表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/41

第5話:村一番の料理人と、小さな友達

『アークイモ』は、瞬く間にライナス男爵家の食卓の主役となった。

蒸かしただけでも十分に美味しいが、ギデオンが腕を振るい、スープに入れたり、潰して焼いたりすることで、その魅力はさらに花開いた。栄養価の高い食事のおかげか、母の顔色は日増に良くなっていく。


だが、アークとギデオンだけは、まだ根本的な問題が解決していないことを理解していた。


「アーク坊ちゃま。奥様の体調は安定しておりますが、やはり冬の寒さが本格的になる前に、病の根を断つ薬が必要でございましょう」


二人きりの厨房で、ギデオンが心配そうに呟く。

アークも静かに頷いた。今の安定は、あくまで環境改善によるもの。病そのものを治したわけではない。


(薬草……。森の奥深くに行かないと手に入らない、特別な薬草が必要だ)


だが、今の自分はまだ五歳。一人で森の奥へ行くことなど許されるはずもない。

力をつけ、信頼を得て、行動の自由を手に入れなければ。


(そのためにも、まずは村だ)


アークは、秘密の畑で増産に成功したアークイモの山を見つめた。

家族だけのものにしておくつもりは毛頭ない。このイモは、村の人々を飢えと貧しさから救うための、最初の切り札なのだ。


「ギデオン。このイモを、村の人に食べてもらいたいんだ」

「なんと!……しかし、どうやってですかな?我々がこれを育てていると知られるわけには……」

「だから、まずは一人だけ。このイモの価値を一番わかってくれて、最高の食べ方を見つけてくれる人に、試してもらいたいんだ」


アークの脳裏には、一人の女性の姿が浮かんでいた。

村で小さな食堂を営む、料理上手のセーラだ。母もギデオンも、彼女の作る素朴な料理をいつも褒めていた。彼女なら、きっとアークイモの真価を見抜いてくれる。


アークの真剣な眼差しに、ギデオンは何かを察したようだった。

彼は深く頷くと、「……分かりました。アーク坊ちゃまのそのお心、この老いぼれが必ずや村へ届けますぞ。さあ、参りましょう。未来の領主様」と、慈愛に満ちた瞳で力強く請け負ってくれた。


翌日。

アークはギデオンに連れられ、屋敷の門を抜けた。

籠の中には、「森の奥で見つけた、珍しいイモのおすそ分け」という名目のアークイモがたっぷりと入っている。


眼下に広がるのは、アークが治めるべき村の全景だった。

石と木でできた質素な家々が十数軒。畑は痩せ、村人たちの服も、ギデオンと同じように繕いの跡が目立つ。

だが、人々の表情に卑屈さはない。子供たちは元気に駆け回り、大人たちは道端で立ち話をしながらも、アークとギデオンに気づくと、作業の手を止めて深々と頭を下げた。その瞳には、貧しさに負けない実直な光が宿っていた。


(この人たちを、僕が豊かにするんだ)


アークが改めて決意を固めていると、道の先から一人の少年が駆け寄ってきた。

アークと同じくらいの歳だろうか。そばかすの浮いた顔に、好奇心旺盛な目を輝かせている。


「あ! 男爵様んちの、アーク様だ!」


少年はアークの目の前でぴたりと止まると、興味津々な様子でアークをじろじろと見つめた。


「坊ちゃまに馴れ馴れしいですよ、フィン!」

ギデオンが窘めるが、フィンと呼ばれた少年はへっちゃらな様子だ。

「だって、アーク様が村に来るなんて珍しいんだもん! ねぇ、どこ行くの?」

「セーラおばさんの所に、届け物だよ」


アークがはにかみながら答えると、フィンは「そっか!」と嬉しそうに笑った。

「じゃあ、僕もついてっていい? セーラおばさんのパイ、世界一うまいんだ!」


こうして、アークの初めての村訪問には、フィンという小さな友達候補が加わることになった。


セーラの店は、村の広場に面した一番大きな建物だった。

中に入ると、木のテーブルと椅子がいくつか並べられ、奥の厨房からは香ばしい匂いが漂ってくる。


「あら、ギデオンさんと……まあ、アーク坊ちゃま! どうなさったんです?」


厨房から現れたのは、快活な笑顔が似合う、働き者の女性だった。彼女がセーラだ。

ギデオンが事情を説明し、アークがイモの入った籠を差し出すと、セーラは驚いたように目を見開いた。


「これが、あのギデオンさんを唸らせたっていう……天上の恵み?」

「うん。それで、お願いがあるんだ」


アークは、セーラの目を真っ直ぐに見つめて言った。

「このイモの、一番美味しい食べ方を、村の皆のために見つけてほしいんだ」


その言葉に、セーラの店の空気が一瞬、シンと静まり返った。

彼女はアークの顔をじっと見つめる。


「へぇ……。貴族の坊ちゃんが、自分の手柄のためじゃなく、『村の皆のため』、ねぇ。……気に入ったわ。アンタのその澄んだ目と、その心意気、確かに受け取った」


セーラは籠の中のアークイモを一つ手に取ると、そのずっしりとした重みを確かめるようにポンと掌で弾いた。

そして、腰に手を当て、村一番の料理人としての自信に満ちた顔で、アークに力強く宣言した。


「このイモの最高の食べ方、このセーラが必ず見つけ出して、村の皆を笑顔にしてあげる! 任せときな!」


その頼もしい言葉に、アークの胸は熱くなった。

『アークイモ』という一つの種から、ギデオン、フィン、そしてセーラへと、確かな絆が芽吹き始めていた。アークの描く設計図は、もう彼一人だけのものではなくなっていたのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ