第12話 白ずくめの男
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
番組収録では、スピリチュアルカウンセラーの江浜がスペシャルゲストとして招かれていた。
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第12話 白ずくめの男
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女子アナ「お待たせしました。ついにこの日が来ました!
今宵、とうとう・・・徳川埋蔵金発見か!?」
TVSを代表する美人女子アナ。その綺麗な声で、収録が始まった。
観客席の慎吾達は、前説の芸人に指示された通り大きな拍手を送る。
慎吾「・・・ ・・・」
気になる人物がいた。スピリチュアル・カウンセラーの江浜だ。
(慎吾「・・・ 体調が・・・ 悪そうだ・・・」)
何となくではあるが、慎吾には江浜の顔色がすぐれていないように見えた。
女子アナ「では早速。まずは糸見さんにお話を・・・」
いつもは発掘現場にいる事が多い糸見だが、今回はスタジオ収録に参加している。
収録開始最初の30分は・・・過去の番組構成と同じ、徳川幕府が終焉を迎える歴史的背景や無血開城の話がスタジオ内にある大型VTRで説明された。そして本来あるべきはずの御用金が全て行方知れずになっていた流れから、出演者との間でディスカッションが始まる。
教授A「今まで見つかった文献や資料を見渡しても・・・
埋蔵金の存在は間違いないですよ」
教授B「ならば何故、御用金消失から150年近くも見つからないのですか?
そもそも新政府が勝手に江戸の御用金を目当てにしていただけ。
【ある】でなく、【あるはずだ】って思い込んでただけでしょう!?」
糸見氏「ならば勝海舟の記録にある360万両はどこへ行ったのでしょう?」
教授A「それに徳川家康の黄金像の発見からも・・・」
教授B「いやいや、それ、行方不明になったんでしょ?
確かな鑑定も受けてないのに、まともに取り合うのはどうかと。
過去、ここまで大規模な発掘をして見つからない・・・
って事は、埋蔵金なんかないって事ですよ」
教授C「それは論理的におかしいですね。
今まで見つからなかったから、存在しない・・・
それは論理的に真ではない」
・・・ ・・・。
スペシャルゲストの【山嵐】のメンバーはこのディスカッションに何とか加わろうとするが、埋蔵金の知識に関しては教授陣や糸見氏にはかなうはずもない。
アイドルの彼らが発言しようものなら、微妙な空気が流れてしまうのをスタジオ内の全員が感じていた。
少しでもTVに写ろうとするアイドルの使命感がそうさせるのか、彼らはタイミングを見計らって彼らなりの発言をする。後にこの番組をTV放映で見る事になる慎吾とリナだが、スムーズに彼らがディスカッションに加わる様に、編集のなせる業を感じる事になる。
江浜はというと・・・終始無言。ただそこに座っているだけで、我関せずといった感じだ。その表情は何か考え事をしているようだった。
・・・ ・・・。
リナ「・・・ 退屈ね。まぁ、イケメンアイドル見るだけでも来た価値はあるか・・・」
慎吾「そうですね。今やってる議論って昔からあるヤツですし。ちょっと退屈ですね」
リナが眠そうに慎吾に視線を向ける。
リナ「・・・。あんたの退屈と私の退屈は、質が違うっつーの。
ま、サインもらうためにも、最後まで我慢して見てやるか・・・」
収録から1時間が過ぎた頃・・・
劣勢な埋蔵金存在説側の糸見が、奥の手を出した。
糸見氏「実は・・・以前我々が発掘した源次郎の井戸の付近でですね・・・
今から1ヶ月前、ある銅板が見つかったんです。
まさに・・・埋蔵金のありかを示した銅板です!」
観客の慎吾達は大げさに「おーーー!!」という歓声をあげた。
リナ「ふん・・・どうせまた、ガセネタっしょ・・・」
大きな歓声に混じってリナがつぶやく。
糸見が銅板発掘の経歴や苦労話を短めに語った後、アナウンサーに合図を送った。
ガコン!
会場内の電気が一斉に消える。
ザワザワ・・・ ザワザワ・・・
急にスタジオ内が真っ暗になったため、観客席からは自然とざわめく声が漏れた。
数秒の間を経て・・・
パァン・・・
女子アナウンサーのみに、スポットライトが当たる。
女子アナ「では・・・ 今宵徳川埋蔵金のありかを記した銅板が・・・
TVの前のみなさんに、お披露目されます!」
そう言うと、今度はステージ上の1人の男にスポットライトが当たった。
そこには大柄な男が、銅板を両手に抱えて立っている。
白のスーツ、白のネクタイ、白のズボン・・・完全に白一色のコーディネートを意識したかと思いきや、大きな黒いサングラスが際だち、その年齢を不詳にしていた。
数秒の間の後、おもむろに男はサングラスを取る。
慎吾「あ・・・あの人・・・」
リナ「何、あんた? 知ってんの?」
慎吾「いや、ほら・・・さっき、前説してたお笑い芸人です。
大きい方の人ですよ!」
リナが目を凝らして大男を見つめる。
リナ「あ、言われてみればそうね・・・
さっきまでラフな格好だったのに。
ヤクザっぽい格好して・・・
なんでステージの真ん中にいんの?」
女子アナ「ご紹介しましょう。ステージに立っておられる彼は・・・
若手お笑い芸人【スーパー・マリオ・ブラザーズ】・・・
時任マリオさんで~す」
アナウンサーの紹介直後、観客席はとりあえず拍手をした。
慌てたADが、観客席に向かって「もっと大きな拍手を!」のジェスチャーをする。
慎吾「そっか・・・僕らにはさっき見た芸人ですけど・・・
TV見てる人には、初登場なんですよね。
盛り上げなきゃって事です」
リナ「どーでもいーっつーの・・・眠・・・」
リナは小さなあくびをする。
女子アナ「今年、二十歳になるマリオさん。
今回、赤城山周辺の過酷な発掘ロケに参加してもらい・・・」
女子アナが、銅板発掘の経緯を紹介し始めた。ステージの中心にいる時任マリオ・・・スタジオ内の出演者や観客席に対して、無表情を貫く。
一通りスタジオ内を見渡した後、大きなサングラスを再びかけた。
リナ「あー・・・はいはい、あれね・・・。
過酷なロケに、ギャラのかからない無名若手芸人ってパターン」
ふと慎吾が何かを思い出したような顔をする。
慎吾「どこかで・・・」
右の拳をコツンと額にあてるしぐさをした。
慎吾「どこかで・・・見た事がある・・・彼・・・」
リナ「さっき前説で見たんでしょ?」
慎吾「あ、いえ。そうでなく・・・」
リナ「松順様の楽屋出た時、ぶつかってなかった?」
慎吾「あー、それもそうなんですが・・・。
今日でなくて、どこかで・・・彼を見た事があるような・・・。
あの雰囲気・・・ ごく最近・・・どこかで・・・」
リナ「ま、売れてないとはいえ芸人だし・・・何かのTVで見たんじゃない?」
慎吾が静かに首をふる。
慎吾「違います・・・ 直接見た事が・・・」
記憶を探るが、思い出すことが出来ない慎吾。
マリオ「・・・ ・・・」
白ずくめの大男・・・その両手に抱えられている、徳川埋蔵金のありかを示したとされる銅版・・・スポットライトの光を浴びたまま、みなの目に触れられるのを待ち構えていた。
時任マリオ・・・・
サングラスの奥で、殺気じみた鋭い眼光を放っている。
その瞳の先には・・・
慎吾の姿があった。
(第13話へ続く)
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次回予告
とうとう徳川埋蔵金のありかを示したとされる銅板が、皆の目に晒される。
それを見たリナが、何かをつかんだような表情を見せるが・・・?
収録の後、慎吾はリナに意外な言葉を発する。
慎吾「黙ってましたけど僕・・・
リナ先輩の自己中にウンザリしてたんです!」
次回 「 第13話 魔方陣 」
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