第39話:【忘却】名前を失った聖女と、永遠の揺り籠
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昨日2/19の日間 2,198 PV という熱狂に背中を押され、物語はさらに深い監禁の深淵へと進みます。
第39話は、ゼノス皇帝による「存在の抹消」の物語。
国を滅ぼすだけでは飽き足らず、歴史から彼女のルーツすらも消し去る暴君。
「今日から、お前を知る者はこの世界で俺一人だ」
誰の記憶にも残らない、ただ一人の男のためだけに存在する少女。
エルサが外界との繋がりを完全に断たれ、空中離宮という名の「檻」に迎え入れられてから、どれほどの月日が流れたのだろうか。
窓を失い、時間という概念さえもゼノス皇帝の魔力によって選別されたこの空間において、暦は何の意味も持たなかった。
朝も夜も、季節の移ろいさえも。今の彼女にとっての「時間」とは、ゼノスが注ぐ愛の密度と、その腕の中で微睡む長さによってのみ計測される、歪んだ尺度でしかなかった。
「エルサ、良い報せだ。……今日、この地上から『ロザリア』という忌々しい言葉を口にする者は、一人もいなくなったぞ」
ある日、寝台でまどろむエルサの銀糸のような髪を、陶器を扱うような手つきで愛おしげに梳きながら、ゼノス様は静かに、しかし確信に満ちた声で告げた。
彼の報復は、単なる物理的な破壊に留まるほど生温いものではなかった。
彼は、エルサを虐げた故国の残党を根絶やしにするだけでは飽き足らず、アステリア帝国の全領土において「ロザリア」という国名の記述、発言、そして地図上のあらゆる記録をすべて禁じ、組織的に抹消するという狂気の挙に出たのだ。
古い書物は焚書され、公文書からはその名が削り取られ、歴史の教科書からは該当するページが丸ごと失われた。
かつての聖女がどこで生まれ、どのような苦難を舐め、誰に地下室へ閉じ込められていたのか。
その客観的な事実を知る者は、今やこの離宮の深奥にいる二人だけとなった。
「お前を『無能』と蔑んだ過去も、お前を『聖女』と祭り上げた民衆の身勝手な祈りも、すべては灰になった。……今、この世界にお前という存在を知り、定義できるのは、俺一人でいい」
ゼノス様は、彼女の首筋に深く、永遠に消えない刻印を刻みつけるように、吸い付くような熱い口付けを落とした。
外界において、彼女は「存在しなかった」ことになったのだ。歴史から消え、戸籍から消え、人々の記憶からも体系的に消滅させられた。
彼女はもはや、帝国の慈悲深い皇后ですらなくなった。
ただ、ゼノスという一人の暴君のためだけに存在し、彼にのみ呼吸を許され、彼の視界の中でのみ形を成す、名もなき「愛玩物」へと純化されていく。
「お前に名前はいらない。お前のルーツも、お前の歩んできた道も必要ない。……お前は俺の肋骨から生まれた、俺の一部としてここにいればいい」
その声は、甘美な子守唄のようでありながら、彼女の自我をじりじりと溶かしていく強酸のような毒を含んでいた。
ゼノス様は、エルサという一人の人間を救い出したのではない。
世界という巨大な母体から彼女を引き剥がし、自分という個体の中に、完全に「同化」させようとしていたのだ。
エルサは、その恐ろしい報告を聞いても、もはや驚きも悲しみも感じなかった。
彼女の記憶もまた、ゼノス様の魔力によって日々上書きされ、緩やかに塗り替えられていたからだ。
辛かった過去が消えることは、彼女にとって一時の救いだったのかもしれない。
だがその代償は、自分という存在そのものを彼に差し出すことだった。
「……はい、ゼノス様。私は、あなたの腕の中だけで生まれて……この閉ざされた光の中で、死んでいくのですね」
「死なせない。……たとえ時が止まろうとも、神を殺してでも、俺がお前を永遠に繋ぎ止めてやる。お前が朽ちることを、俺の魔力が許さない」
ゼノス様はエルサの足首に輝く、重厚な黄金の魔力鎖を指先で愛おしげに弾いた。
心地よい金属音が、遮音された部屋に虚しく響く。
それは彼女を逃がさないための拘束具であり、同時に、外界の汚らわしいノイズから彼女の魂を守り抜くための、世界で最も強固な盾でもあった。
太陽の眩しさも、吹き抜ける風の冷たさも、踏みしめる土の匂いも、今の彼女には遠いお伽話のような、実体のない残像に過ぎない。
ただ、肌に触れるゼノス様の体温と、絶え間なく注がれる狂愛だけが、彼女にとっての世界のすべて。
二人は、光さえ選別された「黄金の揺り籠」の中で、永遠に終わることのない、そして二度と覚めることのないまどろみへと、深く沈んでいった。
第39話をお読みいただきありがとうございました!
ついに「ロザリア」という名前すらこの世から消えてしまいました。
物理的な隔離、精神的な汚染、そして歴史的な抹消。ゼノス様の独占欲は、ついに神の領域にまで達しようとしています。
おかげさまで、本日2/20も朝から 255 PV と絶好調です!
「ゼノス様のやり過ぎな愛がたまらない!」「エルサが完全に染まっていくのがいい!」という方は、ぜひ【★評価】や【ブックマーク】で応援をお願いします!
皆様の声が、次なる「永遠の檻」への原動力となります!




