第5話:皇帝陛下の「特別なお茶」
第5話です!
皇帝ゼノス様、実は結構お疲れ気味だったようで……。
エルサの「おもてなし」が、彼の冷徹な仮面を少しずつ剥がしていきます。
帝国での生活二日目。
私はゼノス様に恩返しをするため、離宮のキッチンを借りました。
カバンの中に残っていた、王国で「捨てろ」と言われた古い茶葉。それに私の魔力で少しだけ『鮮度』を注ぎ込み、温度を微調整した特製のハーブティーを淹れます。
「ゼノス様、昨日の御礼です。お口に合うか分かりませんが……」
執務室で険しい顔をしていたゼノス様が、私の淹れた茶を口にした瞬間。
彼の全身が、淡い、透き通るような光に包まれました。
「……っ、これは……!? 体中の魔力が活性化し、視界が恐ろしいほどにクリアになる。長年の疲労が、たった一口で消え去っていくようだ」
ゼノス様はカップを見つめ、震える声で問いかけます。
「エルサ、これはどんな幻の薬草を使ったのだ? 伝説の『世界樹の雫』か?」
「いえ、その辺の引き出しにあった、去年の残りの茶葉ですよ? ただ、淹れる時に少しだけ『ゼノス様が元気になれー』って念じただけです」
「……念じた、だけ……だと?」
ゼノス様は頭を抱えて沈黙してしまいました。
傍らにいた宮廷魔導師たちが、
「ありえない……国宝級の魔力回復薬を遥かに凌駕している……」
「あれだけの高純度の魔力を、お茶に定着させるなんて神業だ……」と、
顔を真っ青にして囁き合っているのが聞こえます。
「エルサ。お前、自分がどれほど恐ろしいことをしているか分かっているのか?」
「えっ、お茶が苦すぎましたか!? すみません、すぐに捨てて作り直します!」
「捨てさせるか! 一滴たりとも、他の誰にも渡さん……! これは、俺だけのものだ」
ゼノス様は、奪い取るようにしてカップを飲み干しました。
その耳が少しだけ赤くなっていることに、私はまだ気づいていませんでした。
「捨てさせるか!」と必死なゼノス様。
完全にエルサの胃袋(とお茶)に掴まれてしまいました。
一方、平和な帝国とは裏腹に、捨てた方の王国ではとんでもないことが起きています……。




