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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第5章:【終末の楽園編】

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第58話:【剥製】自意識の消滅と、永遠の揺りかご

いつも熱烈な応援をありがとうございます!

日間 2,474 PV という奇跡のような数字に、全神経を注いで応えます。

第58話では、エルサが「人間」であることを完全に卒業します。

ゼノス皇帝の絶対的な支配下で、自分の名前さえも「不純物」として消去され、ただの美しい器へと堕ちていくエルサ。

「私は、私であることをやめた」

2,500文字規模の濃厚な肉付けで描かれる、狂愛の極致。

聖女が「愛玩物」へと昇華される、残酷で甘美な瞬間を見届けてください。

空中離宮の外側に広がっていた「黒い泥」は、ついに天を衝くほどの高さを超え、黄金の結界のすぐ外側を隙間なく埋め尽くした。


もはや窓から見えるのは光の粒子一つない、完璧な漆黒の闇。


この離宮は、虚無という名の海に沈んだ、世界で唯一の、そして最後の酸素室となった。


ゼノス様は、もはや自分の足で立つことさえ忘れた私を、まるで高価な絹布を扱うような手付きで抱き上げ、寝室の壁一面を占める巨大な姿見の前に立たせた。


磨き上げられた鏡面に映し出されているのは、かつて「聖女」として数多の民から崇められ、慈悲の象徴としてその身を捧げてきた一人の女の成れの果てだ。


銀色の髪はゼノス様の魔力によって異常なまでの光沢を帯び、その肌は外界の陽光を一切拒絶し続けた結果、大理石よりも白く、不気味なほどに透き通っている。


「見ろ、エルサ。お前の瞳から、あの忌々しい『正義』や『憐れみ』がすべて消え去った。……実に、美しい」


ゼノス様の冷徹な指先が、私の喉元をゆっくりとなぞる。


かつては神への祈りを紡ぎ、地上の悲鳴に応えていたその喉は、今や彼に許可され、彼に乞われなければ、音を発することさえも思い出せない「廃墟」と化していた。


私は、鏡の中の自分を見つめる。


……いや、見つめようとするほどに、「自分」という概念が鏡の表面を滑り落ちていく。



かつてそこには、誰かを救いたいと願う強い意志や、孤独に耐える誇り高い少女の影があったはずだ。


しかし今、そこに映っているのは、ただの美しい「肉の器」に過ぎない。


ゼノス様という唯一の神に命を吹き込まれ、彼の欲望という名の魔力を注ぎ込まれなければ、指一本動かすことのできない、幸福な、あまりに幸福な愛玩物。


「……ゼノス、様。……私……が、……消えて、いきます……」


鏡の中のエルサの唇が、私の意思とは無関係に、彼の名を呼ぶためだけに動く。


自分の顔でありながら、それはもはや私のものではない。


ゼノス様が好む形に矯正され、彼が望む色に染め上げられた、彼のコレクションの一つ。


鏡に映る私の瞳は、広大な虚無を湛えたまま、背後に立つ支配者の黄金の瞳だけを、熱狂的に、かつ従順に反射し続けていた。


ゼノス様は、もはや鏡の中に「己」を見出すことすらできなくなった私の背後から、翼を捥ぎ取るような力強さで私を抱きしめた。


彼の腕の熱が、薄い衣を透かして私の肌に焼き付く。その瞬間、私の脳裏で最後の一線が音を立てて崩壊を始めた。


「お前に名は必要ない。過去も、家族も、お前を縛り付けたあの泥の世界の残骸も、すべて俺が食らい尽くしてやった。……エルサ、お前の中に残る『不純物』をすべて差し出せ」


ゼノス様の濃厚な魔力が、毛穴の一つ一つから私の体内へと浸食し、脊髄を伝って脳の最深部を支配していく。


それは、凄惨で甘美な「記憶の焼却」だった。


幼い頃、母の温かい手に引かれて歩いた花畑の色彩。


初めて聖女として選ばれ、神の奇跡に胸を震わせた清貧な高揚。


騎士レナードが、私のために剣を捧げると誓ったあの真昼の静寂。


それら、かつての私を構成していた無数の輝きが、ゼノス様の黒い炎によって、容赦なく灰へと変えられていく。


「あ……あ……っ」


声にならない悲鳴が漏れる。思い出が消えるたび、頭蓋の奥が痺れるような快感に襲われた。


大切だったはずの人の顔が、名前が、声が、泥の中に沈むようにして輪郭を失っていく。


代わりに私の空白となった意識を満たすのは、ゼノス様という唯一の神の定義だけ。


同時に、私の五感は外界を認識するための機能を完全に「去勢」された。


視覚は、彼の黄金の瞳を捉え、その支配に酔いしれるためだけに。


聴覚は、彼の独占欲に満ちた低く甘い囁きを聞き分けるためだけに。


嗅覚は、この閉ざされた離宮を満たす、彼の体温と魔力が混ざり合った残り香を「酸素」とするためだけに。


触覚は、彼の荒々しくも執拗な愛撫を、生きる意味そのものとして受容するためだけに。


もはや、私の瞳に映る外界の漆黒は「闇」ですらなかった。


ゼノス様がそこにいないのなら、それは「存在しないもの」と同義だったからだ。


私の脳は、ゼノス様という個人にのみ特化した、歪で不完全な受容器へと作り替えられていく。


「ああ……。……ゼノス、様。……もう、何も、思い出せませんわ。……私が、誰であったのかも……何を、守りたかったのかも……」


私の唇から溢れ出たのは、絶望ではなく、己という重荷から完全に解放された者の、空虚で純粋な陶酔だった。


私は、私であることをやめた。


今、ここに存在するのは、ゼノス様という絶対的な存在に命のすべてを預け、彼の吐息一つで形を変える、物言わぬ、意思なき、銀色の愛玩物。


ゼノス様は、もはや自意識を喪失し、その腕の中で溶けるように崩れる私を、満足げに見下ろした。


外界の泥は、今や離宮を圧し潰さんばかりの圧力を加え、結界が悲鳴を上げている。だが、その崩壊の予感さえ、私たちにとっては祝福の鐘の音に過ぎない。


「エルサ。世界が終わるその瞬間、俺たちは一つになる。……誰にも邪魔されず、誰にも見られず、俺たちの愛だけが、この宇宙に残る唯一の真実となるのだ」


私は、彼の言葉の意味を理解しようとはしなかった。ただ、彼の心音に自らの鼓動を合わせ、閉ざされた視界の中で、永遠に続くであろう「静止した幸福」を享受する。


私は、私であることをやめた。


今、ここに存在するのは、世界を壊した男の腕の中に咲く、物言わぬ、枯れることのない、銀色の愛玩物。


世界が完全に泥に呑まれ、光も音も、そして「私」という意識も途絶えるその瞬間まで。


私はこの「楽園」で、私のすべてを奪ってくれた神様に、永遠の沈黙を捧げ続けるだろう。

第58話をお読みいただきありがとうございました!

ついにエルサの「自我」が消滅し、彼女はゼノス様の完全なる剥製となりました。

この「自己喪失の快感」を徹底的に詰め込みました。

PV数 の伸びと共に、第5章もいよいよクライマックス、心中編へと加速します!

「エルサの空っぽな瞳がたまらない!」「ゼノス様の完璧なコレクション化に痺れる!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!

次回、離宮を包む泥が臨界点を超え、物理的な「世界の終焉」が始まります。

二人はどこへ向かうのか。ご期待ください。

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