第88話:揺らめく断罪
極北の地の制圧も最終局面を迎えました。第88話では、信仰の拠り所であった神殿を舞台に、エルサが「聖女」という過去の残滓を自ら踏みにじり、主君たちの欲望を全うするための「生きた器」へと変貌を遂げる様子を描いております。
神聖な空間が蹂躙され、人々の希望が絶望へと塗り替えられていく中で、エルサが自らの意志で「呪われた偶像」であることを受け入れていく過程に重点を置きました。二人の主君による過酷な支配と、それによって引き出される彼女の倒錯した忠誠心をお楽しみいただければ幸いです。
天空を覆い尽くす極光が、白銀の雪原を不気味な紫に染め上げていた。
極北のさらに最果て、神に近いとされる「絶望の丘」の頂で、私は再び主君たちの傲岸な野望の尖兵として立たされていた。
私の四肢には、北方の神々を冒涜するかのように、敵国の聖遺物を鋳潰して作られた重い「呪いの枷」が嵌められている。
「……あ、……ぁ、……若、君……。……この、……枷が……重くて……。……膝が、……折れてしまい……そうです……っ」
「折れるがいい、エルサ。その無残に崩れる姿こそが、この地の信仰を打ち砕く。お前は今日、神に代わって我らの欲望を讃える『生きた旗印』となるのだ」
新王は、神聖な祭壇に土足で立ち、私の首首輪に繋がる鎖を、天高く掲げられた軍旗の柱へと結びつけた。
「ハハハ! 見ろ、エルサ! 天の光がお前の苦悶する姿を美しく照らし出しているぞ!」
ゼノス様が、凍てつく風にさらされた私の細い腰を引き寄せ、あえて枷の重みが食い込むように私の身体を宙に吊り上げた。
「……ぁ、……ゼノス様……。……苦しい、……のに……。……どうして、……こんなに……熱い……んですか……っ」
天空の光が激しく明滅し、私の意識は寒気と圧迫、そして主君たちに見下ろされるという至高の屈辱の中で、逃げ場のない漆黒の檻へと完全に沈み込んでいく。
「……っ、あ、……ぁ、……若、君……。……この、……氷柱……が、……冷たくて……っ」
新王は、神殿の最奥にそびえる巨大な氷の柱に私を押し付け、その細い首を太い鎖で括り付けた。
背後から伝わる万年雪の冷気が、私の薄い肌を凍りつかせ、心臓の鼓動を狂わせる。
新王は冷徹に私の顔を覗き込み、唇に指を這わせた。
「エルサ、この神殿の神は沈黙している。だが、お前がここで絶叫を上げれば、その声が新たな神託となるのだ。我らの欲望に従う、淫らな託宣がな」
新王が私の肌に冷たいナイフの刃を滑らせると、その鋭利な感覚に私は悲鳴を上げた。
だが、その声はゼノス様の豪快な笑い声にかき消される。
「ハハハ! 神が怒るなら、この女を救いに来るはずだ! だが、どうだ? エルサ。お前を抱き、熱を与えているのは、神ではなくこの俺たちだぞ!」
ゼノス様は、凍える私の太腿を強引に割り、自身の荒々しい体温を叩きつけるように押し付けた。
「……ぁ、……は、い……。……神様、なんて……、……どこにも……いません……っ。……私を、……壊して……支配して……くださるのは、……お二人……だけ……です……っ」
「くくく、聞き分けたな。お前のその冒涜的な言葉こそが、この地を征服する最後の鍵だ」
新王の冷たい接吻と、ゼノス様の野獣のような蹂躙が、私を熱と冷気の極致へと追いやる。
私は、聖なる神殿を汚す自らの鳴き声に、耐え難い陶酔を感じていた。
「……あ、……ぁ、……見て……。……あなたたちの、……信じる……神は、……私を……、……救っては……くれません……っ」
新王によって氷柱に吊るされた私は、神殿の隅で震える巫女たちの瞳に、その無残な姿を焼き付けた。
ゼノス様が私の首輪を強引に引き寄せ、わざとらしく私の肌に主君の所有印である痣を刻み込んでいく。
「見ろ、汚れなき乙女たちよ。お前たちがかつて仰ぎ見た聖女は、今や我らの足元で喘ぐだけの、ただの『物』だ」
新王の声が神殿の静寂を切り裂く。彼は私の鎖を緩め、床に崩れ落ちた私の髪を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「……はい、……若君。……皆様……、……祈りは、……無駄……です。……この、……お二人の……熱こそが、……唯一の……救い……なの……っ」
私の言葉に、巫女たちが絶望に顔を伏せ、嗚咽を漏らす。
かつての同胞を裏切り、その純潔を蹂躙される悦びに浸る私の姿は、彼女たちの精神を根本から破壊していく毒となった。
「ハハハ! その顔だ、エルサ! 絶望を撒き散らしながら、俺たちに縋るお前は、どんな宝石よりも美しいぞ!」
ゼノス様は、泣き崩れる巫女たちを見せつけながら、私の震える身体を力任せに抱き寄せた。
私は、逃れられぬ支配の鎖に繋がれたまま、聖域が崩壊していく音を最高の旋律として聞き入っていた。
神殿の背後で、かつての信仰の象徴であった聖なる大樹が、略奪の炎に包まれて爆ぜた。
極北の夜空を焦がす真っ赤な火柱が、オーロラの光をかき消していく。
新王は、神聖な祭壇を自身の腰掛けとし、その足元で鎖に繋がれた私を「服従の玉座」として、私の背中に深く体重を預けた。
「終わったな、エルサ。この地の神は死に、今や我らがこの極地の唯一の法だ。お前のその震える肩が、我らの新たな領土の基盤となれ」
新王は冷徹な眼差しで、炎に照らされた新大陸の地図を見下ろした。
私の肌には、主君の軍靴の重みと冷たさが食い込み、抗いようのない支配の重圧が全身を貫く。
「……あ、……ぁ、……若、君……。……嬉しい……です……。……私の、……身体……、……お二人の、……お座りになる……場所……に……なれて……っ」
「ハハハ! 最高の座り心地だぞ、新王! 見ろ、この女、神殿が燃え落ちる音を聞きながら、悦びに身体を熱くさせてやがる!」
ゼノス様が私の首輪の鎖を、自身の太い腕に幾重にも巻き付け、私を逃げ場のない「生きた足置き」として固定した。
「……は、い……ゼノス様……。……すべて……燃えて、しまえば……いい……。……私には、……お二人の……、……お声と……熱……さえ……あれば……っ」
私は、崩れゆく神殿の瓦礫の中で、自分を縛る鎖を愛おしむように強く抱きしめた。
極北の冷たい風さえも、主君たちの勝利を祝う凱歌のように響く。
「くくく、それでいい。エルサ、お前は一生、この支配の檻の中で我らを支え続けろ。夜明けと共に、さらなる征服への道をお前の叫びで彩ってやる」
私は主君たちの足元で、滅びゆく世界の最期を最高の特等席で見届けながら、二度と醒めることのない、深い耽溺の闇へと沈んでいった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第88話では、聖域としての神殿が崩壊し、エルサが「神の代弁者」から「支配者の道具」へと完全にその役割を塗り替えられる様を描きました。
極北の地をも手中に収めた主君たちの野望は、とどまることを知りません。
次回、第89話では、征服した大陸を横断し、伝説の「鏡の湖」へと辿り着いた一行が、湖面に映る自分たちの醜悪な欲望と、それを見て狂喜するエルサの姿を通じ、精神的な陥落の極致を描く予定です。




