第56話:【胎内】無音の朝と、神の指先
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日間 2,474 PV という驚異的な支持を受け、物語は第5章 の「完成された終焉」を描き続けます。
第56話は、外界が完全に消滅した後の、最初の朝のエピソードです。
言葉を失い、感覚を奪われ、ゼノス皇帝の愛撫だけを真実とするエルサ。
「……そんな世界、私は知りませんわ」
二人の「永遠の胎内」を心ゆくまでご堪能ください。
地上の最後の一人が泥に呑まれ、世界から「悲鳴」という名の雑音が完全に消失した翌朝。
空中離宮を包む静寂は、もはや耳が痛くなるほどに濃密で、絶対的なものとなっていた。
エルサは、ゼノス皇帝の腕の中で目を覚ました。
かつての彼女にとって、朝は地脈の腐敗を確認し、救いを求める民のために祈りを捧げる「戦い」の始まりだった。
しかし、今の彼女にとっての朝は、ゼノスという名の神に抱かれ、自分が彼の所有物であることを再確認するための「儀式」に過ぎない。
窓の外は、ゼノスが作り出した黄金の光以外、何も存在しない。
空も、大地も、かつての祖国も、すべては均一な「黒い無」へと収束している。
「……おはよう、エルサ。……気分はどうだ? 外の世界が消え去り、ようやくお前を汚すノイズがすべて排除された。この静寂こそが、お前に相応しい揺りかごだ」
ゼノスの低い声が、エルサの首筋を震わせる。
彼女はその熱に甘えるように、自ら彼の胸に顔を埋めた。
彼女の肌は、ゼノスの魔力が織り込まれた衣によって常に微かな熱を帯び、外界の冷気や不浄を一切寄せ付けない。
それはもはや、衣服というよりは、ゼノスの愛が形を成した「第二の皮膚」であった。
「……ゼノス様。……静かですね。……とても、心地よいです。……あんなに騒がしかった世界が、嘘のようですわ」
エルサの語彙は、日に日に削ぎ落とされていた。
複雑な感情を語る必要も、誰かのために祈る言葉も、今の彼女には不要だった。
彼女の唇が紡ぐのは、ゼノスへの肯定と、彼を求めるための断片的な音節だけ。
ゼノスは満足げに、彼女の銀髪を指に絡め、その一本一本に魔力を注ぎ込んでいく。
「お前が覚えておくべき言葉は、俺の名だけでいい。お前を救い、壊し、この楽園を与えた、俺という存在の定義だけを、その魂に刻んでおけ」
彼は、エルサの指先を一つずつ口に含み、かつて彼女が「救済」のために使ったその手を、自分を愛でるためだけの「愛玩物」へと再定義していく。
その行為に、エルサは抗うどころか、底なしの恍惚を感じていた。
自分という個我が、ゼノスという巨大な存在に浸食され、溶け出し、一体化していく感覚。
それは、聖女としてどれほど高潔な祈りを捧げても得られなかった、究極の「解放」だった。
離宮の中には、時間の流れさえも存在しない。
ゼノスの魔力によって静止したこの空間で、二人は老いることもなく、失うこともなく、永遠に「今」を繰り返し続ける。
「エルサ。……もし、もう一度だけあの泥の世界が戻ってくるとしたら、お前はどうする?」
意地の悪い問いに、エルサは空虚な、しかし確信に満ちた瞳で彼を見上げた。
「……そんな世界、私は知りませんわ。……私の世界は、この腕の中……あなたの体温がある、ここだけですもの」
その答えは、もはや教育の結果ではなく、彼女の魂が選んだ真実だった。
外で何が滅びようと、どれほどの歴史が灰になろうと、この「胎内」のような温かな牢獄がある限り、彼女は世界で一番幸福な女でいられる。
ゼノスは彼女を深く、壊さんばかりに抱きしめ、無音の楽園に自らの心音だけを響かせた。
それは、世界を滅ぼした男と、世界を捨てた聖女が奏でる、終わりのない心中神話の序曲であった。
第56話をお読みいただきありがとうございました!
ついにエルサの認識から、かつての「世界」の概念が完全に消え去りました。
この逃げ場のない甘い窒息感。
PV数 の伸びと共に、二人の閉鎖的な関係も極致へと向かいます!
「エルサの従順さがたまらない!」「ゼノス様の執着、もっと見せて!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!
次回、静止した楽園に、ゼノス様が用意した「最後の遊戯」。
二人の愛は、どこまで堕ちていくのか。ご期待ください。




