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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第84話:闇夜の潜入と、眠りの胞子

#### 闇夜の進軍


新月の夜。

『奇跡の聖庭園』は、偽りの美しさを闇に溶かし、今はただ、不気味な静寂に包まれていた。

その、人の気配が消えた庭園を、まるで影そのものが動いているかのように、二つの小さな人影が、音もなく、滑るように進んでいく。

栗色の髪の少年「アッシュ」と、その護衛「カイ」。

アークとカエルだった。


カエルの、獣じみた土地勘と隠密術が、張り巡らされた警備網の、僅かな死角を完璧に見つけ出す。アークの『植物脈のソナー』が、遠くの巡回兵の足音を、事前に、正確に察知する。

二人の、それぞれの専門分野における天才的な能力が、完璧に噛み合い、彼らは、誰にも気づかれることなく、ついに、目的の場所――地下施設へと続く、巨大な黒曜石の門の前へと、たどり着いた。

カエルが、時計代わりの星の位置を確認し、アークにだけ聞こえる声で、囁いた。

「……アーク様。計算通り。あと二分で、警備の交代。ここから十五分が、我々に許された、唯一の時間です」


#### 生きた結界


アークは、静かに頷いた。

目の前には、石像のように佇む、二人の『聖別の番人』。

(……ここまでは、設計図通りだ)

アークは、記憶していた、結界解除の詠唱を、静かに、しかし、はっきりと、口ずさみ始めた。


『――偽りの月よ、その眠りを解き、真実の道を、一瞬だけ示せ』


その、瞬間だった。

アークの全身を、これまで感じたことのない、強烈な違和感が襲った。

(……なんだ、これは!?)彼の脳裏に映し出された光景に、思考が凍りつく。(彼らは、番兵じゃない。結界を維持するための、生きた**『心臓』**そのものだ! 触れた瞬間に、殺した瞬間に、この心臓は止まり、最大級の悲鳴を上げる! ……詰みだ。完璧な、チェックメイトじゃないか…!)

進めば、警報。

退いて、彼らを無力化しようとすれば、その瞬間に、生命力の供給が途絶え、やはり、警報が作動する。

完璧に見えた設計図に、存在しなかった、あまりにも致命的な、最後の罠。


#### 即興の奇跡


絶体絶命。その、コンマ数秒の思考の中で、アークの脳は、転生してから最も高速で回転していた。

(意識と生命活動は別系統。神経伝達を阻害し、意識だけを刈り取る麻酔…! だが、そんな繊細なものを、今、この場で…!)常人であれば、いや、この国最高の魔術師ですら、不可能と断じるであろう、即興の奇跡。だが、彼は、やるしかなかった。


彼は、懐から、道中で採取していた、強い催眠作用を持つ『眠り茸』の欠片と、風に乗って運ばれてきた、タンポポの綿毛を、掌の中で握りしめた。

「**『種子合成』**!」

即興で、彼は、新たな魔法の種子を創り出す。


「カエルさん!」

アークは、完成した、掌の上の、微細な胞子を、カエルに見せた。

「これを、あの二人に、気づかれずに、吸わせること、できる?」

その、あまりにも無茶な要求。だが、カエルは、その意図を、瞬時に理解した。

彼は、無言で頷くと、風下に回り込み、小さな竹筒を、静かに構えた。


アークは、その胞子に、最後の意志を込める。

(眠れ。でも、死ぬな。魂の繋がりは、そのままに、意識だけを、深い、深い、霧の底へ――)


ふっ、と。

アークが、掌の上の**『浅眠りの胞子ソムヌス・スポア』**を、夜風へと解き放つ。

カエルの竹筒から放たれたのは、もはや風ではなかった。それは、騎士たちが無意識に行う、僅かな呼吸の乱れ、その一瞬の吸気を完璧に捉え、狙い澄まして胞子を滑り込ませる、神業の**『軌道』**だった。


二人の騎士は、微動だにしない。

だが、アークの『生命系統の診断』だけが、その内側で起きた、神業的な奇跡を、確かに捉えていた。

彼らの、魂に宿る「意識」の光だけが、ふっ、と、穏やかに、眠りへと落ちていく。

だが、門へと繋がる、生命力のラインは、これまでと、何一つ変わることなく、安定して、流れ続けている。


#### 偽りの門の先へ


「……今だ」

アークは、再び、詠唱を再開した。

今度は、何の抵抗も、違和感もない。

彼の言葉に応え、門のルーンが、静かに光を放ち、そして、ゴゴゴゴゴ……と、重い音を立てて、黒曜石の門が、内側へと、ゆっくりと、開かれていった。

門の奥からは、これまでとは比較にならないほど、濃密な瘴気と、冷たい空気が、まるで地獄の息吹のように、溢れ出してくる。

そして、その瘴気の中に混じって、微かに、しかし、確かに聞こえてきた。無数の植物たちが、苦痛に呻く、か細い**『悲鳴』**が。


アークとカエルは、互いの顔を見合わせると、固い決意と共に、頷き合った。

そして、二人は、ついに、敵の本拠地の、その心臓部へと続く、暗く、冷たい、その階段を、一歩、踏み出すのだった。


***


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