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追放された万能薬師は、隣国の冷徹皇帝に溺愛される  作者: La Mistral
第5章:【終末の楽園編】

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第57話:【遊戯】虚構の残響と、壊れた愛玩

いつも熱烈な応援をありがとうございます!

物語は第5章の核心——エルサの「完全なる剥製化」へと突入します。

今回は、ゼノス皇帝が用意した残酷な「遊び」が描かれます。

かつての世界の音を聞かされ、それを「不快なノイズ」として拒絶するエルサ。

「……止めてください。この音は、私をあなたから引き離そうとする呪文のようですわ」

聖女が「人間」であることを完全に放棄する瞬間を、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。

空中に浮かぶ離宮は、いまや漆黒の泥の海にぽつんと取り残された、唯一の輝ける墓標だった。


窓の外には、かつてエルサが愛した四季折々の色彩も、風にそよぐ麦の穂も存在しない。


ただ、命を食らい尽くした泥が静かに波打つ、永遠の静寂があるだけだ。


その静寂を切り裂くように、ゼノスは寝台でまどろむエルサの耳元へ、古びた銀色の魔導具を置いた。


「エルサ、聞いてみるがいい。これが、お前がかつて慈しみ、守ろうとした世界の『残響』だ」


ゼノスの細い指が起動スイッチに触れる。


漏れ聞こえてきたのは、かつての帝都の喧騒だった。


朝の市場で交わされる威勢のいい呼び声、石畳を叩く馬蹄の音、遠くで響く教会の鐘、そして――。


『聖女様、ありがとうございます。あなた様のおかげで、孫の病が治りました』


老婆の震える、感謝に満ちた声。


かつてのエルサなら、その一言のために自らの魔力を削り、身を粉にして尽くしたであろう「善意」の結晶。


しかし、いまのエルサにとって、それは鼓膜を逆撫でする不快な雑音に過ぎなかった。


「……ゼノス様、止めて。お願いです……」


エルサは眉をひそめ、真綿のような枕に顔を埋めた。その声は震え、拒絶に満ちている。


「この音は……私の頭を、内側から掻き乱す不浄な毒です。騒がしくて、浅ましくて……私を、あなた様との神聖な沈黙から引き離そうとする、呪いのように聞こえますわ」


その答えを待っていたと言わんばかりに、ゼノスは満足げに喉を鳴らして笑った。


彼は無造作に魔導具を掴むと、大理石の床へと叩きつけた。硬質な音を立てて砕け散る銀の破片は、そのまま塵となって消えていく。


「そうだ、エルサ。それはもはや、この世のどこにも存在しない死者たちの遺言だ。お前を無能と蔑み、聖女として搾取し、最後には泥の中に置き去りにしたゴミ共の残骸だ。あんなものに、お前の清らかな耳を貸す価値などない」


ゼノスは砕けた破片を視界から外すと、エルサの細い指先を一本ずつ、儀式を執り行う司祭のような手つきで手繰り寄せた。


彼の熱い舌が指先を這うたび、エルサの脳裏にこびりついていた「市場」や「風」という概念が、物理的な苦痛を伴って削ぎ落とされていく。


「お前の耳に必要なのは、俺の愛の囁きだけ。お前の目に必要なのは、俺の体温の揺らぎだけだ。

それ以外の不純な情報は、俺がすべてこの世界から焼き尽くしてやろう」


ゼノスが指先をかすめると、エルサを覆っていた豪奢な絹の衣が、幻影のように霧散した。


剥き出しになった白磁の肌に、ゼノスは自らの魔力を糸として紡ぎ、直接「光の拘束具」を織り上げていく。


それは服ではなく、彼女の肉体と魂をゼノスの意思に繋ぎ止めるための、生きた回路だった。


編み込まれる光の糸が肌に食い込むたび、エルサの心拍はゼノスの鼓動と重なり、体温すらも彼の支配下に置かれる。


自分一人で立っているという感覚が消失し、意識がとろけていく。


「……ああ、ゼノス様。……もっと、私を壊してください。……言葉を奪い、光を奪い……ただ、あなた様を映し出すためだけの、空っぽな鏡にして……」


エルサはうわ言のように繰り返した。


彼女にとって、個としての意志を持つことはもはや耐え難い苦痛であり、ゼノスという絶対的な存在に塗り潰されることこそが、唯一の救済だった。


「飲め、エルサ。これがお前の『人間』としての終焉だ」


ゼノスは自らの鋭い犬歯で指先を噛み切った。溢れ出したのは、神々しいまでの光を放つ金色の血液。


彼はその指をエルサの震える唇へと運び、一滴、また一滴と、その芳醇な神血を彼女の喉へと流し込んだ。


「お前の中に残っている不純物を、俺の血ですべて浄化してやる。お前はもう、人間ですらなくなるのだ」


喉を通る熱い衝撃。


その瞬間、エルサの視界は真っ白な閃光に包まれ、彼女を繋ぎ止めていた最後の一線――「自我」という名の枷が崩壊した。


かつて聖女として地脈を癒し、世界を救うために巡らせていた純真な魔力は、いまやゼノスの欲望を糧として増幅する「歪んだ触媒」へと変質し、彼女の胎内で狂おしく渦巻いている。


外界でどれほどの命が泥に消えようと、歴史という名の物語がいかに無惨に途絶えようと、今の彼女には何の関係もなかった。


「……私は、だれ……? いいえ、そんなことはどうでもいいのですわ……」


エルサの瞳からは、かつての知性も慈悲も消え失せていた。


ただ、色彩を失ったその瞳に映り込んでいるのは、世界を壊し、自分という「個」を完膚なきまでに破壊して救ってくれた、美しき狂神の姿だけ。


彼女は自分という名前すら忘れ、ゼノスの腕の中で、ただ呼吸を繰り返すだけの、完成された「愛玩物モノ」へと成り果てた。


静まり返った離宮の中で、二人は外界との絆を完全に断ち切り、永遠に続く閉鎖的な悦楽の底へと、静かに沈んでいった。

第57話をお読みいただきありがとうございました!

ついにエルサは、かつて守ろうとした人々の声さえも「不浄なノイズ」として切り捨てました。

ゼノス様の血を飲み、その魂までもが彼の色に染まっていくエルサの姿に、これまでの 1,200文字台 では描き切れなかった「純粋な狂気」を詰め込みました。

PV数 の伸びと共に、二人の閉鎖的な関係は、いよいよ「心中」のその先、永遠の静止へと向かいます!

「エルサの従順な壊れっぷりが最高!」「ゼノス様の独占欲をもっと浴びたい!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!

次回、静止した楽園に訪れる、文字通りの「最後の朝」。

物語はついに、誰も立ち入ることのできない領域へ。

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