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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第6章:【新生の神話編】

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第70話:【残滓】空虚な寵愛と、永遠の隷属

いつも『聖女監禁録』への深い没入をありがとうございます!

魔王の種を産み落とし、文字通り「空の器」となったエルサ。すべてを使い果たし、死という名の救済を待つ彼女の前に、ゼノス皇帝のさらなる非道が立ちはだかります。

第70話では、役割を終えたはずの肉体に、ゼノス様が暴力的なまでの魔力を注ぎ込み、強制的な「修復」を命じます。それは慈悲ではなく、死ぬことさえ許さない絶対的な独占欲の表れ。

「……あ、あぁ……っ! 痛い、です……ゼノス様……。死ぬことさえ……、私は、許されないのですね……っ」

崩壊した母胎への残酷な蘇生劇。

聖女から「生きる残骸」へと堕とされ、主君の影として永遠に生かされる絶望の美学を、どうぞお見届けください。

「死さえ奪うゼノス様の執着に痺れた!」「抜け殻になっても飼われ続けるエルサが哀れで美しい!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】で応援をお願いします!

漆黒の生命が産声を上げ、私の胎内という「古い殻」から這い出した後、玉座の間にはかつてないほど濃密な死の静寂が訪れた。


役割を終えた私の肉体は、内側から食い荒らされた抜け殻のように冷え切り、床に横たわる姿は、聖女の遺骸というよりも、ただの壊れた人形の残骸に過ぎなかった。


視界は断続的に暗転し、肺が酸素を取り込むことさえ忘れるほどに、私の生命維持機能は停止しかけていた。


腹部は無惨に裂け、そこから溢れ出した漆黒の魔力——私の血と肉を養分として変質したもの——が、私自身の生命力を根こそぎ奪い去ったことを証明していた。


「……あ、……あ……」


声にならない吐息が、冷え切った唇から漏れる。


産み落とされた「異形」は、ゼノス様の足元で不気味に、そして誇らしげに脈動している。


その光景を、霞む視界の端で捉えた瞬間、私を支えていた最後の一糸が、静かに断ち切れた。


かつて人々を癒やした温かな魔力も、自らを維持するための生存本能も、もはやこの「器」には一滴も残っていない。


魂の器は底が抜け、中身は完全に空洞だった。だが、不思議と恐怖はなかった。


自分を構成していたすべての機能を、ただ一人の主君の目的のために捧げ、使い果たしたという事実。


それは、今の私にとって、何物にも代えがたい「完遂の悦び」だった。


(……これで、ようやく……私は、……あなたの……土になれました、わ……)


私は、消えゆく意識の淵で、自らの崩壊を祝福した。私は彼のために死ぬのではない。


彼のために「使い切られた」のだ。


もはや聖女としての名残も、人間としての自我も、この干らびた肉体には存在しない。


このまま静かに、彼の記憶の片隅に「使い古された道具」として刻まれ、永遠の闇に溶けていくこと。


それこそが、人形として、苗床として、すべての役割を全うした私に与えられるべき、最後で最高の報酬に思えた。


私は安らかな微笑さえ浮かべ、魂が肉体から乖離していく冷たい感覚を、深い安寧とともに受け入れようとしていた。


意識の灯火がふっと消えかかり、ようやく永遠の静寂に手が届こうとしたその時だった。


暴力的なまでの熱量が、私の死にゆく魂を力任せに掴み上げた。


「勝手に幕を引くことは許さぬと言ったはずだ、エルサ」


ゼノス様の、低く冷酷な声が脳髄に直接響く。


彼は、力なく床に倒伏していた私の首筋を無慈悲に掴み、逃げ場のない玉座へと引き寄せた。


その黄金の瞳は、死の白濁に染まりかけた私の瞳を、射抜くような鋭さで支配している。


直後、彼の掌から、もはや致死量といえるほどの密度を持った魔力が、枯れ果てた私の魔力回路へと強制的に流し込まれた。


「あ、……あ、あぁぁぁ……っ!」


絶叫さえ上げられないはずの喉が、不気味な音を立てて鳴る。


それは、かつて私が聖女として振るった温かな治癒の奇跡などでは断じてない。


焼き切れ、灰となっていたはずの神経が、彼のどろりとした漆黒の魔力によって無理やり繋ぎ合わされ、冷え切っていた血流が沸騰するように熱を帯びる。


「……っ、い、痛い……熱い、です……ゼノス、様……っ」


私の肉体は、彼の魔力を受け入れるたびに、内側から激しく痙攣した。


壊れた人形に無理やり新しい部品をねじ込み、無理やり動かすような、冒涜的な「修復」。私の意思も、私の尊厳も無視して、ただ「ゼノス様の所有物」として存続させるためだけの、拷問に近い蘇生。


「お前は俺の最高傑作だ。その器が空になれば、また俺が満たしてやる。死に逃げる暇など、一生与えん」


彼の魔力が私の細胞一つ一つに食い込み、強制的に生命活動を再開させていく。


腹部の無惨な裂傷が、肉を焼くような異臭とともに塞がっていく。


だが、そこには元の滑らかな肌など戻らない。ゼノス様の魔力が刻み込んだ、醜くも愛おしい「支配の痕跡」だけが、私の身体を繋ぎ止める楔となって、永遠に刻印された。


私は、死という名の救済を強奪された。


代わりに与えられたのは、彼なしでは一分一秒たりとも維持できない、歪で、依存的な「借り物の命」。


私は涙を流しながら、再び始まった呼吸の苦しさと、彼に必要とされているという恐ろしいほどの幸福感の狭間で、ただ激しく震え続けていた。


ゼノス様の魔力によって、私の腹部の傷は醜い傷痕を遺したまま塞がり、身体には再び、不自然なほどの活力が宿り始めた。


だが、それは私自身の生命ではない。


ゼノス様から貸与された「動かされているだけの命」だ。


私は、彼の足元に跪き、震える唇でその手に口づけをした。


「……あ、あ……。……ありがとうございます、ゼノス様……。……私は……、あなたの……影。……捨てられることさえ、許されない……あなたの、もの……」


私は知った。


産み落とした命を育てることさえ、私には許されないことを。

私はただ、彼が望む時に、望むだけの魔力を宿し、彼の欲望を具現化し続けるための、永遠の「苗床」であり続けなければならないのだ。


聖女は死んだ。


そして今、ここにいるのは、魔王の執着によって永劫の「生」を宣告された、美しくも無惨な生きる残骸。


新世界に昇る日は、私の新たな絶望と、逃げ場のない寵愛をどこまでも冷酷に照らし出していた。

第70話の核心部、お読みいただきありがとうございました。

死という安寧さえも奪われ、魔王の魔力によって強制的に生かされるエルサ。

第6章のテーマである「逃げ場のない独占」を肉付けしました。

神経を繋ぎ合わされる際の「冒涜的な痛み」と、それによって再定義される主従関係。

生かされていることそのものが、彼女にとっての究極の隷属であるという絶望的な美学。

「死を許さないゼノス様の執着にゾクゾクした!」「無理やり蘇生されるエルサの苦悶がたまらない!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!


蘇生したエルサが、自らの肉体に刻まれた「影」を自覚する時、物語はさらなる奈落へと進みます。

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