういう糸見は笑顔であった。もはや埋蔵金は、我が手中といった感じである。
マリオ「ま・・・俺は発掘に専念する。それだけさ」
糸見「あぁ。私の年齢では、体力的に現場は無理だからな。頼むぞ」
マリオ「わかった。じゃぁ早速俺は行くかな・・・
まずは源治郎の井戸だ。
何かわかったらすぐに携帯に連絡して。
こちらも何か見つけたら連絡する」
糸見「もちろん! 私は解析と、例の青年からの情報を確認する」
マリオは席を立ち、楽屋の出口へ向かった。
マリオ「・・・ ・・・」
出口の前で立ち止まり、ふと父親に視線をやる。
マリオ「父さんは・・・ 埋蔵金を見つけた後は、どうするの?」
糸見は笑いながら応える。
糸見「まずは、次の収録に全てをかける。ゴールデンで40は取るぞ!
その後は・・・本でも書くさ。タイトルはもう決まってるんだ。
【ある事はわかっていた】
どうだ? コピーライターらしいタイトルだろ?」
マリオは小さく笑って頷いた。
マリオ「そうだね・・・。じゃあ、お互いの仕事を・・・」
そう言うとマリオは父に背を向けドアノブを回す。
糸見「あぁ、またな。小太郎」
マリオ「・・・ ・・・」
ドアを開けた手を一瞬止めるマリオ。そして父に背を向けたまま口を開く。
マリオ「父さん・・・。
TV局では、名前で呼ぶの・・・ヤメてくれよ」
そう言うと、マリオは楽屋を後にした。
糸見「・・・ ・・・」
閉まるドアを見て、糸見は目を細めている。
糸見「ふ・・・ お前は、いつまでも俺にとっちゃ息子さ・・・
小太郎・・・」
芸名【時任マリオ】、本名【糸見小太郎】。
彼が楽屋を出てわずか3分後・・・。
黒ずくめの男が、周りを警戒した様子で、糸見の楽屋に入ってきた。
ソファーでタバコをふかす糸見の横に立ち
男「確保しました。第5スタジオ・小道具部屋です」
そう告げる。
糸見「・・・ ・・・」
男の方に視線を移すことはない糸見。正面の鏡を見つめたまま「ふ~」と煙を吐き出した。
糸見「わかった。5分後に行く」
黒ずくめの男は一礼をし、また警戒しながら楽屋を出て行った。
糸見「・・・ ・・・」
しばらくタバコを吹かしていた糸見。やがて、タバコを灰皿に押しつけ・・・
糸見「よし!」
と立ち上がる。その表情は目がギラギラし、これから獲物を真剣に狩りに行くといった表情である。
楽屋を出て向かった所は・・・
・・・ ・・・。
第5スタジオ。
さりげなく周りを警戒しながら、糸見はドアを開け中に入った。
30m四方の広いスタジオだ。
中に入ると・・・ドアの側に、先ほどの黒ずくめの男が立っている。
男は無言で、スタジオの右奥にある小さめの部屋を指さした。
頷いた糸見は、そこへ歩を進める。部屋の前にはさらに2人の男がいた。
黒ずくめの男、そしてスピリチュアル・カウンセラーの江浜である。
江浜「・・・ ・・・」
糸見「・・・ ・・・」
視線は合わせど、言葉を交わすことはなかった。糸見は2人を一瞥した後、部屋の中に入っていく。
江浜「・・・ コホッ・・・」
1つ咳をした江浜。糸見が部屋に入るのを、ただ睨み付けるだけだった。
第5スタジオ・小道具部屋。
部屋は6畳程度の薄暗い小さな部屋。四方には棚があり、ドラマやバラエティで使う小道具がたくさん並べられている。
部屋に入ると、さらにもう一人黒ずくめの男が立っていた。
そして部屋の真ん中に、イスに縛られた一人の青年がいる。
黒ずくめの男は、糸見に小さな声で語った。
男「ちょうど今、目覚めたところです」
糸見は小さく頷き、部屋の横にあったパイプイスをその青年の前に置く。そして静かに青年と向き合うように座った。
糸見「・・・ ・・・」
目の前にいる具合の悪そうな青年をしばらく見つめた後、口を開いた。
糸見「やぁ・・・ お目覚めかい?」
青年が目の前の男を確認する。
「あ・・・ あなたは・・・」
(第16話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
糸見は椅子に縛られた慎吾に銃口を向けた。
糸見「「ここは小道具部屋だ。本物かどうか試してみるか?」
銃口から目を背け、歯を食いしばる事しかできない慎吾。
そして・・・慎吾の悲鳴が部屋に鳴り響いた・・・。
次回 「 第16話 撃鉄 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~