第10話 謎の同一人物
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】の観客として招待を受ける。
慎吾はリナに、徳川埋蔵金のありかを示すヒントは、【かごめかごめ】の歌にあると語った。
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第10話 謎の同一人物
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【TVS 徳川埋蔵金の謎を追え!】
ネットで検索していると、必ず一人の男が現れる。
この番組のプロデューサーである・・・糸見という男だ。
1990年代に活躍した、日本を代表するコピーライターであり・・・作家でもある。
彼の発案した【徳川埋蔵金の謎を追え!】の企画が通り、番組として大々的に放送される事になったのが1999年。
第1回放送では、徳川埋蔵金にまつわる史実を歴史研究家やタレントを交えて放送。見事高視聴率をとり、国民の話題をかっさらった。
半年後の第2回放送からは、大型重機を使って赤城山周辺を発掘。番組中、江戸幕府に関する出土品が数点発掘されたものの・・・その歴史的価値は低く、徳川埋蔵金につながる事はなかった。
地中50mもの大規模な発掘作業の際、いくつかの不自然な横穴を発見するが・・・こちらも徳川埋蔵金につながるものではなかった。
番組自体は数度の特番が組まれるも、視聴者を惹きつけるような結果を出す事が出来ず・・・視聴率の降下と共に2002年、同企画は打ち切りとなる。
あれから10年・・・・
番組改編期のこの時期に・・・特番で【徳川埋蔵金の謎を追え!】が放送される事が決まった。
何故10年の時を経て、この番組が再度登場したのか・・・
徳川埋蔵金のありかを示す信憑性の高い「何か」が、新しく発掘されたのだろうというのが大方の見方である。
5月5日・・・すなわち明日、その番組収録がある。
プロデューサーでもあり、発掘の陣頭指揮をとっている糸見。もちろん番組の主要な出演者の1人だ。他にも歴史学の権威や、考古学の教授、タレントサイドからは人気絶頂アイドルグループ【山嵐】の出演も決まっていた。
TVSのページで同番組をチェックすると、スペシャルゲストも来るという。
慎吾「・・・ ・・・」
この番組について調べている慎吾だが・・・10年ぶりの復活となった理由は、どのサイトにも記されてない。番組を見てのお楽しみといった所であろう。
慎吾「・・・ ・・・」
日本最大の巨大掲示板【5ちゃんねる】では、この番組に関するスレッドが賑わいを見せていた。埋蔵金は発見できないであろうという「否定派」の書き込みが圧倒的に多い。
「10年前はマジ騙された。今度もダマされるのがオチ」
「どうせまた、世界一の土木番組になるって」
「だいたい埋蔵金の存在自体が怪しい話」
「え? まだ懲りてないの? この不況時、制作費無駄遣いナンバー1」
「何か出ても、ヤラセとしか思えないし」
「夢見るオヤジじゃいられないってか?」
「ま、宝くじと同じ。夢見る番組って事でいーんじゃね?」
多くの否定派に混じって、ポツリポツリと肯定派の書き込みもある。
「何故、10年越しに番組再開したか考えろよ。あるって事だろ?」
「なけりゃ番組再開する意味ねーじゃん」
「無血開城の際に、蔵が空っぽだったんだぜ? 絶対持ち逃げしてるって」
「黄金の家康像見つかってる! 絶対どこかにあるだろ!」
注意深く読んでいくと、深い知識で肯定する人間もいた。
慎吾「・・・ ・・・」
さらに1つ1つの書き込みを丁寧に目を通していく。
ふと、腕組みをしたまま眠っていたリナが目をさました。
リナ「う、う~ん・・・」
大きな伸びをした後、メガネをかけ直す。
リナ「あ、あれ? 私、何で寝てんの?
あ、ヤベ! 麻雀の途中だったんだ!
ラスのまま放置してるし・・・」
慎吾がリナの方を振り返り、ニコッと笑う。
慎吾「おはようございます」
リナはいったん麻雀サイトからログアウトする。
リナ「えーっと・・かごめかごめの話してたような・・・
あまりにつまらなくて寝てたわ・・・
私、歴史とか興味ない話聞くと、すぐ眠くなるのよね」
慎吾はくすっと笑いながら声をかける。
慎吾「なのに、明日の番組収録は行くんですよね?
徳川の話がメインの番組ですよ?」
リナ「もちろん行くわよ! レポートあんた書いてくれるでしょ?
私は【山嵐】のサインをもらうって使命があるしね~」
慎吾「・・・ ・・・」
リナ「あら? 何、あんた? 番組の予習でもしてんの?」
リナは慎吾のパソコン画面を覗き込む。
慎吾「えぇ。とりあえず過去、この番組がどんな進行だったのかとか・・・
どんな発見があったのかとか・・・色々調べてるんです」
リナ「は~、あんた真面目よね~。
ま、私のレポートのためにも頑張ってね・・・・
あら?」
リナが何かに気づいた表情をした。
慎吾「何か?」
リナ「・・・」
じっと慎吾のパソコン画面を凝視するリナ。
リナ「うん。これ・・・そしてコレ」
リナは慎吾のパソコン画面の2ヶ所を指さした。そこには、ハンドルネーム
【Aritou Tomoki】【Tokumoto Airi】
の書き込みがあった。
慎吾「?」
リナ「この2人、同一人物ね」
慎吾「え?」
慎吾はスレッドを確認する。
【Aritou Tomoki】が、徳川埋蔵金の存在を肯定する書き込みに対し・・・
【Tokumoto Airi】は、それを否定する立場をとっている。
慎吾「どう見ても同じ人に見えませんが・・・」
リナ「こういう掲示板ではよくあるのよ、自作自演ってヤツが。
自分の意見を通したかったり、周りを盛り上げるためにね。
反対の立場とってるのは、同一人物と思わせない偽装よ、偽装!」
慎吾「いや、だから何故・・・同一人物だってわかるんですか?」
リナ「見えるのよね~、こういうの。意識しなくてもさ」
そう言うとリナは、自分のパソコンでワープロソフトを開いて説明し始めた。
【Aritou Tomoki】 = A R I T O U T O M O K I
【Tokumoto Airi】 = T O K U M O T O A I R I
リナ「わかる? 片方のアルファベット並び替えたらさ・・・
もう片方の名前が出来るの?」
慎吾はゆっくりと、1文字1文字確認する。
慎吾「ほんとだ・・・アナグラムってヤツですね。
でも、ただの偶然って可能性も・・・」
リナは慎吾の目の前で、右手を左右に振る。
リナ「ないない。たかだか数10人が書き込んでるスレッドなのよ。
こんな長い適当なハンドルネーム2つが、ローマ字並び替えて・・・
一致する確率、0.1%以下よ。こんな偶然ないって」
慎吾「でも性別も言葉遣いも違うし・・・
やっぱり違う人にしか見えないな~。
0.1%の方じゃないですか?」
リナ「あんたさぁ。0.1%を知らないでしょ?
数学の世界では、起こりえないって意味よ。
それにネット世界で、どれだけ性別偽ってるヤシがいる事か・・・」
慎吾「そ・・・そうですか? う~ん・・・ でも・・・」
それでも納得できない慎吾。リナは小さいため息をついた後、
リナ「しゃーない、見てて」
と声をかける。
カタカタカタカタ・・・
画面を見ながら、ブラインドタッチでキーボードを高速で打ち始めた。
リナ「別パソコン使って自作自演しても、IPアドレスを調べれば一発よ・・・」
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は黙って、リナの作業を見ている。
リナ「あら・・・?」
眉をひそめるリナを見て、慎吾が少し勝ち誇ったように
慎吾「ほら~、やっぱ別人だったでしょう?」
と言った。
リナ「・・・ ・・・」
眉をひそめたままのリナは、自分のパソコン画面を確認している。
リナ「いや・・・同一人物なんだけどさ・・・」
慎吾「あれ? そうなんですか? 何かおかしい事でも?」
リナ「うん・・・ IPアドレスからはプロバイダと・・・
使用者がどこにいるかってのが、だいたいわかるんだけど・・・
会社とか組織単位なら、書き込んだ住所まで特定できるのよ・・・」
慎吾「え? じゃぁ、書き込んだ場所までわかっちゃったとか?」
リナ「うん。この同一人物が書き込んだ場所・・・
何度も確認したけど・・・間違いないわね、うん」
自分を納得させるようにつぶやき、意外な一言を口にした。
リナ「この部屋よ。絶対間違いない」
慎吾「えぇ!?」
驚きの声をあげる慎吾。
リナ「何度も確認したけど・・・ 絶対この部屋から。間違いない!」
リナはパソコンのIPアドレスを指さしているが、慎吾にはただの数字と英字の羅列にしか見えない。
慎吾「この部屋から・・・」
しばらく自分のいるパソコン室を見渡す。今、この部屋にいるのは慎吾とリナの2人だけだ。
慎吾「・・・ ・・・」
慎吾は再度【徳川埋蔵金の謎に迫る!】専用スレッドを読み直した。
【Aritou Tomoki】 書き込み日時 5月3日 16:07
俺は、明後日の収録に参加する。とっても楽しみだ!
【Tokumoto Airi】 書き込み日時 5月3日 16:11
埋蔵金なんて見つからないわよ。ある意味、またやっちゃいそうで楽しみだけど
【Aritou Tomoki】 書き込み日時 5月3日 16:13
スタジオには埋蔵金のありかを知ってる人がくるんだってよ!
【Tokumoto Airi】 書き込み日時 5月3日 16:16
今までもありかを知るって人が出てたけどダメだったじゃん!
どうせ今度の人間だって、期待ハズレよ
慎吾「・・・ ・・・」
リナの言う事が正しいなら・・・
この2人は前日の午後4~5時の間で、このパソコン室で自作自演をしている事になる。ちょうど松浦順のバッグ盗難事件を解決している頃だ。
慎吾「この人、明日の収録に参加するんだ・・・」
リナ「みたいね」
リナは全く興味なさそうだ。
慎吾「この部屋で書き込んで・・・
ひょっとしたら・・・マスメディアのレポートを書くために?」
リナ「さすがの私でも、そこまではわからないわ。
まぁ明日スタジオに行けばわかるんじゃない?
講義で見た顔がいればそうだし、いなければ関係無し!」
慎吾「えぇ・・・」
元気のない返事をする慎吾。
今なお埋蔵金を発見したという情報は見つけられない。新たな情報が出ない限り、埋蔵金発見へは遠い道のりに思えた。
(慎吾「それよりも・・・」)
何故、この人物はこの部屋から自作自演を演じたのか・・・
そして・・・慎吾にはどうしても気になる1つの書き込みがあった。
【Aritou Tomoki】 書き込み日時 5月3日 16:13
スタジオには埋蔵金のありかを知ってる人がくるんだってよ!
埋蔵金のありかを知る人物とは・・・
(慎吾「いったい・・・?」)
多くの謎を抱えた慎吾。この後も、ずっと番組に関するサイトを閲覧していた。
(第11話へ続く)
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次回予告
5月5日。リナと慎吾は再度TVSに訪れる。
松浦との挨拶を済ませ、いよいよ番組収録に参加。
最初、前説のお笑い芸人のネタ見せから始まった。
その後、ニュースでよく見る女子アナやプロデューサーの糸見が姿を現し・・・
スペシャルゲストの【山嵐】に加え、スピリチュアル・カウンセラーの江浜も姿を見せた。
慎吾は、このスタジオで・・・
これから巻き込まれる大事件の黒幕と遭遇する。
次回 「 第11話 ファースト・コンタクト 」
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