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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第54話:断罪の法廷と、失墜する代官

#### 鋼鉄の城


辺境伯ヴァレリウスの居城は、華美な装飾を一切排した、実用性と威厳の塊のような鋼鉄の城塞だった。その謁見の間は、ただ広く、冷たい。中央に置かれた、飾り気のない黒曜石の玉座だけが、この地の支配者の、揺るぎない権威を物語っていた。


「――銀月商会当主、ディアナ・シルバーにございます」


ディアナは、玉座に座る、壮年の男――辺境伯ヴァレリウスを前に、完璧な礼をした。その銀色の瞳には、一分の隙も、怯えもない。

「ほう。お前が、あの喧しい商人どもをまとめ上げたという、噂の小娘か。して、何の用だ。我が代官が、何か不始末でもしでかしたと、告げ口にでも来たか?」

辺境伯の言葉には、商人を格下と見る、貴族特有の侮りが滲んでいた。


#### 茶番の法廷


ディアナは、動じない。彼女は、集めた証拠の山を、淡々と、しかし、有無を言わさぬ事実として、辺境伯の前に差し出した。

やがて、ゲルラッハが、兵士に連れられて謁見の間に現れた。彼は、ディアナの姿を認めると、侮蔑の笑みを浮かべた。

「これはこれは、辺境伯閣下。この女狐の戯言を、真に受けておられるのですか? 商人というものは、己の利益のためなら、息をするように嘘をつく生き物にございます。全ては、我が公正な統治を妬んだ、この女の捏造にございます!」

ゲルラッハは、自信に満ちていた。証拠など、どうとでも言い逃れできる。最終的に、貴族である自分の言葉が、平民の商人の言葉よりも重いことを、彼は知り尽くしていた。


#### 沈黙の証人


「……なるほど。見事な言い分だ、ゲルラッハ」

辺境伯は、玉座の上で、退屈そうに呟いた。その場の空気は、完全にゲルラッハに傾いたかのように見えた。

ディアナは、その瞬間を、待っていた。

「ええ、実に見事な言い訳ですわ。ですけれど、閣下。この世には、決して嘘をつけない『証人』もおりますのよ」

彼女は、懐から、一つの、黒く艶やかな種子――『木霊の種子』を、取り出した。

「……なんだ、それは。ただの木の実ではないか。いよいよ、気でも狂ったか、小娘!」

ゲルラッハが、腹を抱えて嘲笑した、その瞬間。


ディアナが、その種子に、アークから教わった通り、ごく微かな魔力を注ぎ込む。

すると、絶対的な静寂に包まれた謁見の間に、あり得ないはずの「声」が、クリアに響き渡った。

それは、ゲルラッハ自身の、醜く、下劣な声だった。


『――奴らは、俺の家畜だ! まだまだ蓄えを隠し持っているに決まっている!』

『――明日からは、女子供を優先的に捕らえろ! 家族を人質に取れば、どんな頑固者でも、隠した金貨を差し出すわ!』


ゲルラッハの嘲笑が、凍りついた。彼の顔から、血の気が、急速に失われていく。

謁見の間にいる、全ての貴族、全ての騎士が、信じられないものを見る目で、ゲルラッハを凝視していた。

その声は、彼の全ての嘘を、その傲慢なプライドを、木っ端微塵に打ち砕く、完璧な「断罪の神託」だった。


#### 鉄槌


辺境伯ヴァレリウスは、ゆっくりと、玉座から立ち上がった。

その顔に、怒りの表情はない。ただ、自らの領地を、自らの名を汚した、愚かな裏切り者に対する、絶対零度の侮蔑だけが浮かんでいた。


「……ゲルラッハ」

その、地を這うような低い声に、ゲルラッハの巨体が、ビクリと震えた。

「貴様は、二つの大罪を犯した。一つは、我が民を家畜と呼び、不当に搾取したこと。そして、もう一つは……」

辺境伯は、言葉を切ると、氷のような視線で、ゲルラッハを射抜いた。

「**この私を、貴様と同類の、愚かな豚だと、侮ったことだ**」


「ひっ……! お、お許しを、閣下! こ、これは、あの小娘の魔法による罠で……!」

「見苦しいぞ」


辺境伯は、兵士たちに、冷たく命じた。

「その男から、代官の印章と、貴族の衣服を剥ぎ取れ。その財産は全て没収し、被害に遭った民に分配せよ。そして、その『ゲルラッハ』という名も、本日限り剥奪する」

「その男を、**『罪人番号734号』**とする。明日より、我が領地の北端にある岩塩鉱山にて、終身強制労働を命ずる。……贅沢を好むその体で、我が民の流した汗と涙の味を、死ぬまで味わうが良い」


それは、死よりも惨めで、屈辱的な判決だった。

兵士たちに引きずられていく、もはや名前すらない「罪人」の、情けない絶叫だけが、謁見の間に、虚しく響き渡っていた。


#### 共犯者たちの祝杯


その報せが、ザターラで待つアークたちの元に届いたのは、数日後のことだった。

銀月商会の執務室。ディアナの帰りを待っていたアーク、アルフォンス、ローランは、彼女から、事の顛末の全てを聞いた。

ディアナは、ライナス男爵領の『醤油』で香りづけされた、極上のワインを、四つのグラスに注いだ。


「――我々の、最初の勝利に」

ディアナが、優雅にグラスを掲げる。

四つのグラスが、静かに、しかし、確かな音を立てて、合わされた。

窓の外には、ザターラの、どこまでも広がる夜景。

アークは、その光を見つめながら、静かに呟いた。

「……うん。僕らの、最初の、ね」


ディアナは、その言葉の意味を正確に理解し、満足げに微笑んだ。

「ええ。さて、パートナー。盤面が、綺麗になりましたわね。次は、どんな絵を、共に描き上げましょうか?」


一つの戦いが終わり、そして、より大きな、新たな物語が、静かに幕を開けた。

彼らの本当の冒険は、まだ、始まったばかりだった。

***

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