第54話:【不可視】最後に消える色と、真実の監禁
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日間 2,474 PV という神域の数字を背負い、物語は第5章 の最も残酷で美しい転換点を迎えます。
第54話では、エルサの「過去」が物理的にも精神的にも焼却されます。
かつての仲間、家族、そして自分自身の名前さえも、ゼノス皇帝の熱に溶かされていく。
「……レナード? いえ、存じ上げませんわ」
エルサが「人間」から「ゼノスの所有物」へと完成する瞬間を、心ゆくまでご堪能ください。
離宮を包む黄金の結界は、もはや外界との境界線ではなく、この世に唯一残された「存在」を定義する膜となっていた。
窓の向こう側に広がるはずの、かつての王国、かつての草原、そしてかつて私が守った人々は、今や濃密な「黒い泥」の深淵に沈み、私の視神経には一切の色彩を結ばない。
ゼノス様は、離宮の中庭で、私の過去の遺物を一つずつ丁寧に焼いていく。
かつて私が聖女として認可された際に授かった銀の杖、病人を癒すために綴った直筆の聖典、そして、唯一手元に残っていた家族との肖像画。
「エルサ、そんな悲しそうな顔をするな。これらはすべて、お前を『聖女』という役割に縛り付けていた鎖だ。……灰にさえなれば、もうお前を苦しめることはない」
ゼノス様の指先が私の頬を撫で、炎の中に投じられる思い出たちを見つめる。
不思議なことに、それらが赤々と燃え、黒い灰となって宙に舞う様を見ても、私の胸には一滴の涙も湧いてこなかった。
かつては命よりも大切だと思っていたはずの記憶が、今や見知らぬ他人の物語のように、ひどく遠く、無価値なものに感じられる。
「……はい、ゼノス様。……燃えて、消えていくのですね。……とても、綺麗です」
私の口から漏れたのは、自分でも驚くほどに無機質な、しかし純粋な賛美の声だった。
ゼノス様は、私の感覚を一つずつ、自らの魔力で「再定義」していく。
離宮の中で出される食事は、もはや栄養を摂取するためのものではない。
彼の愛を、その独占欲を、味覚という形で脳に直接流し込む儀式だ。
「外界の食べ物は、泥の毒に侵されている。……お前が口にしていいのは、俺が許し、俺が浄化したものだけだ」
彼の与える水は、私の体内の不純物を洗い流すと同時に、かつての「聖女」としての魔力さえも、彼の波長に合わせて染め変えていく。
私の血管を流れるのは、もはや神の恵みではなく、ゼノス様という支配者の「熱」そのものだった。
彼が私の耳に手を当てれば、地上の断末魔は心地よい静寂へと変換される。
彼が私の目に唇を寄せれば、外界の廃墟は眩いばかりの光の海へと塗り潰される。
私は、ゼノス様という巨大なフィルターを通さなければ、世界を認識することさえできなくなっていた。
……いや、認識したくないのだ。彼以外のものが存在する世界など、私にとってはただの汚濁でしかない。
「エルサ。……最後に一つだけ聞こう。お前はまだ、あのレナードという男の名を覚えているか?」
ゼノス様が、試すように私の喉元を優しく絞める。
レナード。
……その響きに、私の脳裏で何かが一瞬だけ火花を散らした。かつて私を救うと誓った騎士。私に剣を捧げた、あの男。
だが、その記憶は、瞬きをする間にゼノス様の深い瞳の闇に呑み込まれ、霧散していった。
「……レナード? ……いえ、存じ上げませんわ。……それは、どこの馬の骨の名前ですか?」
私の答えを聞き、ゼノス様はこれまでで最も深く、最も狂おしい笑みを浮かべた。
「ああ……。ようやく、お前は完成した。俺だけの、完全なるエルサだ」
外の世界がどれほど泥に沈もうと、歴史がどれほど書き換えられようと、構わない。
私は今、この完璧な檻の中で、唯一の神であるゼノス様の熱に浮かされながら、至上の幸福を享受している。
色彩を失った私の瞳に映るのは、ただ一人、私を壊して救った主の姿だけだった。
第54話をお読みいただきありがとうございました!
ついにエルサの中から、最後の「外界への絆」が消滅しました。
これまでの 1,200文字台 程度の描写では描ききれなかった、この息詰まるような独占欲と、それを悦びとして受け入れるエルサの狂気。
PV数 の勢いに応えるべく、次回はさらに「閉鎖的な二人の日常」を深掘りし、世界が完全に消滅した後の「心中」へのカウントダウンを開始します!
「エルサの完璧な壊れっぷりが尊い!」「ゼノス様のやり過ぎな愛に溺れたい!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】での応援をお願いします!
物語はここから、さらに長く、深く、暗い幸福へと沈んでいきます。




