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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第85話:神を騙る工房と、歪な生命

#### 地獄への階段


黒曜石の門の先に続いていたのは、どこまでも深く、暗い、螺旋状の階段だった。

壁からは、生命のない瘴気が、冷たい汗のように滲み出し、その中に混じる、無数の植物たちの、か細い『悲鳴』が、アークの魂を苛む。

どれほど、下っただろうか。

やがて、階段の先に、禍々しい紫色の光が漏れる、広大な空間が見えてきた。

アークとカエルは、息を殺し、その光景を、物陰から覗き込んだ。

そして、二人は、自らの目を疑った。


#### 偽りの奇跡の生産現場


そこは、神殿ではなかった。

聖堂のように、高い天井を持つ、巨大な地下空洞。だが、そこに満ちていたのは、祈りではなく、冒涜だった。

空間の中央には、心臓のように脈動する、巨大な黒水晶――**第三の『陰の世界樹の破片』**が、無数の、気味の悪いパイプラインに接続され、宙吊りにされていた。

その動力炉から汲み上げられた瘴気は、パイプラインを通じて、壁際にずらりと並んだ、巨大なガラスの水槽へと送り込まれている。

水槽の中では、本来であれば、芽吹くことすらないはずの、様々な植物の種子が、瘴気を養分として、異常な速度で、美しい花を咲かせていた。

そして、その花を、白衣をまとった神官たちが、家畜を仕分けるかのように、手際よく収穫し、地上の庭園へと運んでいく。

聖なる場所のはずが、そこには、腐臭と薬品の匂いが混じった、不快な空気が淀んでいた。そして、耳を澄ませば聞こえてくる。水槽の中で、無理やり咲かされる花々の、声なき**『断末魔』**が。

生命を強制的に促成栽培する、神を騙る**「魔法植物工場」**。

アークは、その、あまりにも非人道的で、冒涜的な光景に、言葉を失い、ただ、奥歯を強く噛み締めた。


#### 歪な生命


その時だった。

工房の奥から、鉄の檻を引きずる、重い音が聞こえてきた。

「――おい、今日の『廃棄物』だ。処分しておけ」

神殿騎士が、無感情に言うと、檻の中から、一体の、悍ましい「生き物」が、引きずり出された。

それは、屈強なオークの体に、巨大な蝙蝠の翼を、無理やり縫い付けたかのような、歪な合成獣キメラだった。その瞳には、知性の光はなく、ただ、絶え間ない苦痛と、狂気だけが宿っている。その狂気の瞳の奥に、ほんの一瞬、かつてオークであった頃の、故郷の森を懐かしむかのような、微かな**『哀しみ』**の色がよぎったのを、アークは見逃さなかった。


「……実験の、失敗作か」

カエルが、息を呑む。

この工房は、植物だけでなく、動物、いや、あるいは、人間すらも、その実験材料としているのだ。


警報が鳴り響く。どうやら、別の場所で、侵入者を感知したらしい。

神殿騎士たちは、舌打ちをすると、「こいつを番犬代わりに放しておけ」と吐き捨て、慌ただしく、工房の奥へと走り去っていった。

後に残されたのは、アークたちと、鎖から解き放たれ、ただ、苦痛のままに、暴れ狂う、哀れなキメラだけだった。


#### 安息の抱擁


グルオオオオッ!

苦痛の咆哮を上げ、キメラが、アークたちへと、その歪な爪を振りかざして、襲いかかってくる。

カエルが、咄嗟にクナイを構える。

だが、アークは、その前に、静かに、進み出た。

彼の瞳に宿っていたのは、敵意ではない。自らと同じ、生命ある者への、あまりにも深い「憐憫」だった。


「……もう、いいんだ。もう、苦しまなくていい」


アークは、その震える手を、キメラへと、そっと差し伸べた。

「土に、還ろう。僕が、君を、弔ってあげる」

「**『安息の抱擁リリーシング・エンブレイス』**!」


アークの手から放たれたのは、浄化の茨だった。

だが、それは、敵を縛る、暴力の枷ではない。

茨は、まるで母親が、傷ついた子を抱きしめるかのように、暴れ狂うキメラの体を、どこまでも、どこまでも、優しく包み込んでいく。

キメラの、苦痛に歪んでいた顔が、その、あまりにも温かい光に触れ、ほんの一瞬だけ、穏やかなものへと変わったように見えた。

茨は、その体を蝕んでいた、全ての瘴気を、優しく吸い上げ、浄化していく。そして、その役目を終えた肉体を、静かに、光の粒子へと分解させ、大地――この、工房の、冷たい石の床へと、還していった。

それは、戦闘ではない。

一つの、歪められた魂を、その永い苦しみから解放し、弔うための、神聖な**「葬送の儀式」**だった。

そして、その光の粒子が消えた後の、冷たい石の床の上には、まるで、その魂が見た最後の夢のように、一輪の、小さな、白い野花が、健気に咲いていた。


#### 創造主の怒り


後に残されたのは、絶対的な静寂だけだった。

アークは、キメラが還っていった、冷たい床を、静かに見つめていた。

そして、ゆっくりと、顔を上げた。

その、栗色の、平凡な少年の瞳。その奥で、これまで、決して見せることのなかった、絶対零度の、静かなる「怒り」の光が、燃え盛っていた。

その瞬間、この工房に満ちていた瘴気が、まるで、より格上の、絶対的な『理』の到来を恐れるかのように、微かに、揺らいだ。


(……許さない)


彼の使命は、今、完全に、変質した。

破片を盗み、レオを救う?

違う。

こんな、生命を弄び、冒涜する、偽りの楽園そのものを、この、世界の理から、完全に**「消去」**する。


アークは、工房の中心、禍々しい光を放ち続ける、動力炉――第三の破片を、真っ直гуに見据えた。

「カエルさん。行こう」

その声は、もはや、気弱な少年「アッシュ」のものではなかった。

自らが創り出した、全ての生命の涙を背負い、神を騙る偽善者に、鉄槌を下すことを決意した、若き**「創造主」**の声だった。


***


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