第38話:【汚染】甘美な毒と、逃れられぬ褥
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第38話は、亡霊が去った後の「寝室」での一幕。
わずかでも「外」の男に触れられそうになった事実が、ゼノス皇帝の狂気を引き金にします。
「あいつの視線がこびりついている。……その熱で奴の記憶を焼き切れ」
聖女の体だけでなく、思考のすべてを塗り潰そうとする皇帝。
逃げ場のない褥で繰り広げられる、濃密な執着愛をお楽しみください。
カイルという名の亡霊が、底の見えぬ影の深淵へと引きずり込まれ、その悲鳴さえもが塗り潰された後。
静寂が戻ったはずの寝室には、彼が持ち込んだ「外」の湿った空気が、不浄な澱のように漂っていた。
それはゼノス皇帝にとって、愛する聖域に一滴の毒を落とされたも同然の、耐え難い汚染に他ならなかった。
「……まだ、あいつの臭いが部屋の隅々にまで染み付いているな。エルサ、お前は無自覚だろうが、その清らかな肌には今、あいつの卑屈で醜悪な視線がこびりついている。俺以外の不純物が、お前を汚しているんだ」
ゼノス様は、エルサを柔らかな寝台へと、抗う隙も与えず力任せに押し倒した。
カイルが触れようとした、雪のように白い彼女の細い手首。
そこを骨が軋み、砕けるほどの強さで掴み上げると、自らのどす黒く、沸騰するような魔力を容赦なく注ぎ込んでいく。
「あ……っ、ゼノス様……あ、熱い、です……芯から、体が、燃えて……っ」
「熱いか。なら、その熱でお前の記憶に刻まれた奴の残像も、その手首に残る不快な感触も、すべて根こそぎ焼き切れ。俺以外の男がお前に触れようとした罪を、その身、その魂の奥深くまで、生涯消えぬ熱として刻んでやる」
エルサの肌が、内側から激しく脈打つような紅潮に染まっていく。
それは単なる物理的な拒絶反応ではない。
ゼノス様の魔力が彼女の体内にある「聖女の力」を強引に、かつ慈しみを持って侵食し、彼女の存在すべてを「ゼノスという色」へと塗り替えていく、甘美な疼きであった。
ゼノス様は、エルサが身に纏っていた薄い絹の衣服を無慈悲に引き裂き、露わになった彼女の四肢を、隅々まで検分するように指先でなぞった。
彼の黄金の瞳には、慈しみ以上に、愛する獲物を誰にも、たとえ視線一つさえも許さないという捕食者の、狂気的な執念が宿っている。
「バルディアも、ロザリアも、もはやこの地上には塵一つ、その名前すら残ってはいない。だが、まだ足りない。お前の頭の中に残る『外』の風景、かつて救おうとした愚民どもの顔……それらすべてが、俺に対する不敬だ」
彼はエルサの耳元で、抗いようのない甘い毒薬のような声で囁き続ける。
「お前を閉じ込めるのは、この離宮という物理的な檻だけではない。お前の思考、お前の感覚、その指先が触れる感触から、吸い込む空気の純度に至るまで、俺という巨大な檻に閉じ込める。お前が目にする光、お前が認識する真実、そのすべてを俺の許諾なしには存在させない」
彼が放つ黒い魔力の霧が、寝室の壁を越え、空間そのものを隔離していく。
エルサにとって、この腕の中以外には「虚無」しか存在しないのだと、彼女の細胞一つ一つに叩き込むような、暴力的なまでの愛。
エルサは、ゼノス様の激しい抱擁に翻弄されながら、自身の視界が白く、あるいは彼の色である深淵の黒に塗り潰されていくのを、法悦の中で感じていた。
かつて地下室の冷たい床で、祈るように夢見た「救済」。
それは今、自分を狂おしく愛し、そして世界から完全に抹消し独占しようとする暴君の腕の中で、この上なく歪んだ、しかし絶対的な形となって結実しようとしていた。
「……はい、ゼノス様。私を……もっと深く、形がなくなるまで壊してください。あなたがいない世界など、最初から色のない虚無だったのだと……そう、信じさせて……」
エルサが縋り付くように彼の逞しい背に爪を立て、己の存在を彼に刻み込もうとすると、ゼノス様は満足げに、勝利した獣のような深い愉悦の唸り声を上げた。
聖女と呼ばれた少女の自我が、皇帝の執着という名の猛毒にじりじりと溶かされ、一つになっていく。
窓を失い、月明かりさえも拒絶された楽園で、二人は終わりなき夜の深淵へと、二度と浮き上がれぬほど深く、溶け合うように沈んでいった。
第38話をお読みいただきありがとうございました!
物理的な監禁を超え、ついにエルサの「精神」までもがゼノス様の色に染まり始めました。
壊れゆく聖女と、それを悦ぶ皇帝。この歪んだ関係の深化にゾクゾクしていただけたでしょうか。
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