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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第76話:水葬の王女と、魂の庭樹

#### 水中の霊廟


重い石の扉が、完全に開かれた。

その先に広がっていたのは、一行の想像を、あらゆる意味で超越した世界だった。

そこは、魔法によって守られた、巨大なドーム状の空間。外の黒い海水とは完全に隔絶され、どこまでも清浄で、穏やかな真水で満たされていた。そして、その水中を、壁面に群生する『深海苔』と、天井から吊り下げられた巨大な真珠が、まるで満月の夜のように、蒼く、静かに照らし出していた。

水底には、美しい白亜の石畳が敷かれ、その中央には、ひときわ巨大な、乳白色に輝く、一つの巨大な**真珠の棺**が、静かに安置されていた。


一行は、アークが創り出した『空気根』の蔓を伝い、霊廟の内部へと、静かに侵入した。アークの魔法が、彼らの周囲に、呼吸を可能にする、薄い空気の膜を形成している。

一行の耳に届くのは、自らが纏う空気の膜が、清浄な水と触れ合う、微かな泡の音だけ。それは、まるで世界の胎内にいるかのような、絶対的な静寂だった。

あまりにも美しく、あまりにも荘厳で、そして、あまりにも哀しい、王族の霊廟。


#### 哀しき守護者


一行が、中央の棺へと近づいた、その時だった。

棺から、これまでとは比較にならないほど、濃密で、そして、魂を直接握り潰すかのような、深い「哀しみ」の奔流が、溢れ出した。

それは、もはや感情ではなかった。物理的な質量を持った**『哀しみ』の津波**。仲間たちの脳裏に、愛する者を失う絶望、故郷が沈む無力感といった、彼女が数千年味わい続けた地獄が、幻覚となって叩きつけられる。


そして、棺の上に、すうっと、半透明の、美しい少女の霊体が姿を現した。

銀色の長い髪、蒼い瞳、そして、今は失われた古代王国の、荘厳なドレス。

だが、その美しい顔に、表情はない。ただ、その瞳からは、数千年間、決して涸れることのなかったであろう、絶望の涙が、静かに流れ落ちていた。

『……還れ……還れ……我が眠りを、妨げるなかれ……』

彼女は、この都の最後の王女。そして、自らの魂を牢獄として、この地に、第二の破片を封印し続けてきた、気高き守護者だった。

だが、永すぎる時は、彼女の魂を、破片の瘴気で蝕んでいた。もはや、彼女に、正気はない。


王女が、その白い手を、一行へと差し向ける。

すると、周囲の水が、彼女の哀しみに呼応するかのように、無数の、鋭い氷の矢へと姿を変え、一行へと襲いかかってきた。

「くっ!」

アルフォンスが、盾を構え、仲間たちを守る。だが、氷の矢は、無限に再生され、一行を、じわじわと追い詰めていく。

「アーク! このままでは! 心を鬼にして、あの霊体を……!」

兄の、苦渋に満たた声。


だが、アークは、静かに首を振った。

彼の瞳には、王女の魂の奥底に、今もなお、か細く燃え続ける、気高い「使命の光」が、確かに見えていた。

「……違うよ、兄さん。彼女は、敵じゃない。僕らと同じ、この世界を守ろうとしている、たった一人の、戦士だ」


#### 魂の安息樹


アークは、仲間たちの前に進み出ると、懐から、最後の一粒となった**『聖浄樹の種子』**を取り出した。

彼は、その種子を、王女の霊体と、棺の間に、そっと浮かべる。

そして、この霊廟に満ちる、清浄な魔力と、自らの魂を、完全に共鳴させた。


「眠りなさい、気高き王女。永き戦いは、もう、終わりです。今だけは、全てを忘れ、安らかな夢を。**『魂の庭樹ソウル・アルボール』**!」


アークの意志に応え、聖浄樹の種子が、眩いばかりの光を放って、発芽した。

それは、物理的な木ではない。魂だけを、その内に抱き、癒やすことができる、半物質の**「光の樹」**。

透き通った枝が、水中を優雅に伸び、その先端に、星屑のような、穏やかな光の花を、次々と咲かせていく。

その、あまりにも優しく、あまりにも美しい光景に、王女の、無感情だった瞳が、初めて、微かに揺らめいた。それは、数千年ぶりに見た、故郷の陽だまりの記憶だったのかもしれない。


アークは、自らの魂を、彼女へと差し伸べる。

『もう、大丈夫。あなたの使命は、僕が、引き継ぎますから』

その、温かい魂の声に触れた瞬間、王女の魂を縛り付けていた、数千年の呪縛が、音を立てて、砕け散った。

『……ああ……温かい……』

彼女の魂から、最後に、感謝の想いが、アークの心へと流れ込んできた。『…アリガトウ…ヤサシキ…ヒト…』

王女の魂は、吸い寄せられるように、光り輝く『魂の庭樹』の、その中心へと、静かに還っていった。

庭樹は、その魂を、優しく抱きしめるかのように、一層、温かい輝きを増した。


#### 新たなる道標


王女の魂が離れたことで、真珠の棺の上に浮かび上がったのは、禍々しい紫色の光を放つ、第二の**『陰の世界樹の破片』**だった。

アークは、それを、静かに『竜骨聖樹の器』へと、封印した。


その、瞬間だった。

安息を得た王女の魂が、最後の力で、アークの脳裏に、一つの、鮮明なビジョンを、送り届けてきた。

それは、一つの**「紋章」**のビジョン。

アークの脳裏に、その紋章が焼き付いた。それは、ゲルラッハとの戦いでディアナが調べていた資料の中に、一度だけ見たことがある、忌まわしき紋章。(……まさか。あれは、国教**『精霊教会』**の、それも、最も過激な異端審問官だけが使うことを許された、古の聖印…!)


そして、『――最後の破片は、もはや、理の中にはない。人の欲望と、偽りの教えの中にこそ、隠されている』という、謎の言葉だった。


次の瞬間、主を失った霊廟が、その役目を終えたとばかりに、ゴゴゴゴゴ……と、激しく揺れ始めた。

天井から、巨大な瓦礫が、次々と落下してくる。

「アーク様! 崩れますぞ!」

ローランの絶叫。


アークは、王女が眠る『魂の庭樹』を、魔法で、小さな光の種子へと還元させると、大切に、懐にしまった。

「――シルフィード号! 戻るよ!」

一行は、崩れゆく水中の霊廟から、決死の脱出を開始する。

最後の破片への、新たな、そして、最も厄介な謎を、その胸に抱いて。


***


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