第9話 かごめかごめ
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慎吾のスピリチュアル事件簿 First season
「徳川埋蔵金の謎」
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前回までのあらすじ
2012年4月。大学生となった慎吾は、大学の講義で1つ上の先輩リナと出会う。課題のため、TV局へと向かった2人だが・・・
アイドルのバッグ盗難事件に遭遇。リナの持つ特殊能力により、犯人を捕まえるに至った。バッグを盗まれたアイドル・松浦から、2人は特別番組の観客としての招待を受ける。
慎吾はTV局を出る時、スピリチュアル・カウンセラーの江浜に声をかけられた。
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第9話 かごめかごめ
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西暦1868年(慶応4年)。
永きにわたって、徳川家が君臨した江戸城。幕府軍(徳川家)の代表・勝海舟と、明治新政府軍の西郷隆盛らとの交渉の末・・・江戸城は官軍(政府)に引き渡された。
当時100万人以上もの民を抱える江戸は、世界でも最大規模の都市。それらの住民を戦火に巻き込ませる事無く、江戸城の明け渡しを成しとげた・・・ これが世に言う「無血開城」である。
当時財政難にあえいでいた明治新政府は、幕府の御用金を接収しようと江戸城内の金蔵に足を踏み入れた。
ところが・・・
金蔵は空っぽ。
開城をよぎなくされた旧幕府が、それらを隠匿した・・・そう判断した政府は、御用金の捜索を始める。
真っ先に政府に目をつけられたのが、大政奉還当時勘定奉行であった小栗忠順。小栗は開城前、政府側と徹底抗戦した主要人物であり、開城直前に幕府の再興資金として御用金を隠匿したと疑われた。
開城後、小栗は故郷の上野国(群馬県)に隠棲していたが、政府の放った追っ手に捕まる。幕府の財政責任者であったと小栗が、何も知らぬという事はありえないとした政府側は、彼を厳しく追及。
しかし小栗は御用金について何も喋る事は無かった。
業を煮やした政府は、小栗を謀反の罪で斬首の刑に処す。
「無血開城」と言われた歴史的偉業の背景で、唯一命を落とした男・・・それが小栗忠順である。
後に政府が小栗の故郷をくまなく探索するも・・・御用金はおろか、小判の1枚も出てくることはなかった。それどころか謀反の証拠となるものすら、一切出る事もなかったのである。
小栗を処刑後も、新政府は躍起になって御用金捜索を継続。
幕府崩壊から数ヶ月・・・
赤城山周辺の村人達から、旧幕府の武士達を始め多くの人間が大量の荷物を赤城山に運んでいたとの目撃情報が入る。
徳川御用金が赤城山に埋蔵されている・・・
この噂は世に広まり、埋蔵金の存在を確信する多くの民間人も徳川埋蔵金捜索に着手・・・赤城山の各所で発掘が行われることになった。
そして赤城山周辺の発掘で、黄金の徳川家康像が発見され・・・さらには埋蔵金のありかを示したといわれる銅板地図も発見される。
これらの発見をしたのが水野智義。
この発見と記録が、今の「徳川埋蔵金」伝説をさらに広く世に知らしめる事になった。
智義が徳川埋蔵金の発掘に着手したきっかけは、義父の中島蔵人が死の間際に話した体験談からである。
中島は彰義隊の隊長として上野で活躍。敗色濃厚となった際、甲府に落ち延び・・・城代の柴田監物と幕府御用金を持ち出し、24万両を榛名神社の近くに埋蔵。
戊辰戦争の後、中島は榛名神社に向かう。ところがすでに掘り起こされた後があり、埋蔵金はなかった。中島は柴田が先に掘り起こしたと確信。無血開城の際、江戸城御用金360万両と共に埋め直した可能性があることを語っている。
さらに中島は幕府の将来を不安視していた大老・井伊直弼が、腹心の小栗忠順や自分(中島)らごく少数の人間に御用金の埋蔵を指示したと語った。
【赤城の井戸を掘れば、埋蔵金の場所がわかる】
中島は死の間際、水野智義にそう語ったという。
水野は中島の死後、津久田原にある「源次郎の井戸」を発掘。その際、黄金の家康像や銅板地図を発見した。
水野家は智義死後も、次男の義治氏と弟の愛三郎氏が後を継いで発掘に携わる。また、愛三郎氏の次男智之氏が現在でも私財をなげうって発掘に携わっており、水野家は3代にわたって徳川埋蔵金を追いかけている事になる。
水野家以外にも、多くの民間人や組織が徳川埋蔵金の発掘に挑戦している。だが、未だに発見の報告はない。
勝海舟の日記に「軍用金として360万両有る」という記録があり、徳川埋蔵金の総額は360万~400万両と推定され、現在の価値に換算すると100億円以上と言われる。
2年前の日本政府が、この徳川埋蔵金を財源のアテにしようとした話は有名である。
もっとも最初に徳川家の御用金に目をつけたのは、明治新政府なのだが・・・
なお、これだけ多くの人が長年徳川埋蔵金に着手し未だに発掘の報告がない事から、「赤城山はおとりだった」「いや、それ以前に徳川埋蔵金自体がないのでは?」「絶対にある!」という議論が今なお続いている。
・・・ ・・・。
リナ「で? なんで【かごめかごめ】が、徳川埋蔵金とつながんのよ?」
慎吾「えぇ、こういった宝とかを隠す場合・・・
完成度の高い暗号や地図を使うケースが多いんです。
徳川埋蔵金は、この【かごめかごめ】の歌詞に・・・
そのありかを示したと、昔から言われています」
リナ「信じられないわね・・・ ただの子供の歌でしょ?」
慎吾「じゃぁ、リナ先輩。かごめかごめの歌って歌えます?」
リナ「多分、歌えると思う・・・」
かーごーめー かーごめー
かーごのなーかのとーりーはー
いーついーつでーやぁるー
よーあーけーのばーんにー
つーるとかーめがすーべったー (※ 地方によっては つるとかめ【と】 と歌われる)
うしろのしょうめんだぁーれー
特にひっかかる事もなく歌ってみせた。
慎吾「リナ先輩。この歌詞の意味わかります?」
リナ「は? 考えた事もないわ。
籠の中の鳥が出ようとしたら・・・
鶴と亀がすべって、後ろに何かある?」
慎吾「どういう意味ですか?」
リナ「全然・・・」
首を横に振るリナ。
慎吾「じゃぁ何故、リナ先輩はこの歌を歌えるんですか?」
リナ「はぁ? だって・・・ 有名だからでしょ?」
ニヤッと笑う慎吾。
慎吾「それですよ!」
慎吾はリナを指さす。
リナ「あの・・・ あんたが何言ってるかも、わかんないんだけど?」
慎吾「歌詞の意味が全くわからないのに・・・
何故、こうもう完璧に歌えるかって事です」
リナ「う~ん・・・
子供の頃から、何度となく歌ったり聞いたりしてたから?」
慎吾「そう! それが狙いです!」
リナ「 ? 」
慎吾「無血開城時の幕府は、御用金を隠す事を決意。
時が来たらまた掘り起こすつもりで・・・
必要最小限の人間以外、誰も知らぬ場所へ埋蔵した・・・」
リナ「・・・ ・・・」
無言で頷くリナ。慎吾の話に、かなりに食らいついている。
慎吾「御用金を埋めた連中が亡くなった後でも・・・
埋蔵した場所や情報を示す何かを、この【かごめかごめ】に隠した。
そして幕府は、その歌を世に広めたんです」
リナ「幕府が・・・ 【かごめかごめ】を広めた・・・?」
慎吾「はい。何でもない歌が、全国に広まるのは・・・
当時世を治めた幕府の力としか考えられない・・・
ってわけです」
リナ「でも・・・ やっぱ信じられないわよ」
慎吾「日本人の多くは、【山嵐】のヒットソングより・・・
【かごめかごめ】の方を歌えますから」
リナ「そ、そうかな・・・?」
慎吾「【山嵐】のヒットソングと違い・・・
【かごめかごめ】は作詞作曲どころか、その発祥も不明なんですよ」
リナ「む~・・・」
腕組みをし、眉をひそめるリナ。
リナ「確かに・・・ 謎の多い歌だわ・・・」
埋蔵金伝説に対し、最初全く信じていないリナだったが・・・信憑性の高い慎吾の話の後では、半信半疑になっていた。
慎吾「じゃぁ、リナ先輩は【ドナドナ】って曲知ってます?」
リナ「あー、あの子牛が売られていくよーって歌ね。知ってる知ってる」
あーるはれたー ひーるーさがりー いーちばーへつづーくみちー
にーばしゃーが ごーとごーと こーうーしーをのせーていくー
かーわーいーいこうしー うられていーくーよー
かわーいそーなひーとーみーでー みーてーいーるーよー
ドナドナドーナードーナー こうしをのーせーてー
ドナドナドーナードーナー にばしゃがゆーれーるー
リナは歌ってみせた。
リナ「あら。中学校の音楽の時間で習って以来だけど・・・
結構、歌えるものね」
慎吾「この歌、ユダヤ人がアウシュビッツに連れて行かれる歌なんですよ」
リナ「は? えっと・・・ナチスドイツに?」
慎吾「えぇ。子牛はユダヤ人。
荷馬車は、アウシュビッツへ行く車を表現してるんです」
リナ「言われてみれば・・・でも、そうだとしたら恐ろしい歌じゃん!」
慎吾「【ドナドナ】だって、何でもない歌のはずなのに誰もが歌える歌。
そういう曲には、何らかのメッセージが隠されている・・・
そういう例の1つですね」
リナ「ふ~ん・・・ 何かだんだん・・・
あんたの言う事が、すっげー正しい気がしてきたわ」
とはいえ、まだまだ完全には信じられない。
慎吾「【かごめかごめ】も・・・
メッセージが隠された歌の1つってわけですよ」
リナ「確か・・・子供の頃にやったわね、かごめかごめって遊び。
目隠しして輪の中心に座って、歌が終わった時に・・・
自分の後ろにいる人を当てる遊びだったわよね?」
慎吾「そうです」
かーごーめー かーごめー
かーごのなーかのとーりーはー
いーついーつでーやぁるー
よーあーけーのばーんにー
つーるとかーめとすーべったー
うしろのしょうめんだぁーれー
リナ「でも埋蔵金とつながるようなのって・・・
この歌詞にはないと思うけどね~ ふぁ~」
リナは大きなあくびをした。
慎吾「そもそも【かごめかごめ】の歌詞自体、不思議な表現が多いんです」
リナ「 ? 」
慎吾「まず最初の【かごめ】。
これは、籠の編み目という意味や・・・
【囲め】のなまった音、そうとらえる事もできます。
埋蔵金を何かで囲った・・・という人もいます」
リナ「それだけじゃー、話にならないわね」
慎吾「【かごのなかのとり】も、単純に籠の中の鳥ともとれるし・・・
籠の中の鳥居、つまり竹林の中にある鳥居とも。
あるいは、隠した金そのものを鳥と表現しているのかも・・・」
リナ「ふ~ん・・・」
だんだんと瞼が重く感じてきたリナ・・・。
慎吾「【いついつでやる】は、いつ出られる。つまり子供の遊びとして・・・
輪の中にいる鬼がいつ出られるという意味・・・ではなく・・・
埋蔵金がいつか出てくる・・・という意味なのかも」
熱く語る慎吾に対し、リナには眠気が襲っている。
慎吾「そして一番おかしな歌詞が次。【よあけのばんに】です。
夜明けは朝をさすのに、晩は夜をさす・・・
夜明けのような晩なのか、順番として夜明けの番なのか・・・」
リナ「・・・ ・・・」
慎吾「あるいは夜明けと晩とは、反対の意味として・・・
存在しないという意味なのか・・・・」
慎吾の催眠術のような語り口は、リナの眠気を促進させる。
慎吾「【つるとかめが滑った】。縁起の良い鶴と亀がすべるので・・・
とても悪い事ともとれるし、とてもいい事ともとれるんです。
敦賀と亀岡を統べたという事で、明智光秀の意味という人もいますし。
あるいは、埋蔵金を発見するために何かしろという意味なのか・・・」
腕組みをしたままリナは・・・
リナ「・・・ zzz・・・」
本格的に眠り始めた。
慎吾は気を遣って小さな声で語り続ける。
慎吾「そしてもう1つおかしな歌詞【うしろのしょうめんだぁれ】。
普通後ろの人を誰か聞くなら、【後ろはだぁれ?】ですむのに・・・
【後ろの正面】はおかしな表現・・・」
リナ「zzz・・・」
さらに声のトーンを落とす慎吾。
慎吾「だって、後ろは後ろだし、後ろの正面は結局自分という事に・・・
自分に向かって【だれ?】というのもおかしな話・・・」
リナはスースーと寝息をたて始めた。慎吾はすでにリナにでなく、自分自身に話しかけている。
慎吾「この歌に隠された場所は・・・
日光東照宮という興味深い説もあるんですよね~・・・
それだけでなく・・・」
・・・ ・・・。
慎吾「・・・ ・・・」
一通り話し終わった後、慎吾はリナを見て優しい視線を送った。
リナ「zzz・・・」
腕組みをしたまま、とても心地よさそうに・・・そして器用に寝ている。
今一度ニコッと笑顔を見せた慎吾は、自分のパソコンを見つめた。
慎吾「・・・ ・・・」
【TVS】【徳川埋蔵金の謎を追え】を検索ワードに、いくつかのページを読み始める。
そして・・・
翌日起こる大きな事件・・・・
その首謀者の書き込みを、目にする事になった。
(第10話に続く)
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次回予告
慎吾はTV番組【徳川埋蔵金の謎を追え!】に関するページをいくつか検索しているうち、とある掲示板にたどり着く。
そこでは、徳川埋蔵金の存在について賛否両論が展開されていた。
ふと目を覚ましたリナが、その掲示板に違う名前の同一人物がいると指摘。
そしてその人物は・・・意外な場所から、その書き込みをしていた。
次回 「 第10話 謎の同一人物 」
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