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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第30話:ポーション開発と、忘れられた道

醤油と味噌――食文化に革命をもたらした二つの至宝を手に入れた、辺境のライナス男爵領。

だが、アークの歩みは止まらない。強欲な代官ゲルラッハとの経済戦争に完全な勝利を収めるためには、さらなる「武器」が必要不可欠だった。


その日の書斎。父と仲間たちを前に、アークは次なる一手、第三の特産品となる『奇跡のポーション』の開発計画を、静かに、しかし力強く宣言した。


「軽量で、高価値。そして、どんな人間にとっても、絶対に必要となるもの……それこそが、ゲルラッハの支配する交易路を最小限のリスクで通り抜けるための、最高の『商品』です」


アークが語る次なる産業革命の設計図。そのあまりの先見性に、父やローランたち大人は驚きを通り越し、畏怖にも似た眼差しで、ただその言葉に聞き入っていた。


その日から、屋敷の一室がアークの「研究室」となった。

数日後、村唯一のガラス職人と協力したダグが、見事な実験道具一式をアークの元へ届けに来た。


アークが描いた複雑な設計図を前に、ダグは「剣より難しいもんを頼みやがって」と無骨な手で頭をガシガシと掻く。だが、その目は職人の誇りに満ち、爛々と輝いていた。


「……どうだ。人生で一番、わけのわからん、美しいモンができたぜ」


彼が不器用な誇りを込めて差し出したガラスの蒸留装置は、陽の光を受けて複雑な曲線が虹色にきらめき、まさに芸術品と呼ぶにふさわしかった。


研究室には、聖浄樹の苗床で採れた様々な薬草が並べられる。

「さて、始めようか、ウル」

「きゅい!」

アークの足元で、相棒が力強く頷いた。


彼の研究は、前世の「科学」とこの世界の「魔法」の奇跡的な融合だった。

フラスコを温めるのは、ただの火ではない。アークの魔力制御による寸分の狂いもない最適な温度。不純物を取り除くフィルターは、特殊な性質を持つ植物の繊維。

それは、前世の知識と異世界のことわりを編み上げる、神聖な儀式のようでもあった。


アークが薬草を煮詰め、蒸留し、そのエキスを抽出していく。

そして、調合の最終段階で、ウルの神聖な力が真価を発揮するのだ。


「ウル、この組み合わせはどうかな?」


アークが数種類のエキスを調合した試験管を差し出すと、ウルは真剣な顔つきで匂いをくんくんと嗅ぐ。そして、悲しそうに「きゅぅん……」と首を横に振った。

その仕草だけで、アークには十分だった。まだ、何かが足りないのだ。


試行錯誤が、何度も、何度も繰り返される。

そして、実験開始から数日後のこと。

アークが新たな調合液をウルに見せた、その瞬間だった。


「きゅいっ! きゅいーーっ!」


ウルがこれまでで一番嬉しそうな、興奮した鳴き声を上げ、アークの頬に何度も体をすり寄せる。頭の小さな花が、満開に咲き誇っていた。


試験管の中では、聖浄樹の若葉と同じ美しい新緑の液体が、穏やかな光を放っていた。

アークは、その液体を自らの指に作った小さな切り傷に、一滴だけ垂らしてみる。

するとどうだろう。傷口が淡い光に包まれ、まるで時間を巻き戻すかのように、瞬く間に跡形もなく塞がってしまったではないか。


「……できた。奇跡のポーション、第一号だ」


醤油、味噌、そして、奇跡のポーション。

辺境の村は今や、世界の誰もが欲しがるであろう三つの至宝を手に入れた。

問題は、いかにしてこれを外の世界へと届けるか。


アークは完成したばかりのポーションの小瓶を手に、書斎で地図を眺めていたローランの元へと向かった。

「ローランさん。武器は、揃いました」

「……うむ。見事なものだ」

ローランはポーションの小瓶から放たれる清浄な魔力を感じ取り、短く応えた。


アークは、地図の上でゲルラッハが支配する太い交易路を指でなぞる。

「ですが、この道を通れば、この宝も、その価値のほとんどをあの強欲な代官に吸い上げられてしまう」

そして、アークはローランの目を真っ直ぐに見つめて問いかけた。その瞳には、次なる冒険への確かな光が宿っていた。

「正規の道がダメなら、別の道を探すまでです。ローランさん。商人が使わない獣道や、地図から消された忘れられた抜け道を、ご存じありませんか?」


その言葉に、ローランの目がカッと見開かれた。

彼の脳裏に、遠い昔の記憶が鮮烈に甦る。

松明の煙の匂い、岩肌を伝う冷たい水の感触、そして、今は亡き戦友たちの荒々しい息遣い。騎士として、この辺境の山々を死と隣り合わせで駆け巡った、若き日の記憶。


彼の口元に、久しぶりに戦士としての獰猛な笑みが浮かんだ。

「……ふっ。まさかこの歳になって、あの道をもう一度通ることになるとはな」


ローランは地図の上、険しい山脈が連なる誰も近づかない一点を、節くれだった指でトン、と叩いた。


「……あるとも。一本だけな。古の時代、この地に住んでいたという山のドワーフが掘り、今や森の獣しか知らぬ、『忘れられた王の道』がな」


その目は、もはや隠居した老人のものではなかった。

新たな冒険への期待に爛々と輝く、現役の戦士の目だった。

経済戦争の次なる一手。そして、辺境の地に眠る古の伝説への扉が、今、確かに開かれようとしていた。


***


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