第53話:【忘却】色彩の消滅と、鼓動の神話
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日間 2,474 PV という圧倒的な勢いのまま、物語は第5章の深淵へと潜っていきます。
第53話は、エルサの「精神的な去勢」が完了に近づくエピソードです。
外界の記憶、言葉、そして人間としての感覚さえも、ゼノス皇帝の魔力によって一つずつ「削除」されていくエルサ。
「あんな汚らわしい場所、最初からなかったのだわ」
聖女が完全に「ゼノスの私物」へと昇華される様を、圧倒的な肉付けでお届けします。
空中離宮の結界を叩く地上の悲鳴は、もはや風の音にさえ混じらなくなった。
かつて聖女として愛した世界は、今や厚い「黒い泥」の層に覆われ、光を反射することすら忘れた死の惑星へと変貌を遂げている。
離宮の寝室に差し込む光は、太陽のものではない。
それはゼノス様が、私の瞳が濁らぬようにと魔力で精製した、純粋すぎるほどに無機質な「黄金の疑似光」だ。
私は、ゼノス様の腕の中で目を覚ます。
彼の指先が、私の銀髪を梳く。その感触だけが、私が「生きている」ことを証明する唯一の輪郭だった。
かつての私は、朝になれば地脈の状態を憂い、民の安否を祈っていた。
だが、今の私には「明日」という概念すら希薄だ。
ゼノス様が私を見つめるこの「今」という瞬間が、永遠に引き延ばされ、円環のように繰り返されることだけが、私の望みのすべて。
「エルサ、また外を思い出そうとしているのか? 愚かなことだ。あそこにはもう、お前の名を呼ぶ舌も、お前の奇跡を奪おうとする手も、何一つ残っていないというのに」
耳元で囁かれる冷徹な声。
それは以前の私なら「呪い」と感じたはずの言葉だったが、今の私には、どんな聖歌よりも優しく、救いに満ちた「福音」として響く。
食事も、衣服も、この部屋を満たす香りさえも、すべてはゼノス様が選び抜いたものだ。
私の味覚は、彼が与える甘い果実と、彼の魔力が溶け込んだ水以外を「不浄」として拒絶するよう作り替えられていた。
外界の不格好な野菜や、血生臭い肉の味など、もはや想像するだけで吐き気がする。
「……ゼノス様。……私の肌は、あなたの体温以外の熱を知りたくありません。私の鼻は、あなたの残り香以外の空気を吸いたくありません。どうか……もっと、私を壊して、あなたの色だけで塗り潰してください」
私の言葉に、ゼノス様は満足げに目を細め、私の首筋に刻印を刻むように深く口付けた。
彼の魔力が私の体内に流れ込むたび、私の脳裏から「言葉」が一つずつ消えていく。
かつて学んだ神学の知識、地脈を癒すための複雑な術式、そして……私を「聖女」と呼んだ、憎き者たちの名前。
それらは、ゼノス様という巨大な太陽に焼かれ、灰となって消え去っていく。
ゼノス様は私を抱き上げ、離宮の最端にある「虚無の窓」へと連れて行く。
そこから見える地上は、もはや地図の体を成していなかった。
すべては均一な「黒」に塗り潰され、時折、最後に生き残った異形たちの断末魔が、泡のように弾けては消える。
「見ろ、エルサ。あれがお前が命を懸けて守ろうとした世界の末路だ。醜く、泥を啜り、最後には俺という唯一の『正解』に淘汰される。……お前は、あの泥の中に帰りたいか?」
「……いいえ、ゼノス様。……あんな、汚らわしい場所、最初からなかったのだわ」
エルサの瞳に、絶望はなかった。
あるのは、自分を愛し、壊し、すべてを奪うことで完璧な「幸福」を与えてくれた男への、盲目的な狂信。
世界が死に絶えようとも、この離宮だけは、ゼノス様の執着によって「永遠」を保ち続ける。
私は、彼の胸に顔を埋め、外の世界の終焉を、他人事のように、心地よい子守唄を聞くようにして、眠りに落ちていった。
第53話をお読みいただきありがとうございました!
ついに世界から色が失われ、エルサの認識はゼノス様という「点」にまで収束しました。
これまでの 1,279文字 程度の描写では伝えきれなかった、この息苦しいまでの執着と美しさを感じていただけたでしょうか。
PV数 の伸びと共に、エルサの「壊れっぷり」も加速しております!
「エルサの空虚な瞳に惹かれる!」「ゼノス様の完璧な支配をもっと!」と思われましたら、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】をお願いします!
次回、滅びた世界に「奇跡」を求めて現れる、最後の不純物。
ゼノス様がいかにそれを排除し、楽園を完成させるのか。ご期待ください。




