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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第80話:王都への道と、名もなき聖者の奇跡

#### 揺れる世界


乗合馬車は、ガタガタと音を立てながら、王都へと続く街道を、ゆっくりと進んでいった。

栗色の髪を持つ、平凡な少年「アッシュ」として、その荷台に揺られながら、アークは、生まれて初めて、自らが創り上げた「陽だまり」の外の世界を、その目に焼き付けていた。


道中、いくつもの村を通り過ぎた。

そこに、ライナス男爵領のような、奇跡の光景はどこにもなかった。畑は痩せ、冬の備えのために、人々は必死に働いている。子供たちの服は、皆、繕いの跡があり、その頬は、決して豊かとは言えない。

そして、どの村の中心にも、例外なく、白亜の教会がそびえ立ち、人々は、その鐘の音と共に、祈り、働き、眠りについていた。精霊教会。それは、人々の心の支えであると同時に、この国の隅々にまで根を張った、抗いがたい巨大な「理」そのものだった。


「……これが、僕らの村の外の、本当の景色なんだね」

アークの呟きに、隣に座るカエルが、無言で頷いた。


#### 黒枯病の村


旅が始まって、一週間が過ぎた頃。

馬車は、ある、ひときわ寂れた村で、一晩、宿を取ることになった。

その村は、明らかに、何らかの災厄に見舞われていた。畑の作物は、まるで墨を塗ったかのように、黒く枯れ果て、村の唯一の水源であるはずの井戸は、淀んだ緑色に変色し、微かな腐臭を放っている。

家々の扉は固く閉ざされ、村全体が、深い絶望の沈黙に支配されていた。

「……『黒枯病』だ」

同乗していた行商人が、顔を青ざめさせて呟く。「一度、この病に憑かれた村は、神に見捨てられた土地。あと数ヶ月もすれば、ここには、骸しか転がっておらんようになる……」


その夜、アークは、宿屋のベッドの上で、眠れずにいた。

壁の向こうから、幼い子供の、弱々しい咳が、途切れ切れに聞こえてくる。それは、かつて、母が苦しんでいた、あの音と、よく似ていた。

(ダメだ、今は動けない。僕一人の軽率な行動が、村のみんなを、ディアナさんを、全ての計画を危険に晒す…!)

頭では、わかっている。だが、壁の向こうから聞こえる、あの、母を苦しめたのと同じ、か細い咳が、彼の理性を、容赦なく責め立てる。

(……世界の未来? 最後の破片? そんな、遠い未来の話のために、今、目の前で、消えそうなこの命を、見捨てろと? ……できるわけが、ないだろう!)


#### 夜陰の奇跡


深夜。アークは、静かにベッドを抜け出すと、カエルと共に、闇に包まれた村へと、足を踏み出した。

彼は、まず、黒く枯れた畑の土を、一掴み、手に取った。そして、淀んだ井戸の水を、小さな瓶に汲み上げる。

研究室に持ち帰ると、彼は、その土と水を、自らの魔法で、静かに「鑑定」した。

『――カビの一種だ。特殊な菌類が、土の栄養を、根こそぎ奪っている。井戸の中は、毒性を持つ、プランクトンの異常発生』


原因がわかれば、答えは、ある。

アークは、彼の知識と、魔法の全てを、その一点に集中させた。

彼は、二種類の、全く新しい**『処方箋レメディシード』**を、その場で『種子合成』していく。

一つは、土壌を蝕む菌類だけを殺し、同時に、大地に栄養を与える**『浄化クローバー』**の種子。

もう一つは、井戸水の中で、毒性プランクトンだけを、選択的に吸収・分解する**『聖水蓮ホーリー・ロータス』**の種子。

さらに彼は、その聖水蓮に、もう一つの設計を組み込んだ。井戸という閉鎖水系で爆発的に繁殖し、毒性プランクトンを完全に分解し尽くした-後、自らは、数日で水に還って消滅する、という**『世代管理』**の理を。


アークとカエルは、再び、闇夜の村へと繰り出した。

二人は、まるで風になったかのように、全ての畑に、クローバーの種子を、ごく自然に、撒いていく。そして、村の中心にある井戸に、アークは、たった一粒の、聖水蓮の種子を、そっと、落とした。

最後に、彼は、ごく微量の魔力を、大地と水脈へと流し込む。それは、ただ、眠っている種子を起こすだけの、誰にも気づかれない、優しい「目覚まし時計」。


#### 名もなき聖者の伝説


翌朝。

乗合馬車が、再び、王都へと向かって、出発しようとしていた。

その、瞬間だった。

「……み、見ろ!」

村人の、一人の、驚愕の叫び声が、朝の静寂を破った。


村人たちが、恐る恐る、外へと出てくる。そして、目の前の光景に、言葉を失った。

昨日まで、黒い死に覆われていたはずの畑、その全てが、まるで緑色のビロードを敷き詰めたかのように、瑞々しいクローバーの若葉で、覆い尽-くされていたのだ。

そして、誰かが、井戸の水を汲み上げる。

その水は、昨日までの淀んだ緑色ではなく、水晶のように、どこまでも、どこまでも、透き通っていた。

一人の老婆が、震える手でその水を汲み、口に含んだ。そして、その皺だれけの顔から、何年ぶりかもわからない、大粒の涙を流した。

「……水が…甘い……」

その、か細い一言が、村全体の、歓喜の号泣の、始まりだった。


「おお……神よ……!」

「精霊様が、我らをお見捨てにはならなかったのだ!」

村人たちは、その場にひれ伏し、涙を流しながら、天へと祈りを捧げた。


馬車の荷台で、その光景を、静かに見つめる、栗色の髪の少年。

彼が、その奇跡を起こした張本人であることを、知る者は、誰もいない。

アークは、ただ、心の中で、静かに呟いた。

(……よかった)


やがて、馬車は、再び、ゆっくりと走り出した。

そして、その道の、遥か、遥か彼方。

陽光を反射して、白く輝く、巨大な都市のシルエットが、地平線の向こうに、ついに、その姿を現した。

それは、単なる都市ではなかった。無数の尖塔が、まるで神への忠誠を競うかのように天を突き、その中心で、白亜の大聖堂が、慈悲の仮面を被った、絶対的な権威として、大地に君臨していた。

アークの、最後の戦いの舞台は、もう、目の前だった。


***


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