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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第53話:民の涙と、木霊の証人

#### 鉄の足音


代官ゲルラッハの領都は、鉛色の絶望に包まれていた。

「お願いです、これでは冬を越せません!」

痩せこけた老婆が、徴税官の足元にすがりついて懇願する。だが、役人はその皺だらけの手を、ブーツの先で無慈悲に払い除けた。

その隣家では、幼い娘が泣き叫ぶ中、父親が「娘の、明日のパンだけは!」と必死に抵抗するも、衛兵に殴り倒され、最後の黒パンまで奪われていく。

ゲルラッハの狂気じみた命令は、恐怖という名の鉄の足音となって、罪なき民の日常を、無慈悲に踏み躙っていた。


#### 二つの戦場


その絶望的な光景は、逐一、二人の共犯者の元へと届けられていた。


中立都市ザターラ。ディアナの執務室には、彼女が放った密偵たちが、次々と情報を持ち帰っていた。

「ゲルラッハの命令書の写しです。税率の引き上げと、財産の差し押さえが、奴の直筆サイン入りで記されています」

「これは、被害に遭った住民たちの血判状です。数十人分、集まりました」

ディアナは、冷徹な目でそれらの「物証」を仕分けしながら、静かに指示を出す。

「上々ですわ。ですが、まだ足りない。あの男を完全に詰ませるには、彼自身の『声』が必要です」


その頃、ライナス男爵領の研究室で、アークは最後の仕上げに取り掛かっていた。

彼の掌の上には、まるで黒曜石を磨き上げたかのような、艶やかで、手のひらサイズの種子が、十数個、並んでいた。

「……できたよ。僕の、小さな『証人』たちだ」

アークは、兄アルフォンスと、斥候のカエルを呼び寄せた。

「これは、**『木霊の種子エコーク・シード』**。周囲の音や会話を、記憶として記録してくれる魔法の種だ。これを、ゲルラッハの執務室や、町の広場に、気づかれずに仕掛けてきてほしい」


その、あまりにも危険な任務に、アルフォンスは一瞬、息を呑んだ。だが、彼はすぐに、不敵な笑みを浮かべた。

「面白い。弟が作った最高の**『けん』を、この兄が、最高の舞台で振るってやるってわけだ。任せろ、アーク。必ず、奴の断末魔を、この種に刻み込んできてやるさ**」

その背中は、もはや、ただの優しい兄ではない。危険な任務を前に、不敵に笑う、頼れる護衛隊長の顔だった。


#### 潜入作戦


数日後の夜。ゲルラッハの領都に、二つの影が、闇に紛れて潜入していた。

アルフォンスが、町の衛兵たちの注意を引く陽動を行い、その隙に、カエルが、まるで風になったかのように、代官屋敷の屋根裏へと忍び込む。

彼は、アークから渡された『木霊の種子』の一つを、ゲルラッハの執務室の、絨毯の隅に、そっと転がした。


心臓が、喉までせり上がってくるようだった。一滴の汗が、額を伝い、鼻の先から落ちそうになるのを、必死にこらえる。

その、直後だった。


執務室の扉が開き、酒で顔を赤らめたゲルラッハが、徴税官を伴って入ってくる。

「……それで、今日の上がりはどれくらいだ?」

「はっ! 本日は、金貨にして三十枚ほどを。ですが、代官様……もはや、民から搾り取るものなど……」

「黙れッ!」

ゲルラッハの、ヒステリックな怒声が響き渡った。

「奴らは、俺の家畜だ! まだまだ蓄えを隠し持っているに決まっている! 明日からは、女子供を優先的に捕らえろ! 家族を人質に取れば、どんな頑固者でも、隠した金貨を差し出すわ!」


屋根裏で、息を殺してその声を聞いていたカエルは、そのあまりの非道さに、戦慄した。

そして、彼の足元で、小さな『木霊の種子』が、その邪悪な言葉の全てを、静かに、しかし、確かに、その内に記憶していた。


#### チェックメイト


全ての証拠は、ザターラのディアナの元へと集められた。

執務室の巨大な机の上には、ゲルラッハの罪を証明する、圧倒的な証拠の山が築かれている。

住民たちの血判状。不正な命令書の写し。そして、最後の切り札として、アルフォンスたちが持ち帰った、『木霊の種子』。


ディアナは、アークから教わった通り、その種子に、そっと指で触れた。

すると、彼女の脳内に、ゲルラッハ自身の、醜く、下劣な声が、直接響き渡った。

『奴らは、俺の家畜だ!』『女子供を優先的に捕らえろ!』


ディアナは、その声を聞きながら、一切の表情を変えなかった。ただ、その銀色の瞳の奥で、絶対零度の、静かな怒りと侮蔑の光が、燃え盛っていた。

その、言い逃れのしようのない、完璧な「自白」を聞き終えたディアナは、ゆっくりと顔を上げた。

その美しい顔には、冷たい、しかし、絶対的な勝利を確信した笑みが浮かんでいた。


「……チェックメイト、ですわね」


彼女は、最も上質な羊皮紙を取り出すと、流麗な文字で、一通の手紙を書き始めた。

その宛名は、『尊厳なる、辺境伯閣下』。


強欲な代官の、断罪の時は、すぐそこまで迫っていた。


***


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