第13話 魔方陣
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録では、スピリチュアルカウンセラーの江浜がスペシャルゲストとして招かれていた。お笑い芸人の時任マリオは、徳川埋蔵金のありかを記しているという銅板を持って現れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第13話 魔方陣
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その銅板は・・・時任マリオの手によって、高々と持ち上げられた。
ボクシングのラウンドガールがごとく、マリオはその銅板の角度を変えていく。
慎吾「・・・ ・・・」
そしてそれは・・・慎吾を始め、スタジオ内の全ての人物の目に触れた。
スポットライトはその銅板にまぶしいほどの光を与え、TVカメラはアップでとらえる。スタジオ内の大型TVにそれは映し出された。
30cm四方といった大きさぐらいか。
多少の傷やはげた部分もあるものの、140年の眠りから覚めた割には遠目で見ても「何かが書いてある」と判断ぐらいはできる。
ただ光の反射が強すぎて、書かれてある詳細までは判別できない。
ようやくここで会場が明るくなった。
女子アナ「今の銅板は先ほど糸見氏がおっしゃられた通り・・・」
TVSの看板アナウンサーが、説明を始める。
女子アナ「黄金の徳川家康像が見つかった源治郎の井戸。
その付近にある横穴から、新たに発掘されました。
4日前、金沢大学のO教授に銅板の鑑定を依頼。
1860年代のものという鑑定結果が出ました」
観客「お~!」
観客席の慎吾達・・・意識したわけではないが、自然と大げさな声が出た。
女子アナ「では、この銅板を発見したマリオさんに話を聞いてみます。
マリオさん、発見当初の状況をお聞かせください」
ステージの大男は、ゆっくりと口を開く。
マリオ「そうですね・・・今からちょうど1週間前、激しい雨が降る中。
スタッフとこの日の発掘を中止にしようかと、検討していました。
でも、こういう日こそ何か発見できそうな気がして・・・」
女子アナ「何かそういう・・・予感がしたって事ですか?」
マリオ「えぇ。だからスタッフに無理を言って・・・」
観客席にいるリナがぼそっとつぶやいた。
リナ「どうでもいいわよね、あの会話」
慎吾「まぁ・・・TV見てる人にわかるようにって・・・
番組的な事ですから、仕方ないです」
リナ「あの銅板・・・ライト反射して、何なのかわからなかったなー」
慎吾「あれ? リナ先輩、興味あるんですか?」
リナ「いや・・・一瞬見えたのがね・・・
なんか頭にさーっと入ってきてね」
慎吾「まぁ、しばらく待ちましょう。絶対また出ますって」
リナ「うん・・・」
リナは一瞬だけ見えた銅板の情報が、頭の中に数字として入ってきていた。
ただ見えない部分があり、それが何を意味するかはわからなかった。
しばらく銅板発見者のマリオと女子アナ、そしてスタジオ内のゲストらの会話が続く。
そして・・・
女子アナ「この銅板は、地図・・・という事ですね?」
マリオ「えぇ、間違いありません。いくつかの情報と地図が混在したものです。
地図は赤城山周辺のもので間違いありません。
はっきり言いましょう・・・」
TVカメラが、マリオのアップを捉える。
マリオ「これこそ・・・徳川埋蔵金のありかを示した地図です!」
観客「おーー!!!」
女子「何と埋蔵金のありかを示した地図!
ただ劣化が激しいところがあり、見づらい部分もあります。
そこでスタッフが銅板に書かれた地図と同じ尺度の航空図を用意。
銅板の地図と完全に重ねたものが・・・コレです!」
スタジオ内の大きなスクリーンに、それが映し出された。
赤城山周辺の地図が9分割にされている。そして各部分に妙な線の羅列と漢字が書かれてあった。
慎吾「あ!」
スクリーンの画面を見た瞬間、慎吾が声をあげる。
リナ「・・・。一応聞くけど、何、その反応?
まさか、埋蔵金の場所わかった?」
とりあえず慎吾の声に反応するリナ。
慎吾「いや・・・あの文字とか線の書かれた図・・・
八卦ですよ」
リナ「は? はっけ? 【当たるもはっけ、当たらぬもはっけ】の?」
慎吾「そうです!」
リナ「え・・・マジ? ボケたつもりなんだけど・・・」
慎吾「古代中国の【陰陽思想】を表したもので、【易経】における・・・」
リナ「あー・・・ちょっちょっちょっと・・・ 私、歴史とかダメなのよ!」
慎吾「五経の話ですよ・・・ 歴史で学びましたよね?
儒教の教典! 易経は五経の1つだし、徳川の将軍も・・・」
リナ「わかった! わかったから黙ってて! あんたの話長くなりそうだし・・・」
歴史に全く興味のないリナは、慎吾の歴史オタクトークを制止した。
リナ「ただ、あの【-】とか【- -】は数学的な意味がありそうね・・・
2進法に近いものが・・・」
それを聞いた慎吾が、再び反応する。
慎吾「そう! それ! さすがリナ先輩! 数字【は】強い!」
リナ「・・・。 なんか、あんた・・・ムカつくんだけど・・・」
慎吾「確かにあの記号は数字に対応するって・・・
ライプニッツって人が、解読したと聞いた事があります」
リナ「ライプニッツ・・・。高校の時数学の授業で出たわね、その名前。
ニュートンと並んで【微分積分、やな気分】の発見者よ」
慎吾「び・・・微分積分・・・
その言葉聞くだけで僕、確かにやな気分でした・・・」
そんな2人の会話をよそに、女子アナが銅板に書かれた図の説明を始めた。
これらの記号が易経で使われる八卦の記号である事。【-】【--】の記号が2進数に対応する事などを説明する。
リナ「うん・・・ わかった・・・」
慎吾「え!? 埋蔵金のありかが!?」
リナ「まさか・・・あんたが歴史ヲタクだって事がわかったって話よ。
あんたの言った事が、今説明してる事と同じだもん」
そういうと、リナは携帯を取り出し何かを操作し始めた。
慎吾「何やってるんですか?」
リナ「いや、携帯のあんたの名前を【歴ヲタ】に変えてるの。
一発であんただとわかるし」
慎吾「え~。何だか微妙な名前ですね・・・。
でもちょっとカッコいいかも・・・」
リナ「・・・」
リナは無言で携帯を操作し終える。
銅板に使われた図は・・・八卦で使われる歸藏図と呼ばれる図であり、各所に対応する数字を当てはめ・・・
そして真ん中に【5】を入れると
魔方陣になる事を女子アナが説明した。
リナ「魔方陣か・・・」
慎吾「歸藏図が魔方陣になるってのは、けっこう有名な話なんですよ」
リナ「財宝を隠すために、魔方陣使う・・・っていうのはアリなの?」
慎吾「えぇ、ありますよ。日本の場合、財宝秘宝を隠す手がかりとして・・・
高度な暗号や数値記号を使い、そのありかを示した例はいくつもあります」
リナ「ふ~ん・・・そっかぁ・・・」
リナはスタジオの巨大スクリーンをじっと見つめている。
6|1|8
_ _ _
7|5|3
_ _ _
2|9|4
魔方陣とは・・・縦・横・斜めの数字3つを足すと、全て同じ和になる数字配置の事である。今回の魔方陣は全ての和が15となる。
リナ「でも・・・」
ふとリナが口を開いた。
リナ「私が見たのは・・・銅板の裏。
あの裏にまだ何か書かれてあったのよね~」
確かに見た。一瞬だけだったが・・・銅板の裏に何かの対称的な図形と、文字が書かれてあるのを。
慎吾「あの一瞬で見えたんですか?」
リナ「メガネかけてはいるけどさ。動体視力はいいもんよ。
それに一瞬で覚えるのが得意なのは・・・あんたも知ってるでしょ?
あの裏に書かれてあるのも・・・見たいな-・・・」
慎吾「何で見せないんでしょう?」
リナ「決まってるでしょ!
裏には埋蔵金のありかを示す【確信的な何か】があるのよ! 」
慎吾「確信的な・・・何か・・・?」
リナ「私達が埋蔵金を獲らないように、秘密にしてるんじゃないの?
くそー・・・ あの裏、見たいな・・・ちぇっ!」
この後・・・
スタジオ内では、銅板をめぐるディスカッションが行われた。
埋蔵金否定派は「どうせ、またガセ」「見つけてから大口を叩け」の姿勢を崩さない。
肯定派は「ならば見つけてみせよう」と強気の姿勢。
しばしの時が流れた後・・・
マリオ「1週間!」
いつの間にか、肯定派の席に着いていた時任マリオが高らかに宣言した。
マリオ「1週間で埋蔵金が見つからない場合・・・
あなた方、否定派の勝ちを認めましょう!」
女子アナ「おぉ! 強気な発言が出ました!」
マリオ「我々はこの後・・・
銅板に示された地図を手がかりに、発掘作業へと戻ります。
今ここで宣言します!
1週間以内に我々は徳川埋蔵金を見つけます!」
TVカメラがマリオのアップを捉える。観客席の慎吾らは、ADの指示に従って大きな拍手で会場を盛り上げた。
拍手の音が静まった頃、カメラは女子アナのアップに切り替わる。
女子アナ「本当に徳川埋蔵金は出るのか!?
いよいよ来週・・・
お茶の間の皆様に、衝撃映像をお届けします!!」
・・・ ・・・。
こうしてこの日の収録が終わった。
慎吾ら観客は、ADの指示に従ってスタジオの出口へと歩いて行く。
リナ「え? 何? この番組、2段階構えなの!?
来週に続くって・・・」
慎吾「さっきADの方が言ってましたけど・・・
次の収録は10日後ですって・・・」
リナ「くぁー! 2週にまたがって引っ張るつもりね!
てか、マジで埋蔵金1週間以内に発掘するって事?」
慎吾「どうやら発掘に相当の自信があるみたいですね・・・
あのマリオって人」
リナ「でも今日の収録、つまんなかったー!
【山嵐】いなかったら、絶対こんなTV見ないわね!」
慎吾「だからですよ・・・
視聴率取るためにアイドル呼んだって事ですね」
リナ「ま、いーわ。どうせ次の収録なんて見学しないし!
さ~、サインもらいに行くわよ!サイン!!」
慎吾「はい!」
2人にとって・・・徳川埋蔵金は、すでに対岸の火事だった。
5分後。
ポーン・・・
2人は松浦の楽屋のある6階でエレベーターを降りる。
松浦に【山嵐】のメンバーを紹介してもらうとあらば、リナの機嫌も最高潮に達するしかない。
だが・・・。
エレベーターを降りた瞬間だった・・・。
**「***、***********」
慎吾「え?」
突然慎吾が右手でコメカミを押さえた。
リナ「何?」
周りに変わった様子はない。
**「******、******* ・・・」
慎吾「な・・・?」
**「********、************ ・・・」
慎吾「・・・・」
慎吾の様子が変だ。
リナ「ちょっとあんた・・・大丈夫? 気分悪くなるならせめて・・・
【山嵐】メンバー、全員のサインもらってからにしてよ!!」
様子のおかしい慎吾の肩に手をおいてゆするリナ。
慎吾「・・・ ・・・」
突然慎吾は、真剣な目でリナを見た。
リナ「な・・・ 何よ?」
慎吾「リナ先輩! 好きな言葉は!?」
唐突に慎吾はリナに変な質問をぶつける。
リナ「は!?」
慎吾「急いで! 好きな言葉ありますか!?」
リナ「う~ん・・・【イケメン】かな」
慎吾のは迫力に押され、正直に応えた。
慎吾「わかりました! いいですか、よく聞くいてください!」
ものすごく焦った表情で喋る慎吾に、どう対応していいかわからないリナ。
慎吾「僕からのメールは、必ず最初に【イケメン】と書きますから!」
リナ「は? 何言ってんの、あんた?」
慎吾「それ以外のメールは絶対返さないでください! いいですね!!」
リナ「言ってる意味、わらかないっつーの!!!」
慎吾の不自然な行動にイライラし始める。
突然・・・
慎吾が不愉快そうな表情を浮かべ、信じられない事を口にする。
慎吾「黙ってましたけど僕・・・
リナ先輩の自己中にウンザリしてたんです!」
リナ「!?」
慎吾の言葉が頭に入ってくるのに、しばしの時間を要した。
リナ「は~!? あんた何言ったの? マジ言ってんの!?」
思いっきり眉毛をつり上げたリナが、大声で返す。
慎吾「もちろんですよ。僕が嘘ついた事ありますか?」
慎吾は挑戦的な態度をとる。
リナ「あんた、言ってる事がしっちゃかめっちゃかよ!」
慎吾の言葉と態度に、リナの怒りの度合いが加速する。
慎吾「ホントは、松浦さんの楽屋も3階なんですよ。
6階まで来て騙されましたね!」
赤メガネの向こうの瞳が大きく見開いた。
プチッ。
そして何かが切れた。
瞬間、慎吾の顔面右頬に・・・リナの右ストレートが炸裂していた。
もんどりうって、フロアに倒れる慎吾。
その慎吾に背を向けてエレベーターに向かうリナ。
イライラしながら、エレベーターの「↓」ボタンを連打する。
リナ「ちょっと優しくしたら・・・全く、だから男ってヤツは・・・」
ようやく開いたエレベーター。
リナ「おっと・・・」
イライラしながら乗り込もうとするが、エレベーターの中から降りる人物がいた。
黒いスーツ、黒いズボン、黒いサングラス・・・黒ずくめの男が3名、降りてくる。
怒り心頭のリナは男らをかわし、すぐにエレベーターに乗ろうとした。
一人の男とすれ違った瞬間・・・
リナ「・・・ ・・・」
男のスーツが一瞬めくれた際、【それ】がリナの視界に入る。
ズボンとメタボなお腹の間にある・・・
拳銃を。
そして黒ずくめの男3人は・・・
慎吾を取り囲んだ。
(第14話へ続く)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回予告
銃を持った黒ずくめの男3人に取り囲まれた慎吾。
直後江浜も現れ、慎吾に相対する。
エレベーターの中からその様子を見ていたリナ。
ただ事でない雰囲気を察し、慎吾の元へ向かおうとする。
その時、江浜は慎吾に向けて強烈な攻撃をくわえた。
そして慎吾は・・・ リナは・・・
次回 「 第14話 拉 致 」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~