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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第47話:老騎士の舞と、驚愕の闘技場

中立都市ザターラ。

その喧騒の中心に、街の富と熱狂を象徴する、巨大な円形闘技場はあった。

石造りの客席は、数千人もの観客で埋め尽くされている。その全ての視線が、闘技場の中央、乾いた砂の上に立つ、一人の男へと注がれていた。

男の名は、”疾風の”ダリウス。ザターラ闘技場、百戦無敗の現役チャンピオン。


その、絶対王者の前に、本日の挑戦者、ローランが、ゆっくりと姿を現す。

観客席から、どっと、侮蔑と嘲笑の渦が巻き起こった。

「なんだ、あの爺さんは!」「骨も拾えんぞ!」

観客席の一角で、アルフォンスは、唇を噛み締めていた。

「アーク……本当に、大丈夫なんだろうな」

だが、彼の隣に座るアークは、その喧騒を、まるで心地よい音楽のように聞き流しながら、ただ、静かに、そして、不敵に微笑んでいた。


試合開始を告げる、銅鑼の音が鳴り響く。

「おい、爺さん。命だけは助けてやる。さっさと降参するんだな」

ダリウスの挑発に、ローランは答えなかった。彼は、おもむろに、懐から、安物の葡萄酒の瓶を取り出すと、その中身を、一気に、喉へと流し込んだ。


次の瞬間、彼の内側で、まるで、涸れ果てた川に、雪解け水が奔流となって流れ込むかのような、凄まじい生命力の奔流が、全身を駆け巡った。何十年という歳月が、その身体に刻み込んだ「錆」が、洗い流されていく。忘れていた、全盛期の、いや、それ以上の力が、その四肢に蘇る。

ローランの全身から、淡い、しかし、確かな新緑の光が、オーラのように立ち上った。

彼の、深く刻まれた皺が、ほんのわずかに、薄くなる。腰の曲がっていた背筋が、ぴん、と、全盛期の軍人のように伸びる。そして何より、その瞳。穏やかだった老人の瞳が、まるで眠れる獅子が目を覚ましたかのように、鋭く、そして、飢えた光を宿していた。


「……ほう。面白い余興だ」

ダリウスの顔から、笑みが消える。彼は、両手剣を構え直し、疾風の名の通り、凄まじい速度で、ローランへと突進した。


キンッ!

甲高い金属音が、闘技場に響き渡る。

ダリウスの、嵐のような斬撃を、ローランは、その古びた長剣一本で、全て、完璧に、受け止めていた。

いや、受け止めてすらいない。最小限の動きで、その切っ先を、いなし、逸らし、受け流している。

ダリウスは、混乱していた。

(なんだ、この爺さんは……!? 動きが、まるで読めん! 違う、俺の剣が、まるで、吸い込まれるように、この爺さんの剣筋へと、誘導されているのか……!? 馬鹿な、こんな剣技、聞いたこともない!)

観客席も、水を打ったように静まり返っている。彼らが目にしているのは、老人の延命戦ではない。熟練の剣の師が、未熟な弟子を、遊ぶようにあしらっているかのような、あまりにも、次元の違う光景だった。


「……終わりだ、若造」

ローランが、静かに呟いた。

次の瞬間、彼の姿が、霞のように消える。ダリウスが反応するよりも早く、ローランは、その懐へと深く踏み込んでいた。彼の剣は、もはや、剣ですらない。ただの、銀色の閃光。

その閃光が、ダリウスの両手剣を、いとも容易く弾き飛ばし、その切っ先が、若きチャンピオンの、汗が噴き出した喉元に、ぴたり、と、寸分の狂いもなく、突きつけられていた。


勝負は、決した。

あまりの、一瞬の出来事に、闘技場は、しばし、完全な沈黙に包まれた。

やがて、誰か一人が、我に返ったように、拍手を送る。その拍手は、一人、また一人と伝染し、最終的には、闘技場全体を揺るがすほどの、熱狂的な大喝采へと変わっていった。


その、熱狂の渦の中心で。

闘技場の、最も高い場所にある、貴賓席。

一人の、亜麻色の髪を持つ、美しい女性が、その扇子の影で、口元を隠しながら、その光景の、本当の意味を、正確に分析していた。

彼女こそが、『銀月商会』の若き女当主、ディアナ・シルバーだった。

(あの老騎士は、ただの引退した傭兵ではない。おそらく、元王国騎士クラス。その彼が、あれほどの力を取り戻した。あの、安物の葡萄酒の瓶に入っていた、液体によって……。つまり、あれは、ただの回復薬ではない。失われた若さすらも、一時的に買い戻す、魔法の霊薬……)

彼女の視線が、ローランから、その隣で、全てを静かに見つめる、金髪の少年へと移る。

(そして、この茶番の、本当の脚本家は、おそらく、あの子ね。……面白い。面白すぎるわ)


アークは、隣で呆然とするアルフォンスの肩を、ぽん、と叩いた。

彼の顔には、全てを予見していたかのような、静かな笑みが浮かんでいた。

(餌は、撒いた。あとは、銀色の月が、この光に、食いついてくるのを、待つだけだ)


辺境の少年が放った、あまりにも派手な、最初の一手。

その波紋は、確かに、この中立都市の、最も聡明で、最も野心的な商人の心へと、届いたのだった。


***


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