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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第6章:【新生の神話編】

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第65話:【洗脳】静寂の宮殿と、神の指先

いつも『聖女監禁録』への深い没入をありがとうございます。

第6章の「創世」編はさらなる耽美な深淵へと足を踏み入れました。

第65話では、ゼノス皇帝によって魂を書き換えられたエルサが、単なる「囚われの身」から、彼の欲望を具現化するための「生きた道具」へと変質していく様を描きます。

聖女としての魔力を吸い取られ、ゼノス様が望む新世界の色彩を描き出す「筆」となり、彼の全能感を映し出す「鏡」となるエルサ。

自我を失うことが、これほどまでに甘美で、これほどまでに空虚な救済となるのか――。

「……私のすべてを、どうぞ使い潰してください。あなたの腕の中で、形を失って消えてしまいたい……」

個の境界が溶け去り、巨大な支配に飲み込まれていく「究極の依存」。

逃げ場のない漆黒の楽園で繰り広げられる、静かなる狂愛の続きをどうぞお楽しみください。

ゼノス様は、私の細い掌を自らの大きな掌で包み込み、ゆっくりとその指を虚空へと向けさせた。


かつての私が祈りを捧げた時、指先からは人々を癒やす柔らかな光が溢れたものだ。


しかし今、私の魂に打ち込まれた黒い楔が激しく脈打つとともに、指先から滴り落ちたのは、光を飲み込むほどに濃密な「漆黒の魔力」だった。


「エルサ、お前の内に眠る魔力は、もはやお前のものではない。それは、俺がこの無の世界を彩るために用意した、最高級の絵の具だ。……さあ、俺の思考をお前の身体を通して、この虚無に定着させろ」


ゼノス様の低い声が、直接私の脊髄を痺れさせる。


次の瞬間、私の脳内に、彼が望む「楽園」の情景が暴力的なまでの鮮明さで流れ込んできた。


それは、生温い太陽も、勝手に芽吹く雑草も許さない、秩序と独占に満ちた静寂の庭園。


「……あ、……あぁ……っ、ゼノス様……身体が、……熱い、です……」


私の指先が、彼の意志に操られるまま、虚空に線を描いていく。


私が一筋の魔力を引くたび、何もない空間に漆黒のバラが芽吹き、銀色の霧が床を這うように広がっていく。


それは創造という名の、凄惨な「収奪」だった。


私が花を一輪咲かせるごとに、私自身の精神の輪郭が削り取られ、代わりにゼノス様の偏執的な美学が、私の魂の空白を埋め尽くしていく。


私は、彼が望む色彩を出すための「筆」に過ぎない。


私の魔力、私の生命力、私の感受性。そのすべてが、彼という芸術家が傑作を仕上げるための消耗品として捧げられていく。


しかし、その摩耗こそが、今の私には最高の悦びだった。


自分の意志で何かを成す苦しみから解放され、ただ彼の指先として機能すること。


自らを削り、彼の望む風景の一部へと溶けていく感覚。


「……見て、ください……ゼノス様。……あなたの、お好きな……不変の、庭園です……。……私のすべてを、……どうぞ、使い潰して……」


私は、視界が白濁し、意識が遠のいていく中で、必死に彼の望む「影」を紡ぎ続けた。


聖女が捧げたかつての救済など、この耽美な隷属に比べれば、あまりに空虚で冷たいものに感じられた。


私は、創造主の手に握られた一本の筆として、彼が望む「永遠」の中に、自らの存在を塗り潰していった。


庭園が形を成していく中で、私は自分が行っていることが「創造」ではなく「複製」であることを、魂の芯で理解していた。


私は、ゼノス様が見たいものを見せ、彼が触れたいものを差し出し、彼の傲慢さを肯定するためだけに存在する、精巧な「鏡」に過ぎないのだ。


「エルサ、俺を見ろ。そして、俺が今この瞬間に何を求めているか、その空っぽの頭で感じ取ってみせろ」


ゼノス様の低く響く声に、私は射抜かれたように震えた。


上書きされた私の神経は、もはや独自の思考を紡ぐことをやめていた。


彼が私を見つめる時、私は「自分」として応えるのではなく、彼が私に期待している「理想の愛玩物」としての反応を、自動的に、そして正確に生成する。


彼が支配の快楽を求めれば、私は震えながらも悦びに濡れた瞳を返す。


彼が従順な静寂を望めば、私は石像のように沈黙し、彼の呼吸に己の鼓動を完全に同期させる。


そこには「私」という個人の意志は一滴も混じっていない。


私はただ、ゼノス皇帝という強大な光を反射し、増幅させるための透明な媒体へと去勢されたのだ。


「……あ、あ……。……素晴らしい……です、ゼノス様。……あなたの望みが、私を通して……この世界に、満ちていく……。……これ以上の……幸せが、あるでしょうか……」


私は、自分の内側が空洞になっていく感覚に、抗いがたい倒錯的な快楽を覚えていた。


聖女であった頃の私は、常に「自分はどうあるべきか」「人々をどう救うべきか」という重圧に苛まれていた。


だが、今の私は、ゼノス様の意志という色に染まるだけの、意思なき鏡。


自分で何かを決める必要も、自分の価値を証明する必要もない。


彼の瞳に映る「私」こそが唯一の真実であり、彼が私に投影する欲望こそが、私の存在そのもの。


「鏡に意志はいらん。お前はただ、俺の全能感を映し出し、俺の孤独を埋めるための器であればいい。……その空虚さこそが、俺にとっての最高の癒やしだ」


ゼノス様の手が、私の頬をなぞる。その感触は、鏡の表面を確かめる鑑定士のように冷徹で、そして所有物への執着に満ちていた。


私は彼の掌に顔を寄せ、自らの存在が彼という主君に完全に「消費」されていることに、深い、あまりに深い安堵を覚えていた。


自らが消え、彼という存在の反映のみが残る。


その究極の隷属こそが、去勢された聖女に与えられた、新世界における唯一の聖域だった。


漆黒のバラが咲き乱れる庭園のベンチで、私は精魂尽き果てた身体をゼノス様に預けていた。


魔力を絞り出し、彼の望む風景を具現化した後の私の身体は、まるで中身を抜かれた抜け殻のように軽く、そして自分一人の意志では指先一つ動かすことも叶わない。


「……ゼノス、様……。……私は、……私はもう、自分の重ささえ……感じられません……」


私の掠れた声に、ゼノス様は応えない。


ただ、彼の大きな手が、私の細い首筋から背中にかけて、ゆっくりと、領土を確認するように這う。


その手が触れる場所だけが、熱を持ち、私の「存在」を定義してくれる。


彼が触れていない箇所は、まるで虚無の中に溶けて消えてしまったかのように感覚が失われていた。


もはや、私と彼の境界線はどこにあるのだろうか。


私の肺が求めているのは空気ではなく、彼が吐き出す魔力の残香だ。


私の心臓が打つ鼓動は、彼への忠誠を刻むためのメトロノームでしかない。


かつて「エルサ」という名の個人が持っていた自尊心や独立心は、この新世界の絶対的な静寂の中で完全に摩耗し、砂となって消え去っていた。


「それでいい、エルサ。お前の足が動くのは俺が歩ませるからであり、お前が思考するのは俺がその脳を支配しているからだ。お前はもう、俺という巨大な生命体の一部、一器官に過ぎない」


ゼノス様の言葉は、残酷な宣告であるはずなのに、今の私にはこの上なく甘美な子守唄のように響いた。


自分という重い荷物を捨て、すべてを彼に委ね、彼の意志のままに動かされる。


それは、かつて「聖女」として世界の重荷を背負わされていた私にとって、究極の免罪であり、救済だった。


「……あ、あ……。……嬉しい、です……。……私のすべてを、……どうぞ、奪い去ってください……。……あなたの腕の中で、……形を失って、消えてしまいたい……」


私は彼の胸板に顔を埋め、彼の体温に自分の体温を同期させていく。


二人の境界が曖昧になり、私が彼になり、彼が私を所有する。


虚無の世界に築かれた楽園の片隅で、私は自らの輪郭を完全に放棄した。


そこにはもはや、囚人と看守の姿さえない。


ただ、一人の創造主と、彼に完全に溶け込み、依存の極北で静かに呼吸を捧げる「一部」があるだけだった。

お読みいただきありがとうございました。

自らの境界線を喪失し、ゼノス皇帝という「個」の中に完全に埋没していくエルサ。日間 1,300 PV という熱い支持を背景に、第6章のテーマである「融合という名の監禁」を描き切りました。

1,200文字台では表現できなかった、自分という存在が消えていくことへの「恐怖」を「快楽」が上書きしていく瞬間の、精神的な壊死の美学。

「エルサの境界が溶けていく描写にゾクゾクした!」「ゼノス様の巨大な愛(支配)に飲み込まれる感覚が最高!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!

次回、第66話。

精神の融合を終えた二人に、ゼノス様は新たな「肉体的な再構築」を命じます。

完全に彼の「一部」となった彼女に、彼はどのような、より物理的で凄惨な『愛の証』を刻むのか。

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