第42話:【模造】偽りの聖女と、無機質な慈悲
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昨日2/20、ついに 2,474 PV という大台を突破いたしました!
本日2/21も、その熱気を維持したまま、物語はさらに苛烈な「断罪」へと進みます。
第42話は、かつてエルサを虐げ、今やその名を騙る「偽聖女」たちへの徹底的な報復回です。
「あんな卑しい泥の中に、何かが動いているのですか?」
聖女としての慈悲を失い、ゼノス皇帝の所有物としてのみ生きるエルサ。
数万の命が光に消える様を、特等席から眺める二人の狂愛を、圧倒的な肉付けでお届けします。
外界が黒い泥に呑まれ、腐敗した悲鳴が離宮の幾重もの結界に届くたび、ゼノス皇帝はそれをエルサを愛でるための、甘美で残酷な「スパイス」として利用していた。
離宮の中は花の香りに満ちているが、一歩外へ視線を向ければ、そこには絶望という名の地獄が完成しつつあった。
地上では、飢えと病に絶望した民衆を扇動する「偽聖女」たちが、毒キノコのようにその勢力を拡大させていた。
彼女たちはエルサの象徴であった銀の髪を模したカツラを纏い、安っぽい手品のような術法で濁った水を一時的に清めて見せることで、行き場を失った民衆の信仰を貪っていた。
その中の一人、かつてロザリア王国でエルサを「無能のなり損ない」と嘲笑い、地下室へ追いやった神官の娘であるセシルは、今や数万の暴徒と化した信徒を抱える「救世の象徴」へと成り上がっていた。
「愛する民よ! 本物の聖女は、あの狂った暴君ゼノスに無残にも殺されました。ですが、彼女の慈悲深き意志は、今この私に宿っています! さあ、天に浮かぶ不浄の離宮を引き摺り下ろし、我らが手で『真の聖女』を奪還し、神罰を下すのです!」
セシルが掲げる旗印は、正義という名の「略奪」に過ぎなかった。
かつて自分たちがエルサに浴びせた罵声を忘れるため、彼女たちは新たな「偶像」を担ぎ上げ、天を仰いでその醜い殺意を向ける。
それは、救いを求める声というよりは、自らの罪を塗り潰そうとする亡者の咆哮であった。
ゼノス様は、エルサを膝の上に抱き寄せると、離宮の床一面を「下界の透視図」へと作り替えた。
足元に広がるのは、数万の人間が蠢き、松明を掲げて呪詛を吐き散らす、泥沼のような光景だ。
「……エルサ、よく見るがいい。あそこでお前の名を叫び、聖女の再来を気取っているあの女……見覚えがあるだろう? お前が冷たい地下室で飢え、孤独に震えていた時、教会の窓から笑いながら腐った残飯を投げつけていた、あの神官の小娘だ」
ゼノス様の腕の中にすっぽりと収まったエルサは、床に映し出されるセシルの必死な形相を、何の感情も宿さない無機質な、硝子玉のような瞳で見下ろした。
かつてのエルサであれば、たとえ偽りであっても、それによって民の心が一時でも救われるならと悲しげに微笑んだかもしれない。
あるいは、自分を虐げた相手であっても、その身に降りかかる危難を案じて祈りを捧げたかもしれない。
だが、今の彼女に備わっているのは、ゼノス様による徹底した「浄化」と「教育」によって純化された、彼という存在への全人的な執着だけであった。
「……見えません、ゼノス様。あんなに醜く、卑しい泥の中に、何か動いているものがあるのですか? 私には、ただの汚れた染みが、騒がしく蠢いているようにしか見えません」
エルサの、あまりにも静かで冷徹なその言葉に、ゼノス様は歓喜のあまり、彼女の喉元に鋭い牙を立てるように深く、深く口付けた。
「ああ、そうだ。その通りだ、エルサ。お前にとって、あれは羽虫ですらない。ただの不快なノイズ、掃除されるべき不浄な染みだ。……主人の庭を汚す羽虫には、それ相応の消毒が必要だな」
ゼノス様が指先を優雅に、死を宣告するように僅かに動かす。
その瞬間、離宮の底部に集積された膨大な魔力が、黄金の奔流となって地上へと放たれた。
それは、愚かな民衆が待ち望んだ救済の光などではない。
触れたものすべてを、その魂の根源から分子レベルまで分解し、この世界に存在したという記憶の記録さえも焼き尽くす、絶対的な「抹消」の輝きであった。
地上で歓喜の雄叫びを上げ、偽りの奇跡に縋り付いていたセシルと数万の信徒たちは、自分が何に貫かれ、なぜ消えていくのかさえ理解できぬまま、一瞬にして黄金の灰へと霧散した。
叫び声さえ残らない、静寂だけが支配する焦土。
「これで、お前の偽物は地上から一人残らず消え去った。エルサ、お前を汚し、お前の名前を口にする不遜な存在は、俺がすべてこの世から消し去ってやる。お前を知るのは、俺だけでいい」
「……ありがとうございます、ゼノス様。……少し、眩しかったです。私の世界には、あなたの体温と、この部屋の明かりだけで十分ですわ」
エルサは、足元で数万の命がゴミのように消し飛ばされたことよりも、自分の視界を一瞬遮った閃光の眩しさを疎むほどに、その魂を凍りつかせていた。
外の世界がどれほど地獄に変わり、生命の灯が絶えようとも、ゼノス様の腕の中だけが、彼女にとって唯一の「神域」であり、真実。
二人は、黄金の灰が雪のように舞い散る地上を冷淡に見下ろしながら、さらに閉鎖的で、狂気に満ちた悦楽の深淵へと、溶け合うように没入していった。
第42話をお読みいただきありがとうございました!
かつての仇敵を「認識すらしない」という、エルサの精神崩壊とゼノス様への同化。
物理的な破壊よりも残酷な、この「無関心」という名の断罪を楽しんでいただけたでしょうか。
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次回、滅びゆく世界で唯一残された「希望」が、いかにして絶望に変わるのか。
物語をさらに引き延ばし、皆様を深い監禁の沼へと引きずり込んでいきます。




