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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第55話:辺境伯の召喚と、掌上の世界樹

#### 勝利のあとさき


代官ゲルラッハの失脚。その報せは、アークたちが整備した『経済回廊』を駆け巡り、ザターラの商人たちを熱狂させた。長年、彼らを苦しめてきた圧政からの解放。その立役者である『銀月商会』と、謎に包まれたパートナー『ライナス男爵家』の名声は、瞬く間に、この地方の経済界で不動のものとなった。


ライナス男爵領にも、穏やかながらも確かな変化が訪れていた。ディアナとの契約によって得られた莫大な資金は、村のインフラ整備や、兄アルフォンスが率いる防衛隊の装備充実に充てられ、村は日ごとに豊かに、そして強固になっていった。


だが、アークとディアナだけは、この勝利に浮かれることはなかった。

彼らは知っていた。自分たちが倒したのは、しょせん、この地方の盤上における、一体の駒に過ぎないことを。そして、その盤の持ち主である、**辺境伯ヴァレリウス**が、この事態を黙って見過ごすはずがないことを。


その予感は、ある晴れた日の午後、一羽の、鋼色の翼を持つ軍鷲によって、現実のものとなった。

辺境伯家の紋章が刻まれた、荘厳な召喚状。

それは、アーク・ライナスと、ディアナ・シルバーに対し、十日後、辺境伯の居城への出頭を命じる、拒否権のない命令書だった。


#### 鋼鉄の城への支度


「来たか……」

書斎で、父が厳しい顔で呟く。ローランも、アルフォンスも、緊張した面持ちでアークを見つめた。

「アーク、どうする。これは、我らの力を試すための、罠かもしれんぞ」


「罠じゃないよ、父さん」

アークは、落ち着き払っていた。

「これは、**『面接』**だ。僕らが、辺境伯様にとって、有益な存在かどうかを、彼自身の目で見極めるためのね」

そして、アークはディアナとの事前の打ち合わせ通り、作戦を告げた。交渉の表舞台は、ディアナさんに。僕らは、辺境伯様が決して断れない、最高の『手土産』を用意する、と。


その夜、アークは一人、研究室に籠った。

彼の前には、彼がこれまでに集めた、最も生命力に満ちた聖浄樹の種子と、森の奥深くで採取した、最も清浄な湧き水、そして、ウルが自身の毛づくろいで落とした、神聖な若葉の欠片が置かれている。

アークは、それら全てに、そっと手をかざした。


彼が挑むのは、もはや生産や建築ではない。

生命の設計図そのものに干渉し、一つの理想の「世界」を、その掌の上に創造する、神の領域の魔法。

彼のこめかみに浮かぶ、一本の白い髪が、その代償の大きさを物語っていた。

魔力が、彼の魂そのものが、渦を巻いて練り上げられていく。


#### 謁見の間


辺境伯ヴァレリウスの居城、『鋼鉄の城』。

その謁見の間は、ただ広く、冷たい。中央に置かれた、飾り気のない黒曜石の玉座だけが、この地の支配者の、揺るぎない権威を物語っていた。


玉座に座る、壮年の男――辺境伯ヴァレリウスを前に、ディアナが、完璧な礼をした。アークとアルフォンスも、その後に続く。

「ほう。お前たちが、我が領地に、新たな風を吹き込んだという、噂の者たちか」

辺境伯の視線は、まずディアナを、次に、護衛として立つアルフォンスを、そして最後に、まだ子供の面影を残すアークを、値踏みするように、ゆっくりと射抜いた。

「我が代官の失態、見事な手腕で暴いてくれたこと、まずは礼を言う。だが……」

辺境伯の声が、地を這うように低くなる。

「我が許可なく、新たな交易路を拓き、我が領地の経済を混乱させたこと。これは、本来、万死に値する大罪だ。お前たちは、わかっておるな?」


辺境伯の言葉そのものに、魔力が乗っているかのような錯覚。謁見の間の空気が、物理的な重さを持って、アークたちの肩にのしかかる。控えていた屈強な近衛騎士たちが、鞘にかけた手に、静かに力を込めるのが見えた。

謁見の間の空気が、氷のように張り詰めた。


ディアナが、一歩前に進み出た、その時。それを制するように、アークが、静かに口を開いた。

「辺境伯閣下。我らが拓いたのは、ただの道ではございません。それは、閣下の領地に、これまでにない豊かさをもたらす、未来そのものです」

アークは、従者が持つ木箱から、一つの、手のひらサイズの鉢植えを、恭しく取り出した。


#### 掌上の世界樹


辺境伯を含む、その場にいた全ての者が、息を呑んだ。

それは、一つの完璧な『盆栽』だった。

いや、違う。それは、もはや盆栽という人の営みの矮小な器に収まるものではなかった。

それは、忘れ去られた神代の記憶そのもの。一つの完成された**『世界』**が、その掌の上に乗っていた。

その幹は、まるで古の神木のように荘厳で、その葉の一枚一枚が、まるで翡翠のように、清浄な生命力の光を放っている。そして、その木全体から、この冷たい謁見の間そのものを、春の陽光が満ちる、故郷の森の聖域へと変えてしまうかのような、穏やかで、神聖なオーラが、溢れ出していた。

その場にいた、歴戦の騎士たちですら、無意識のうちに、その目に涙を浮かべていた。それは、彼らが戦場で失くした、純粋な祈りの心を、思い出させたからだった。


「これを、我らが忠誠の証として、閣下に献上いたします」


辺境伯ヴァレリウスは、百戦錬磨の支配者だった。どんな宝石も、どんな美女も、彼の心を動かすことはない。

だが、目の前の、この小さな「生命」は、違った。

彼は、玉座から降り立つと、まるで至宝に触れるかのように、その盆栽を、そっと手に取った。


掌に伝わる、温かい、生命の脈動。長年、この地を守るために振りい続けた剣の重み。眠れぬ夜を過ごした、政務の疲労。そして、数多の戦で失った、戦友たちの顔。その全てが、この小さな生命に触れた瞬間、温かい光に包まれ、浄化されていくかのような、不思議な感覚に襲われた。

すり減っていたはずの魂が、その清浄なオーラに触れ、内側から癒やされていくのを、彼は確かに感じていた。


彼は、理解した。目の前の少年が持つ力は、金や権力といった、矮小な次元のものではない。これは、世界の理そのものに触れる、神聖な力だ、と。

そして、彼は、支配者として、最も合理的な判断を下した。

この得体の知れない力を、敵に回すのは、愚の骨頂だ。むしろ、庇護し、その恩恵を、独占するべきだ、と。


辺境伯の、厳格な顔が、数年ぶりに、ふっと、和らいだ。

「……見事なものだ」

彼は、アークとディアナに向き直ると、威厳に満ちた声で、高らかに宣言した。

「ライナス男爵領、および、銀月商会が拓いた新交易路を、我が辺境伯家の公式な事業として、認める! お前たちには、この事業における、全ての自治権と、我が辺境伯家からの、完全な庇護を約束しよう!」


それは、完全な勝利宣言だった。

アークとディアナは、顔を見合わせると、静かに、そして、深く、頭を下げた。


辺境伯は、自らの執務室に戻ると、掌の上の、小さな世界樹を、改めて見つめた。

そして、この地方の未来を、そして、世界の運命すらも変えるかもしれない、あの不思議な少年のことを思い、静かに、しかし、確かに、笑みを浮かべた。

「……面白い。実に、面白い小僧だ」


一つの戦いが終わり、そして、より大きな舞台の幕が、静かに上がった。

謁見の間を退出する直前、アークとディアナは、誰にも気づかれぬよう、一瞬だけ視線を交わした。そこには、言葉にならない、完璧な信頼と、これから始まる新たなゲームへの、共犯者としての高揚があった。

アークの成り上がり物語は、今、地方の片隅から、世界へと繋がる、新たな一歩を踏み出したのだった。


***


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