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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第37話:兄の剣、砕けぬ覚悟

焚き火を囲む、穏やかな野営の夜。その静寂を、地響きを伴う咆哮が、完全に引き裂いた。

ローランの号令の下、一行は即座に戦闘態勢を整える。だが、彼らが警戒する坑道の闇から、敵は現れなかった。

敵は、彼らの足元にいた。


ゴゴゴゴゴ……!

突如、一行が野営していた、硬い石畳そのものが、内側から突き上げるような衝撃と共に、砕け散った。

そして、裂けた地面の中から、巨大な黒曜石の塊のような、悍ましいおおあごが、月明かりの中に突き出してくる。


「うわぁぁぁっ!」

「下だ! 地面の中から来やがった!」


パニックに陥る仲間たちの前で、その魔物は、完全に姿を現した。

荷馬車ほどもある巨大な体躯。無数の蠢く脚。岩盤すらも砕く、巨大な顎。そして、月明かりを不気味に反射する、黒曜石のような外殻。**『ジャイアント・ロックバグ』**。

その、あまりにも衝撃的な登場と圧倒的な威圧感に、屈強な『緑の番人』たちですら、顔から血の気を失い、立ち尽くした。


ガキンッ! ガキンッ!

斥候のカエルが放った矢も、民兵たちが勇気を振り絞って投げつけた槍も、全てが甲高い音を立てて弾き返され、その外殻に、傷一つ付けることができない。


#### 砕けぬ盾


「グルルルル……!」

ロックバグが、一行を蹂躙せんと、その巨体で突進してくる。民兵たちの隊列が、恐怖で崩れかけた、その瞬間。

「怯むな! 俺が、前衛に立つ! 全員、俺の後ろに続け!」

護衛隊長アルフォンスが雄叫びを上げて、その巨大な魔物の前に、たった一人で立ちはだかった。


ダグが鍛え上げた、ライナス家の紋章が刻まれた大盾を構え、彼は、ロックバグの凄まじい突進を、正面から受け止める。

ゴウッという凄まじい衝撃音。アルフォンスの足が、石畳の上を数メートルも滑り、その口から、苦悶のうめき声が漏れる。

(――重いッ! これが本物の魔物の、命を奪う重さか! だが、この重さこそ俺が求めていたものだ! この背中には弟が、仲間たちがいる。ここで俺が倒れれば、全てが終わる。だったら、この足が砕けようと、この腕が折れようと、俺は絶対に倒れない!)

彼の精神的な強さが、物理的な限界を超え、その足を大地に縫い付けていた。

アルフォンスは、ただ敵の猛攻を防ぐだけで、精一杯。誰もが、このままではジリ貧だと焦りの色を浮かべ始めた。


#### 兄弟の連携


誰もが、その圧倒的な物理的な脅威に目を奪われる中、アークだけが冷静に設計士としての眼で敵の「構造」を分析していた。肩の上のウルが、神聖な力で、その分析を補助する。

(どんな完璧な設計にも、必ず、力の集中する『応力点』や、構造的な『継ぎ目』があるはずだ……!)

そして、ウルが「きゅいっ!」と鋭く鳴き、アークの視線を、敵の一点へと導いた。

あった。巨大な顎を振り上げる、その一瞬だけ、硬い頭部の外殻と、胴体をつなぐ、僅かな関節部分の「隙間」が、無防備に晒される。コンマ数秒にも満たない、絶対的な好機。


「兄さん!」アークの、魂の叫びが、坑道に響き渡った。「奴の顎を、上に誘え! 攻撃の直後、首の付け根に、一瞬だけ隙ができる!」

その叫びと同時に、ロックバグの首の付け根に、アルフォンスにだけ見える、ごく微かな翠星のような光が、一瞬だけ灯った。

その言葉と光に、アルフォンスは、一瞬の迷いも見せなかった。弟への、絶対的な信頼。


彼は、あえて、大盾をわずかに下げ、自らの体を、危険な囮として晒した。

その挑発に応え、ロックバグが、アルフォンスの頭を砕かんと、巨大な顎を、高く、高く、振り上げる。

――見えた。

がら空きになった、首の付け根。そこにさらされた、僅か数センチの、無防備な継ぎ目。

アルフォンスは、その刹那の好機を、逃さない。盾を捨て、その身を回転させ、遠心力と、全身のバネを、その一点へと収束させる。ローランとの地獄の訓練で、何万回と繰り返した、ただ、その一撃のためだけに、全てを懸けた、必殺の突き。


**グズリ**、と。

これまでの「ガキンッ!」という無機質な金属音とは、全く違う。肉を断ち、骨を砕く、生々しく、そして、確かな手応えのある音が、アルフォンスの腕に響いた。

彼の剣は、閃光となって、その唯一の弱点へと、吸い込まれるように、深く、深く突き刺さっていた。


#### 守りし者の雄叫び


「ギシャアアアアアアアッ!!」

絶叫ともつかぬ、甲高い断末魔を上げ、ジャイアント・ロックバグの巨体が、ゆっくりと、横倒しになっていく。そして、地響きを立てて、完全に沈黙した。


静寂の後、民兵たちから、爆発的な歓声が上がる。

「すげぇ……!」「アルフォンス様が、やったんだ!」「俺たちの、リーダーだ!」

彼らは、自らの手で、そして、何より、自分たちの若きリーダーの手で、絶望的な危機を乗り越えたのだ。

アルフォンスは、荒い息をつきながら、魔物の体から剣を引き抜く。そして、後方に立つ弟の方を、誇らしげな、そして、感謝を込めた目で、見つめた。アークもまた、兄の、あまりにも頼ましいその姿に、心からの尊敬の笑みを返す。二人の間に、言葉はいらなかった。


一息ついた後、アークは、いつものように、倒した魔物の「検分」を始める。そして、その外殻が、砕けば、聖浄樹の苗床の最高の「栄養剤」となり、ダグが作るレンガに混ぜれば、鋼鉄のように頑丈な「建材」になるという、新たな「資源」を発見する。

この道は、ただ危険なだけではない。未知なる「資源」に満ちた、宝の道でもある。


最初の試練を乗り越え、新たな希望を手に入れた一行は、仲間との絆を、そして、兄弟の絆を、さらに強くする。

彼らは、まだ誰も見たことのない、古の道の、さらに奥深くへと、再び、その一歩を踏み出すのだった。


***


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