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徳川埋蔵金の謎  作者: 伊吹 由
第1章  慎吾とリナ
12/45

第11話  ファースト・コンタクト

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 慎吾のスピリチュアル事件簿 First season


      「徳川埋蔵金の謎」 


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前回までのあらすじ


2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・


アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第11話  ファースト・コンタクト


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2012年5月5日土曜日。正午・・・


慎吾とリナはTVSの受け付けで、入局許可証を受け取った。


2日前にもらった招待状を受け付けに見せると、待つように指示される。しばらくすると、松浦順のマネージャが2人の前に現れた。


軽い挨拶をすませると、マネージャが2人を連れて歩き出す。そしてたどり着いたところは・・・小さな楽屋。


マネージャが軽くノックして先に中に入った。すぐにまた楽屋の扉が開き、2人を招き入れる。


2人が楽屋に入ると・・・


日本のTOPアイドルグループ【山嵐】のメンバーの1人、松浦順がいた。


白いTシャツの上から黒いベストを羽織り、室内にも関わらず黒い帽子をかぶっている。松浦は自信に満ちたその表情と、余裕のある笑顔を2人に投げかけた。


芸能人をよく知らない慎吾でも、アイドルの存在感・・・オーラを感じる。


松浦の笑顔をキャッチしたリナは、大きなポニーテールをなびかせ両手を広げた。そして松浦に向かって走り出し、熱烈なハグをしようとする。


それをスルリと華麗にかわした松浦は、自然な流れで慎吾に握手を求めた。熱烈ファンへの対応もお手の物である松浦。慎吾は「さすが日本のトップアイドル」と感心しながら、握手に応じる。


松浦「やぁ、2日ぶり。ちゃんと来てくれたね」


握手をしながら松浦は・・・アイドル光線とでもいおうか、華やかな雰囲気を周りに発散した。


慎吾「はい! 今日はTV収録に招いていただき感謝です!」


松浦の手を力強く握り替えし、笑顔で応える慎吾。


リナ「・・・ ・・・」


ハグが空を切ったリナは、腕をクロスしたまま固まっている。


松浦「収録まで1時間あるけど・・・

    打ち合わせで、もう行かなくちゃいけないんだ。


    またスタジオで会おう」


慎吾「はい!」


松浦はリナの方を振り返って静かに握手を求めた。


松浦「リナ・・・ 今日はよろしく」


慎吾に見せた笑顔とは違う、【女性専用】の笑顔がリナの硬直を解く。


【これでもか!】というぐらいのにこやかな笑顔を見せたリナは、松浦の右手を両手で握り返した。


リナ「あの・・・ あ・・・」


普段慎吾に対してふてぶてしいリナが、緊張のあまり声を出せない。


松浦「じゃぁ、2人とも。スタジオで!」


そう言うと松浦は、リナの両手を半ば強引に引き離して楽屋の出口に向かった。


リナ「あ・・・」


松浦に何か言いたいが、何を言ったらよいのかわからず言葉が出ない。


察した慎吾が代わりに声をかけた。


慎吾「松浦さん!」


出口手前で慎吾の方へ振り返るしぐさがいちいちカッコイイ。


松浦「なに?」


笑顔を絶やすことはない松浦。


慎吾「もしよろしければですが・・・

    後で【山嵐】さんの他のメンバーにも会えないでしょうか?」


松浦は迷う表情を一切見せずに即答する。


松浦「あぁ、構わない。メンバーに君たちを紹介してあげるよ。

    あと望めばだけど・・・サインも全員分書かせてやるさ」


時にアイドルは、打算的にファンに接する時がある。周りに誰もいなければ、たかだか一人二人のファンに冷たい態度をとるものだ。


しかし松浦にそのようなそぶりは一切無い。ファンに対する真摯な姿勢・・・それが日本一のアイドルたる条件なのかもしれないと慎吾は思った。


松浦「じゃぁね」


今一度笑顔を振りまいた松浦は、楽屋から出て行く。


その後松浦のマネージャから、収録に関しての説明を受ける慎吾とリナ。


慎吾「わかりました」


心ここにあらずのリナに変わって、慎吾がしっかりと説明を聞く。


説明が一通り終わった後、2人は楽屋を後にした。


慎吾「あ、すいません!」


松浦の楽屋を出た際、慎吾は何者かにぶつかる。


「・・・ ・・・」


慎吾「あ・・・ ・・・」


ぶつかった相手は・・・2mはあろうかという大男。その男は、ギロリと慎吾を睨み付けた。


慎吾「す・・・ すいません・・・」


深々と頭を下げる慎吾。


「ほら、マリオ! 行くぞ!!」


その大男・・・マリオと呼ばれた男は、後ろから来た別の男に背中を叩かれ、無言のままその場から立ち去った。


慎吾「・・・ ・・・」


その大きな背中を、しばらく見つめる慎吾。


リナ「で? どれぐらいでスタジオに向かえばいいの?」


楽屋から出てきたリナに声をかけられる。あわてて携帯の時間を確認する慎吾。


慎吾「あと40分。午後1時から第17スタジオで収録です」


リナ「OK」


慎吾と2人になったリナは、いつもの調子に戻っていた。


リナ「しっかし・・・。

    時々、あんたの空気読めない性格をうらやましく思うわ」


慎吾「ありがとうございます!」


リナ「いや・・・褒めてないっつーの・・・。

    でも【山嵐】メンバー全員分のサインは大きいわ!」


慎吾「写真もOKなら、リナ先輩と一緒に撮りますから」


リナ「マジ!? 絶対写真撮って! 絶対よ!!」


そういうとリナはお祈りのポーズをする。


リナ「これがきっかけで・・・

    メンバーの誰か、私の彼氏にならないかしら~」


慎吾「そういう夢を見るのもアリだと思いますよ」


相変わらず屈託のない笑顔でリナに話しかける慎吾。


リナ「・・・ ・・・」


その言葉に反応したリナは、冷たい視線で慎吾を睨み付ける。


リナ「・・・ ・・・」


何か言いたげだが、ぐっとこらえた。


リナ「ま、今日はメンバー全員のサインで許してあげるわ」



・・・ ・・・。


午後1時。約束の時間にスタジオ入りする慎吾とリナ。

観客席に座らせられるも、メインステージにはセットのみで【山嵐】や他の出演者の姿はない。


観客は約100人。慎吾はキョロキョロと観客席の方を見渡すが、知った顔はいなかった。


慎吾「・・・。授業で見た顔、いませんね・・・」


リナ「あ、そ」


素っ気ない返事を返すリナ。


リナ「てか、まだ【山嵐】は出てこないの?」


席について数分。観客の前に真っ先に出てきたのは・・・若手お笑い芸人だった。


慎吾「あ!」


芸人右「どうも~、時任ときとうマリオで~す!」


芸人左「どうも~、赤塚あかつかルイージで~す!」


コンビ芸人の片方・・・慎吾が楽屋から出てきた際、ぶつかった大男だ。


2人「2人合わせて・・・スーパーマリオブラザーズで~す!」


マリオ「コント!

     【1upキノコと間違えて、リアル毒キノコを食べるマリオ】!」


ルイージ「あ!兄さん! 1upキノコだよ! 早く食べなきゃ~」


TVカメラが回っているわけでもないのに、彼らは観客の前でネタを見せ始めた。


慎吾「な・・何ですかね?

    全然番組と関係無いし、カメラも回ってないのに」


リナ「知らないの~? 前説まえせつってやつよ」


慎吾「前説?」


リナ「収録前に、観客に注意事項とか色々説明したりすんのよ。

    まずは芸人とかが盛り上げて、雰囲気作りをしたりすんの」


慎吾「へ~、収録前にこういうのがあるんですね」


芸人のコントに慎吾は笑っている。


慎吾「なかなか面白いですね、あの芸人」


リナ「はぁ!? どこがぁ!? あんた、笑いのレベル低すぎ!」


慎吾「あ・・・リナ先輩。ちょっと声、大きい・・・」


リナは眠そうに芸人のネタを薄目で見ていた。


マリオ「はい、じゃぁ盛り上がった所でですね~」


ルイージ「観客のみなさんに注意事項がありま~す!

      よく聞いてくださいね~」


ネタ見せを終えた芸人は、観客に「拍手する時は大きく」、歓声を上げるときは「お~」と大げさに言うなどの指導を始めた。


マリオ「写真撮影は禁止ですから~」


大きなジェスチャーと共に、携帯の電源を切るよう指示する。


慎吾は指導された通り、大きな拍手の練習に参加した。リナはかったるそうにリズム感のない拍手をしている。


リナ「もう・・・早く【山嵐】を見せて欲しいのに・・・」


慎吾「まぁまぁ。もうすぐですよ。

    でもあのマリオって人、かなり大きいですよね~」


リナ「全く興味ない」


慎吾「2m越えてるんじゃないですか?」


リナ「あんた目ぇ悪い?」


細目でその芸人を見るリナ。


リナ「私が見た所・・・

    イケメン俳優の大栗旬と同じぐらいかな。


    ズバリ184cmと見た」


慎吾「えぇ!? 絶対2m越えてますって!」


リナ「はいはい。じゃ、2m50cmにしとくわ」


全く興味のない話題に適当に応えるリナだった。



・・・ ・・・。


2人がスタジオ入りして20分ほど過ぎた後・・・


撮影用の大きなTVカメラを持ったスタッフらしき人が、数名入ってきた。さらには音声マイクや、見慣れぬ機器を持った人たちもぞろぞろとスタジオ入りする。


カメラクルー、撮影スタッフ、ADアシスタント・ディレクターら20名以上がステージに上がり、色々な機器の調整をし始めた。


慎吾「あ・・・ 何か慌ただしくなってきましたよ」


すると今度は司会者用のマイクと思われる場所に、TVでよく見る女子アナウンサーが現れる。


慎吾「あ、リナ先輩! 見てください!

    いつもニュース読んでる人ですよ!!


    TVで見るより綺麗な人ですね~」


リナ「だからあたしはイケメンしか興味な・・・」


台詞が言い終わらないうちに、観客席から大きな女性の歓声があがった。


日本を代表するアイドルグループ・・・【山嵐】が全員揃ってスタジオに入ってきたのだ。


リナ「きゃーーーー!!!」


腹の底から黄色い声をあげるリナ。右側に座っていた慎吾は、反射的に左耳を押さえる。


リナ「きゃーーー!! きゃーーーーー! きゃーーーーー!!!」


もはや声にならない奇声をあげ、彼らに大げさに手を振った。その大げさなアクションが功を奏し、松浦が2人に気づく。


松浦は指をパチンと鳴らし、2人を指さして笑顔を振りまいた。


リナ「きゃーーーーー!! 松順様が、きゃーーーー!!」


慎吾の左耳を抑える手は・・・しばらくそのままだった。


【山嵐】に続いてスタジオ入りしたのは、この番組の企画発案者である糸見。


黒一色で固めたコーディネートで登場し、鋭い目つきのまま所定の位置につく。今回の収録に対してのただならぬ意気込みが伝わってきた。



続いて、いかにも大学教授っぽい貫禄あるスーツにネクタイ姿の男が3名スタジオに入ってきた。



さらに・・・


慎吾「あ・・・」


思わず声が出た慎吾の視線の先に・・・

スピリチュアル・カウンセラー江浜の姿があった。


Yシャツネクタイの上から黒いスーツ。2日前、初めて出会った時と同じ格好。銀縁眼鏡の奥にある優しい目つきは、一瞬だが間違いなく慎吾をとらえた。



プロデューサー糸見、スピリチュアル・カウンセラー江浜。


慎吾はまだ気づいていないが、あの掲示板へ書き込んだ人物も・・・今まさに慎吾の身近にいる。




そして・・・



掲示板の書き込みにあった「埋蔵金のありかを知ってる人」・・・



その正体を慎吾が知るのは・・・ もうしばらく後だった。






             (第12話へ続く)

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次回予告


とうとう10年越しに・・・【徳川埋蔵金の謎を追え!】の収録がスタートした。

最初は糸見や、学者のディスカッションが続く。


糸見が新たに発見した銅版について語り出した所から、スタジオ内は盛り上がってきた。徳川埋蔵金のありかを示したと言われる銅版。


その銅版を持って現れたのは・・・ 意外な人物であった。


次回 「 第12話  白ずくめの男  」

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