第37話:【断罪】身勝手な救済と、終わりの口付け
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第37話は、ロザリア王国の生き残りが「エルサを救い出す」という身勝手な正義を掲げて現れます。
ですが、今のエルサにとって、その手は救いではなく「静寂を壊すノイズ」でしかありません。
ゼノス皇帝が、その「希望」をいかに無慈悲に踏みにじるのか。
逃げ場のない愛の深化を、どうぞご覧ください。
バルディア公国が消滅し、外界との接触を完全に断たれた空中離宮。
窓を失い、黄金のシャンデリアが放つ永遠の光だけが支配するその空間は、ゼノス皇帝がエルサのために作り上げた、完璧なまでの閉鎖的楽園へと変貌していた。
深い静寂が横たわる離宮の深奥。ゼノスが公務で席を外したわずかな隙を突き、寝所の影から一人の男が這い出した。
カイル。
かつてロザリア王国でエルサを「妹」として慈しむ振りをしながら、彼女が地下室へ家畜のように送られる際、自らの地位を守るために沈黙し、目を逸らし続けた騎士団の生き残りだ。
「エルサ……! 無事か! 今、助け出してやる!」
カイルは、己の過去の罪悪感を「正義」へと身勝手にすり替え、英雄然とした顔でエルサの細い手首を掴もうとした。
彼にとって、これは「悲劇の聖女を救い出す自分」という物語に酔い痴れるための、吐き気を催すほど独りよがりな救出劇だった。
だが、カイルの手が彼女の肌に触れるより早く、エルサは冷めた、氷のように無機質な瞳で彼を射抜いた。
その瞳には、再会の喜びも、ましてや彼が期待していたような「救いへの渇望」も、欠片ほども存在しない。
「……カイル様? なぜ、ここにいらしたのですか。誰の許可を得て、私の安寧を乱すのですか」
その声は、平穏な監禁生活を汚されたことへの、決定的な拒絶。
「何を言っている! 狂った皇帝に囚われ、窓もない部屋に押し込められているんだろう!? さあ、こんな地獄から今すぐ……!」
カイルが叫び、無理やり彼女を連れ出そうとした瞬間、寝室の温度が急激に下がり、重苦しい死の魔力がその場を圧殺した。
「外、か。……俺の許可なく、俺の庭に泥足で踏み込んだ報いが、それほど軽いと思ったのか」
闇の中から染み出すように現れたゼノス様は、エルサを背後から抱きしめ、その喉元に鋭い爪を立てるような危うさで彼女を独占した。
カイルは剣を抜こうとしたが、指一本動かすことができない。ゼノス様が放つ圧倒的な威圧感が、彼の魂を直接握り潰していた。
「ゼノス様。……この方は、私を『救い出す』と言っています。かつて私を見捨てたその手で、今さら私に触れようとしているのです」
エルサが、ゼノス様の胸に頬を寄せながら淡々と告げる。
その言葉は、カイルにとって、どんな極刑よりも残酷な絶望だった。
「救う? 飢えさせ、蔑み、地下室に放り込んだ貴様らが、どの面でそれを口にする。お前たちが求めているのは彼女の救済ではない。自分たちが生き残るための、薄汚い『許し』という自己満足だろう」
ゼノス様が指先を僅かに動かすと、カイルの足元から這い出した影の触手が、彼の四肢を容赦なく絡め取った。
「エルサ、見ろ。これが『正義』を語る者の末路だ。奴らはお前を愛しているのではない。お前という『偶像』が欲しいだけだ。だが、お前は偶像ではない。……俺という獣に飼われる、一人の女だ」
影に消えゆくカイルの絶望的な悲鳴が響く中、ゼノス様はエルサの顎を強く掬い上げ、逃げ場を塞ぐように深く、深く口付けた。
「お前を救うのは、俺だけだ。お前を愛し、お前を閉じ込め、お前を壊すのは、俺一人でいい」
エルサは、その狂おしい執着に身を任せ、自分を救おうとした亡霊のことなど、一瞬で記憶の彼方へ追いやった。
この窓のない、光さえ選別された檻こそが、彼女にとって唯一の真実となったのだ。
第37話をお読みいただきありがとうございました!
「助けに来た」という言葉が、今のエルサには届かない。
ゼノス様の独占欲が、彼女の精神すらも完全に塗り替えてしまった瞬間でした。
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