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現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~  作者: はぶさん


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第27話:茨の迷宮と、砕かれる心

#### 偽りの突破口


「おのれ、百姓どもが……! 全員、村までたどり着け! あの村の者どもを、女子供に至るまで、一人残らず、嬲り殺しにしてくれる!」


泥と粘液と糞尿の悪臭にまみれた隊長ロリックは、もはや正常な判断能力を失っていた。

彼の号令の下、兵士たちは、村を囲む『茨の城壁』の、唯一の入り口である正面ゲートへと、獣のように殺到した。


ゲートは、驚くほど簡素な木製のものだった。

兵士たちが数度、丸太で打ち付けると、それは、あっけなく内側へと倒れ、砕け散った。


「見たか、百姓どもめ!」「門は破ったぞ!」「村の女どもは俺のものだ!」

兵士たちは、ようやく得た「勝利」に雄叫びを上げる。彼らは、何の疑いもなく、その暗い入り口の奥へと、なだれ込んでいく。

自分たちが、自らの意志で、巨大な罠の、一番奥深くへと足を踏み入れたことに、まだ誰も気づいていなかった。


#### 茨の迷宮


彼らが突破した先に、村の広場はなかった。

そこにあったのは、左右も頭上も、全てが分厚い茨の壁で覆われた、狭く、薄暗い通路だった。そして、彼らが通り抜けてきたはずの入り口は、アークの魔法によって、いつの間にか、新たな茨で完全に塞がれていた。


「なっ……道がねぇ!」

「こっちだ!」「いや、行き止まりだ!」


道は、いくつにも分岐している。だが、それはただ複雑なだけではなかった。

床は、気づかないほど僅かに、しかし、確実に傾斜しており、重い鎧を着た兵士たちの体力を容赦なく奪っていく。壁の角度は、声が不自然に反響するように計算されており、仲間を呼ぶ声は、どこから聞こえるのか判然としない。わざとらしく置かれた目印を頼りに進めば、いつの間にか、同じ場所をループさせられていた。

それは、ただの魔法の壁ではない。アークという天才設計士の、悪意に満ちた(・・・・・・・)、人間の心理を突く最高傑作。物理的な壁と、心理的な罠の二重構造が、侵略者たちを、より確実な絶望へと導いていった。


丘の上の司令塔で、ローランが冷静に分析する。

「見事ですな。敵は完全にパニックに陥り、統制を失っています。……アーク様、いつでも、第二段階おもてなしを始められますぞ」


#### 『歓迎の罠』、発動


兵士たちが、迷宮内の少しだけ開けた場所に出た、その瞬間。

彼らの頭上から、最初の『おもてなし』が、牙を剥いた。

ダグが、村一番の腕自慢たちと、誇りを込めて編み上げた巨大な捕獲網。彼が**『熊殺しの網』**と名付けた、最初の罠が発動する。

岩で重りをつけられた網が、一斉に降り注ぎ、十数人の兵士が、魚のように一網打尽にされ、宙吊りにされた。


「うわぁぁっ!」

網にかからなかった兵士たちが、恐怖に駆られて別の通路へと逃げ込む。

すると、壁の茨の隙間から、ローラン率いる民兵たちが、巨大な筒を使って、何かを吹き込んできた。

それは、セーラ率いる「台所部隊」が、満面の笑みで、皮肉たっぷりに『貞淑な乙女のため息』と名付けた、第二の罠。この地方に自生する、特殊な植物から採取した、強烈な痒みを引き起こす「かぶれの粉」だった。

目に見えない攻撃に、兵士たちは鎧を脱ぎ捨て、狂ったように全身を掻きむしり、戦闘能力を完全に喪失する。


隊長のロリックは、幸運にも、網とかぶれの粉、その両方から逃れていた。

彼は、憎悪に満ちた目で、この全ての屈辱を仕掛けたであろう元凶を探す。

そして、迷宮の中心にそびえ立つ、ひときわ高い監視塔の上に、静かにこちらを見下ろす、アークの姿を発見した。

(いた……! あの、化け物ガキぃぃぃ!)

ロリックの頭の中で、何かが焼き切れる音がした。

(宝でも、命令でも、もはやどうでもいい。全ての屈辱の元凶、あの化け物ガキ……! あいつの首さえ取れば、俺のプライドは……!)


彼は、怒りに任せて、最後の力を振り絞り、監視塔へと続く、ただ一本の道へ突進する。

だが、その道の中央で、彼の足元の地面が、綺麗に消失した。

それは、アークが、この瞬間のために、静かに**『英雄の寝床』**と名付けた、最後の罠だった。

ロリックは、悲鳴を上げる間もなく、その闇へと落ちていく。

そして、彼が叩きつけられたのは、硬い地面でも、鋭い杭でもない。村中の家々から集められた、大量の、ふかふかの干し草と、鳥の羽根の上だった。

一切の怪我なく、しかし、最も滑稽で、最も屈辱的な形で、敵の総大将は、完全に無力化された。


#### 戦いの終わり


監視塔の上から、アークの父が、領主としての威厳に満ちた声で、降伏を勧告する。

「侵略者たちに告ぐ! お前たちの隊長は、我らが生け捕りにした! 武器を捨て、投降せよ! さすれば、命だけは保証する!」


指揮官を失い、心も体もズタボロにされた兵士たちに、もはや抵抗する意志はなかった。彼らは、痒みと涙でぐちゃぐちゃになりながら、次々と武器を捨て、その場に膝をついた。

アークたちの村は、一人の死者も出すことなく、三十人近い武装集団を、完全に無力化した。


だが、戦いは、まだ終わっていない。

ローランが、アークの隣で、静かに、しかし、重い声で問いかけた。

「……見事な勝利です、アーク様。ですが、これからが、本当の戦いですな。この捕虜たちを、どう処遇するか。そして、この事実を、代官ゲルラッハに、どう伝えるか。我らの次の一手が、この村の未来を決めますぞ」


ローランの言葉に、アークは静かにうなずいた。彼の顔に、勝利の喜びはない。ただ、次の、より困難な盤面を見据える、冷徹なチェスプレイヤーの顔があった。

(第一段階、完了。さて、ここからが、本当の交渉の始まりだ)


***


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